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「自分が究極的にやりたいと思ったことはやったほうがいい」ノバセル 執行役員 小林 幸平 氏が目指すマーケティングのあり方とは
これまでブラックボックスだったマス広告のビジネス効果を可視化し、マーケティングの民主化を目指すノバセル株式会社(以下、ノバセル)。外資系グローバル企業を経て、執行役員として同社の事業部を牽引する小林 幸平(Kohei Kobayashi)氏のキャリア形成に迫ります。
“ニューエリートをスタートアップへ誘うメディア” EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。for Startups, Inc. の野田 翔太(Shota Noda)と申します。私たちが所属するfor Startups, Inc.では累計650名以上のCXO・経営幹部層のご支援を始めとして、多種多様なエリートをスタートアップへご支援した実績がございます。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
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小林 幸平(Kohei Kobayashi)
京都大学大学院医学研究科卒業後、 日本ロレアル株式会社(以下、ロレアル)に入社。新規ヘアケア製品ノーシャンプーのプロダクトマネージャーとして新製品の開発および販売戦略立案を担当し、同製品は楽天市場総合ランキング1位を獲得。その後デジタル・イーコマースにおけるマーケティング責任者として事業拡大戦略の立案と推進に取り組んだのち、2019年8月よりメイベリンニューヨークのアジアヘッドクォーターにてリージョナルマーケティングマネージャーとしてビジネス統轄を担う。その後、2021年2月よりラクスル株式会社(以下、ラクスル)のノバセル事業部(現・ノバセル株式会社)に入社。現在は執行役員として同社事業を牽引。
マーケティングの仕組みをテレビCM領域から変えていくノバセルと小林氏の役割
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-- はじめにノバセルの事業内容と小林さんの役割を教えてください。
ノバセルはブラックボックスになっていたマス広告のビジネス効果を可視化することで、マーケティングの仕組みを変えていくことを目指しています。
事業としては主に2つ。1つはクライアントのクリエイティブ制作やテレビCMの放映事業を担う広告代理店事業。もう1つはテレビCMの広告効果を可視化する分析ツールを提供するSaaS事業です。
その中で私は執行役員として、売上の多くを占める代理店事業及び次の事業の柱となる新規事業開発をリードしています。
研究とマーケティングは同じ。医学研究から志したマーケティングの道
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-- 学生時代から最初のキャリアを選ばれるまでのことをお聞きします。どのような学生時代でしたか?
医学部に進学し、大学院では医学研究科でアルツハイマーなど脳疾患系の研究に熱中していました。
-- なぜ医学部への進学を選ばれたのでしょうか。
強い動機があったわけではないのですが、進学先を考える高校3年生の当時、唯一興味を持てたのが医療だったからです。
ただし、高校3年生までテニス部の部長としてずっと部活動に熱中しており、成績も下から数えた方が早いほどでした。ただ部活の後輩たちに「絶対に合格するから」と宣言していたこともあり、やるしかないと思い、死ぬ気で勉強した結果、なんとか合格することができました。
-- 医学研究からマーケティングのキャリアはかなり珍しいように思います。なぜマーケティングの道を選ばれたのでしょうか。
大学院で研究していたときの経験が大きく影響しています。多くの論文を読み込んで情報をインプットし、そこから確からしい仮説を創る。それをもとに実験を重ね、仮説を実証していき、新しい理論を導くという研究のPDCAサイクルに面白さを感じ、よりリアリティのある現実の世の中でこの感動を味わいたい。研究もマーケティングも、1回ではなかなかうまくいかないけれど、思考錯誤を重ねてアクションすれば、必ず一点突破できる光が見える。それを見出せば、その光を全力で掘り起こしに行く。分野は違えど、成果を出すためのアプローチはとても似ています。
そう考え、マーケティングのキャリアを志望するようになりました。
自分にない「右脳的な発想」に惹かれ選んだファーストキャリア
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-- マーケティングを志した小林さんの当時の転職軸を教えて下さい。
まず、新卒1年目からマーケティング職で採用する会社が日本ではなかなかないため、自ずと選択肢は新卒でもマーケティング職で採用してくれる外資系企業になりました。
-- その中でなぜロレアルを選ばれたのでしょうか?
