【戯曲】躒日のリヴォル(全編無料)

はじめに

演劇企画ヱウレーカ主宰、ならびに当戯曲の作者である、荒井ミサです。このnoteでは、戯曲「躒日のリヴォル」を全編無料で公開しております。

演劇企画ヱウレーカ 第四・五回本公演の中止に際し、ご期待いただいたすべての皆様、劇団・関係者各位を懇意にしているお客様へ、謝罪、ならびにご期待いただいていた気持ちに少しでも何かをお返しさせていただければと考え、当公開に至りました。劇場でお届けできていない作品ではございますが、少しでもお楽しみいただけますと幸いです。

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あらすじ

若人四人が語り明かした、革命終わりの宵の果て。
皇政転覆なんとやら、和睦が成立したという。

打倒皇政過激派率いる若き革命家”蘇芳条”は、その夜をもって咎人となる。
昨日の朋はなんとやら、果てから”お前”が突き落とす。
終わる。終わる。全てが終わる。

誰にも負けたくない。何にも奪われたくない。
誰にも願わないから。何もかも離さないから。
どうかこの手で、どん底まで、堕ちろ。

ここから見えるあの空が、欲しい。


登場人物

蘇芳 条/西井由真(演劇企画ヱウレーカ)
すおう くだり。革命家の首謀者にして、軍部の司令官。責任感の鬼。
四方川 水煉/山下慶祐(演劇企画ヱウレーカ)
よもがわ すいれん。軍部の参謀(No.2)。条の良き理解者にして相棒。

名無/幸城まみ(演劇企画ヱウレーカ)
なな。スラム出身の元孤児。居酒屋で働く。その正体は唄姫の家系である憑代家の私生児。
右膳アッチ/喜田よつ葉
うぜん あっち。元孤児の公安警察。普段は門番をしている。名無の親代わり。
左膳コッチ/粟津恵(SPaCe)
さぜん こっち。元孤児の公安警察。普段は門番をしている。名無の親代わり。

祐宮皇/羽田敬之(埋れ木)
さちのみやおう。吾愁の兄。日ノ本の皇。私が私でなかったならば。
吾愁皇女/小泉日向
あしゅうおうじょ。皇位継承権第一位。革命家の1人だった。私は『私』を見てほしいだけなのに。
三上 朔太朗/ニュームラマツ(劇団鋼鉄村松)
みかみ さくたろう。宰相として、祐宮の公務の補佐などを務める。どこかつかめない男。
有栖 咲埜/木山りお(怪奇月蝕キヲテラエ)
ありす さきの。人の悪意に敏感な侍女。昔から吾愁の傍仕えをしている。兄としゃべるのが好き。
憑代 謂織/田辺杏子(演劇企画ヱウレーカ)
つきしろ いおり。革命の主導者の一人。諜報大臣であり、新聞や公安などを管轄する。
有栖 埜/田盛希
ありす なお。新聞の売り子。ふれまわるのが好きなご様子。妹の話は格好のネタ。

巫/荒井ミサ(演劇企画ヱウレーカ)
かんなぎ。帝都のはずれの森に住む女。『私』に祈ってくれますか。


本編

シーン1 はじまり
明転。右膳、左膳が見張りをしているところへ憑代が入ってくる。

右膳「(身体検査後、)おっけぃで~す」
左膳「ようこそ皇居へ」

憑代がハケる方向から吾愁入り。急いでいる。

右膳/左膳「いってらっしゃいませ」
右膳「お気をつけてぇ」
左膳「外出理由は」
吾愁「皇室特権!」
左膳「さよですか」

吾愁、走ってハケ

右膳「町でも人気のお姫様があぁ、駆けていったぜ珍しい」
左膳「おおかた何某あったのでしょう、姫様はなにせ耳がいい。帝都の端からそれこそスラムに、どこまでも音を拾ってくださる」
右膳「それこそあっちにこっちまでって?」
左膳「あたしたちはホラ、また別でしょう」
右膳「いい人ってのはいるもんだねぃ」
左膳「しゃんとしな」
右膳「いやいや今は暇じゃろて。警備だ何だと皇居の前に、ぬんと立つこと数時間。それを毎日続ける仕事に刺激もくそもへったくれ。革命軍なぞいるものか。虫けらに獣、人の子だって、まったくもって来やしない」
左膳「さっきのお方はたまに見るけど」
右膳「あー、」
右膳「貴族、はたまた金持ちか、どうせお偉いサンだろっての。じゃなきゃ皇居に寄りもしないさ」
左膳「花の都というけれど、空気が汚れているんだものね。金がなけりゃあ来たくはないさ、そうでなければ曲者だろうて」
右膳「曲者ったってそんなホイホイと」
左膳「あたしらは運がいいだけよ。結果が出せなきゃどうなることか」
右膳「左膳は考えすぎなんだ」
左膳「右膳はも少し考えな」
右膳「はー、なんでぇ何もねえ。革命軍がやってくるなぞ、言うとてそうそう来やしないのに」

左膳、右膳の背中を勢いよく叩く。
その裏で四方川・蘇芳、入り。

右膳「ってぇ!何すんだテメー!」
左膳「おぉおぉ威勢のいいこった。その勢いでよく見張んなね!減給されたらどうすんだ」
右膳「ようやく掴んだ官職を、手放すバカじゃぁねえこって」
蘇芳「そりゃあ結構」
右膳「げぇっ」
左膳「上官殿」
四方川「ああいい、やれそう力を入れるな。俺たち二人に畏まらずとも」
左膳「路頭に迷う我々に、仕事をくださった恩があるので」
四方川「もう半年も前だろう」
左膳「我ら姉弟に、あの子まで」
蘇芳「警備の仕事はどうだ、右膳」
右膳「じゅんちょーじゅんちょーじゅんちょーでーす」
蘇芳「そうか、それなら問題ない」
四方川「条、そうじゃないだろぉ?」
左膳「あは、やっぱり」
右膳「なぁにがやっぱりよ」
蘇芳「…その、名無さんは」
右膳「はーーーそんなの知りまっせーん、仕事に関係ないので」
左膳「今日も酒場に出ておりますよ」
右膳「おい左膳!」
左膳「仕事に関係ないでしょう?」
蘇芳「そうか」
右膳「おめ、行くなよ!ぜってえ行くなよ!!」
蘇芳「すまんな右膳、それは難しい」
四方川「いやはや悪いね、なんなら知人も待たせてるんだ」
右膳「なーに笑ってんだてめぇ!」
左膳「ほらほら、警備に戻るわよ」
四方川「頼むよ左膳、警備を離れちゃ僕も怒られる」
左膳「はい」
蘇芳「お前を怒るのは俺だがな」
四方川「偉くなっちゃってまー」
左膳「いってらっしゃいませ」
右膳「コンチクショー!」

SE:酒場の騒音と、たまに入るガラスの割れる音

名無「いらっしゃいませ!あ、」
蘇芳「どうも」
名無「いらっしゃいませ、です!」
蘇芳「今日も、変わりないですか」
名無「はいっ、いつも通りの荒れ具合です」
蘇芳「そうですか、それは、…その、慣れてきたようで、えー…(話題が見つからない)」
四方川「ん゛んっ。や~、名無ちゃん」
名無「あっ、こんばんは、です!お連れ様、もういらしてますよ」
蘇芳「ん」
四方川「酒瓶四本、よろしくねー」

