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Umbrella Companyの「Active Mic Cable」レビュー。ボーカルで使用したらダイナミックマイクののっぺり感が軽減した
こんにちは。イーヴィルな斉藤(@evilsaitoh)です。
私は今Shure SM7Bというダイナミックマイクを使っています。
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そんな折、マイクケーブルについて調べていたらUmbrella Company(アンブレラ カンパニー)さんから不思議なケーブルが出ているのを見つけました。
アンブレラカンパニーさんからは、以前HP-Adapterを購入させていただきました。スベスベとした手触りが心地よい頼れる小さな機材です(音も良くて常用中)。
話が逸れましたが、そんな不思議なケーブル、Active Mic Cable(アクティブマイクケーブル)を購入したのでレビューします。
1 Active Mic Cable(アクティブマイクケーブル)の原理とメリット(飛ばしてもOK)
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細かいことは公式HPをご覧ください。
……。
これだけで終わらせるとこの欄を書く意味がないので、少しだけ書きます。
私は電気工学に関してはズブの素人すぎて申し訳ないのですが、理解している範囲では、このケーブルには2つの働きが期待できます。
※理論上の話をしていきます。実際のレビューは下のレビューをご覧ください。
①電磁制動をなくす
電磁制動ってなんぞや、という話なので簡単に説明すると、
ダイナミックマイクは構造上、振動板が動くときに逆向きの力でブレーキがかかる(大きい音が入れば入るほどブレーキが強くなる)
Active Mic Cableに入っている回路でそのブレーキをなくす
より小さい力で振動板が動くようになる(ダイナミックレンジが増える)
ということですね。
(※ダイナミックレンジ…音の大きいところと小さいところの差)
もちろん、電磁制動が行われる=悪い、というわけではありません。
ダイナミックマイクの感度の悪さは、メリットとも言えるのです。
通常のダイナミックレンジが少ない音というのは、言い換えれば「音の大小が少ない音」と言えます。
また、コンプレッサーをかけた音も「音の大小が少ない音」ですよね。
つまり、乱暴に言えばダイナミックマイクは(コンデンサーマイクに比べて)コンプレッサーをかけたような音になる、とも言えます。
(働きを考えると音量によってレシオが可変するコンプみたいなもんですかね)
一方で、Active Mic Cableを付けるとダイナミックレンジが増える、つまり「音の大小が大きい音」になるので、より細かいニュアンスが出せるかもしれない、というわけですね。
また、ダイナミックマイクはSPL(どれだけ大きい音圧に耐えられるか)がとても大きい値で、近距離の電車の音などにも耐えられるほどの耐久性なんですが、これは振動板にかかるブレーキを含めているので理論上はSPLが下がるはずです。
②インピーダンス(電気抵抗)を変える
オーディオやレコーディング機材は、「ロー出し、ハイ受け」が徹底しています。
これは何かというと、機材には必ず電気抵抗値の「出力インピーダンス」「入力インピーダンス」という値のルールです(覚えなくてもいいです)。
例えばマイク→マイクプリと繋げている場合、
・マイクの出力インピーダンス(150Ω)
↓
・マイクプリの入力インピーダンス(1,000Ω)
※出力Ωが低く、入力Ωが高いので「ロー出し、ハイ受け」が成立しているのでOK
という感じ。
これを守らないと信号にロスが出て本来の音にならないんですね。
単にマイクを繋げる場合は必ずこの関係になっているので覚えなくても問題ありません。
ただし、インピーダンスが高ければ高いほど、長くケーブルを引き回す場合はノイズの割合が多くなります。
エレキギターの出力インピーダンスは250kΩと高く、それを受けるためにプリの入力インピーダンスはさらに高い数値になりますが、ケーブルを触っただけで「ブー」というノイズが入りますよね。あれです。
