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朝日工業様にインタビューをさせていただきました

朝日工業様とのAI自動解析システムの現場検証が終了しました。現場検証において、ご尽力いただいたみなさまにインタビューをさせていただきました。電炉メーカーが抱える課題や検収AIに期待していることをお話いただきました。

関根様:常務取締役 管理本部長
小林様:執行役員 生産統括部長 兼 埼玉工場長
野田様:埼玉工場 業務部長

■ 会社の沿革を教えていただけますか?
(関根様)
 1936年(昭和11年)に「日本ニッケル」として創業した会社が、朝日工業の前身となっています。今の埼玉工場の近くに、蛇紋岩というニッケルを含む砕石が取れる場所があり、精錬した後にこちらの工場でニッケルを製造していました。一方、1935年(昭和10年)には朝日アグリアの前身である「朝日化学肥料」が尼崎に創立されました。セゾングループ創設者の堤康次郎氏が肥料工場を埼玉に移転し、日本ニッケルと同じ敷地内で事業を始めました。
 1960年には2社が合併し、1970年には西武流通グループ(後のセゾングループ)に入りました。2003年にはセゾングループを独立し、2005年にJASDAQに上場しています。
 鉄鋼業では関東地区に競合が多く、価格面でも需要面でも厳しい状態が続き、アライアンスを検討していたところに合同製鐵から声がかかり、2019年に合同製鐵の100%子会社になりました。

関根様

■ どのような鉄を製造しているのですか?
(関根様)
 鉄筋と構造用鋼(建築や機械、部品など幅広い用途で使われるもの)を製造しています。鉄筋では、以前は10mmという細い種類も製造していましたが、生産性や需要の観点から10mmの製造を止めて、今は13mm~51mmという太さに特化しています。一方、構造用鋼は細いサイズで部品に使用されることが多い機械構造用鋼炭素材(SC材)などを製造しています。

(左から異形鉄筋、ねじ節鉄筋、構造用鋼)

■ 従業員は何名ぐらいいらっしゃいますか?
(関根様)
朝日工業は2022年3月末時点で約260名います。工場は埼玉工場1工場のみで、本社は池袋にあります。子会社の朝日アグリア株式会社は肥料、種苗、牧草事業をしており、約180名の従業員がいます。砕石砕砂事業をしている株式会社上武では約60名、鉄鋼の切断・横持ち等の請負を行う朝日ビジネスサポート株式会社は約20名です。
 
いつもは鉄鋼事業の話をさせていただいているので、沿革や他の事業について初めて知りました。ありがとうございます!

■ 鉄のリサイクルの流れを教えていただけますか?
(小林様)
 鉄の製造方法は高炉法と電炉法と2つあります。朝日工業では電炉法で製鋼しています。電炉法で鉄鋼材を作る際には、大きく分けて2種類のスクラップを使用しています。自動車や建造物などで使われた製品の使用後に出る鉄スクラップ(老廃スクラップ)と、自動車工場や鋳物工場といった工場で発生する鉄スクラップ(加工スクラップ)です。これらの鉄スクラップは、スクラップ業者が炉前サイズに切断し不純物を取り除いた後に、電炉メーカーへ運ばれます。電炉メーカーでは鉄スクラップを溶解して、鉄鋼製品を作ることで、鉄をリサイクルしています。

小林様

■ 電気炉メーカー各社が抱えている課題はありますか?
(小林様)
電炉メーカーで抱えている課題は大きく2つあります。
 1つ目は、老廃スクラップの不純物、特に銅成分の混入です。銅が混入すると製造した鉄鋼材の表面に傷ができて、品質が落ちてしまいます。しかし、鉄スクラップを溶かすまで、銅が混入しているかはわかりません。リサイクルを重ねていくと、銅成分がどんどん濃縮されていってしまうんです。質の良い鉄を製造するためには、電炉メーカーで銅を薄めることが重要ですが、精錬では除去することができないため、材料への混入を防がなければなりません。
 2つ目はボンベや消火器のような密閉物の混入です。混入していると電炉内で爆発することがあり、作業員の安全面から混入を防がなければなりません。
 
 
■ 鉄スクラップ検収を行う業務部ではどのような課題を持っていますか?
(野田様)
 電炉で溶かす前に鉄スクラップに不純物が入っていたのかを検証できず、対策を講じることができなかったことが課題だと思っています。製鋼の段階で溶鋼の成分分析を行い、スクラップ起因で基準を外れた場合でも、電炉で溶かす前のデータがない為、原因の特定が困難でした。今回のEVERSTEELさんとの取り組みで、AIで解析した画像を蓄積していく必要があると思っています。

野田様

■ 今回EVERSTEELと鉄スクラップAI開発を実施した経緯を教えていただけますか?
(関根様)
 昨年、製造工程の写真管理の提案を頂いていた株式会社東京ファクトリーの社長から面白い会社があるよと言われたのがきっかけでした。朝日工業では人員不足、働き方改革、コスト削減のために2019年に業務効率化プロジェクトを発足させました。その中で、AIやRPA、ペーパーレス、脱ハンコの3つをテーマとして取り組んできました。
 AIは特に、人に代替する技術を開発するために着手したものです。私は前に鉄スクラップ検収の責任者をしていたのですが、当時から製鋼段階で発覚する不純物の混入、検収員ごとに異なる基準、検収員の業務負荷が問題になっていたので、AI解析の重要性を感じていました。

■ EVERSTEELの開発した等級判定AIや異物検出AIについて、率直な評価・感想をいただけますでしょうか?
(小林様)
 AIは学習していく程に精度が上がっていくと想像していたので、既に高い精度となっていて、第1段階としては想定を上回っていました。
 等級判定はメーカーによって基準が異なるので、まだ朝日工業に合わせた作り込みが必要ですが、AIは精度が上がっていくので、現段階では個人的には良い精度だと考えています。
 朝日工業としては異物検出を重要視しているので、今後もデータを収集することで異物検出率はまだ伸びしろがあり、今後も精度を上げていきたいと思っています。
 
ありがとうございます!期待に沿えるように頑張っていきます!