変装した吾愁、入り

吾愁「遅いっ!」
四方川「おーカゲ、早いね」
蘇芳「すまん、仕事が長引いた」
吾愁「こんな日にまで長引かせるとは、よほど仕事ができないのかね」
四方川「カゲはすーぐに毒を吐く」
吾愁「何度聞いても慣れない名前だ」
四方川「しょうがないだろ、君の名前を知らないんだもの。きれいな名前と思うがね」
蘇芳「俺は好きだぞ、月夜の影など雅じゃないか」
吾愁「名を冠すことが嫌だと言うに」
四方川「そうカッカとするもんじゃあないぜ、あぁほら、先に一杯やるか?」
吾愁「知らせ聞くまでは舐めすらしないさ、勝利の美酒かもいまだわからぬ、弔い酒になるやもしれず」
蘇芳「死んでいるのは皇の方だろう?今頃きっとお陀仏さ」
吾愁「確かに彼女は優秀だ、しかれどもしもがあったなら」
蘇芳「数多同胞の血が流れ、あぁ今まですらそうだった」
四方川「何をいまさら悲観する。君はどこまでも臆病だ。皇を倒せと、皇を討てと、そうして始めた革命いよいよ大詰めというに、共に歩んだ僕らにすらそう、真の名前すら明かさない」
吾愁「慎重と言えよ参謀総長。名前は早馬、歩く呪いだ。皇とてそうだ、我らとてそう、その名についぞ囚われるのに」
四方川「あぁあぁそいつぁすまないね。四方川水煉、僕の名前もなりたいものだ。歩く呪いに走る早馬、凡百の名を高みへと、ってか?」
吾愁「何とでも言え!僕は教えない、教えないぞう」
蘇芳「かの皇の名は呪いだろうさ。皇が在ればこそ終わらない。民に沿った世は訪れぬ」
三人「無秩序に光る皇政を、影にて飲み込み水面に返す」
吾愁「良いフレーズだ」
四方川「毎度ながらねぇ」
蘇芳「負った責任の末路を見届け、そうして酒をあおりたい。悪くないだろう?」
四方川「へいへい悪ぅござんした」
蘇芳「負った、ああいや自ら掴んだ、その責はいわば我が子のごとく、飛び立つ時まで見届けねばと」
四方川「出たよ、条の責任論」
吾愁「もはや性善説の域だ、天使か何かになりたいか」
蘇芳「水煉の口にゃあなりたくないな」
吾愁「はは、正論」
四方川「君達ねぇ」
名無「お待たせしました(酒瓶四本を配る)」
蘇芳「あ、ありがと(う)」
吾愁「(条の手から酒を奪い取りながら)ああ早く、声高らかに高らかに吟じてやりたい!革命せしめん我らの勝利を、唄を、長き混乱の終わりの鐘を、」
蘇芳「お前はいつも焦りすぎる。少し落ち着きを持ってみろ。さすればそうだ」
憑代「悪い、待たせた」
吾愁「遅い!遅いッ!!」
四方川「焦らすじゃないの」
蘇芳「昔から着順は変わらんな」

照明、過去回想

憑代「先に言ったろ、遅くなるって」
蘇芳「大臣様々ご多忙の折、」
吾愁「そういうお前らも遅れただろう!」
四方川「だってぇ!軍部も大変なのよ!」
憑代「汚い居酒屋、薄っぺらな酒、ここから玉座を狙うだなんて、全く正気の沙汰じゃあないな」
吾愁「狂気で結構、道化上等!皇の杯に並々と、注がれた酒をはたいてやるのさ」
四方川「狂ってなけりゃあここにはいない」
蘇芳「力の水面(みなも)を水平に、偏る皇権を叩かんと、公平な世を築くため、我らがこうして集まった、コイツに集められたってなぁ」
憑代「軍部司令官、参謀、諜報大臣、よくまぁこれだけ集めたものね」
四方川「何者なんだか気になるもんだが、そうそう教えちゃくれませなんだ」
吾愁「僕は、僕らはこの國の影だ。全てを飲み込む影となりて、愚かな光を覆うんだ」
蘇芳「無秩序な光を、」
憑代「秩序の影で、」
四方川「言い得て妙だな、乗って得した」
憑代「皇殺しなんて無茶苦茶だがね、出来そうだなんて思ってしまう。君は本当におかしなヤツだ」
吾愁「無秩序に光る皇政を、影にて飲み込み水面に返す。その為の、革命なんだ」
蘇芳「しんがりは俺が勤めよう。腕と顔だけは知られたこの身、何かと表に立ちやすかろうて」
四方川「んじゃいつも通り支えましょっかね」
憑代「情報隠密かくれたその場でひそりと手を貸し助けよう。諜報大臣の名にかけて、世の声を黒に変えるまで」
四方川「お前は?」
吾愁「僕は、…」
蘇芳「俺らを集めたその声は、いつかこの世に響くだろうさ。ドンと構えてろ、なぁ、カゲよ」
吾愁「…僕の集めた精鋭たちよ、僕の身はついぞ明かしはせぬが、影としてこの身を捧げよう。さぁ、起こそう、」
四人「革命を!」(乾杯)

セリフ裏で照明が切り替わり、時は現在へ。

蘇芳「起こしたのなら、永遠(とわ)の眠りを、狂った命に永遠の眠りを!」
吾愁「終わるのか」
憑代「ええ」
吾愁「終わるんだ!」
四方川「酒でも飲んで祝おうぜ」
蘇芳「長きに渡る」
三人「皇政が」/憑代「革命が」

SE:鈴の音

埜「号外号外深夜の号外!みんなぁ起きてよほら読め読めや、さあささ文字が読めねぇたあそう夜道の街頭お便りなすって、めんどくせぇなら耳向けなってぇ!こっちもなんだい、興行だもの!さあささよぉーくお聞きなすってぇ!革命は終わり、終わりだよぉ!皇政継続、和睦の成立!!百年に一度の知らせだよぅ!あんれぇ何を悲しむものか。皇が居なくなりでもしたら、このギリギリの綱渡りですら出来なくなるっていうもんだ!さぁさぁ祝えよ宴だ宴!号外!号外!号外だぁ~~~!!」

埜、舞台上に新聞(小道具)と紙吹雪をばら撒く。

吾愁「な、」
蘇芳「なぜ、どうして、皇がのうのうと生きている!夜の闇の中弔ったはず、なあ、憑代そうだろう?お前の操る情報の元、暗殺の手が伸びたのだから!」
吾愁「僕らの…負け、?皇政が、続く?」
四方川「してやられたって訳か」
蘇芳「待て、暗殺部隊が失敗したなら、なぜ」
四方川「なあ憑代」
吾愁「え」
憑代「仕舞いといこうじゃないか」
吾愁「嘘だ、嘘だと言え憑代謂織!!!」
憑代「革命家狩りの始まりだ!」

OP:Omoi『火の玉をあなたに』

※使用許可済、こちらのページにてお聞きいただけます。

OP2番頭~
埜「さぁささみなさまお立合い、奮ってごらんなすって!俺の見てきたこの世界、かくも醜い乱世のお話!時は万貞(ばんじょう)嵐の時代、乱れたこの世をかき乱していた命がひいふうみいよと四つ。天の命をばかき乱し、この世の仕組みを書き換えようと、変革めがけて駆けぬける」
蘇芳「自責を」
四方川「自業を」
吾愁「自我を」
憑代「自戒を」
四人「全うするため駆け抜ける」
埜「いやはや愉快、傑作だねぇ。立ち上がればそう世は乱れるが、大義名分は世直しだもの、これが革命というものか!下手な喜劇より傑作だ。なにゆえ革命?なにゆえ負けた、そんなことなどどうでもいい!敗北者たちの転落なんぞ、蜜より甘いと決まっているさ!堕ちろ、堕ちろ、底までさぁ!」