つまり、
・「ロー出し、ハイ受け」をしなければならないが、
・マイクプリ側の入力インピーダンスが高い(ハイ受け)とノイズが大きくなる
・そしてケーブルが長ければ長いほど影響を受ける
という形になります。無情ですね。
じゃあどうすればいいのかというと、「マイク→マイクプリまでを超短い線で繋ぐ」という対策ができます。
例えばUSBマイクなどは内部で結線できるので要件を満たしますが、マイクに内蔵する都合上小さい回路でしかなく、プリアンプ能力が落ちます。
それを普通のダイナミックマイクでデメリットなく使えるのがActive Mic Cableで、ケーブルのXLR端子の中に増幅がゼロのマイクプリが入っており、
①線間数ミリで56kΩの高い入力インピーダンスで受けてノイズの影響を少なくし、
②出力は低インピーダンスで行ってノイズの影響を少なくする
という形ですね。
これにより、ノイズ減少が期待できるわけですね。
2 Active Mic Cable(アクティブマイクケーブル)のレビュー
さて、ここからは実際に音を聴いてのレビュー。
今まで使っていたのがBELDEN 1192Aの自作ケーブル、マイクはShure SM7Bなので、それと比較しています。
大きい声を出した感じ、伸びがありますね。高域がスッと消える感じ。
レスポンスもよく、低域がいつまでもボヤボヤしていないで速いです。コンプのノリもよく、比較的操作しやすくなりますね。
ハイ側が少し多めに出るようになります。5kHzくらい?に少しクセもある気がします。
ダイナミックマイクは低域が支配的になることも多いので、単にハイの見通しが良いのは好印象ですね。押し出し感は少し減るかもしれません。
今までが100だとしたら97くらいになる感じ。ノイズは、低域のノイズが減りました。
ただし、マイクプリを限界まで大きくして判別できるくらいであり、サーという高域のノイズ(PCのファンの音なのか、窓の外の音なのかわかりませんが)は変わりません。体感ではあまり変わらないかな。音量は大きくなりますね。
Twitterで計測している方で「+1dBくらいブーストされてる」という意見を見ましたが、確かにわずかに大きいな、という程度。
(一方で、音が大きく聞こえると人間は音がよくなったと勘違いするので、そこは気をつけたいですね)感度はあまり変わりません。
事前に調べた時は「コンデンサーマイクのような繊細さが出て~」みたいな文言がありましたが、そこまでは変わらない印象。レスポンスは良くなるものの、ダイナミックマイク特有のコンプがかったような感じは残っています。
基本的にはあまり変わらないと思ってください。
ただ、ダイナミックマイクを使いたいけど少しだけハイファイでキレの良い録り音にしたい場合にいいですね。別に持っていたSENNHEISER e935に使ってみましたが、こっちは合わないですね。
4~6kHzあたりが持ち上がっているマイクなんですが、ケーブルの特性でも持ち上げられちゃって相対的に低域が減る感じというか。
(これをクリアと呼ぶ方もいるのかもしれません)
Shureマイクのちょっとボヤっとした太い音には合いますが、ゼンハイザーは結構ソリッドというか高域に特徴があるのでクセが目立ちます。
3 〆の言葉
理解して使えば期待した分の働きをしてくれるケーブルという感じ。
ただ、「劇的にノイズがなくなる!」とか「まるでコンデンサーマイクのような音に!」とかは言いすぎなので、嘘を嘘と見抜ける人じゃないと(レビューを探すのは)難しいと思いますね。
全体的に「ダイナミックマイクの近い音が好きなんだけど、ずっと近い音だとのっぺり聞こえる」というワガママ☆ボーイにはちょうどいい折衷案かもしれません。
ちなみに、Mackieのファンタム電源を介して試してみましたが、もちろん問題なしです。
例えば、電池で動くコンデンサーマイクに使う、真空管マイクなどの別の電源を必要とするタイプのマイクに使う…などの使用法もあるとは思いますが、コンデンサーマイクにはそもそも電磁誘導がなく、マイク内にプリアンプが入っているのでハイ受け云々の効果がなく、使うメリットはないと思います。
(でも、そこら辺わかってるはずのスタジオエンジニアの方が「激変した!」と言っているので、違いはあるのかもしれません)