「ゲームチェンジャーとして価値発揮できる自分であり続けたい」ビービット 執行役員 東野 誠 氏が地続きに広げるキャリア
テクノロジーとUXコンサルティングを通じて、顧客体験の向上を支援する株式会社ビービット(以下、ビービット)。同社の執行役員であり、事業戦略室・室長兼ソフトウェア事業本部・本部長として活躍する東野 誠(Makoto Higashino)氏のキャリア形成の軸に迫ります。
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“ニューエリートをスタートアップへ誘うメディア” EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。for Startups, Inc. の橘 明徳(Akinori Tachibana)と申します。私たちが所属するfor Startups, Inc.では累計650名以上のCXO・経営幹部層のご支援を始めとして、多種多様なエリートをスタートアップへご支援した実績がございます。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
企業のUXをテクノロジーとコンサルティングで支援するビービットの事業内容
-- まずはビービットの事業内容について教えてください。
ビービットは、「UX(顧客体験)を向上させるためのデジタルトランスフォーメーション」の実現に向けて、企業のDXにまつわる様々な課題を解決する事業を展開しています。
具体的には、企業のUX最適化に向けた戦略立案や、バリュージャーニー(消費者の細かな状況を把握し、カスタマージャーニーにおいてどこで価値の提供を手厚くし、どこにキャッシュポイント(顧客から対価を得る機会を置くかを描くもの)の設計、デザインの企画・改善などを、テクノロジーも駆使したコンンサルティングで支援しています。
-- その中で、東野さんが担っている役割を教えてください。
事業戦略部の責任者として、ビービット全体の成長に寄与する戦略の策定から実行までを担っています。
弊社は2022年に、EC向けのCDP・BI・MA/AI一体型グロースマーケティングツール「OmniSegment」を開発する台湾の企業を買収し、子会社「beBit TECH 」を台湾に設立しました。
そこでソフトウェア事業本部の責任者も兼任し、プロダクトの国内シェア拡大を目指し、様々な施策を実施しています。
ファミコンやWindows95に感じた「ゲームチェンジャー」
-- ここからは、東野さんの過去に遡ってお話を伺います。どんな学生時代を過ごしましたか?
小中高はサッカーに打ち込んでいました。高校生までは香川県に住んでいたのですが、当時はさほどインターネットの普及が進んでおらず、今のように気軽に情報を手にいれるのが難しい環境でした。大学進学を機に、新しい情報に触れるためには東京が良いだろうと考え上京しました。
-- 香川から東京への上京で感じた変化はありましたか?
まず人口が違いますし、ビルの大きさも圧倒的で、今まで見てきた風景とは全く違う世界が広がっていました。東京という場所が放つエネルギーに圧倒されました。
また当時印象的だった出来事が「Windows 95」のリリースやブロードバンドの普及です。ITがすさまじい勢いで主流になり世の中を動かしていく兆しを感じ、ITに関心を持つようになりました。
-- そんな中、大学卒業後は株式会社三和銀行(現、株式会社三菱UFJ銀行)に就職されますが、なぜ銀行を選ばれたのでしょうか?
就職活動当時、都市銀行がこぞって合併、再編してメガバンクを創る動きに世の中が大きく変わりそうな勢いを感じたからです。三和銀行もちょうど東海銀行との合併をすすめていて、メガバンクが生まれようとしている最中でした。
大きなビジネスに関われるチャンスがあるかもしれないという期待をふくらませて、入社しました。
-- 実際に入社されてみて、いかがでしたか?
せっかく入社させていただいたのですが、入社後1年ほどで退職する形になりました。入社したあとに、本当は「Windows」や「インターネット」のような時代の流れに変革をもたらす「ゲームチェンジャー」に関わる仕事がしたかったのだと気づいたためです。
-- ゲームチェンジャーが好きといった志向は、どんな原体験から生まれたのでしょうか?
幼少期の時代背景が大きいと思います。
当時は家庭用ゲーム機「ファミコン」が流行し、レンタルビデオが始まり、新しい音楽やアートなど出てきたものが次々と文化になっていった時代でした。子供ながらにワクワクしたことを今でも鮮明に覚えていて、その時の体験が私の時代に変化をもたらすものが好きな価値観に大きく影響していると感じます。
キャリアを広げていく際に意識することは、自分が知らない新しい世界にアンテナを張り、価値を発揮できるフィールドを探すこと
-- その後、転職活動ではどのような選択を取ったのでしょうか?
