他人が家にあがってくるとき、どれくらい片付けますか?
他人の家にあがらせていただく仕事をして、10年以上がたった。
はじめたころは、たいして何も感じていなかったが、反対の立場になって考えてみると、確かに特殊な仕事ではある。
「反対」というのは、「他人が家にあがりこんでくる」という立場である。
日々の暮らしをふり返ってみると、確かに、他人は、そんなに頻繁には、家にあがりこんでは来ないのだ。
ガスの点検の人が、たまに。
祖母がいたころは、ホームヘルパーの人が週一回。
お盆には、お坊さんが数分間。
ヤクルトやダスキンのおばちゃんだって、玄関どまりである。
年に数回、近所に住む人が集まって、食事をしたりはするが、全くの他人というよりは、普段から顔も性格も知っている、「親しみのある他人」という感じである。
なので、今となっては、「けっこう、レアな仕事をしているのだな」と、ふと、逆目線に立って感じることがあるわけである。
ところで、他人が家にあがってくる際、人はどれくらい家のなかを片付けるのだろうか。
いつ来られてもオッケー、という場所もあれば、ここはちょっとやばい、というところもあるはず。
ちなみに、わたしが育った実家の環境はどうだったのか。
ちょっと思い返してみよう……。
玄関。
ふだんは、靴が出しっぱなしだが、お客さんが来るとなると、片付ける。
和室。
「ここは客間」、という認識が家族にあるからか、比較的、ふだんからものはなく、とくに片付ける必要はない。
キッチン。
調理器具やら、生ごみやら、食材やら……。
出しっぱなし。
ここは、ふだんの様子は、他人には見せられない。
片付けが必要な場所と言える。
洗面所や、お風呂はどうか。
ま、こちらは、ふだんからこまめにそうじが必要な場所ではあるため、洗濯物が異常にたまっていない限りは、とくに見られて問題はなさそうである。
トイレ。
実際問題、古びていることもあって、決してきれいな状態とは言えないが、
突然の、
「すいません。お手洗いおかりできますか?」
には、対応できるレベルではあるように思う。
しかし、ここは、来客時はとくにきれいにしておきたいところではある。
そして、家族の個人部屋。
完全にアウトである。
「親しい他人」レベルには対応できても、「ただの他人」は、即対応とはいかない状態である。
いや。
部屋によっては、「親しい他人」も無理かもしれない。
その無理な度合いは、家族それぞれによっても異なるが、うちの場合は、年齢が高いほど、とくにひどい。
来客があると判明してから、1日では迎える準備はむずかしいような、そんな状態である。
それは、きっと、年齢を重ねた分だけ、部屋にあるモノの量も多いということなのかもしれないが……。
と、まぁ、わたしの「他人に対しての片づけ意識」はこんな感じ。
やっぱり、他人であっても、いや、他人であるからこそ、あまりにも汚い部屋は見られたくないという気持ちがあることがうかがえる。
そして、それは、世間一般、おおよその人がもっている意識なのだと、あたり前に思っていた。
しかし、「そうとも限らないのだな」いうのが、この仕事をしていて分かったことでもある。
人によって、その意識は、かなり違いがありそうなのだ。
わたしの独断と偏見によって、おおまかに分けるとすれば、こんな感じかもしれない。
家に他人があがってくるとき、
① 散らかっていても、平気であげる人
② その時だけ、その部屋だけ、片付ける人
③ とくにあわてなくても、いつも片付いている人
④ 片付いていないけど、それを見せるのを恥ずかしいと言いながらもあげる人
ちなみに、わたしはまぎれもなく、②に属する。
そして、みんなそうなのだと勝手に思いこんでいた節がある。
そして、これ、分けてみると、なんだかおもしろい画が浮かんだ。
① の世界は、裏表がなさそうだし、
② の世界は、本当の自分を見せようとしない感じだし、
③ の世界は、冷静沈着で、
④ の世界は、「テヘへ……」みたいな、おちゃめさがある。
こう見てみても、やっぱり、わたしは、②に属しているとおもう。
片付いた状態だけをみている他人からは、ちゃんとしている人、とか思われているかもしれない。
たまにある、突然の訪問には、「そうじしとけばよかった」の後悔。
だらしないくせに、みえっぱりという仮面をかぶろうとする感じである。
でも、実は、あこがれるのは、④の世界。
こんなわたしですが、まぁ、ゆるしてやってくださいな、的な。
でもでも、③の世界も一回は行ってみたい。
ミニマリストと呼ばれる方々の、暮らしぶりがうかがえるSNSには、惹かれている自分がいるし、いらないものを捨てたい欲求もある。
モノが少ない暮らしって、生きやすそうだなとも思う。
だからこそ、冷静沈着でいられるような。
① の世界は、正直そんなに行きたいとは思わないけれど、生きやすさで言えば、実はけっこうレべルが高いのかも。
この世界の人って、きっと、他人の目をそんなに気にしてないはず。
むしろ、他人なのだし、どうでもいいよ、みたいな感覚か?
もしかしたら、自分にとっての暮らしやすいスタイルが、人から見たら、散らかっていると見えるだけなのかもしれないし。
「部屋は、その人の内面を映し出す」
とは、よく言われること。
たしかに、この仕事をしていて、クライアントの家と、性格って、やっぱりリンクしていると感じることはおおい。
そして、「家に他人をあげるときの、家の片付けに対する姿勢」も、その人の性格におおいに関係がある気がする。
勝手に分けた4パターンではあるが、つまるところ、
「どの姿勢も、いろんな人がいておもしろいな」
が、これまた勝手な、わたしの思うところである。
そして、ちょっと違う自分になってみたくなったら、わたしの場合、とっちらかった部屋を他人に見せちゃうのも、おもしろいのかもしれない。
さて、こんなことをつらつらと書いている、わたしの職業。
ときには、リビングだけでなく、寝室や浴室にまであがらせていただいている。
いったい、何の仕事なのか。
それは、ご想像におまかせするとします。
あ、『家、ついていっていいですか?』の番組スタッフ、ではないですよ。