「ものづくりが好きな心を養える」だから僕らは広島県福山市の老舗工場とデニムをつくるんだ
こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。
瀬戸内発・兄弟デニムブランド「EVERY DENIM」2年ぶりの新作ジーンズとなる5thモデル「Spoke(スポーク)」。
8.21(水)ー9.10(火)の3週間、伊勢丹新宿で行われる企画展にて初のお披露目となる今作の製造秘話についてお届けします。
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EVERY DENIM 5thモデル「真ん中デニムーSpoke」について
明治25年創業。デニムの一大産地・広島県福山市で、120年以上に渡り糸を染め続けてきた老舗染め工場「坂本デニム」による、天然藍を100%使用した糸。
その糸を用い、同じく福山で明治時代から生地織りに関わる老舗工場「篠原テキスタイル」が織り上げた、独特の厚みと柔らかさを持つデニム生地。
シルエットは程よくスリムなストレート。見た目においてまっすぐなきれいさを大事しました。
EVERY DENIM製品の「真ん中」を飾る、時代に左右されない本格派デニム「Spoke」の誕生です。
生地織りの老舗「篠原テキスタイル」
広島県福山市。県の東部に位置し、古くは「備後地区」と呼ばれたこのエリアが、国内有数のデニム産地であることを知っていたでしょうか。
初めて聞いた人が多い分だけこの文章は届け甲斐があります。明治時代に創業し、100年以上に渡って生地づくりを続けてきた2つの工場を紹介させてください。
1社目は「篠原テキスタイル」。創業は1907年(明治40年)、この備後地区で当時の主要産業だった絣(かすり)生地を製造するところから始まりました。
大戦から高度成長を経て、100年以上の歴史の中で扱う素材や業態は時代に合わせ変化させつつも、生地を織るということだけは変えずにやってきた同社。
現在は、時期社長となる篠原由起(しのはら ゆうき)さんをリーダーに、新しい生地の開発や、福山のデニム産業PRなど、今後を見据えてチャレンジを続けられています。
僕らデニム兄弟と由起さんが出会ったのは、昨年のこと。福山市がデニムの産地であることを知りながら、なかなかつながりが持てていなかったところに、由起さんから連絡をちょうだいし工場にお邪魔しました。
篠原テキスタイルさんの特徴といえば、なんと言っても100年以上に渡って生地を織り続けているところ。長い歴史の中で培われた技術はデニムづくりにも活かされ、生み出された見たことのない生地たちが工場にストックされていました。
出会ってすぐ由起さんの人柄に惹かれた僕らは、一緒に取り組みをしたいと、2018年の夏「hotel koe tokyo」で開催した2日間のPOP UPに関わっていただくことに。
装飾で使用したデニム素材や、限定で販売したサコッシュは篠原テキスタイルさんの生地。由起さんにもわざわざ東京にお越しいただき、会場を盛り上げていただきました。
篠原テキスタイルさんとイベントをご一緒した経験を経て、いつかEVERY DENIMとしても自分たちの製品という形で関われたらなあと、そんなことを思うようになりました。
由起さんは篠原家3兄弟の長男、本当に面倒見が良い人柄で、僕らに対してもいつも暖かく迎え入れてくださります。
この1年間でEVERY DENIMを通じて出会った2人の若者、祇園涼介(ぎおん りょうすけ)さんと、湯浅遼太(ゆあさ りょうた)さんも、僕らと同じく篠原テキスタイルさんで学び、ジーンズについての活きた知識を深めていっています。
良いモノをつくれるとか、そういった軸を超えて、新たに産地に関わろうとする若い人間を暖かく迎え入れてくださること。それが今の国内繊維産業においてどれだけ尊いことが身に沁みてわかるからこそ、
篠原テキスタイルの生地を、福山のデニムづくりをEVERY DENIMとして広めていきたいなあと思うのです。
今回の5thモデル「Spoke」製品化を通じて改めて由起さんにお話を伺ったところ、篠原テキスタイルとしては、この福山の地で「ものづくりと消費者との関係性」に向き合うことを大切にしていくと話してくださいました。