知り合いの紹介でご縁があり、ストリーミング技術を扱うITベンチャーへ入社しました。銀行とは全く異なる柔軟なカルチャーに触れられたことが新鮮でした。
-- 金融からITと全く異なる領域の企業に転職された中で、特に印象に残っていることを教えてください。
IT業界の競争の激しさに圧倒されました。テクノロジーの分野には、デファクト・スタンダード(企業間の競争を経て、業界の標準として認められるようになった基準)があります。今の時代で言えば、OSのデファクトは「Mac」と「Windows」です。
各企業がデファクト・スタンダードを争う中で、優れたテクノロジーを扱う会社がポジションを取ったら、それ以外は淘汰されてしまいます。2社目の会社では、まさに淘汰される側を体験しました。とても残念でしたが、1つのテクノロジーがつくる弱肉強食なエコシステムの仕組みを体感できたのは、良い経験だったと思っています。
-- その後、デジタルマーケティング領域の株式会社シャノン(以下、シャノン)に移られます。このときも含めですが、東野さんがキャリアを広げていく際に意識していることはありますか?
2つ意識しています。1つは「自分が知らない新しい世界にアンテナを張る」ことです。
幼少期や東京に出てきたときの原体験からか、私は今まで見たことがない新しい世界に手を伸ばしてみたくなる性分。だから常に「次に文化になっていくのはどこなのだろう」とアンテナを張るようにしています。
もう1つは、「自分が価値を発揮できるフィールドを探す」ということです。高校までサッカーに打ち込んでいましたが、同世代に自分より圧倒的に才能のある人たちがいて自分の努力どうこうで勝負できないことを感じました。才能の勝負ではなく、自分が価値を発揮できるフィールドがどこなのかを考え、探すことを大事にしていますね。
シャノンでやりきり、築いた「土台」
-- シャノンには、15年ほど在籍されていますよね。これまでで一番長いキャリアですが、当時を振り返っていかがでしたか?
シャノンは、デジタルマーケティングに関して多くのソリューションを展開していて、事業責任者として本当に色々な経験を積むことができました。
苦労がつきものでしたが、ゼロイチで新規事業を立ち上げたり、従業員を数人から100人規模まで拡大するフェーズを経験しました。シャノンを上場企業に成長させる過程をやりきったことで自分自身の土台を築くことができたと考えています。
-- 大変な日々を送る中で、何が東野さんの原動力になっていましたか?
世のためになるということ。昔読んだ坂口安吾さんの短編集の中で出てきた「芸術は人のためにあらねばならない」という言葉に共感しているのですが、ものづくりを芸術と捉えたとき、世のためにならなかったらそれは仕事ではなくて趣味です。
あとはあきらめない姿勢。ベンチャーは規模も小さく大手企業と比べて先行き不透明。そんな中で趣味でなく仕事として世の中にインパクトを残すには、何かしらの目標を立てて成功するまであきらめない姿勢が必要です。
シャノンではその目標を「上場」に定めていました。結果的に上場まで15年かかってしまいましたが、納得するまでやりきれた充実感は強く残っています。
アジャイルであることが、不確実性が高いものを形にするためには必要不可欠
-- その後ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)に転職されますが、きっかけを教えてください。
シャノンを上場まで成長させることができ、一区切りついたタイミングで、BCGがデジタル領域に特化した新組織「Digital BCG JAPAN」を立ち上げると聞きました。
一見デジタルと真逆の存在であるようなコンサルティングファームが、デジタルに精通した人材を集めていることが興味深く入社を決めました。
-- BCGで得た気づきを、ご自身の経験を踏まえて教えていただきたいです。
デジタルサービスをつくるには、一度立てた戦略にこだわらず、アジャイルに物事を進めていく必要性を強く感じました。
入社後は小売や金融などさまざまな業界に対してデジタルサービスを組み合わせた価値提供に取り組みました。
しかしながら、自動車などメカニカルなものづくりと違いデジタルサービスは例えばそれまで消費者へのアプローチのスタンダードがメールだったところがLINEなどのSNSに変わるなど、つくっている最中に市場のニーズが変わることがほとんど。
予定より開発が遅れることもありますし、当初の戦略を実行に移そうとしても、なかなかシナリオ通りにはいきません。
そういった不確実性の高いものを形にするには、常に変化に対応し、イレギュラーを解決しながら、アジャイルに実行していく必要性を学びました。
この姿勢はまさに今ビービットで事業を推進する上でも役立っていますし、変化の激しい現代においてはあらゆるビジネスで重要だと感じていますね。
