再結成後のsyrup16gを10曲で
再結成前のsyrup16g
syrup16gが言及されるのってほぼ解散前の曲に尽きます。『生活』、『翌日』、『Reborn』など…。いずれも名曲であることに変わりはないのですが、再結成後のsyrup16gも素晴らしいので、是非聴いてみてほしいなーと思いまして、今回は再結成後のEP含めて全五アルバムから二曲ずつ選んで10曲、大体一アルバム分に独断と偏見と若干の民意を含めて選曲しました。それに沿って再結成後のsyrup16gを語ろうと思います。
プレイリスト
1. delaidback(2017)
年代だけ言えばこれは最近寄りの作品なのですが、いわゆる『delay』シリーズは未収録曲を集めたものなので、これに収録されている曲は、時系列で考えればそれ以外のアルバムよりも古くに作られてたり、ライブで披露されてたりすることが多いです。
この中でも今回ピックアップしたのは、『光のような』と『赤いカラス』。この二曲はファンからも人気が高い再結成後のアンセムのようなものです。
実はこの二曲、解散後に五十嵐さんが結成した「犬が吠える」の時期の曲なので、syrup16gの曲と完全に言い切れないところもありますが。
とにかく吸引力が強い二曲です。『光のような』は、過去曲の雰囲気を持ちつつも、再出発を目指すような曲。『赤いカラス』はギターアレンジがかっこ良い。どちらも五十嵐さんの迫真のボーカルが光ります。
この二曲は解散前のファンにも広く受け入られると思います。そして、再結成後の橋渡しにもなっています。
それ以外の『delaidback』は結構粗削りな音色だったり、結構癖が強い楽曲が並びますが、面白いです。個人的には『四月のシャイボーイ』が大好き。
2. Hurt(2014)
こちらが再結成後一作目。内容としては、空白期間の思考と、再結成の理由が詰まってるという感じです。
特にそれが表れているのが『生きてるよりマシさ』。PVも作られ、先行曲として発表された曲です。
五十嵐伝統の、「自分のことまんま歌詞にしちゃう」が相変わらず炸裂してます。でもそのまんまさが、一定の人にクリティカルヒットを与えるのでしょう。
特にCメロに入って、テンポと曲調が変わってからのここの部分は素晴らしい。さすがにこれをバンド再結成の理由に当てはめるのはあんまり気持ち良くないのでしないですけど、この歌詞の気持ち分かります。ちょっとハイな諦念というか。
ちょっと長いのが悩みの種ですが、良い曲です。
もう一曲は『ゆびきりをしたのは』。こちらは歌謡曲的要素とsyrup16g伝統のトーンをうまく組み合わせた曲だと思います。再結成後のsyrup16gは、ギターのフレーズ結構捻ってるなーって思います。割と一般層にも受けるようなソングライティングをしている気がする。それが気に食わないファンもいるかもしれない。この曲も結構テンポが早いリフが印象的で、間奏で転調するのも気持ちいい。これは再結成後特有だと思います。
3. 『Kranke』(2015)
これはインストゥルメンタル一曲を含めて五曲入りのEP。そしてヘンテコな曲が並びます。初めて聴くには割ととっつきずらい。聴きこむと結構良いんですけどね。
一曲目は『Thank you』。おいおいどうしたという感じの曲名だが、まさかの「諦めない自分にThank you」。ちょっと面白い。再結成後のsyrup16gは韻を踏むのが多くなっている。この曲とかは「Thank you」と「青春」、「迷う」と「毎夜」で踏んだりしてる。まだあんまり効果的に感じないですが、後にけっこう実を結ぶので、注目していただきたい。
この曲はJPOP王道の大サビの転調だったり、雰囲気だったり、結構POPだが、狙ってやってるんじゃないかなーと思う。いわゆる前むきソングを、やけくそ気味に作ってみました、って感じじゃないのかな。でもライブのアンコールの最後の曲で披露してることを見ると、割と本気なのかな。
もう一曲は『To be honor』。転調が多い、盛大なバラードである。クリーンと轟音のスイッチオフといういわゆる『creep』以来伝統の、syrup16gも多数用いてきた手法をこの曲でも用いる。再結成後版『Reborn』とも言えなくもないが、歌詞の内容がちょっとちんぷんかんぷんなのが面白いところ。