シーン2 転落

名無「はぁ、はぁ、」
蘇芳「クソ、追っ手が」
四方川「条、少し止まれ。ほら」

名無、息を切らしている

蘇芳「名無さ、」
名無「あ、はは、すみません、ビックリしちゃって」
四方川「レディーを無理に走らせるなんて、責任の鬼は空気も読めぬか」
蘇芳「止まれば首が翔けるだろうさ、それでも良いというのならな」
四方川「お堅いこって」
蘇芳「なんとでも言え」
四方川「いくら裏切られたって言えよ?いくら弾が飛んでくるとは言えよ?他にはなんだ、近場にいるから疑われると、思いでもしたか短絡的な。女子(おなご)の手を引き走る男たぁメロドラマだってお断りだね!」
蘇芳「こうなってしまえば見境なしだろう。今は笑っていられるタチか!?」
名無「けれど命の恩人ですもの」
蘇芳「名無さんまで」
名無「私を思ってのことでしょう?どうもありがとう、条さん」
蘇芳「な、(名無さん!)」
四方川「馬鹿馬鹿声を張り上げるなよ。いくら穢れの森と言ったって、限度ってもんがあるんだからな」
名無「穢れの森?この森が、」
四方川「耳に慣れない場所だった?穢れの森、堕ちた神が巣食うとされる、帝都の外れの樹海だよ。多き穢れを祓うため、森には神女(しんめ)が住まうと聞いた」
蘇芳「神の使徒ならばその責任を、天に任せて平に拝むさ。隠れる場所には打ってつけ」
名無「スラムに比べてみれば、とても澄んでいますのに。父も、母も、誰もいない、そんな街とは違いましょう?」
蘇芳「清い水でも、霞む朝日も、泥と呼ばれればそれまでなのさ。スラムと同じだよ」
四方川「右膳と左膳は、…今頃顔を真っ青にしているだろうな!」
蘇芳「きっと、俺たちの首を取りに来る。我らが与えしその職務、それこそ奴らの責務だからな」
名無「アッチと、コッチが、」
蘇芳「仕方がない、警備も立派な軍の一部だ。皇家にとっての賊と決まれば、…名無さんには、申し訳ないことを」
名無「え?」
蘇芳「スラムで育った仲間と、対立するような場に置いて。一歩間違えれば、否もうおかしな土壌に足を踏み入れたがこそ、きっといつか、あいつらと」
名無「アッチは存外思慮深く、コッチは言わずもがなですよ。大丈夫です、わかってくれると信じています」
蘇芳「あぁ。知らせも入れておこうじゃないか。…カゲは逃げ切ってくれるといいが」
四方川「あいつのことなら心配ないさ、どうやれど足はつきやしないぜ。あの足も腕も影だもの」
蘇芳「さっさと合流したいもんだな」
四方川「バーカ、もう鳥を飛ばしてある。半日もあれば届くだろう」
蘇芳「馬鹿と言わなきゃ褒めてたよ」
四方川「そりゃあどうもね、司令官殿」
名無「お二人とも、あれ!」
蘇芳「なんだ、あれは」
名無「わかりませんが、建物ではと」
四方川「なんにせよ身は隠せるな」

三人、頷くと建物側のハケ口へハケ。


シーン3 元いた場所へ

咲埜「あ、お帰りなさいませ吾愁さ(ま)」
吾愁「どうなっている!」
三上「おやお嬢様」
吾愁「陛下はどこ、謁見の準備を!」
三上「そう慌てずとも良いでしょう。何か良いことでもありまして?」
吾愁「これで良いことに見えるなら、お前は随分寝ぼけているわ」
三上「日暮れの頃よりバタついておりまして。誰やら宮にやって来て、和睦だなんだと唄うものですが、憑代謂織、御大でしたのでややぁと骨が折れました」
吾愁「イオ…諜報大臣その人が、夜分にわざわざ足を運んだと」
三上「そうですその顔真青(まさお)に染めて、城の門を叩くものだから案じた警備が知らせを立てて」
吾愁「身内以外の謁見は、翌日以降が常のこと」
三上「そうですお陰で骨が折れました、時間外労働は嫌いです」
吾愁「それをどうして」
祐宮「私が赦した」
吾愁「……陛下」
祐宮「遅くに騒いで何用だ?妹がなにやら夜通し街に、繰り出すのだから仕方がない。皇城に来る貴族を捌く、手間を持ってやったのだ。感謝のひとつも欲しいものだが」
吾愁「夜通しなんて」
祐宮「ひと月辺り?」
三上「二十余日ですね」
吾愁「は?」
祐宮「お前が夜城を空けた回数だ、知らないとでも思ったか?」
吾愁「わたくしの身に興味を持つなど」
三上「いつも気にしておいでです、何をしたのか、何を思われ、何を望んで駆けるのか。なにせ皇冠を次に被るは」
祐宮「何をしようと勝手だが、こいつァ期待外れだなぁ、私の手のひらで転がされたのが今今になってわかったか」
吾愁「生憎あたくし陛下の顔などてんで伺えないもので」
祐宮「故に気に入らん、気も持ちたくない。齢二十で放蕩娘、街に繰り出し夜中に帰る、それが國を負う皇女の姿かと」
三上「いやぁ手厳しい、しかし傍から見るならそいつが真実ですので、わたくしゃお庇いできゃしない」
吾愁「私は」
祐宮「お前の居ぬ間にてんてこ舞いだ。やれ革命だの、民主主義だの、求める声を踏みつけひねる」
三上「いやぁ御大がいらしてからは、随分と楽になったものですね」
吾愁「憑代大臣とは、何故(なにゆえ)、……玉座に最も近い男が、ひとりの大臣の肩を持っては臣からの目も冷めましょう」
三上 「ままま、そこはわたくし三上、宰相としての権限を以てひそりと肩を持つまでのこと」
祐宮「権利、平等、いっしょくたにしたヒトの目線に、玉座からちと離れた位置で、怯えぬお前にはわからんよ」

憑代、登場

憑代「お待たせしました」
三上「おぉおぉ大臣、待ちかねましたよ」
吾愁「…」
憑代「お初にお目にかかります、吾愁皇女殿下」
吾愁「久しいな。達者だったか」
憑代「お陰様で、祐宮陛下と三上宰相閣下にお力添えをいただきまして、賊を打ったところであります」
祐宮「賊に頭を悩ませたものの、いつの時分だかそなたがフラリと、それこそ真青な顔をして、謁見にやってきたものだ」
三上「皇政転覆を狙う過激派、革命軍の計画を、掴んだものだと仰いますのでわたくしとてまぁ驚いたとも」
憑代「はは、ひと月も前のお話でしょう。顔色なんぞお忘れください」
祐宮「私は感謝しているのだよ。よりにもよって君が情報をつかんでくれたものだから。君の管轄の新聞早馬間者に公安、どれもこれもこの通り、手のひらの上で動いている」
憑代「いえなに、粛清の後の片づけこそが、まことに大事でございましょう。建國祭も迫っております」
祐宮「建國祭までに賊を打てれば、真に宴を楽しめるだろう。今年の頭取は私だからね。皇となって初の宴だ。ここで力を見せればそうさ、老いぼれどもも首を縦に振り、玉座の前に跪こうぞ」
三上「先を考えて行動すること、周囲を頼り捌くこと、それこそ君主にふさわしく、臣の操もかくあるべし。よき臣をお持ちになって、で川を作れましょうや」
憑代「揃いも揃って買い被られては、わたくしも身が引き締まりますわ」
祐宮「時に、建國祭に使う剣に、唄姫も揃えが利いているのか?憑代大臣の家系も代々、唄姫を担うものだろう。齢十七の生娘が、神の御許を讃えて唄う、その様はかくも優美であると」
三上「はは、若い時分と変わりませんな。そう気を急いては仕損じますぞ?聞かれると思いお持ちしています」
祐宮「國を建てたる穢れの皇も、復興せしめん名君も、振るったとされる名無しの剣か」
三上「清らな神と対をなす剣、血を吸ったのちも清らな顔で、皇居の入り口に鎮座しますとも。血を眺めども、血は吸わぬ顔で」
憑代「…唄姫につきましても、ただいま準備を進めております。少々馬のような娘でして、行方を眩まておりますの」
三上「確かに、お顔もお声も知りませなんだ」
憑代「ございませんので」
三上「はて」
祐宮「この目に入れるのが楽しみだ」
吾愁「…何一つ、自分でやっていないのに、よくもそうドンと構えてらっしゃる」
祐宮「それが真の政(まつりごと)だ。自分でやらねば気が済まぬなど、よもや宣う心づもりで?」
吾愁「…あなたは、信用なりません。失礼します」

