『受肉』
名も刻まれぬ墓のひとつひとつから、ギイギイと音を立てて墓石が崩れ落ちてゆく。
ひとりの少女は焼身に、生前こだわっていたであろう装飾過多な焦げたフリルやレースのドレスを着て。
ひとりの少年は戦闘服に身を包み、頭蓋を割られて脳髄の滴る姿で。
何も身に纏わせてもらえず、腐った身体に打撲痕を残した男女の双子。
蘇った誰もがまだ子どもとも大人とも言い切れぬ年頃の少年と少女たち。
蘇った身体から漂う腐臭。腐った身体の軍隊を率いるのは、顔なしの子どもたち。
彼らは捜している。潜在意識に眠る胎内の記憶を辿って。
声も出せず、身体は自由に動かせず、それでも這いずりながら、足を引きずりながら、捜している。
フリルの少女がマッチを擦った。雑多で陰気な路地裏で、炎が一つ生身を焼いた。
戦闘服の少年が機操縦を手に持った。空を飛ぶ無慈悲な機体が墜落した。
裸の双子がお互いの肉を齧った。狭いアパートで身体中の骨を折って二人が死んだ。
顔なしの子供たちが、暗い空の下、首を緒で括った。世界中の子どもたちが死んだ。
救われぬ。報われぬ。痛くて、時間は不可逆で、天はどこにもない。
輪廻が途絶えた。異次元の神々が魂をなくした。
悪鬼も、天使も、生命を司る何もかもが。
根本枝葉果実のすべての繋がりがなくなった。蘇った身体も崩れていった。
地上に降りることを幾光年も待ち望んでいた存在が、残された大人たちを支配しようとしていた。
雲母の中で永く眠っていた光が、目をさました。
また産まれる、また刻まれる。
消えては顕れ、燃えては沈み、やがて天体はその星を見離した。