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旅の愉しみは予期せぬ出来事

3月のとある週末、「伊勢神宮」への旅に友人と出かけた。
「お伊勢さん」へ御参りするのは、人生で2度目。
初めて訪れたのは、2022年の9月9日、重陽の節句の時である。
前回は総勢27名での正式参拝で急ぎ足だったのだが、今回は2人旅。
1泊2日ながら無理の無いマイペースでの旅程を組んだ。

半年を経て、再び伊勢を訪れたのには2つの理由がある。
9月の初めての伊勢の旅で、多くの”幸運”に恵まれ、素晴らしい体験の連続だったので
今度は大勢ではなく、是非気の合う友人とゆっくり訪れたいと思ったのが1つ。
もう1つは「誰とは知らず、もう一度おいでと招ばれているような気がしたから」

「伊勢神宮」は多くの人が既に一度は耳にしたことがあるであろう
天照大御神(あまてらすおおみかみ)をお祀りしている処。

2000年近く前に創られた「皇大神宮」(内宮)には
天照大御神(あまてらすおおみかみ)さまを
1500年近く前に創られた「豊受大神宮」(外宮)には
衣食住や産業の守り神である豊受大御神(とようけのおおみかみ)さまをお祀りしている。
その他に14箇所の別宮と43箇所の摂社、さらに24箇所の末社、42箇所の所管社と全部で125箇所の宮社すべてを含めて『神宮』というのだそうだ。

以前、タクシーを利用した際に運転手さんが「伊勢市は半分以上が神宮の土地なんですよ」と教えてくれた。

このような土地に住んでいる人々はお伊勢さん参りに来た人々に”おもてなし”の精神で接してくれる人が多いのだろうか?
神宮周辺の参道にあるお店や、宿泊先や、飲食の店などでも、観光や参拝に人に伊勢の地で気持ちよく過ごしてもらおう、という心持ちが感じられるような対応が多かった。

旅は「その土地でどんな人と出会えるか?」によっても、印象が変わるし予期せぬ出来事も旅の醍醐味のように思う。

予期せぬ出来事、それは名古屋で近鉄特急「しまかぜ」に乗った時に起きた。

この特急「しまかぜ」は賢島まで行く観光特急列車で、1日に1本しか走っていない。
名古屋駅に到着する時間帯で、当初は1本早い普通の特急に乗るつもりだったが、せっかくなら、と考え直してこの列車を選んだ。

本革を使用したゆったりと幅のあるプレミアムシートはとても柔らかく、なんと電動のリクライニング機能もついている。
4~6名で利用する際には、洋風や和風の個室もあるのだ。
そしてこの「しまかぜ」にはもう1つ”カフェ車両”があり、食事やお茶、お酒を楽しみながら外の景色を眺めることができる。

列車が出発して早々に、せっかくだからカフェ車両でブランチをしようと移動し、食事を始めてしばらくすると、後ろに人が立った気配がある。

「あの、お食事中すみません」と声をかけてきたその若い男性は某民法テレビでよく名前を聞く番組の取材担当者と名乗り、できれば「しまかぜ」のカフェを利用している様子や簡単な取材をさせてくれないか?という申し出だった。
隣には、近鉄の広報担当の腕章を付けた人も立っている。
一瞬「え?」と驚いたが、こんな面白い体験は滅多にないとすぐに思い直し快諾した。
こういう時は”予期せぬこと”を愉しん方がいい。

食べかけのカレーやノンアルコールのビールを前に、車両の感想や旅の目的などを聞かれてその後、座席に戻ったのだが、そこでも再び同じスタッフがやってきて、今度は座席のシートの乗り心地などを聞かれた。
そして、伊勢神宮にこれから行くということを伝えると、良ければ動画を撮って送ってもらえないか?という提案がありLINEを交換した。

「普通の特急を選んでいたら」
「あの時間帯にカフェ車両を利用していなかったら」
「あの座席に座っていなかったら」起きなかった出来事。

人との出会いもまた、偶然ではあるが必然でもある。
今回、2度目の『神宮』参りだったが、観光ステーションで有料ガイドをお願いすることにしていた。
『神宮』の歴史や、行事のこと、各宮のことなど、詳しく説明を聞きながらより『神宮』のことを知りたいと思ったからである。
予約当日のガイドを担当してくれた方は、女性。
あとで聞くと、70代前半だそうだが、役所を定年退職してからガイドを目指して勉強し試験を受けてこの仕事に就いたのだそう。

人生の先輩である彼女のお話は、『神宮』のあまり知られていない儀式の豆知識や
正式参拝を受ける場所の違いが何によるものなのか?という現実世界のお話
そして”神さま”という存在に対する日本人の意識について 等々

時に井戸端会議のようにヒソヒソと
時に豪快に笑いながら
けれども『神宮』に対する畏敬の念をしっかりともって
私たちが身近に『神宮』を感じることが出来るよう話してくださった。
ガイドブックやネットだけでは得られない情報が大変面白く感じたし
前回御参りした時よりも、もっと『神宮』に近づいたように感じた素敵なガイドだった。

この観光ステーションには登録しているガイドが60数名いるらしいのだが、女性はごく少数で、10名に満たない程だとか。
そして、今回ガイドしてくれた女性は、週に2~3日しか稼動しておらず、1日に1組か2組を案内するだけなのだそうだ。
彼女にガイドしてもらったのは、とても幸運だったと云わざるを得ない。

この他にも、2日間、素晴らしい天気に恵まれたことや
美味しい海の幸を食べられる居酒屋に出会えたこと
バスの移動が何処に行くにもとてもスムーズにいったこと
「おかげ横丁」で並ぶお店も、さほど待たずに入店できたこと etc.

何もかもが幸運でありがたく嬉しく、感謝の連続のような旅であった。
さまざまな「選択」がこの旅を後押ししてくれたように思う。

『神宮』やその他に訪れた場所に関しては、色々と書いてみたいことがあるがそれはまた、別の記事で投稿しようと思う。
今回は”嬉しかったことや楽しかったこと”に特化したい。

最後にひとつ。
平安の時代、西行法師が伊勢神宮を参った際に詠んだ歌がある。
【何ごとの おはしますをば  知らねども かたじけなさに 涙こぼるる】
この歌そのままに、「内宮」の正宮で神恩感謝を述べて拝礼をする際、涙が一筋流れたことも忘れえぬ出来事だった。

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