4. 『darc』(2016)
『dark』ではなく『darc』である。薬物依存者の支援施設。
メジャー1st『copy』を意識して作ったらしいです。雰囲気はまあ似てますが、統一感が『copy』には及びませんね。全体的に不安定。歌唱も仮歌を採用した曲もあって、好みは分かれるところ。
まずは『I'll be there』。長いディレイがかかったギターが特徴的なこの曲は、このアルバムの中では聴きやすい部類で、人によっては名曲に分類できると思う。五十嵐さんの情けないボーカルが非常にマッチして、説得力が凄い。シングルカットするならこの曲かなって感じ。
もう一曲は『Murder you know』。個人的にはこの一曲だけでこのアルバムは聴く価値あると思っているほどの名曲。諦めることで前に進めるという、諦念の善い部分を示した良曲だと感じる。言葉遊びも面白い。声に出してみればすぐ気づくが、「まだ言うの?」である。後半には「これじゃない感」も出てくる。これだけ聴くと変な曲だな、と感じてしまうが、名曲に仕上がってるからすごい。
この節とか現代だからこそ、って感じがします。最近切り抜きとかでいわゆる『名シーン集』とかありますけど、あれって本当にインスタント快楽というか…。まあそんなこと言うと名曲集とかのプレイリストを作ることも同じですどね。
名曲集って飽きますよねそのうち。それぞれの曲って、やっぱりアルバムごとの立ち位置があって、そこでこそ輝くというか…。
映画も、淡白なシーンがあるから派手なシーンが輝くので。
解散前のsyrup16gを求め続けるファンへの思いの吐露にも思える。「これじゃない」と言われ続け、「まだ言うの?」って…。
まあなんにせよ名曲です。
5. 『Les misè blue』(2023)
今回のこの記事はもはやこのアルバムを紹介したいがために欠いている節はあるのですが、現時点での最新作でもある今作は、超名作でございます。
全体的にミドルテンポの曲が多いですが、とにかく音が良いですね。今までのsyrup16gの雰囲気とは割と違って、クリアな音像が楽しめます。
テーマは今までと同じで諦観なのですが、諦観にも諦観してる…。「メタ諦観」といった形で、悟りの境地に至ってる気がします。
まずは『うつして』。コロナ禍で「うつす」という言葉にはネガティブイメージが持たれているところにこの曲を提示するところに五十嵐さんのセンスを感じます。
相手のことを完全に分からないからこそ、その痛みをうつしてほしいと願う悲痛な叫びが胸を刺します。
五十嵐さんの思いの丈をさらけ出すという手法が、良い感じに活きてます。己の情けなさをここまで純粋に示せるのはすごい。
冒頭からずっとある6コードのギターストロークも素晴らしいのですが、なんといってもギターソロ。syrup16gには珍しい泣きのギターソロをふんだんに披露しています。超素晴らしい。正直この曲だけで良いから聴いてほしい。
二曲目は『深緑のMorning glow』。ざらざらしたノリの良いギターが癖になります。
再結成後のsyrup16gの特徴として、韻遊びが多いというものがありますが、今作は特にそれが実を結んだ感じがします。他の曲でも韻を踏んでるのが多くて、聴いていて楽しいです。あまり意味は分からないけれど。
この曲の特徴は突然曲調が変わる部分。ゆったりとしたスローテンポになり、syrup16gにらしからぬような歌詞が紡がれます。
このアルバム、一曲目が『I will come (before new down)』ということで、夜明け前の歌なのに対して、最後から二番目のこの曲が朝の歌なんですよね。構成的にもコンセプトアルバムっぽくて良いですね。
五十嵐さんがこんな歌詞を歌えるようになったというのもなんだか感慨深いです。
表題曲である『Les misè blue』にもこうあります。悟りの境地に至ったようなsyrup16gがこの先どうなっていくか期待大です。
最後に
対バンに積極的に参加しては誰も知らない新曲を披露し、観客を困惑させているsyrup16g。愛おしい。
この調子だと新譜も近いうちに拝めそうなので、楽しみにしています。