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鼓動の遺言2

#小説 #連載
最終回に投げ銭形式の連載小説です。
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11月13日

三日坊主とは良く言ったもので、などとは言わぬが前回これを記し、また書く間に引越しや身辺整理、保有財産の確認をしていた。今は新しい家に移り住んでいる。
通勤に適した家ではあったが、長年人を大勢見ていた反動で人の声のない、静かな場所の洋館を現金で土地ごと買った。

なだらかな桜並木の坂の上にある館で、大きな暖炉があるのがとても気に入った。
元より長年使っていた西洋家具が似合うと言うのも決め手で、持ってきた数少ない家具とも合う。
しかし些か買い物に不便な土地が玉に瑕なのだが、生協という食材配達サービスの利用で食材の確保は容易であった。またその他の買い物は大学病院から独立した後輩が今後の往診を兼ねてしてくれると申し出てくれ助かった。
大学側からの指示でもあるらしいが、ここは素直に若者に甘え、感謝をする。

私が淡々と自分の死に対し、今際の際の受け入れを準備しているのはある種の緊急下に起こる1時的な離人症状である、と私は自分で診断した。
ドッペルゲンガーまでは行かずとも、何処か冷静な自分が非常に淡々とした判断をし行動をしている。
問題は休診日も出張して市の医療相談にまで出る程の職業依存性だったので、一気に訪れた休日の消化方法が未だ解らぬといった所か。ここはこれからの課題として仕事とは別に没頭出来る趣味を探さねばならない。
料理、日曜大工、絵、なんでも構わぬ。

財産の処分もしなければならぬ。
独り身で死ぬと言うのも大変である。
死んだ後は行政が動くので私は無縁仏として粛々と灰になるだろう。

そんな、いろいろな事を考えながら散策をしているのが今の近況である。

木々の揺れて掠る音しかここには無い。
これが静寂かと、感慨に耽る。

下血、痛みはまだそれ程ではない。

11月14日

散策をしていて、桜の木にもそれぞれ個性があり人間と同じ様だ、と気付いた。
枝の生え方、皮の模様、根の複雑さ。
これをスケッチするのは面白いかもしれない。
絵を描いてみようか。
どうも手持ち無沙汰で落ち着かない。

散策から帰ると生協に頼んでいた箱の中に珈琲のドリッパーが入っていた。
200枚。
使い切る事が出来るだろうか?と自虐的な思いが浮かぶ。

ゆったりと流れる時間、と言う表現の意味が解った。
何もしない時間の何と長い事か。
珈琲を淹れ、それをゆっくり飲んでもまだ余る時間にこの頃は焦燥に似た困惑を感じる。

私の職業依存性の離脱症状は激しいらしい。


11月15日

女性を拾った。

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