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地球のどこかで想う事-短編集Ⅻ-シャルガオ島のハッピー野郎と売店のオッチャン
和歌山のみかん農家に視察、滞在して早4日目。
南国フィリピンから四季の彩りと感じる日本へ、新たな留学事業の準備の為に現在帰国中。
慣れない肉体労働の程よい筋肉痛を感じながら、古民家に留学事業の協業メンバーSasaと過ごしている。
今日は雨の為、みかん収穫は午前中で切り上げ。
山を見るとこの頃はもうすでに見慣れた風力発電のプロペラがケモノの様な腹に響く音を立てながら動き、山は風が吹き荒れ、雨は止みそうにない。
晴耕雨読の贅沢な時間を楽しんでいる。
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山からの風と轟音を感じていると、シャルガオ島での台風被災を思い出す。
-2021年12月フィリピン中部地域を襲った台風22号「ライ」(フィリピン名:オデット)-
フィリピンの第二都市であり、彼女の地元でもあり、"僕"の海外生活の第一歩目の都市セブ島も大きな被害を受けた。
その時"僕"はフィリピン北西側に位置するシャルガオ島に移住していた。
シャルガオ島についてはこちら↓
シャルガオ島はフィリピン北西部に位置する離島。
世界大会も行われる東南アジア屈指のサーフィンアイランド。
プロアマ国内外問わず人気のリゾートでもあり、絵に描いたような南の島での生活を楽しんでいた。
そんなParadiseに約50数年ぶりの大きな台風が直撃したのだった。
2021/12/16-その日は台風の予報はあったけどフィリピンは台風は頻繁に来る為、それほど気に留めてはいなかった。
"Wi-Fi止まったら仕事出来ないなー"というぐらいにしか考えてなかったのだ。
やけに騒がしい外のアマガエルの音色とともに眠りにつく。
※フィリピンは都市部以外は電波状況は東南アジアでも悪い方だ。日本に比べ早い段階からスターリンクの需要が活発なことも頷ける。
Cebuの海上スラムにいる友達に"台風やばかったら連絡ちょうだい。避難するから"と連絡を受けていたが、それは叶うことはなかった。
夜中に風の音が聞こえたが、鈍い頭痛を感じて深い眠りに入り込む。
夢の中で風の轟音とネコの鳴き声が遠くに聞こえた。
そして朝目を覚ますと世界は一変していた。
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滞在していたホステルは2階の天井から上はほぼ全て崩壊。
島中の椰子の木は全て同じ寝癖になり、倒木や電柱が倒れて道は封鎖状態。
コンクリート作り以外の建物はどこも全壊に近い被害を受けていた。
"僕"の友人は寝ていたら突然屋根が吹き飛び、部屋の中の荷物も吹き飛んでいった。
"僕"が寝ていた時に聞いたネコの声は2階に滞在していた、女の子の叫び声だった。
あまりの状況に唖然とする。
"これは仕事とかそういうレベルじゃない"と一瞬で感じた。
幸いホステルの別の滞在者も皆一応身体は無事の様だ。
電気は残りのガソリンで動くジェネレータのみ
水は雨水とタンクの残りのみ
ガスは残されたカセットコンロやガスタンクのみ
そして犬と身重の彼女を連れた"僕"
何より電波は全て遮断状態の為、全く情報が入ってこない。
島の状況はもちろん、Cebuや他の地域がどうなっているかもわからない状態だ。
日中に情報収集と食料を求めて、道なき道に還った島を歩いてみる。
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外の様子は歩けば歩くほど悲惨な状態だと"その時"は思った。
全壊したゲストハウスの前でオーストラリア人のオーナーが道端で泣き崩れている。
彼は数ヶ月前に念願の城を持ったばかりだったそうだ。
他にも"外"からの旅行者は皆、この状況に嘆き
混乱している様だった。
荷物を失った人々。
滞在先の宿が崩壊して居場所がなくなった人々。
もちろんそんな1人である"僕"も漠然とそんな状態や風景に圧倒されていた。
大通りに出ると見慣れた顔のローカルサーファーに出会す。
彼らは昨日まで溜まり場だった"小屋"があった場所に寝そべっていた。
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衝撃だったのが彼らのメンタリティだ。
笑いながらいつも通りの場所にたむろしている。
"Hey my Japanese friend. How are you? Ahaha."
