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ガラス瓶のこころ。

ガラス瓶の中に想いを詰め込んだ。


2年くらい前、友達と出かけた旅行先の、小さなアンティーク店にあった、ちょっと不思議なガラス瓶。

「この瓶は“想い”や”思い出”を風化させずに保存することができます」

お店のお兄さんが微笑みながら教えてくれた。どういう意味かわからなかったけど興味が湧いた私は、オルゴールと一緒に買ってみた。

「瓶はおまけにしますね」とお兄さんは意味ありげな顔で笑って言った。


家に帰って、瓶を机に置いた。どうしたらいいのか分からなかったけど、一人暮らしのひとりごとで、旅行の思い出を口に出してみた。

見ると、瓶の中には小さな金平糖のような、キラキラしたかけらが入っていた。

…なるほど。


元々口下手で、思っていることをなかなか口にすることができない私は、いつしか”想い”をガラス瓶に詰め込んでいくのが日課になっていった。


そして君と出会って、瓶の中の輝くかけらはどんどん色を増していった。


中々素直に言えない「感謝のおもい」は薄い黄色。

あの時傷つけてしまったことへの謝罪は深い青。

上手く伝えられなかったあの気持ちは淡い桃色。

君と過ごした時間は鮮やかなオレンジや優しい緑。


『いつか素直に言えるように』『いつか君にちゃんと伝えよう』



でも、そのいつかはやってこなかった。


ある日君は、私の前からいなくなった。

小さな書き置きと、鍵を残して。

呆然とした頭で、部屋で立ち尽くした。


ふと吹いた風がカーテンを揺らす。

窓際に置きっぱなしだったガラス瓶が、カーテンに押され、床ではぜた。


「『いつか』じゃなくて、今、感じてる想いを伝えて欲しかった。」

ただ一言、残された君の文字が胸に刺さった。


ああ、もう君には届かない。


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月夜海一颯 Eveki Tsukuyomi
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