ビジネスにおいて、右脳と左脳のバランスを大事にする文化に強く惹かれたからです。
大学の研究室で難しい議論をたくさんしてきて、自分にとっていま足りないのは左脳では無くて、右脳だと認識していました。女性が好きなリップの色って論理的には説明できないですよね。左脳を鍛えたところで右脳的な発想がなければ勝負できない世界がビジネスにはあると考えていました。
複数の会社説明会に行ったのですが、ロレアルだけ全然違うんですよね。参加するとワークショップのようなことをやるのですが、ほとんどの企業では「現在発売されている洗剤の価格と評価があって、その中でどのように自社商品をポジショニングしますか」と答えを求められます。しかし、ロレアルだけは化粧品がたくさん並んでいて「好きな化粧品を選んであなた自身を表現してください」というスタイルでクリエイティビティが求められる。答えが出ない、答えが一つではないものを求める考え方が面白いと感じ、入社を決めました。
プロモーションだけではないロレアルのマーケティング
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-- ロレアルに入ってからはどのような業務を担当されたのでしょうか。
“ノーシャンプー”という、泡が立たないシャンプーをその立ち上げから担当しました。
企業によっては、マーケティングはプロモーションのみを意味していると捉えられることがまだまだ多いのですが、ロレアルは「マーケティング≒経営」という考え方で、プロモーションに加えサプライチェーン、ファイナンス、セールスなど製品に関係するすべてを見ながらグロースさせていくのが製品担当としての仕事でした。
ノーシャンプーは日本にマーケットインしてくる初めての製品でした。誰かから引き継いだわけではなくてゼロイチ段階だったこともあり、市場においてまだ発売されたことのない初めての製品だったので、当初会社からの期待値は高くなかったのですが、私自身は「絶対に多くのお客様に届けたい!」という想いが強く、どのようにすれば一つでも多く売れるのかを日々考えていました。
-- どのようなマーケティング戦略をとったのでしょうか?
製品としてはとてもニッチで、まずはアーリーアダプターを獲得してキャズムを超えることが重要だと考えました。
「泡のたたないシャンプー」という商品をマスで売ったとしても、そんなニーズはないので、お客様の心には響かない。なので、「シャンプーとコンディショナーとトリートメントが1本で済んで、時短」という便益を前面に打ち出し、多くのお客様のニーズを捉えました。
次に、販売戦略としてはアーリーアダプターが多いバラエティストアや、ECに絞り、まずはその実績を作ることを選びました。会社的には「新製品は全国で広く販売するのが基本」という雰囲気もあったのですが、そこは交渉し、限定的な広げ方をしていくことに決めました。実際に楽天市場でランキング1位になることもでき、大きな成功を収めました。
マーケティング投資の観点では、従来よく使われていたテレビCMではなく、当時はまだあまり戦略としてはあまりなかった、webマーケティングに100%投資し、webやSNSにおける話題を最大化しました。
-- エピソードだけ伺うと戦略が功を奏してスムーズに進んだ印象も強いのですが、実際はいかがだったのでしょうか?
私も入社する前は「戦略ベースでスマートに仕事が進むのかな」と考えていたのですが、実際のマーケティングの仕事は真逆で、非常に泥臭い動きが求められました。
例えば営業担当は200〜300製品をセールスしているので、自分が担当している1製品のマインドシェアは0.5%くらいしかありません。そうなったときに「小林が売りたいと言ってるから」とか「小林が頑張ってるから」と思ってもらうことも、実は売ってもらう上でとても大事。
マーケティング予算についても担当が「一年間は赤字だと思いますが、その後こう伸びるので任せてくれ」ということをどう経営層に伝えられるかで大きく変わりますし、どの仕事でも同じで「この人いいな」って思われないと、どれだけかっこいいプランを作っても、どれだけ技術や知識を持っていても、パッションがなければうまくいかないことを当時学びました。
アジアヘッドクォーターへの挑戦と感じた壁
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-- ノーシャンプーのマーケティングを担当されたあと、ロレアルのアジアヘッドクォーターに異動されますが、そのときの背景を教えて下さい。
先ほど外資系メーカーを選択した理由として「マーケティング職の採用があるから」とお話しましたが、もう半分は海外に行きたかったこともあります。自分がどこまでやれるか試してみたいという、ただそれだけだったのですが、1年目の時から海外赴任希望に手を挙げつづけていた結果、4年目にアジアヘッドクォーターのポジションが空いて、声をかけてもらえたというかたちです。
アジアヘッドクォーターポジションに異動した日本人は歴史上あまりおらず、更に入社4年目でチャンスをいただけたのはアジアにおいても最速の昇格でした。ノーシャンプーの成功事例が他の国にも広まっていたため「日本にも面白いマーケティングをしている人がいるんだ」という認知はあったのだと思います。私は当時、最低限しか英語が話せなかったのですが、それでも「パッションがあるなら行かせてみるか」とチャンスをくれたロレアルには本当に感謝しています。
-- 実際に海外に行ってみて、いかがでしたか?