と多少含みを持ちながら陽気に声を掛けてきた。
今まで悲壮感と逼迫感が漂う人々の中にいた"僕"には信じられないぐらい陽気、というか普段とさほど変わらない彼らの表情。
むしろこの緊急事態を楽しんでいる様にも見えた。
↑写真右手の彼は"溜まり場"に向かってくる道中に台風で飛ばされた帽子 サングラス サンダルを"装備"して来たそうだ。笑
よく見ると左右のサンダルの色が違う事がわかる。
"こんな天気が良いのに海に飛ばされたゴミでサーフィン出来ねぇなぁ"
"家のないクリスマスは産まれて初めてだ"
"どっかに逃げ出した豚でもいねぇかな。丸焼きにしようぜ"
と台風一過に負けない底抜けに明るい彼らの元を去り、行きつけの売店へ向かう。
サリサリ(売店)に着くと店は無事の様だ。
"お店と家族は大丈夫か?"
とオッチャンに声を掛けると、彼は外に出て来てくれた
"問題ない。オマエの宿や友人は無事か?"
と言葉を交わす。
"昔おれの親父の時代にも大きな台風で壊滅的な被害を受けた方があるそうだ。その時の話を聞いていたから心配はない"
"自然には逆らえないな。特に今は発達と共にそれぞれ失うモノも多い。困ったらいつでもここにこいよ"
売店の近所に倒木をバイクで乗り換える為に板を掛けている集団を見つける。
彼らと岩を動かし、枝を整えて簡易的な橋を作った。
水分補給にそこらじゅうに転がったココナッツを拾い上げて回し飲みをする。
日差しに照らされたココナッツはほぼお湯の温度だったが、とても美味しかった。
倒木をよじ登り、乗り越えた先の大きめのスーパーの様なお店まで辿り着く。
そこでは食料や物質を買い漁っている人集りができていた。
この状況にテンパってるのは外国人やManilaなどの首都圏から来た"余所者"ばかり。ほとんどの物品を外からの供給で賄っている島の為
港 空港が機能しない今、本当の孤島と化した。
"僕"はその人集りを横目にサリサリのオッチャンの元へ戻った。
彼の店へ戻ると
"飯は食ったか?
ちょうど今冷蔵庫が使えないから残った食材で料理している。食っていけよ"
と誘いを受ける。
ホステルで彼女が待っている事を告げると、袋に入れてくれた。
頑なにお金を受け取ろうとしないオッチャン。
なんとか多少のお金を渡したが、"そこ"には従来のお金の価値なんて存在しなかった。
様々な感情を抱きながらホステルへ戻る。
そして本当に空が憎らしいぐらいに晴れ渡っていた。
約2週間の避難生活を経た後、ホステルの住民の元から脱出ルートの情報をもらう。
復活活動への参加やローカルとの絆を感じていた"僕"は少し悩んだが、この島を後にする事を決める。
理由としては大きく3つ
①妊娠中の彼女の体調面
この時6ヶ月。お腹も大きくなっていてキャンプ生活の様なこの環境はかなり過酷だったと思う。
②世話になった人に迷惑をかけている事
存在する事で地元の人にかける負担や物資の奪い合いを目にして"ここを出る"選択を取れるのはローカルではない"余所者"の僕であると感じた。
③インフラ等の復旧の目処が全く立たない事
インターネット接続もできず、電話も使えない状態の為情報が全く入らない環境。
ホステルの住民も交錯する情報に疲弊していた。
情報を元に比較的被害の少なかった浜辺から、バンカーボートに10人数人と1匹で乗り込む。
目指すは対岸の島ミンダナオ島。
この島での出来事やこれからの事を想いながら漂流物が漂う海をボートで駆けていく。
"とにかく外に出ろ。おれたちは声を掛け合って協力すればどうってことない 。
またすぐに活気に溢れるだろう、この島は美しい波と自然で溢れてる。
おれはその一部なんだよ"
と強い眼差しで語っていたサリサリのオッチャン。
水牛がのんびりと歩く山々と美しい夜空に響く虫の音。
この島に戻ってくる事を想い、慣れない船上にやっと落ち着き出した犬と共に遠くを眺める。
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