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【豪州留学記】啓蟄(けいちつ) -食欲の春-

皆さん、こんにちは!
先日、近所にある公園の梅の花が綺麗に開花していることに気が付いて春の到来を前にテンションが上がっているイブキです!

先日まであんなに紅葉にはしゃいでいたのに、もう開花の季節だとはびっくりです笑。

Carlton Gardenにて

日本に儒教や漢字を伝えたとされる王仁も、仁徳天皇の即位を祝って詠んだ歌の中で、春の訪れに対する喜びをこう表現しています。

難波津に 咲くやこの花 冬ごもり いまは春べと 咲くやこの花
(訳:難波津に梅の花が咲いている。冬ごもりをして、今こそ春が来たと言って梅の花が咲いている。)

王 仁

2,500年以上前の人も今の私と同じ感情を抱いていたとすると、何だか少し感動します笑。

日本では、土にこもり冬眠していた動物たちが目を覚まし、活発に動き出す季節のことを二十四節季(暦)の中で「啓蟄(けいちつ)」と呼ぶそうです。

今のメルボルンというのは、まさにこの啓蟄に相応しい季節なのではないでしょうか。

諸説あるそうですが、春というのは「草木の芽のハル(張る)候」という意味から来ているそうで、「春」の漢字の上半分は土の中から草が飛び出す様子を、下半分は大地を暖かく照らしてくれる太陽を表しているみたい *1。

植物だけでなく虫やそれを食べる動物たちも蠢き(うごめき)だす啓蟄。

だからこそ(という訳でもなく一年中そうかもしれませんが)、最近はご飯を食べることが楽しみで仕方がないです。今回の記事ではそんな「大学生×食事」をテーマにお話します。

オーストラリアの大学生の食事事情

実は豪州の大学には日本の大学でいうところの「学生食堂」というものが存在しません。私はメルボルンに来る前、半年だけ日本の大学に通っていたので学食がないことはかなり衝撃でした。

先日、人文地理学の授業でフードセキュリティ(食料安全保障)に関するトピックをテーマに、メルボルン大学構内の建物と周辺の学生寮を見て回ったのですが、その時にも食堂がないことが話題に上がりました。同級生によれば日本に限らず米国やインド、中国にだって学食はあるそう。

確かに、高校の同期でアメリカに留学している友達にもこの間、「私の大学のカレッジフードは州で一番だ」とか言って自慢されました。

それはさておき、そうなると「じゃあ何でメルボルン大学(ないしオーストラリアの大学)には食堂はないの?」「ご飯は皆どうしているの?」と疑問が上がりそうです。

学食がない理由は正直なところ、分かりません。同級生のお父さんは80年代にはメルボルン大学にも学生食堂があったと話していたらしいですが、真相は不明です。

なので基本的にご飯は自炊かレストランやカフェでの外食で済ませることが基本。キャンパス内にもいくつかお店はありますし、キャンパス周辺にもお店は点在しています(2024年4月記事参照)。

メルボルン大学にある食事関連のお店 **1
(カフェや購買も揃ってはいるが、総じて手が届かない値段であることが多い) 

ですが、これらは一食平均20ドル(約2,000円)と少し高いので、あまり毎日食べれるような代物ではないなと感じています。なので、結局多くの学生にとって、ご飯の選択肢というのはKFCやSubwayなど安くて栄養価の少ないものを食べるか、時間もないけど自炊するか、基本的にこの2択の場合が多いと思います。

他にも要因あるかもしれませんが結果として、こうした物価高と食事へのアクセスの悪さが原因となり、オーストラリアの大学の国際生約40%が「食事をとらない」という選択肢を取っているということが分かっています *2。

日本の生協の歴史

対して、日本の大学はどうでしょう。私の通っていた京都の同志社大学の食堂ではワンコインで栄養価抜群、美味しい定食を食べることが出来ました。

上で「栄養価抜群」とか言っておきながら揚げ物の写真が多いのはご勘弁 **2

しかもこれ、唐揚げとオムライス以外、週替わりでメニューが変更されるんですよ。びっくりです。

同志社はじめ大変の日本の大学は「生協」電子マネー、もしくはミール回数券専用のお店なので、学生証に現金をチャージすることが必要。

この「生協」というのは大学生活協同組合(大学生協)の略称で、高等教育機関の構成員である学生・教職員のメンバーシップによって運営されている組織です。
同志社大学ではこの生協がキャンパス内の食堂の他にも購買・書籍販売、住まいの斡旋、共済事業などを行っていました。