吾愁、ハケ。吾愁を追う形で咲埜ハケ。

三上「皇女殿下は、変わりませんなぁ。よもや臣下であったなら、馬も息の根も合ったでしょうに。私は少々、残念ですよ」
祐宮「どうかな。かような臣下は獣となるぞ。その文字通りに虎視眈々と、寝首を掻こうと目を光らせる」
憑代「本当に仲睦まじいものですね」
祐宮「君にしては悪い冗談だ」
三上「おや、私もそう見えますがね」
憑代「あは、調子が悪いようで。今日はここらでお暇しますわ。唄姫探しに革命家狩り、山を一つ越え二つ超えてもまだまだ山脈とどまり知らず」
祐宮「そうか、夕刊に載せてやらねば。どこの骨かは知らないが、あぁ私には知らずともよい、君が、君たちがその骨を折り、根を燃やせるならそれでよい」
三上「ではまた、よい一日を」

祐宮と三上、ハケ。憑代、ハケようとして照明外にまだいる。
吾愁と咲埜、別の階に入り。

吾愁「クソが」
咲埜「吾・愁・様!」
吾愁「あ、あぁ、咲埜」
咲埜「また朝帰り!冷や冷やしましてよ、本当に!みなにバレぬよう心をとがらせ、侍女長の目も見られやしません」
吾愁「別に頼んじゃないだろう?近頃用事がかさみにかさんで最早語るも野暮なほど。特に昨日は、」
咲埜「昨日は、いらっしゃらなくてよかったです」
吾愁「?」
咲埜「だぁって吾愁様、凄いんですよ!怖い顔をした大人たちがそう、右に左に上に下にと、あれよあれよの大混乱!…笑えたもんじゃありません。しわついた顔で、がなる声音で、城は重く冷えていたもの」
吾愁「はは、そりゃあいい気がしないだろうよ、他の侍女はよかろうと、咲埜は敏感だからね」
咲埜「怖い顔をしていらっしゃる、そのくせ何かを願うようなそう、ずるいお顔をされていましたの。耐えられなくって休憩中に、兄に泣きついてしまいました!あぁお兄様聞いてください、大混乱のさなかにて、祐宮さまのかんばせが、みるみる沈んでゆくのです、そりゃもう歪んだ笑顔でしたとも。それはもうもう見ても居られず、いつものようにお偉い方に囲まれながら、右に左に舵を取る、世渡り上手の柔和なお方のお顔とはついぞ思えませんで」
吾愁「ふふ」
咲埜「まぁ!笑っていらっしゃるのね!あぁでも兄も笑っていました」
埜/咲埜「お前はどうにも怖がりすぎる、そう見回せば歩みも止まろう。悪意に我欲、因果に陰謀、すべてこの世にあふれるものだ、もっとドンと構えておけばいい、それらを言葉にしてしまったら、怖いものなどないのだからな」
咲埜「ですって!私は兄ほどドンと立てません」
吾愁「っははは」
咲埜「んもう、また笑ってらっしゃる!」
吾愁「すまんすまん、あまりにその口の回り方が、路肩で響く新聞売りと、どうも瓜二つだったから」
咲埜「兄の口調が移ったんですっ」
吾愁「あまりに多くいるものだから、どれが誰やら定かでないが、お前ですらそう口が回るのだ、兄は腕の立つ売り子だろうて」
咲埜「まぁ!兄にも伝えておかねば、皇女殿下がお褒めでしたよと!」
吾愁「聞けば聞くほど兄弟仲が良いのだな。それが少し、…うらやましい」
咲埜「吾愁さま?」
吾愁「何でもない。ほら、そろそろ休憩だろう、兄のもとにでも行ってはどうだ?私は少し、探し物がある」
咲埜「あらそんな時間!お暇しますね、よい一日を!」
吾愁「ああ、よい一日を」

吾愁、ハケ。
咲埜、準備をして宮外に出ようとする。


シーン4 守りたいもの

右膳「ありえねぇ」
左膳「しゃんとしな」
右膳「コッチもそう思うだろ!?」
左膳「仕事中だ。左膳って呼びな」
右膳「だっておかしい、おかしいだろ!上官殿が謀反だってな!それも皇さまに立てついたってぇオイラァ何にも知らなんだ」
左膳「あたしだってそりゃ知らないさ」
右膳「それはいい、それはまだいいさ、なんで名無まで連れてったんだ!アイツは関係ないだろう、俺らの大事な家族を(なんで)」
左膳「右膳、」
右膳「あんな、…討伐令なんて」
左膳「名無は入ってなかったでしょう」
右膳「でも、でも、もしものことがあったら!」
左膳「参謀殿も、司令官殿も、きっとワケがおありなのよ。でなきゃ連れてなど行かないわ。あの子はとても…弱いもの」
右膳「だから、」
左膳「いっそ、私たちが最初に見つけましょう」
右膳「え、」
左膳「上官殿と、謎の青年、その三人が討伐対象。…見つかる前に、あの子だけでも取り戻すの」
右膳「いいの」
左膳「なに」
右膳「参謀殿は」
左膳「…名無が、私たちの、家族が、生きていることが一番大事よ」
右膳「冷たいこって」
左膳「どうとでも言って」
咲埜「あのぉ」
右膳/左膳「はい(はぁい)」
咲埜「暇(いとま)ですので、ちょおっと外出、よろしいですか…?」
左膳「勿論ですよ、どうぞこちらへ」
埜「咲埜」
咲埜「兄さん!」
右膳「お迎えなんでぇ?」
埜「アハハ、どうにもこれは、臆病なくせに話したがりでして、話を聞きに来てやったんです」
左膳「ご兄妹ですか。いいですね」
右膳「おい、オイラがいるだろ」
左膳「はぁはて何やら、アッチとコッチに棄てた赤子が、ほんに兄弟かわかりやしないさ」
右膳「コッチも、拾って育てた名無だって、…オイラにとっては兄弟だ」
左膳「そう。…そう」
埜「?」
咲埜「邪魔しちゃ悪いよ、ほら、行こう」