「世界にはすごい人がたくさんいる」ということを知りました。
例を挙げると俯瞰力。アジアヘッドクォーターは13ヶ国を見る仕事なので、1つ1つのアイテムの国ごとの価格や販売形態も異なります。例えば南アジアだと、シャンプーはボトルではなく小袋が連なっている状態で路面店で売っていて、日本とは生活習慣が違うので、売れる形態が違ったりします。また、同じ商品でも日本と中国では1,000円でも東南アジアでは800円になっていて、国々おけるプライスポイントや流通、お客様の動向を細かく俯瞰で全体を理解できていないといけません。
周りのメンバーは全体を把握したうえで「こうすべき」という議論ができていて、かなりレベルの違いを感じました。
-- 小林さんがついていくのもかなり大変だったのではないでしょうか。
正直かなり大変でした。議論についていけないというビジネスレベルもですが、そもそも英語のコミュニケーションが前提になる中で、英語もキャッチアップしなければならず、肉体的にも精神的にもきつく、入って半年は逃げられるのであれば逃げたいと考えていました。
-- そのような中でもなぜ踏ん張れたのでしょうか?
「海外に行って結果を出す」と決めてチャレンジをしていたからです。
苦手なことはもちろんありながらも、昔から「粘れば何とかなる」ということを思っています。「やりたい」と思っているならできるんじゃないかと。振り返ると医学部に合格した大学入試もそうですが、困難なことがあってもなんとかしてきた、という結果が自分を下支えしてくれているように思います。ここで全力で頑張って無理だったら、所詮自分はその程度だったんだ、と諦められるので、死ぬ気で頑張ってみようと歯を食いしばってやり遂げました。
中国で実感したスタートアップの勢いと魅力
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-- ロレアルからスタートアップへの転職を検討されるようになったきっかけについて教えて下さい。
きっかけは中国にいたときに、スタートアップ企業の勢いを目の当たりにした2つの出来事です。
1つは、当時ビジネスマーケットとしていた化粧品市場における、中国スタートアップの圧倒的な勢い。私が着任した2019年は、ロレアルのメイベリンニューヨークというブランドは、中国で1位のメイクアップブランドでした。しかし、その翌年には5位になってしまった。ベンチャーキャピタルから資金調達し、レベルの高いブランディングと、国内生産の圧倒的な生産力、低価格を武器に、1~2年でマーケットを席巻する経営力は目を見張るものがありました。
大きな会社は資金力があるから、さらに上をいけるかと思いきや、しがらみが色々あって戦略的な動きができないことも多い。新しい価値観をつくって急速に形にしていくスタートアップって本当にすごいなと感じました。
-- もう1つはなんでしょうか?
もう1つは中国ではスタートアップが国の仕組みを変えているという事実です。シェアリングサイクルも発達しているし、路地裏の小さな小さな食物店でもあたりまえのようにQRコード決済が使える。仕組みを変えられるスタートアップって魅力的だなと思い、次に日本に戻るときはスタートアップへ挑戦したいと考えるようになりました。
ノバセルに感じたのはマーケティングに対する思想の一致
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-- 実際にロレアルから転職を検討されるにあたり、どのような軸で次の挑戦先を検討されていたかお伺いしたいです。
社会の仕組みを変えられるプラットフォーマーになる可能性があること、経営に近い立場で事業に関わることができること。この2点を軸にして企業を検討していました。
-- そのときにコンタクトさせていただいたのが仁木(仁木紫援、フォースタートアップス シニアヒューマンキャピタリスト)だったと思います。当時の仁木とのやり取りについて印象的だったことについてお伺いしたいです。
仁木さんがすごいなと感じたのは、ビジネスに対する解像度の高さです。
初めてお話したときに、マーケティングについて会話することがあったのですが、そのときに「マーケティングも捉え方によりますよね。どのマーケティングのことを指していますか?」とすぐに聞かれました。マーケティングの捉え方は私自身大事にしている論点で「この人とは抽象度の高い議論ができる」と感じたことを覚えています。
初めての転職活動だったこともあり、最初は転職軸についても言語化できていませんでした。仁木さんは、会話の中で例えば中国の話をしながら「シェアリングサイクルのようなビジネスをしてみたい」と伝えると「こういうことじゃないですか?」と精度高く仮説を持って返してくれました。そのため、最初は漠然としていた転職軸を言語化していくことができました。
-- 仁木がご紹介した企業の1社がノバセル(当時はラクスルのノバセル事業部)でした。多くの企業と話をした中でノバセルについて魅力的に感じたポイントを教えてください。