デジタルマーケティングと戦略コンサルタントを経た次のアンテナはUX
-- その後BCGを離れ、フリーランスとして活動されます。
およそ2年半BCGで働く中で、戦略コンサルタントという枠組みでは本職のレベルには及ばないことを感じました。だとするならば、よりアンテナを広げて知らない世界に手を広げることで自身の提供価値を大きくしていきたいと思いました。
またコンサルファームに身を置いていると戦略の面では伴走できる一方で、ものづくりに最後までタッチできません。そこにも心残りを感じ、複数の取引先と仕事をすることができるフリーランスの道を選びました。
-- フリーランスを経て、なぜ再び事業会社への転職を検討したのでしょうか?また、なぜ当時ビービットを選択されたのでしょうか。
私の中ではフリーランスか事業会社かという点は重要ではなく、自分が担えることをさらに広げていきたいという想いが強かったです。
転職活動時、フォースタートアップスのヒューマンキャピタリストへは自分の可能性を広げられる機会を探しているとお伝えしており、その中でご紹介いただいた企業の1社がビービットでした。
BCGでの経験から、企業が事業を成長させるためには「テクノロジー・戦略・UXデザイン」の3つの要素が必要だと考えていました。どんなにテクノロジーや戦略がよくても、使いにくい体験設計のサービスでは勝てません。
これまでのキャリアで経験できていなかった最後の要素、UXやデザイン領域での知見を深めるためには業歴が20年以上と長く、UXの領域で強いブランド力があるビービットは最適なフィールド。
面談を通して、グローバルな事業展開構想など、副社長・中島の事業に懸ける熱意も伝わりました。この環境なら新たな施策にチャレンジできて、やりがいも大きいだろうと入社を決めました。
-- 入社して感じる、ビービットの印象を教えてもらえますか?
社員全員が、いかにユーザーにとって魅力的な体験を提供するかに、強烈なこだわりを持っていると感じます。
例えばUXの設計を検討する際に、ロジカルさは押さえつつ、ユーザー目線も置き去りにしない。両方の目線で物事を俯瞰できるスペシャリストたちと、肩を並べながら仕事ができるのは本当に刺激的です。
-- UXへのこだわりを持つ集まりであるビービットで全体戦略の策定や実行を担われている今、東野さんが思い描いている今後のビジョンを教えてください。
ビービットが提供するUXコンサルティングで各企業のサービスの体験設計を引き上げ、グローバル事業を成長させていくことです。
ビービットには、長年積み上げてきたUXのノウハウがあり、コンサルとエンジニアリング両輪でお客様の要望を設計に移せる体制が整っています。
「OmniSegment」のようにプロダクトを絡めつつ、ビービットにしか出せない価値を提供していきたいですね。
キャリアは地続き。自分の中の「のりしろ」を広げることが大事
-- 「不確実性の高い環境下で、新しい世界にアンテナを張りながらマルチキャリアを築いていく」姿勢を一貫して東野さんに感じました。キャリアの築き方を模索しているニューエリートに対してぜひメッセージをいただけますか?
若手のうちは、すぐにフィールドを変えすぎず、自分の軸となりうる経験を取りに行くのがベストだと思います。10年くらい時間をかけても良いです。経験が濃ければ濃いほど、それが次のキャリアにおのずと繋がっていくはずです。
またビジネスパーソンとして勝負していくために、自身に合っている職種や企業規模を見定めていくことも大事だと思っています。
私は、土台となるキャリアをシャノンで築くことができました。その土台があったからこそ、BCG、そしてビービットとキャリアの幅を広げることができたと思っています。
-- まずは時間をかけて土台を築き、その上に新たな経験を積み重ねていくことが大切なんですね。
そうですね。例えば私の場合ですと、シャノンからいきなりビービットに転職しても、バリューを発揮しきれなかったと思います。
BCGでストラテジックデザイナーやUXデザイナーと仕事をした経験があったからこそ、ビービットの組織や事業構造を一段と深く理解できていると感じます。
-- ちなみに、土台を築いた後に新たなチャレンジに踏み切るには、何が必要だと思いますか?
自分の中にある「のりしろ」の方向性と領域を広げていくことが必要だと考えます。キャリアは地続きです。いきなり大ジャンプするようなチャレンジは難しい。
土台となるキャリアを築きつつ、自分が次に新しい領域に染み出していくためののりしろを広げていく経験を大事にしてください。その積み重ねがきっと、新たなチャレンジに踏み切る時の支えになってくれると思っています。
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