咲埜と埜、別の階へ移る

埜「それで?うちの震える乙女は、何をおしゃべりしてくれるのかな」
咲埜「たっくさんあるのよそりゃあもう!新聞を売る兄さんならば、もう耳にタコが出来たろうけど。革命ってのが終わったでしょう?」
埜「うん」
咲埜「それがねぇ、建國祭に間に合わせたかったみたい!なんでかしらね、そんなに祭りを楽しみたいのか、私にはてんでわからないけど」
埜「へぇ、間に合わせたかったんだ」
咲埜「そう!それで、剣と唄姫を揃えなきゃとかで、準備を進めているそうよ。あ、祐宮さまはやはり怖くて、あぁでも吾愁さま、そう吾愁さまが、お帰りになっていたのだけれど、そりゃもうカンカン、詰め寄っていたの。どういうことだーって」
埜「へぇ、皇女様が。民に人気だが、そいつはどうして」
咲埜「わからないわ、でもなんだかそう、驚いてもいて、誰だったかしら、あのーえー、」
埜「憑代諜報大臣かな?」
咲埜「!そうそう!その人が、やってきてからは顔は青いわ目線も泳ぐわ、とってもわざとらしくって」
埜「諜報大臣はなんだって?」
咲埜「祐宮さまと手を組んだから、どうとかこうとか、宰相様も頼りにされてて、よくわからないけど見えないお方ね、私は初めて拝見したわ」
埜「へえ、吾愁殿下付きの侍女が初めて」
咲埜「だって、この前も言ったでしょう?吾愁さま、帰ってこなくて」
埜「昨日も外に出ていたのかい?」
咲埜「昨日?あーうん、昨日もそうね。それも珍しく言伝ていたの、『いいかい咲埜、これからきっとこの國は、もっと良くなるに違いない』って!」
埜「お前はよくものを見聞きしている」
咲埜「怖がっているだけですわ。やはりデンとは構えられない」
埜「いや、むしろそのまま居ればいい」
咲埜「え?」
埜「そろそろ僕も戻らなきゃ。また暇(いとま)にね、かわいい咲埜」
咲埜「あ、うん!また!」

咲埜、ハケ。

埜「何も知らないで、かわいいなぁ」
憑代「なお」
埜「はーい、今行きまーっす」
憑代「次のネタは」
埜「決まってますよう。いーぃ話を聞いたんっすわ」
憑代「くれぐれも」
埜「祐宮陛下に有利なように、」
憑代「結構(小銭の入った小袋を渡す)」
埜「雇っていただいてますからねぃ」


シーン5 招かれざる客

四方川「はー、でけぇな」
名無「神女が住むって噂でしたが、うーん、ちょっぴり不気味なもので」
蘇芳「中に入れて、もらえるもんかね」
四方川「号外ったってここまで外れぬ、それだけ遠いし人すらいない、ここまで人影ありゃしないのも、数式いらずの証明だろうて」
名無「足跡一つ、なかった、です!」
四方川「消しちゃおいたが、ここまでとはねぇ」
名無「なんでそんなに人気(ひとけ)がないので?」
四方川「建國神話のせいかなやっぱ」
名無「?」
四方川「双子の神と王の亀裂に、好いた男を王に殺され神の涙が地を覆い、一度大地が堕ちてしまった。それを復興させたのが、今の皇族と言われてるんだ。神女ってのは、その怒ってた神様のこと」
名無「えっ」
蘇芳「あほらしい、そんなもの居るハズがないだろう」
四方川「阿保らしいけど残念ながら、復興せしめた蛇の剣も、この唄を唄う唄姫もある。半分本当かもしれないぜ?」
名無「そ、そんな怖い人のもとへ」
蘇芳「いや名無さん」
名無「い、いえっ」
四方川「おい条、お前行って来いよ」
蘇芳「なんで俺が」
四方川「いいとこ見せろよ」
蘇芳「この能天が」
名無「あ、」
蘇芳「?」
名無「お気をつけて、ですっ」
蘇芳「はい、」
四方川「あーあーじれった」

蘇芳「すいませーん」
巫「あぁ、…」

SE:扉が開く音

巫「誰かし」
蘇芳「失礼、いきなり訪ねてしまい。訳あって寝床を探しているんだが、いくらか泊めてはもらえなんだか、あー、いやそう、逃げているもので」
巫「あぁ、そんな」
蘇芳「?私の顔に何か」
巫「名前は」
蘇芳「え」
巫「あなたの、名前は」
蘇芳「蘇芳、条」
巫「また、生きていらしたのですね」
蘇芳「なんと?」
巫「判別つかぬわ人の子なんて、みな眠ったなら同じ顔、同じ息をするはずなのに、あぁ、こんなに似通って」
蘇芳「どこかで、お会いしましたか」
巫「いいえ、ちっとも、私は、だけれど【あなた】にまた会えたそれだけで、そりゃあひとしお嬉しいのです」
蘇芳「はぁ」
巫「…古い社ではございますがそう、寝床に隠れ家、であればどうでもなるでしょう。そこなお二人もお呼びになって、さぁささ、中へお入りください。…私のことは、言わないで」
蘇芳「なぜ」
巫「そうですね、人でなしだから、でしょうか」
四方川「おーーい条」
蘇芳「お、おお、こっち来いよ、…誰もいねぇよ」
四方川「おー、じゃあ行くわ!名無ちゃん、」
名無「四方川さんが脅かすからっ」
四方川「あは、悪かったってば」
巫「彼らに私は見えやしません」
蘇芳「?」
名無「もー。条さんってば、聞いてください!」
蘇芳「ハイハイ、まずは中に入って、」
巫「今度こそ、守ります、だから」
名無「え」
四方川「名無ちゃん?」
名無「…?今行きますっ」
巫「どうか、盲目の夢の帳を、その手で破り捨てられるように、少しくらいは、いいでしょう?ねぇ、兄さま」


シーン6 誰が為の祈り

衣「神の声など誰にも届かぬ」
裏「神よ」
巫「…そう」
裏「神さま」
巫「今日も」
裏「どうか願いを叶えてください」
巫「こうしてどこそこ手のひらの上、願っているのよ私じゃない、『神』に向かって頭を垂れてはさもありなんと念じてる。地を沈めたのは昔の話、大地を堕とした愚かな神に、何故永久(とわ)に祈るのか」
裏「どうか私の告解を」
裏「どうかこの世の安寧を」
裏「すべてをよきに計らいませませ」
巫「千と数百過ぎただけ、やはり人の子は『神』に祈りて、きちりと目を見ることはない。待てど待てども愚かな子、森に駆け込み耳を塞げど、やまびこ飛び跳ね耳をも掴む。逃げても逃げても終わらない、逃がしてくれた兄様に、神に反して遺った王に、そうして残ったこの身を以て、これ以上どこへ逃げようか」
衣「近くにいたって、信じ祈るから、忌み嫌うからダメなのか」
巫「ええ」
夜見「お前は元来そういうものだ、逃げども逃げども人の子は、神に祈らず居られない。神など哀れな麻袋、人の子が見れば輝く宝石。被り続けるは神の性」
巫「はい」
蘇芳「代わりに、何もしなくていいんだ」
巫「やめて、その顔で言わないで!」
蘇芳「それが、」
裏「どうしてわからない」
巫「同じ顔だから、同じ名だから、そうして勝手に期待をするの、それはきっとそう良くはないのよ、だって勝手よ自分の勝つ手、そうとわかっているのにどうして、どうして、あなたに…嫌われたくない、叶えたい、叶えられずも、神と謳わず後生だからそう、……あの人も、”蘇芳条“もきっとそう、神など信じることはない。祈るなら、傅(かしず)くのなら、地を介し空に口づけを、『私』に祈ってそうしたら、きっと叶えてあげられる、そうでなければ、あなたの、祈りは、」
榊「あんた、名は」
巫「巫、巫と」
榊「神と同じ名は息苦しかろう」
巫「私を私で見てくれる、知らぬが花なら咲き誇るまで、永久に凡百の小娘なのだと、傍で笑っていたかっただけ、だけ、だけ、それだけなのに」
裏「堕としてしまえばよいのです!」
裏「祈らず忠誠を誓いなさい!」
裏「我らが王に!」
裏「王よ!王よ!王よ!王よ!」
巫「きっとこれから堕ちてしまう、わかっているのよどうしてかしら、鳥は囀り獣はわななき、人の子は泣いてまた言うでしょう、どうか助けて助けてくれと、革命だなんて止められない、私は大地に触れられない。兄さまにそう切り分けられた、私にどうすることもなし」
榊「堕ちた神の贋作が」
巫「…あと、私にできるのは、輪廻転生その歯車を、回してしまうその程度、……いっそ、そうして、神としてでなく、私に祈ってくれたなら、きっと、きっと、きっと。私、あなたを助けます」


