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【感想】ペルシャン・レッスン 戦場の教室
2020年 ロシア・ドイツ・ベラルーシ
監督 パディム・パールマン
出演 ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート
ラース・アイディンガー
ヨナス・ナイ
あらすじ
ナチスの親衛隊に捕まってしまったユダヤ人のジルは、処刑される寸前、咄嗟に自分はユダヤ人ではなくペルシャ人だと嘘をつく。偶然にも上司の命令でペルシャ人を探していた兵士たちは、彼を依頼主である大尉・コッホが待つ収容所へと連れて行った。
嘘がバレると殺されてしまうジルは、機転をきかせ、架空のペルシャ語を話す。それを聞いて信頼したコッホは、彼にペルシャ語のレッスンを頼んだ。ジルは偽のペルシャ語を作り出し、彼に教えることになるのだが……。
感想
デタラメな言語を教えることによって収容所を生き延びる。とんでもないアイディアから生み出された映画です。『シンドラーのリスト』をはじめ、ホロコーストを題材にした映画は数あれど、ここまで突飛なシチュエーションは他にないと思います。
ただ偽物のペルシャ語を話すだけでなく、大尉に教えるのだから自分も覚えないといけない。もし間違ってしまったら即座に嘘がバレて殺されてしまう。そんな緊張感がずっと続き、息苦しさすら覚えるほど。なんかあらすじだけ見たらコメディ要素あるのかな、なんて考えていたんですが笑えるシーンなんて一つもありません。徹頭徹尾、クソ重い。
そういった雰囲気作りから最後のオチまで含めて、『偽のペルシャ語を教える』というワンアイディアが余す所なく活かされている。このアイディアをよくぞここまで膨らませたものだと、感嘆すること間違いなしです。
あとこの映画で特徴的だなぁと思った部分として、ストーリーの大部分がユダヤ人ではなく看守のドイツ人たちに割り振られていること。普通、収容所を描く映画って、厳しい環境の中で生き抜こうとするユダヤ人に焦点を当てるものだけど、本作はユダヤ側のメインキャラはほぼ主人公だけで、あとは大概ドイツ兵たちなんです。
監督のインタビューから引用なんですけど、その意図としては以下の通り。
ナチスをロボットや自動人形のように描く映画もあります。でも私は、彼らも人間であったということを、忘れてはならないと思うのです。愛情を受けたり、人を妬んだり、恐れを抱いたり――彼らもみな、人間的な性質を持っていた。そして、ある意味ではそれが、彼らの行動をより一層恐ろしいものにしているのです。
映画内では、平気な顔でユダヤ人を撃ち殺すドイツ兵たちが、恋人を取られて嫉妬したり、ピクニックで楽しそうに歌ったりする姿が描かれます。そのギャップが本当に恐ろしい上に、彼らに感情移入してしまう自身にも戦慄する。本当にえげつない構造をした映画だなと感じました。
その中でもやっぱり顕著なのは、偽ペルシャ語を習うコッホ大尉です。将来レストランを開くため、単語帳を作って勉強する姿は実に微笑ましくて、思わず彼を好きになりそうになる。しかし、部下に対してはキレて怒鳴りまくるし、主人公以外のユダヤ人には冷酷そのもの。その二面性で感情がぐちゃぐちゃにされます。
これまでのホロコースト作品は、ひたすら可哀想という感想を抱く作品が多かったのですが、本作はより複雑に心を抉る逸品に仕上がっていました。ぜひご賞味を。
まとめ。創作言語を教えて生き延びるという突飛なアイディアを最大限活かすストーリー展開。加害者側から見せる、唯一無二なホロコースト映画でした。
以上、昨日見たのと違って真っ当な(?)ナチス映画でした。お疲れ様です。
視聴:アマプラ