「生産背景を知った上でモノを買いたい」。そんな消費者の欲求は、モノのつくられかたや届けられ方に影響を与え、波を起こした上で、ひとつ落ち着いた気がしています。
生産工場をはじめ、ものづくりに携わる製造側の人たちにとって、これから何が求められるのか、何を価値としていけば良いのか。以前明快な答えは見えませんが、ただ一つ確実に言えることは、
僕ら兄弟や、デニムづくりに関わりたいと思う若者にとって「ものづくりが好きな心を養える」。そんな貴重な場となっている篠原テキスタイルの存在がこれからも貴重であることは間違いないでしょう。
環境に配慮した染めのパイオニア「坂本デニム」
2社目は、篠原テキスタイルよりもさらに古く、1892年(明治25年)に創業した染めの「坂本デニム」。同じく備後地区で絣糸の染めを行うところから歴史がスタートしました。
現在代表を務める坂本量一(さかもと りょういち)社長の積極的な取り組みにより、業界をリードする形で環境に配慮した糸の染めを行ってきた坂本デニム。
7年前に開発した、染色過程において薬剤を使わずなるべく環境に配慮した「エコ染色」といった技術や、水を使用する染め工場としてキレイな水のある暮らしをサポートする環境事業部の立ち上げなどが代表例です。
オーガニックコットンが、コットンの栽培過程における環境配慮であるのと同じく、インディゴの染色過程においても環境配慮に力をいれるべき。
「せっかく原料がオーガニックでも、糸を染める段階で薬品まみれにしてしまったらもったいない」。そう考える坂本デニムの時期社長・麻耶(まや)さんの言葉はとても力強いです。
これまでのやり方を変え、環境に配慮したものづくりへ舵を切るためには、大胆な設備の投資を行わなければなりません。
7年前の「エコ染色」への取り組みの際は、機械を大幅に変更したために「これまで通りの色を出すのが難しい」と、現場の職人さんからも反発があったそう。
製造側の変化は、常に現場の職人に技術のアップデートを要求し、それに向き合えた工場だけが時代を超えて生き残れるのだと、坂本デニムの経験が物語っています。
そんな環境配慮に大きな挑戦を続ける坂本デニムの、次なるアクションは「インディゴ染料の天然化」。
従来、工業的なデニム生地の糸を染めるにあたり用いられているのは「合成インディゴ」という石油由来の染料。
一方「天然インディゴ」は、天然由来の成分からつくられたインディゴ染料のことです。
1880年に天然インディゴと同じ成分構造を持つインディゴを合成する技術が開発されたことから、工業生産されるデニム生地は素材糸に合成インディゴを用いられるのが一般的になりました。
天然インディゴについては、量産できる数の限界から、商業ベースで生産量の100%をまかなうことは難しく、坂本デニムも、合成インディゴとブレンドしたり、製造の一部として使用してきました。
そんな中、近年ますます進む世界的な環境志向と、ものづくり企業としての新たなチャレンジとして、坂本デニムでは、自社で保有する5台の染色機のうち、1台を天然インディゴ専用として稼働することを決断しました。
「世の中にもっともっと環境志向が広まり、ウチとして安定的に天然インディゴを使用することができれば、決して価格的に非現実的ではない」
覚悟と決意を込めて麻耶さんは、そう話してくれました。
2年ぶりの新作「Spoke」に込められた想い
今回、5thモデル「Spoke」の生地。オーガニックコットン素材を坂本デニムのエコ染色により天然インディゴ100%で染色。その糸を用い篠原テキスタイルによって織り上げられた生地を使用しています。
「Spoke」という製品名の由来は、EVERY DENIMにかかわるみんなの中心として、僕らが車輪となり動き続けることで、観覧車のようにみんなを順番に高いところへ、美しい景色が見えるところへ連れていきたいという思いが込められています。
2017年にシルクデニム「Brilliant」をリリースしてから、次の新作ジーンズを出すまでに、2年もの月日が流れてしまいました。
この間、たくさんのことを悩みました。
2015年にブランドを立ち上げたころは、ものづくりについて、ジーンズのことについて何も知らなかった僕たち。
産地の工場の人たちと顔を合わせ、コミュニケーションを取りながらブランドを運営するうちに、僕らは加速度的に知識を増やしていき、次第に何を作れば良いかわからなくなってしまいました。
