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アリサの恋

どうしても右手の小指にネイルがうまく塗れなくて、アリサは舌打ちを小さくした。

今日はアリサの誕生日。
大好きな彼とのデートがある。
付き合って2年、恐らくは特別なデートになるであろうこの日をアリサはドキドキして迎えた。

ちょっと派手かな?と思ったけれど思いきって買ったワンピースに身を包み、鏡の前で深呼吸する。

同居の家族はアリサが髪を染めたり巻いたりしただけでやいのやいのと言ってくる様な人達。

見つかったら大変なので、ミュールを胸に抱きアリサは抜き足差し足。

よし、階段は降りた。
家族は奥のリビングでテレビを観てる。
気付かない。
チャンスは今だ!

玄関のドアを裸足で開け、そっと閉じてる自分をまるでお城から抜け出すお姫様みたいとクスリと笑って、ミュールを履いてアリサは街に軽やかに飛んだ。

街頭に照らされた街路樹が鮮やかな緑の葉を照らし、心地良い夜風の通る場所に彼は居た。
しまった!待たせてしまったか!?と顔に出たのか、目が合うと穏やかな笑顔で僕も今来たばかりですよ。と胸を弾ませるアリサの背をさするその優しい手の平の温もりにウットリと目を閉じて息を整える。

待たせてごめんなさい。とぺこりと頭を下げると、気にしないで。そんなに畏まらないで、いつもの貴女で。と大きな手の平でアリサの手を包み込む彼。

ロマンスグレーでキッチリとした仕立ての良いスーツに素敵なストールと手入れの行き届いた革靴。
アリサとだいぶ歳の違うその紳士的な佇まいに街を歩く人も目に止め、続いてアリサに視線が刺さる。

気にしないで。ともう一度囁く様に呟くと、アリサをさりげなくエスコートして歩き出す。

その動作一つ一つがとても優雅で素敵で、アリサは彼に夢中だ。

サークル友達の同い年のヨーコに言わせると何そのジジイ趣味!らしいが、アリサに言わせるとヨーコの熱狂している若手アイドルグループは何そのショタ趣味!だ。

今、目の前にいる彼こそがアリサは運命の人と信じて疑わない。
…何処と無く昔の彼氏に似ているのは恐らく気の所為。

今日はまたとても可愛らしいお召し物で…。良くお似合いです。こんな可愛い女性と食事が出来る私は幸せものです。とはにかみながら話す彼に、アリサまで赤くなってしまう。

程なくして、大きなビルに2人は着く。
見上げると目眩がしそうな程の大きなビルで、入っているテナントも流石に知ってる様な高級店ばかり。

場違いな気がして口を噤むアリサに彼はすみません。と謝った。

え?何何??何でスグルさんが謝るの??と突然の謝罪に思わず声が大きくなってしまった。
ハッと回りの視線に気付いて慌てて俯くと、このビルのお店に僕の行ってみたいレストランがあって…。勝手に予約してしまいました。と鼻を掻いている。

彼が鼻を掻く時はいつも嘘を言う。
きっと、今日の誕生日の為に予約してくれたのを気遣ってくれたのだ、と分かった。
緊張して固まってるのは、逆に失礼だ!と思い直し、アリサは努めて普段を装った。

なーんだ!そうなの?早く言ってよ!
緊張したじゃーん!!ヤダもー!!!とカラカラと笑い、彼をバシバシと叩く。

視線なんかもう怖くない。

彼に抱きつき、ねえ何処行くの?何処のレストラン??とテナントのパネルを指差すアリサに彼も緊張が解けたらしく、ああココです。お口に合うと良いけれど…。えー!私吉牛でも美味しいよwwと戯けてみるがやっぱり緊張する。

そんな高そうなお店、来たことないんだけどー!!と内心動悸が止まらぬままエスコートされ、ビル内に入る。

高層ビルの直通エレベーターは耳鳴りがした。
長い耳鳴りエレベーターの扉が開いて、アリサはわあ!と言わずにいられなかった。

通されたレストランは見るからに高級店で、そこの個室を彼は用意してくれていた。
大きなガラス窓の下に、沢山の人達が点くらいの大きさで見える。

その全ての人達にも、それぞれの生活や人生があるんだよね…
でもごめん!私今多分誰よりも幸せ!

…とやはり顔に出たのか、良かったです、気に入ってくれたみたいで…。と彼の安堵混じりの声に振り向いて大きく何度もうなづく。

運ばれてくる料理も、お皿も、アリサは見た事ないくらい綺麗で美味しくて、そして何より…大好きな彼が隣で静かに微笑んでる。

本当にシンデレラみたい、夢みたい。
いつもは野菜の煮物とかばかりの食事なのに、食べた事がないくらい色も味も豊かな食事…こんな幸せで良いのかな?と何度目かに考えていた時、

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