▼シーン7 折れた杖
吾愁が駆け込むタイミングで咲埜と遭遇

咲埜「あれぇ、吾愁さまそんなに急いで」
吾愁「シーーーーッ、静かに」
咲埜「なんですか?へんてこな棒をお持ちになって、あぁっ!わかった、わかりましたよ、その棒エイエイ振り回し、日頃の恨みやつらみに嫉み、暗がりの果てに突き落とそうと、祐宮陛下のもとに行こうと、そういうことですね吾愁様!あぁなんとお強いことでしょう、私なんて見てくださいよ、休憩あけたはいいものの、こんなにも怯え中にも入れず、あちらに悪意でこちらにゃ敵意、まともに笑いもできません、アハハハこんな職場だなんて」
吾愁「もうっ、咲埜!大事なことだ、静かにおしよ、後生だからさ」
咲埜「(自分の口をモゴッと塞ぐ)」
吾愁「いいかい咲埜」
咲埜「(うんうん)」
吾愁「私はこれから夜まで帰らぬ」
咲埜「またですかぁ!?」
吾愁「シッ!絶対に、陛下に知られるな。何があろうと、私がいないと勘づかれるな」
咲埜「ふぁんふぇふぇすか(何でですか)」
吾愁「これ(剣)をもって出たと知れれば、たちまち牙を剝くからさ。陛下は獣だ、私を獣と唄うがそのくせ己の八重歯に気付かない、鋭利な刃を向けているのだといつになれども気付かない」
咲埜「八重歯なんぞをお持ちでしたか?」
吾愁「あの人は、八重歯を大人に向けるのだ、権利権力私利私欲、それらに向けてその歯で砕き、滑らかなソレを飲み込むからこそ、受け入れ取り込み膨らむからこそ、私はあぁいやいやですそうよと外に飛び出すだけ。飲み込まれてなどやるものかとな」
咲埜「はぁ」
吾愁「咲埜には少し難しかったな、私も何だい柄じゃない。…今からやることを恐れるのなら、最初から飛び出すことなどせねば、よかったとでも笑おうか」
咲埜「わ、笑いません!」
吾愁「、」
咲埜「吾愁様のおっしゃることは、どうにも難しくわかりません。けれどもあなたがなすこと全て、誰か何かのためのこと。私欲であろうと私利にあらずと、私はよーぉく見ていますとも」
吾愁「お前には、…かなわないな」
咲埜「子どものころからの付き合いですもの!兄さんの次に見た顔ですよ?」
吾愁「言えてる」
咲埜「吾愁様」
吾愁「ん」
咲埜「危ないこと、なのでしょう」
吾愁「ああ」
咲埜「私はいつでも、味方でいますよ」
吾愁「そういうところが、いっとう好きだよ」
咲埜「いってらっしゃいませ!」
吾愁「あぁ」

逆の段にいる三上・祐宮

祐宮「はぁ」
三上「やや、ため息は逃げますぞ」
祐宮「何が」
三上「んーそうですね、幸せに希望、望みに絶望、大体何でも逃げてゆきましょう。おかげで天気も曇り模様だ」
祐宮「それならこの仕事、お前がやるか?」
三上「ややや、そいつは別問題です。たとえ雹(ひょう)が降ろうとも、雨に霰(あられ)や炎であれども、何があろうともそれは嫌です。業務範囲は守るべきですぞ」
祐宮「皇族の業務と言いはすれどなに、やるのは者どもの接待だろうに。威厳を示せと、話はわかるが何故やらねばならぬのやらと、…アイツはやってもいないのに」
三上「やや、本日も皇女殿下のお話でして」
祐宮「威厳を示せど誰も従わぬ、むしろどうして従わせようか知恵を働かせる者ばかり、大の大人が子どものように、やれそう自分の良い方に、やれそう相手の嫌な方にと、舵を切れ切れと躍起になって、政治とはげに【まつりごと】、祀った者にあらよあらよと己の欲する祭りを開き、そこで踊ることなのだろうよ」
三上「私利私欲の舞う祭りを眺め、それすら手のひらで動かすことが、【まつりごと】とでも言いましょうかね。その点皇女殿下はさながら、祭囃子を民と奏でる、櫓(やぐら)の太鼓と言ったものですか」
祐宮「我らは元来人形である、それを忘れて人のふり、太鼓をたたいて民と笑うだ?冗談だろうと気味が悪い」
三上「操られること、とまで言っては陛下も好い気はしないでしょうが、それを受け入れず紐をちぎった、それが皇女殿下でしょうな」
祐宮「俺は操られているのではない、操られてやっているのだ。権力と共に象徴である、我らは永久(とわ)に人形であると、理解しつつも自我を保つ。それこそあるべき指導者だろうて」
三上「従えるものに穏便に、しかれど冷徹に裁きゆく、それがあなたの良いところだと、私は思っていますがね。耳を傾け、そのくせどうして聞き切らずいる、知恵の働く道化のようで」
祐宮「アイツもそうして眺めてみればいい、民に目が眩み目下を見ぬが、櫓に立とうと所詮は人形、従わずには生きられぬものと」
三上「適材適所に役割の違い、真っ当な流れではなくともそう、適した場所に収まったまででしょう、どうしてそうも目くじら立てて、潮吹き波立て荒れるものかと、私は少々わかりかねますれば」
祐宮「わかってくれとは言わないさ」
三上「それなら何をお望みで」
祐宮「俺になってみろ、それだけだ」
三上「そいつは随分」
祐宮「軽蔑したか」
三上「いえ?あなたらしいですよ」
祐宮「その答えだって、お前らしいよ」

祐宮、先にハケ

三上「しかし、少々興醒めですな」


シーン8 取捨選択

憑代「興醒めだ」
埜「えぇ~なんすか、足りませなんだか?」
憑代「革命家の名を広めたところで、ヒレが付いた魚になるだけ。いやいやそれじゃあ薄味でしょう。もっとギトリと脂っこいもの、そういう話を広めておくれよ」
埜「そう簡単に言ってもねぇ」
憑代「妹とやらに聞いてみればいい」
埜「アイツのお暇まだ先でして。これでもかわいい妹ですんで、知らぬ間に踊ってほしいんですわ」
憑代「よくかわいいなど言えたもんだな、…あっちはどうなっている」
埜「人探しはもう難航ですよ!隠し子だなんていわれても、そうホイホイと出やしませんよ。目印になるは禍々しい指輪、いやぁ~あっしも目は良いですが、スラムなど手元を隠して歩く輩の集まりですぜ?いっそ大臣がやりゃいいでしょうに」
憑代「は」
埜「建國祭の唄姫なんぞ、毎年代わる代わるでしょうに、何です、やれない訳でもおありで?見るに毎年若い娘が唄いますでしょ、大臣だってほら若いんだから」
憑代「埜」
埜「やべ」
憑代「私がお前を買ったのは、情報集めがうまいこと、口車が立ち金持ちにすら話が回ること、…変に詮索しないところだ。わかるな」
埜「すんませぇん」
憑代「引き続き対応を」
埜「あれ、どちらへ」
憑代「休憩。人が来ない穴場まで」
埜「へぇ、穴場」
憑代「きっと“使う”はずだから」
埜「…休憩なんてするんすね」