たくさんの選択肢ができて、たくさんの同業の知り合いも増え、単純に、意識する範囲が増えてしまいました。
「誰のために」といった部分がボヤけ、自分たちが製品を企画する上で何を大切にすべきか、すなわち判断の軸を見失ってしまったのです。
いやおそらく軸はあったはずなのだけど、たくさんの人と出会い知識もつける中で、自分たちの判断基準に自信を失ってしまっていた。はっきり言えばそんな2年間でした。長かった。
この2年間で学んだこと。
大切にしてることを発見するのと同じくらい
大切にしてることに自信を持つのが大事だと知りました。
いつも自分の心のうちの素直な感覚から出発すること、そうすれば必ず道は見えるんだと。僕らにとっての道は、デニム工場の人たちのことを、製品とともに伝え続けることです。
改めてEVERY DENIMが大切にしてきたこと
・ジーンズに対する関心への入り口となる
・自分たちの納得感を大切にする
・工場の挑戦を自分たちの挑戦にする=生産者に誇りを宿す
2015年、立ち上げ当時にWasei Salonでお世話になっている、今はなきブログ「隠居系男子」に寄稿させていただいた文章を改めて読み返しました。
今よりさらに青臭い文章ですが、このときと思っていることは本質的には変わっていません、それを実感できてよかった。
掘り起こすんじゃなくて、込めるストーリーを届けたい。すなわちそれは、自分たちの軌跡、嘘偽りのない泥臭くまっすぐなノンフィクションのストーリーを。
そしてそのストーリーは登場人物に誇りを宿し、また新たなものづくりへの原動力となっていく。そんな姿が理想だと思っています。
EVERY DENIMの歩んだストーリーが、ひとつの明確なしるしとなり、製品を身につけることで、価値観を体現できる存在となる。
そうして僕らは初めてブランドとしての自分たちに意義を感じられるのだと思います。
真ん中デニムとは
いわゆる変化球のデニム素材を製品に用いることが多かったEVERY DENIM。そんな意味で今回の「Spoke」はいわば直球ストレート。だからこそ企画する上での難しさがありました。
次に出すジーンズは、これからの自分たちの製品ラインナップの真ん中となるような、ベーシック、定番、王道、代名詞、そんな製品にしたい。
とはいえ、そんな要素を含む直球ストレートの製品だからこそ、逆にEVERY DENIMらしさ、決め手を見つけていく方法がわからなかったのです。
いつもお世話になっている鳥井さんに相談したところ、メンバーを募って「真ん中」を考えるデニムの製品企画「真ん中デニム(仮)」のアイデアをいただきました。
企画メンバーを一般で募り、集まってくれた人たちにそれぞれの「真ん中」を問うことで、「真ん中」についてのあり方を考えながら、EVERY DENIMとして「真ん中デニム」を生み出す。
今年の3月から動き出し、総勢30名ほどになったメンバーは、みんなそれぞれ貴重な意見をくれました。
私にとって、真ん中とは「原点である」「心地よさである」「平等である」「醍醐味である」「発見である」「ゆずれなさである」「出会いである」「調和である」「夢である」。全ての意見を参考にさせていただきました。
自分の中で十分な納得感を持って「Spoke」をリリースします。これで自信持てなければみんなに失礼、本気の思いで届けていきたい。
僕らEVERY DENIMにとっての「真ん中」。
ものづくりについては「工場の挑戦を自分たちの挑戦にし、関わる人に誇りを宿らせる」これに尽きます。
坂本デニムさんの天然藍100%への挑戦を、同じく僕らも挑戦にしたい。
篠原テキスタイルさんのものづくりへの誇りを届け、デニム産業に関わる熱いプレーヤーたちを増やしていきたい。
そして何よりも僕らがSpoke、観覧車の車輪部分=真ん中として、存在していきたい。
「Spoke」に込めた想いと特徴はそんな風になっています。
捉えどころのない、だけど大切な「真ん中」というものについて。
僕らは悩みに悩み「Spoke」という一つの答えを出しました。
あなたの「真ん中」は何ですか。「Spoke」を履く人が自分自身の真ん中について考え、それぞれについて大切なものを見つけられたら
それに勝る喜びはありません。
EVERY DENIM共同代表 山脇