ノバセルはマーケティング領域であることや仕組みを変えていくプラットフォーマーになり得る企業として、元々仁木さんに紹介はいただいていたものの、実は当初はそこまで志望度は高くありませんでした。
しかし、最初に現CEOの田部と話したときに「マーケティングキャリアの先に経営がある」という話を聞いたとき「いちマーケターでなく経営者を目指していきたい」という自分の想いと合致した感覚があり、そこから大きく気持ちが動きました。
またお互いに「売れる仕組みをつくることがマーケティング」という共通思想を持っていて、同じ思想をもって働けそうだということもすごくプラスでした。私はマーケティングにはその人のやり方や考え方があり、哲学的な側面があると考えているのですが、どうせやるなら同じ価値観をもっている人たちと一緒にやりたいと思い、参画を決めました。
ノバセルに入社してみてスタートアップとマーケティングに対して感じたこと
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-- ノバセルというスタートアップに入社してみて感じることについて教えて下さい。
自分のチームをこういうのも何なのですが(笑)、めちゃくちゃレベルが高いプロフェッショナルの集まりだと思いました。
大企業にもスタートアップにも優秀な人はいますが、スタートアップのように、自分一人の動きが業績に響くと思って仕事をしている人はやりきり力が違う。そういう意味でノバセルにいる人はコミットメントが強く、すごいなと感じました。
-- 小林さんの様な方でもそう感じるのですね。
アカデミアで研究をするのとは違い、ビジネスでは一定のレベルを超えると頭の良さや考えることだけでは差がつかなくなってくると思います。頭の良い人って世の中にたくさんいて、経験を積めば一定程度は必然的にレベルアップするので、最後にどこで差がつくのかというと「やるか、やらないか」だと思います。「このマーケットは狙い目だな」とか「このマーケットがブルーオーシャンだな」って誰でも言えると思うんです。でもやらないからうまく行かない。でも、スタートアップの人たちはやるんですよね。それが強さだと思います。
-- 小林さんがいまマーケターに対して伝えたいメッセージを教えて下さい。
マーケティングは売れる仕組みをつくることです。自分で売るという選択肢でも良いですし、売れるプロダクトをつくる、売れる人を採用する、売れる組織をつくる。事業、組織、財務、どれをどう引っ張っても良いと思います。
特に大企業でマーケターをやると、事業でどうにかすることが選択肢のメインになってくるのですが、それはあくまで売れる仕組みのレバーの1つ。
ビジネスの中で、自分がレバーを持っているもの、本当に自分が変えられることがいくつあるのか?と聞かれた時に、マーケターはレバーの数を増やして、レバーの目盛りをもっと刻んで増やしていくことが大切だと思います。そうしないと自分の幅が広がらない。製品のコンセプトを考えることが得意だとしても、いつか限界がきます。
売れる仕組みづくりは常に変化してきているので、それまで正しかったやり方が古くなってしまうかもしれない。その中でスタートアップは必然的にレバーの数とメモリを増やさざるを得ない環境であることがキャリアとしての魅力だと思います。
-- 最後に、小林さんのキャリアに対するスタンスを教えて下さい。
私は自分が究極的にやりたいと思ったことはやったほうがいいと考えています。色々な直感をかけあわせていることを、論理的に解き始めるとやらない理由を探すことになってしまいます。やりたいと思った時点で、本能的に正解を選んでいる自分を信じていますし、あとはやると決めたらやるだけですね。
・・・
小林さんをご支援したヒューマンキャピタリスト
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仁木 紫援(Shion Niki)
フォースタートアップス株式会社 シニアヒューマンキャピタリスト
兵庫県立大学を卒業後、人事職として中規模ベンチャー企業に入社。並行して新規事業開発も担当。その後、当時15名程度のシリーズAのSaaS企業に入社。社内唯一の企画専任職(セールスイネーブルメント)として、売上の最大化および成果の再現性向上と、新規事業開発を兼務。スタートアップエコシステムの成長の必要性を感じ、2020年3月にフォースタートアップスへの入社を決意。現在はシニアヒューマンキャピタリストとして、シード期からプレIPO期までのスタートアップへの採用支援を担当。
<インタビュー>
入社9ヶ月でスタートアップへの支援実績No.1の大活躍!信念は、未来を語りながら、ひたむきに今やるべきことをやること
https://www.forstartups.com/news/niki-shion
Linkedin : Shion Niki
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