埜ハケ。

憑代「…少し、疲れた」

憑代と入れ替わる形で右膳と左膳が入ってくる。

左膳「…」
右膳「こういうのはさ、疲れるねぃ」
左膳「それでも口は回るんだ」
右膳「口は、ほら、勝手に回るだけだから」
左膳「そ」
右膳「…参ってんねぇ。やっぱやめとく?」
左膳「いいの、これで」
右膳「ま、オイラもいいけどさ。これで手柄を立ててみなって、きっと金持ちで慕われちゃって、綿のベッドに焼いた肉、名無だって」
左膳「名無も、」
右膳「…名無だって、笑ってくれる」
左膳「許してくれるかな」
右膳「許してもらうんだ」
左膳「私たちは、どうしてこれしか選べないんだ」
右膳「コッチ」
左膳「きっとあの子を泣かせてしまう、上官殿たちを殺すお役目を、我らが自ら負ったと知れば、あの子はきっと、あの子はきっと」
右膳「名無は馬鹿じゃないんだぜ?オイラ達だって仕事があるんだ、役目があるんだ、それを投げ出して一体どこまで守れるんだって?これからやることは言うならそうさ、投げ出さぬまま守るため、そのため誰それ切り捨てる、それだけのことだ、そうなんだ」
左膳「アッチ」
右膳「ん」
左膳「あんたは何を捨てる」
右膳「上官殿たちを」
左膳「私は、あの子からの信頼と、…あの人を捨てる」
右膳「うん」
左膳「アンタだけは」
右膳「隣にいるよ」
左膳「…行こう。あの子が待ってる」
右膳「そうじゃなくちゃ!全力で嫌われてやろーね」
左膳「ばか」


シーン9 別れの告解

四方川「馬鹿って言ったか馬鹿って!」
蘇芳「あぁ馬鹿だ、お前も馬鹿で俺も馬鹿。責を負うならこれ以上、ここに留まれはしないだろ」
名無「あ、えと、ふたりとも…」
四方川「なんだい、ここには誰も来ない。一旦潜み、周りを伺い、熟慮断行を進めるべきさ。それとも何か?今は熟慮を終えた時だと?さすれば話を聞こうじゃないか、最もお前の責任論では、配慮ですらなにできまいて」
蘇芳「だからこうして止まっていても、街で何が起こっているやら、誰それ死んでいるやもしれない、カゲとて生きているのかどうか、その責(せき)己(おのれ)で背負えと、名だけを冠した主といえど、見過ごせないのが性だろう」
四方川「今やそれが身を滅ぼすぞ!幸い革命に冠する三人、バラバラと逃げているのだからそう、己の責を持たぬ輩ならそも革命など起こさんて」
蘇芳「だが」
四方川「少しは信用してろってーの」
蘇芳「…」
名無「心配な、だけ、ですよね」
四方川「名無ちゃん」
名無「ヘヘ、私もそうですもの。アッチはちゃんと仕事してるかな、コッチは心配していないかな、私は、…手配されていたりとか、殺されるなんてあるのかしらって、」
蘇芳「君は唯一の一般人だ、殺されるなんてそんなこと」
名無「これが、(服の下にあったネックレスを取り出す)」
蘇芳「指輪?…待て、これ」
四方川「憑代の、唄姫の指輪?!」
名無「みなさんのご友人で、同じ指輪の方がいたでしょう?棄てられた日に握りしめていた、指輪をお持ちの女の方が、確か、憑代謂織さん。私、ちょっと期待していたのに、もしかしたら、お姉さんとか、でも、銃を、向けられたから」
四方川「隠し子はたまた落し子か、どうであれ消す気であるということか」
蘇芳「…よかった」
名無「へ」
蘇芳「君を連れて逃げて、よかった」
名無「条さん…」
四方川「…幸い、君には母か姉か、兄とも取れる、そんな者たちもいるのだからさ、無事でいることだけを考えてしまえば問題ないさ」
名無「…はい」
四方川「はー、名無ちゃんのおかげで落ち着いちゃったな」
蘇芳「言い方が悪い。…ありがとう名無さん、少し熱くなりすぎた」
名無「いえ、私はなにも、…あれ」
蘇芳「ん?」
名無「誰か来ます!」
四方川「嘘だぁ」
蘇芳「隠れて」
巫「大丈夫、あの子はここには来ませんよ」
名無「え(ちょっと巫が見えてきた)」
蘇芳「アンタ」
巫「ふらりと現れて休んでは、根無し草よと消えていく、小さく弱い人の子です」
蘇芳「…」

憑代「神よ」
巫「その呼び方、嫌いなの」
憑代「私は神を信じちゃないが、この告解は他言無用と、定めしものだと信じるからこそ、どうか耳をそばだてて、貰いたいと思うのです」
巫「今日はおしゃべりね、あなたもついぞ勝手だわ」
憑代「悩み抜くということを初めて知った。楽天的に、生きてきたという訳じゃあ無い。人なりに悦びを唄い悩み苦しみ嘆いてこの世を生きてきた。人並み以上に学を積み、人並み以上の地位名誉、家紋の期待も得たこの身でも、友と繋いだこの手を離すか、この世と繋いだその手を離すか、今でも正しきことを成したか私にはもう分からないのです。正しいか、正しくないか、それが自分で決められるなら、世俗を家督を定めを捨てて、身を投げ出して生きられる、果たしてそうはいくのだろうか。無理だ、私はそうは思えぬ、思わぬ思えぬ身を投げ出せば一体何が残るんだ。私はいつも何者でもなく、学に地位に名誉に家紋、それらを踏まえて私になるなら、どうしておいそれ棄てられようか?」
巫「度胸も勇気もあるからでしょう」
憑代「この世すべての自由など、はなから存在することはなく、掛ける虎すら首輪を受け入れ貧しきネズミは肩を寄せ合う、何時でもそうじゃあありやしないか。しからば我らが手に入れる、新たな自由もそうじゃあないか?」
巫「あなたは疑い深いのね」
憑代「ただ怖がりかもしれません、恐れを受け入れ震えるまるで猿だとい言うのでしょうが、人であり続けられなかったのは、かくして我が身を守りたいがため」
巫「守れるものか、知らぬが仏とあなたは全てを見ないのね」
憑代「こんな布切れで、溶かした泥で、私はこれらを守れましょうか?しかれどこれらで彼らのことを、どうして護ってやれましょう、どうして救ってやれましょう。負け戦などと世迷言、己が決めた戦にどうして迷い涙を流そうか、あなたはきっとわからない!
…誰も、彼も、有象無象すら知っちゃあいない、すべては己だけのもの、わかってくれなど烏滸がまし、」

憑代、立ち上がる

憑代「すまない、あなたも役を持つもの、悔いや悩みに耳を傾けるその役を斬り捨てたこと、平に詫びてから去るとする。(巫をまっすぐ視認して)また、」
巫「……そう、あなたも」

