■第1章 Rで始まるレイヴパーティー①
-原点は山-
「運転おっつかれ~! ほんじゃまぁ食いますか~」
駐車場に車を停めたら紙を舌の裏へ──
レイヴにおける僕たちのルーチンはだいたいこんな始まり。
たまに実験兼ねてタイミングをズラすやつもいるけど、
そんなの好きにすればいいし僕だって試すこともある。
24時になるまで草と酒だけで踊ってみる…とかね。
いままで相当数のパーティーに来たけれど、これからも続けていくんだから、
より良いセッティングを探してみたいってのは誰しもあるじゃん?
テントを張る場所は常に“できるだけフロアの近く”。
どんなに遅く着いたとしても、ギリギリのスペースを見極める。
フロアが近すぎて音がうるさいとかは関係ない。
キャンプガチ勢ではない僕らの場合、
料理もしないし寝るときは宿に戻るから、
テントはほぼ荷物置き場兼雨宿り場所だ。
およそ20分後、無事テントを張り終えた僕たちはクーラーボックスの中から各々酒を取り出す。
「よっしゃ、かんぱーーーーい!!」
フロアからうっすら聴こえる四つ打ちとプシュという音が混ざり合う。
「いや~、来ちゃいましたね、今日も」
「やっぱ自然はいいなぁ。解放される」
「いまやってるの誰?」
「わかんない(笑)」
隣からジョイントが回ってくる。
「お、サンキュー」
3泊4日のこのレイブは、初日が21時から始まる。
僕らが着いたのは22時半くらいだろうか。
朝の6時にはメインフロアが終わり、そのあとはセカンドフロアにバトンが渡される。
「よし、フロア行っちゃいますか?」
キャンピングチェアとドリンクなんかを持って、意気揚々と歩き出す。
すでにちょっと効いてきて、ソワソワしちゃってるんだ。
真っ暗闇の中、音のする方へ歩く。
湖のあるキャンプ場ってことだけど、水の気配はまだしない。
そのまま進むと、開けた芝生のフロアに辿り着いた。
アゲではなく静かめのテクノ。
いいね。
このパーティーはいつもそう。
夜の間は、ガシガシ踊れるというよりエレクトロな音のことが多い。
9月中旬ともなれば、夜は10℃くらいまで冷え込むこともあり、
「もっと踊らせてくれよ。凍えちまうよ!」と思ったりするんだけど、
オーガナイザーの意思は固いらしい。
「他人を変えようと思うな。自分が変われ」
というどっかの誰かの名言に従い、
今年は秘密兵器を持ってきた。
バーナーと小さなヤカン。
それにインスタントのコーヒーとココア。あとはお湯割りで飲めるように焼酎。
もっとね、オシャレにエスプレッソマシンとかっていうスタイルへの憧れがないって言うとウソになるけど、まぁ最初だからさ。
フロアに到着し、真っ暗闇の中、今回の基地を決める。
まだまだお客さんの数は少ない。
僕が右スピーカーのかなり前の方で椅子を広げていると、
「シンちゃん、もっと後ろの方が良くない?」
と、ヒロが言う。
「お、そうする? おけおけ」
かくして右スピーカー後方──ここに3つの椅子を並べ、本拠地が完成。
後から合流する仲間へだいたいの場所をLINEで報告。
気がつくと、パウの姿が見当たらない。
いつからか“特攻隊長”と呼ばれている通り、早くも最前線へ行ったんだろう。
僕とヒロは、フロアに身体が馴染むまでニヤニヤと会話する。
「なんだかんだ今年は来れたね」
「しかも珍しいメンツで(笑)」
「ヒロもよく、初めて会うやつとレイヴ来ようって思えたよな」
「いやだって、シンちゃんの友だちでしょ? なんの問題もないっしょー」
「まあね。2人の様子を道中見てても、問題ないどころかだいぶマインド合いそうって思ったけど(笑)」
「でしょでしょー。楽しむっきゃないでしょー」
「あ、そういえばパウが珍しいものをゲットするみたいだよ」
「なになに?」
「合法の紙だって。今日ここで友だちからもらうとか」
「え、なにそれ。見てみたいね~」
「明日食うらしいから観察してみよう(笑)」
「だね~。もう一服する?」
「お、サンキュー」
「はーーーー、やっぱ外はいいねぇ。身体の力が抜けてくよー」
「ねー。サイコーだなー。早くも来て良かったと言っちゃえるね~」
(続く)
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