近代的な協同組合の歴史は19世紀のイギリスにあるらしく、産業革命の影響で低賃金・長時間労働を強いられ生活に困窮する労働者が、適正な価格で安心・安全な食料を手に入れられるようにとの経緯で作られました *3。

ちなみに、明治期にこうした協同組合の考えに感化されて日本で最初に出来た大学生協が同志社英学校、現在の同志社大学です。

先述の授業でインド人の先生も話していましたが、こうした学生食堂というのは人と人とのコミュニケーションをとる大事な「溜まり場」でしたし、市場経済では解決できない大学生コミュニティにおけるフードセキュリティの問題に題する一つの貴重な解決策であったと思います。

メルボルン大学の取り組み

このような問題に対して私の知る限り、メルボルン大学は大きく分けて3つの解決策を持っていると思います。

1つ目は「食料の無料配布」。過去の記事でも紹介しているので詳しい説明は省きますが(2024年4月記事参照)、要約するとメルボルン大学には「Food Relief Program」というものが存在し、無料で冷凍食品や野菜・果物などを提供してくれます。
システムに登録するだけでプログラムには応募出来て、1学期に2-3回は食料を受け取るチャンスがあります。

ただ、食料を無料で配布することには問題点もいくつかあります。1つ目はこれは一時的な解決策でしかなく、フードセキュリティを持続的ないしは根本的な形から解決するには至らないということ。もう1つは、もし仮に生徒に調理スキルや調理をする時間が十分にない場合には、こうした食料の無料配布がどこまでインパクトのある方法なのか疑問が残るということです。

2つ目はクラブ活動を通じた「フリーフードの提供」。メルボルン大学には200を超えるクラブが存在するので、オリエンテーションや会員勧誘イベントの度に無料でピザやBBQソーセージを配ったりしています。
私も今学期から、HENS(Healthy Eating and Nutrition Society)という大学のクラブ組織で幹事を務めているので、学生に調理したご飯を無料で提供する活動を3週間に一度のペースで行っています。大学から補助金が入るので、それを資金に活動している感じです。

先々週行ったベトナムフードのイベント。
麺の上にカリカリ豚バラ肉と野菜、甘酸っぱいたれ(ニョクチャム)をかけて食べました!

ですが下のビデオが示している通り *4、フリーフードを提供できる人数には限りがあり、長い列に並んだとしてもご飯が入手できると保障されている訳ではありません。また、もらえたとしても精々、ピザ一切れか紙プレート一枚分なので、量と質ともにあまり十分とは言えなさそうです。

3つ目は「学生食堂の再開」。冒頭部分でも少し触れた通り、オーストラリアの大学にも昔は学生食堂というものが存在していた可能性が高いです。そして今、メルボルン大学ではこのダイニングキッチンが再開する可能性があるみたいです(教授から口伝で聞いたので信憑性は高くありませんが…)。

メルボルン大学にはUnion Houseと言って今はもう使われていない建物が存在します。フードセキュリティを研究する教授チームらがこれを買い取り、食堂として開放する可能性があるそう(何度も強調する通り、本当かどうか分かりません)。ダイニングキッチンがもし開設されれば、それは学生の雇用にも繋がるし、かなり多くの人にとってメリットがありそう。。!

今は閉鎖となっているUnion House
劇場やバーなどがあって、使われていたらしい

物価高によって終わらない冬を過ごしているように感じる多くの学生にとってこうした草の根的な取り組みは、安心して安価な食事を手にすることが出来る「啓蟄」の日が近いことを感じさせてくれる、そんな暖かみのあるプログラムなのではないかと思います。

もし「大学生×食事」に関して意見がある方がいらっしゃれば、コメント欄で教えてください。


今回の記事は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ではまた!

参考文献

*1 無印良品 | くらしの良品研究所 (2012). 春の胎動 ─啓蟄─. https://www.muji.net/lab/living/120229.html

*2 Walsh & Cordoba (2023). Food insecurity hits international students as the cost of living bites hard. Monash University LENS. https://lens.monash.edu/@education/2023/06/09/1385862/as-the-cost-of-living-bites-international-students-experience-food-insecurity

*3 立命館大学経済学部(2021). なぜ大学の食堂や購買は大学生協が運営しているのでしょうか?. https://www.ritsumei.ac.jp/ec/why/why11.html/

*4 Student Food Insecurity (2023). Understanding student food insecurity. https://www.studentfoodinsecurity.com/

**1 The University of Melbourne (n.d.). Food and retail on campus.  https://www.unimelb.edu.au/campustour/campus-information/food-and-retail-on-campus

**2 同志社生協 Doshisha CO-OP (2021). 明徳館食堂リニューアルオープン! https://www.doshisha-coop.com/2021/06/post-274.html

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