人生、「予感」でできている。
毎朝、出勤前にすること。
それは、今日の運勢チェックである。
お気に入りの占いサイトから送られてくる、その日の運勢。
自分の生年月日を入力しておくと、それに合わせた占いを送ってくれる。
『きょうは、スッキリと気持ちのいい運気の日。たくさんのことを一気にこなせる日』
などの記事を読むと、
「お、仕事、はかどりそう!」
と、ちょっとすてきな、いちにちのイメージが浮かぶ。
しかし、占いサイトによっては、星座ごとのランキング……なんてものもあり、
自分の星座が最下位で発表された日には、朝から軽く落ちこんだりする。
『苦手な人との関係が、悪化するかも。発言には十分気をつけて』
なんて記事を読んだ日の朝は、
「げ! なんか、いやな気分」
となる。
占いによっては、その日の「ラッキーアイテム」なんてものを、教えてくれたりもするのだが、これに関しては、どうも偏見がある私。
『白い、清潔感のあるハンカチで運気アップ!』
とか、聞いても、
「いやいや、これ、別に今日に限ったことじゃなくて、清潔感のあるハンカチなんて、いつも持っていた方が、いいに決まってるし」
『気分転換に、きれいな夜景を見ると運気アップ!』
とか言われても、
「夜景、近所にないし。てゆうか、今日、雨ふりなんですけど」
せっかく、親切に(?)教えてくれている占いに、ちょっとひねくれた気持ちをもってしまう。
にしても、である。
ここまで書いた文章を読み返しただけでも、
「占いにふりまわされて、わたし、バカだなー」と思ってしまう。
見なけりゃいい、信じなけりゃいい、それだけのことなのに。
なのに、見てしまう。
実際、当たってるな……って日もあるけど、ま、それは、万人に当てはまるような、なんていうか、ちょっとあやふやなものであって、
厳しい視点でもって見れば、当たってないことの方が多いのかもしれない。
はずれたって、だれかが責任とってくれるわけでもない。
なのに、見てしまう。
その日の占いだけではなく、その年の占いや、
一年を、半分に分けた、上半期の占い、下半期の占いも、もれなく見てしまう。
その年の占いは、一年のはじまりの日にチェックすることが多い。
つまり、お正月なのだが、ちょっと、初詣でひく、おみくじの感覚に似ているかもしれない。
「今年は、どんな一年になるかな」
「いい一年に、なりますように」
そんな思いをこめて、手にするおみくじ。
「今日は、どんな一日になるかな」
「いい一日になりますように」
どうも、わたしは、無意識にそんな思いをこめて、毎朝の占いチェックをしているようだ。
日々、生きていて、ほんとに些細で、小さなことなのだけれど、
「あ、こうしておいた方がいいな、きっと」
と思う瞬間って、誰にでもあると思う。
そして、その
「そうしておいた方がいいこと」は、
事実、
「そうしておいて、よかったこと」
となる確率は、けっこう高い気がする。
「いつもより、ちょっと早く家を出た方がよさそう」
そう思って、その通りにすると、あと1台しか空いてない駐車場に、タイミングよく停めることができたり。
「この調味料、買っておいた方がいい気がする」
そう思って、買って帰ると、ちょうど切れるところだったり。
「そういえば、あの子、最近どうしてるかな」
ふと、思い出した友人がいて、連絡を取ると、見たいと思っていた映画に一緒にいくことになったり。
その「逆バージョン」も、たくさんある。
「このマグカップ、引き出しにしまっておいた方がよさそう」
と思いつつも、ほったらかしにしたまま出かける。
すると、
「ごめん、今日、マグカップ割っちゃって……」
帰宅早々、「しておけばよかったコール」が頭の中で鳴り響く。
ATMで、
「あと1万円、おろしておいた方がよさそう」
なんとなく、そんな気がしたのにもかかわらず、
「ま、いっか」
とスルーすると、あとで代引きの商品が届くことになっていたことを思い出したり。
こんな感じで、発生している内容としては、極めて小さく、どうでもいいようなことなのだけれど、日々の、
「しておいた方がよさそう」
が、
「しておいてよかった」
に変わる率は、かなり高いのだ。
つまり、それは、
「しておいた方がよさそう」
を無視した結果、
「しておけばよかった」
となる確率が高いとも言える。
「いい一日にしたい」
「いい一年にしたい」
「いい人生にしたい」
そんな風に、明言こそしていなくても、思っているのが人間というものなのではないだろうか。
そして、それは、やはり、
「しておいた方がよさそう」の、積みかさねで、手に入れることができるのではないだろうか。
ふっと、わき出る「なんとなく、しておいた方がよさそう」という、「プチ予感」。
これを、「無視しないで、素直にしたがってみる気持ち」みたいなものを、占いは補ってくれる気がするのだ。
「いい一日にしたい」
それを叶えるための、「プチ予感」の「後押し」をしてもらいたくて、
私は、毎朝、占いチェックをしているのかもしれない。
なんてことを、言いながらも、「白い、清潔感のあるハンカチ」を、素直に持っていかない私ではあるのだが……。
そして、今朝見た占いの内容も、もはや覚えてはいない私……なのだが。