(朝日工業でのAIと検収員の査定結果)

■ EVERSTEELでは現場主義をモットーにしています。私は現場に2週間滞在させていただきましたが、現地調査について検収員の方々はどのような印象だったでしょうか?
(野田様)
 検収員からは有意義な2週間だったというコメントがありました。最初はAIという全く新しい取り組みに対して、不安に思う検収員もいました。しかし田島さんが現場目線で朝日工業の検収を学んだり、私達がEVERSTEELさんのAIを教えてもらったりしたことで、お互いのいい部分を共有し合うことができたと思います。
(関根様)
 現場に入り込み、検収員と同じ目線で見てくれたことが良かったんだと思います。

EVERSTEEL田島

■ 検収員の査定のブレチェックの結果はいかがでしたか?
(野田様)
 検収員ごとの査定のブレが少ないという結果が出て、安心しています。ブレが大きいと、今後の検収AIの開発に影響が出てしまうのでほっとしました。
 
■ EVERSTEELの検収AIへ期待していることを教えていただけますか?
(関根様)
 質の良い鉄鋼材を製造するために、今までは混入経路が不明だった鉄スクラップ内の不純物を発見することができるAIの開発に期待しています。
 朝日工業では、今までも電炉や製鋼の設備に投資をしてきました。ただ、溶かす前の工程ではどのように不純物が混入しているのか、密閉物が含まれているのかある程度は検出しておりましたが、全ての検出は困難でありました。どの業界でもどの業務でも、問題が発生すれば現状分析、原因の特定、対策をとることが基本だと思うのですが、鉄スクラップではそれができていませんでした。しかし私は、製造業に携わるものとして今まで対策がなされなかったことを改善していく必要があると思っています。

■ 将来的に目指していることをぜひ教えてください。
(関根様)
 更なる業務効率化を目指していきたいです。日本では少子高齢化が進んでいて、その日本で鉄鋼という重工業をやっていくためにはAIに頼らざるを得ない時代がもうそこまで来ていると思っています。特に検収員は、約15mの高さでクレーンを操縦し、不純物を発見した場合は、クレーンから地上まで毎回降りていくという負荷が大きい仕事で、効率化が必要だと感じています。検収AIを導入することは、今後の業務効率化のための最初の一歩なので、検収に限らずにまだ工場内で改善ができるところは効率化を進めていきたいです。
(小林様)
新しい技術を敬遠せずに取り入れていく、将来に向けて乗り遅れないようにすることが大事だと感じています。
(関根様)
私のモットーとして挑戦して失敗しないとわからない事があると思っているので、まずは挑戦することが大切ですね。
 
■ 検収AIは最終的に現場でどう活用すべきとお考えですか?
(小林様)
 朝日工業ではクレーンオペレーターが検収をしているので、AI導入により、すぐに活人化することは難しいです。ただ、オペレーターが検収しながらAIでも検収すれば見落としが少なくなり、オペレーターの負担軽減になります。そういった活用をしていきたいです。

異物検出結果例:モーター

■ 今後、現場で必要となるAIはどういったことがありますか?
(小林様)
 検収員にベテランの人が多いこと、労働人口が減っていくことから今の検収員の技術を伝えていくことが重要になってきます。今後必要なAIは、クレーンオペレーターはクレーンの操縦だけに集中し、検収AIが全て等級判定と異物検出をしてくれることだと思っており、それが当面の目標です。
 
■ 検収AIについて検収員の方のご反応などをお聞かせください。
(野田様)
 現場の検収員にヒアリングした中で、複数の検収員が言っていたのは、最初は検収AIにハードルを感じていたけれど、実際に使用してみて将来的に検収AIの導入は自然な流れだ、と受け入れているようでした。また、電炉メーカーで検収AIをしていることをスクラップ業者に伝えれば、スクラップ業者も質の良いスクラップを運んでくるようになるというメリットがあるのでは、という意見もありました。
 
■ 今後AIに期待していることに何かご意見はありましたか?
(野田様)
 今後は、これまで発生由来まで分からなかったスクラップが、AIによって由来まで特定することができれば良いと期待しているという意見がありました。例えば家電であれば銅が多い、自動車であれば品質のいいスクラップだということを、今は人間の目で判断しています。検収員は勉強しながら精度を高めていっているので、AIでは安定的な精度が保てるようになれば良いと思っています。

■ AI技術の積極的な導入を検討されている朝日工業様から、業界の方へのメッセージをお願いできますでしょうか?
(関根様)
 会社を発展させていくために、今何をすべきか決断の時だと思っています。日本全体では高齢化が進み労働人口が減少していく危機が迫っていて、どの会社も従業員数が減っていく可能性が高いです。今までの仕事を人間が担い続けるのか、人間と機械で分担していくのか、選択の時です。AIシステムが止まるリスクを懸念している会社もあると思います。導入するだけで満足せずに、止まらないようにケアしていくことも必要です。しかしそれは従業員の精神的なケアをすることと同じく、経営者が取り組まなければならないことです。
 私はAIや自動化を更に加速していかなければならないと考えています。AI技術の導入に向け業界だけでなく日本企業の経営者が少しでも早く腰を上げる必要があると思っています。
 
貴重なお話をしていただきありがとうございました。みなさまの期待に沿えるよう、今後の開発に精進していきます!