Ms Brownとマリアーン

あれは、私が3日目の夜勤の日だったと思う。60歳の小柄な、オーストラリア人女性、Ms Brownは、ベッド13のシングルルームに入室して長い。特発性肺線維症という病気で、NFR(Not For Resuscitaion)オーダーが出ている、つまり、心肺停止が起きたならば、蘇生はしてはいけない。彼女は、この病棟に入院して長いので、お部屋は彼女の好きな編み物や、家族との写真だったり、ブランケットがもう用意されていて、自分の小部屋さながらだった。夜勤の日、真夜中零時に、ヴァイタルチェックの回診が終わると、大体落ち着いてナースたちは、ナースステーションで雑談する。そんな時に、ベルがなる。この時間にベルを押すのは、Ms Brown。みんなわかっている。Ventolin Nebuliserをつけて欲しいから。私がベッドまで訪ねて、「Ms Brown どうしました?」と聞くと、「Could you please put a nebuliser on for me ?」と細い声で頼んできた、彼女がNebuliser を求める頻度がだんだん増してきている。前のめりになって、呼吸も苦しそうだし、ただ、 SpO2と呼吸数は彼女のベースラインなので、医師を呼ぶこともなく、いつものようにNebuliserマスクを装着してあげた。 

いつものように彼女は落ち着ついた。次の夜も、私は夜勤だった。Ms Brownの担当は マリアーン で、私は担当じゃなくなった。この夜は違った、マリアーンが『みんな、きて!!Ms Brwonの呼吸が。。。』と声を荒げるので、私がすぐさま、病室に駆け寄った。Ms Brownは顔面蒼白、Acccessary Musclesを使い呼吸している、この呼吸発作は危ないと私は感知した。この夜の看護師たちの中で、前夜、そして一昨日の午後のMs Brownの呼吸のベースラインをわかっているのは私しかいなかったこともあり、判断は早かった。私は主張した。『 I think We should call PACE T2 』 

PACE T2を鳴らすと、ICU の Drを含めた急変患者対応チームが病棟に来てくれる。Ms Brownのオーダー用紙にはNFR、心肺停止した時の救命措置は拒否しているものの、容態悪化とナースが判断した場合の PACE T2は呼んでいいというボックスにティックがあったので、私はその通りに、PACE T2をアクティベートした。

ICU Dr たちが、彼女を診察すると、nebiliser から BiPAPの装着をオーダーし、研修医が必死になって静脈から血液を採取しようとしている。でも、Ms Brownは ショック状態だから、末梢血を採取するのは容易じゃない。
Bipapをようやく装着してあげても、Ms Brownの呼吸困難は改善されなかった。『様子をみましょう』と言って ICUに Dr たちは戻って行ってしまった。

残されたナースたちでMs Brownを見守る中、私とそのほかのナースたちは慌ただしく、他の患者さんのヴァイタルチェックに忙しい。そんな中、ふとMs Brown担当のマリアーンをみた。マリアーンは、そっと、Ms BrownのベッドでMs Brownの隣に座り、彼女の肩をそっと抱き寄せてあげていて、ふんふんと子守唄を優しく歌ってあげていた。何か、時が一瞬止まったような感じがした。マリアーンの背中から、天使の翼が生えていように私から見えた。私を含め、医師たちは、静脈血が取れないとか、動脈血ガスとるために必死で、Ms Brownの細い手に針を何回も刺しては、MS Brwonのお顔を見ていなかった。マリアーンは、わかってたのかもしれない、もうMs Brownの呼吸は楽にならないこと。彼女に必要なのは、束の間の安心。

程なく、Ms Brownの呼吸はBipapでも改善せず、悪化して行った。もう、この病棟ではだめだ、ICUに送らないと。ICUに連絡すると、引き受けると承諾してくれたので、私が病棟に残る代わり、マリアーンと他のナースがMs BrownをICUに送って行った。それから、ナースたちが戻ってくるのが遅買った。ナースたちが戻ってきてこう言った。『She took
 a last breath on the corridor …. on the way to IC U。。。。。」

Ms  Brownは、集中治療室に向かう途中、エレベーターを待っている最中に息を引き取ったという。彼女の呼吸悪化を改善できず、ずっと苦しんで、最後に、家族に看取られず、最後の息をひきとった。Ms Brownを思うと、Ms Brownに、もっと早くせめて、緩和ケアの介入ができなかったか悔やまれる。もう悪化することがわかっていたならば尚更、もっと安らかに最後を迎えさせてあげられなかったのか。

マリアーンは最近、自身の母親を緩和ケア病棟で看取っている。マリアーンは、最後にもう一度、廊下で、Ms Brown の肩を抱いてあげたかもしれない。きっとマリアーンの腕の中で、きっと子守唄は届いていただろう。




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