蘇芳「あんまりだ、」
四方川「条」
蘇芳「知らない方が幸せだ、これを聞いては憑代を、無慈悲に弔うこともできない、あれはあまりにも…自戒すぎる」
名無「自戒、」
四方川「いいや、あれはそうだ、過剰な自意識。自己矛盾であり自我を自存するそれだけのもの、自分に酔った者の妄言に流されてみても何もないだけだ」
蘇芳「でも、俺はあいつを撃てない」
四方川「条!」
蘇芳「撃ちたくない、それは誰の責任だ、あいつに責任を負えというなら、それでいいだろうそれでも俺は、あぁして悩んだあいつに何故銃口を向けられようものか」
四方川「お前が嫌なら俺がやる」
蘇芳「…それも嫌だ」
四方川「いい加減に」
名無「一度、探してみませんか。血を流さず、そうして誰も傷つかない、そんな理想を描いてみても、他人を意のままに配置したって、誰も怒りはしないでしょう?(巫の方を見て)」
巫「あなた」
蘇芳「それは…」
巫「こちらに足を踏み入れたなら、もう戻れない。わかっているの?」
名無「それでも、私は」
巫「…盲目で、居たいのですね」
名無「現実(いま)に盲目で、いますから」
巫「そう、ならばあなたは、盲目なあなたは、いったい誰に祈るのでしょう」
名無「あなたは、いったい」
巫「あなたもきっと、この巫に、祈らない」
吾愁「開けろ!!!」
蘇芳「誰だ!」
吾愁「カゲだ!!」

SE:扉をあける音

蘇芳「!お前か!無事…で…??」
名無「!カゲさ…あれ、誰、です?」
吾愁「?…あぁ、覆面か」
四方川「え、君もしかして、」
吾愁「…見られたからには名乗ろうか。日ノ本の皇女、皇位継承権第一位、皇の妹その名は吾愁。それが私…いや、僕だ」

沈黙

吾愁「…ハッ、」
蘇芳「水臭いな早く言え!!?」
四方川「パチモンかなって思ったよ!?」
名無「仮面の下も美人さんです!」
吾愁「もっと言うことあったろう!?」
蘇芳「え、…ほかに何がしあるものか?」
名無「うーん、えーと、」
四方川「いやぁなんだい、恰好が違うと印象も違って見えるもんでね、カゲって言うよか光みたいだ、…すまん、他はない」
吾愁「…ここまでくると安心するよ。見込んだかいがあったもの」
蘇芳「褒めてんだよな」
吾愁「そうだとも」
四方川「一人は人選ミスったけどね」
蘇芳「一言余計だド阿呆が」
四方川「宰相たるもの言葉は多くていいんですって」
名無「…ふふ、っふふふ」
三人「?」
名無「やっと、いつもみたいな皆さんにお会いできたと思ったら、すこし安心したんです」
吾愁「なんだ、喧嘩でもしていたか」
四方川「君とておおよそそうだろう」
吾愁「む、」
蘇芳「それで、カゲ」
吾愁「?カゲでいいのか」
蘇芳「?俺たちにとってカゲはカゲだろう」
四方川「俺らが知ってるカゲと吾愁殿下と、今話してんの誰っていわれりゃカゲですよって答えるでしょって」
吾愁「…」
四方川「何、変えてほしい?」
蘇芳「吾愁、となるとそもそも女だったのか?」
四方川「そこすら気にしてなかったもんなぁ」
吾愁「…いや、いい。要件に移る。僕も急いで戻るから、手身近に話す、覚えろよ」

吾愁、抱えていた剣を蘇芳に手渡す

吾愁「これを持って、建國祭に向かえ」
蘇芳「建國の、剣?」
吾愁「建國祭の仕組みは知っているな」
蘇芳「ああ」
吾愁「皇家管理の建國の剣、憑代の家の唄姫の唄、二者を交えて國の安寧を願う。…その場に新たな指導者のお前が、それらを携え現れる。この國の夜も明けるだろう」
蘇芳「良く手に入れてきたもんだ」
吾愁「家出ついでにかっぱらったのさ」
四方川「急ごしらえの筋立てだ」
吾愁「スイレン」
四方川「でも、悪くない」
蘇芳「唄姫ってのはどこにいる」
吾愁「どうも行方がわからんそうだ。憑代の家の娘だろうが、生憎社交場に出てこない。姿も声音も知らなんだ」
蘇芳「祭りまでにすぐ探せってのか」
吾愁「そうなるな」
蘇芳「あと数刻か、…なかなか無茶だ」
吾愁「僕もなるべくやってはみるが」
四方川「…いや、その必要はないんじゃないか」
吾愁「え?」
四方川「なあカゲ、唄姫ってのは世襲制のもの、憑代の子で齢十七まで、そういう話であったはずだな」
吾愁「そうだが、それがどうし」
蘇芳「まさか」
四方川「名無ちゃん、いくつ?」
名無「…へ?」
四方川「いるじゃないか、唄姫が」
蘇芳「水煉!」
吾愁「はぁ?」
四方川「喜べカゲ、手間が省けたぞ」
吾愁「なんのことだ、彼女は酒屋の、……」
四方川「スラム育ちの彼女の胸に、さがったソイツに覚えはないか」
蘇芳「やめろ水煉、なぁ」
四方川「さっきからチャアチャアうるせぇな、お前だってわかるだろ!」
蘇芳「名無さんだって決まっちゃないし、巻き込む必要もないはずだ」
吾愁「君は、憑代の」
名無「…」
吾愁「彼女を連れていけ、その指輪を見せてしまえば、偽りであれど真になる、君が今年の唄姫だ」
蘇芳「これ以上巻き込めるわけがないだろう」
吾愁「謂織の目当てもきっと彼女だ、どうせ一緒にいたならば、唄姫攫いの罪も上塗り、世紀の大犯罪者だろうな」
名無「条さん、」
蘇芳「行かなくていい、なんならここに留まっていい、」
四方川「お前は何のために走ってきた?國のためか?自分のためか?後者だなんて答えた日には、責任の鬼など笑わせる、身内を守る自衛の男と後世に笑いなじられような」
蘇芳「お前!」
吾愁「やめろって」
名無「私を使ってください」
蘇芳「なっ…」
四方川「名無ちゃん」
蘇芳「表に出れば、前のようには戻れない、右膳に左膳も」
名無「知ってます」
蘇芳「だったら」
名無「いつかこうなるって、わかってました。酒場であの人に会ってから。…ここに私がいることだって、きっと何かの巡り合わせだと、されば己の果たせる役を、演じ切ってみせましょう」
蘇芳「……」
四方川「ごめんね」
名無「いいんです、…ほら、向かいの豪華な船よりも、乗りかかった船の方が、愛着があっていいでしょう?」
四方川「はは、言えてる」
吾愁「ありがとう。この恩は、必ず」
蘇芳「名無さん」
名無「はい」
蘇芳「嫌なら逃げていいんです」
四方川「お前まだ」
吾愁「水煉」
蘇芳「責任というものを追いかけ、こうしてここまで三千里、どうしてあなたの責となっては、負うことをこうも恐れるのかが、俺には未だにわからない、でも、もし嫌だと声をあげれば、貴女を連れて逃げられる、だから」
名無「私を、…私を、守ってくださいね」
蘇芳「…命に代えても」
四方川「覚悟決めんのがおせぇんだって」
蘇芳「水煉」
四方川「心配すんな、とっくに乗ってる」
蘇芳「出発しよう、時間がない」
吾愁「それじゃ、お先に失礼するよ。」
四方川「カゲはどうする」
吾愁「カゲのともしび、船灯(せんとう)として、この船旅を導こう。僕が直々に道を開くんだ、終われば酒でも奢ってくれよ?」
四方川「ダサいところを見せたんだ、ここは条にたかろうぜ」
蘇芳「…今回だけ、特別だからな」
四方川「っしゃ!」
吾愁「ではな諸君、また会おう!」

吾愁、ハケ。

四方川「先に周り確認してる。…強く言って悪かったな」

四方川、ハケ。

巫「お行きになるのね」
蘇芳「おい」
名無「お世話になりました」
巫「大丈夫、この子は知っていますから。…盲目のあなた、どうにもならぬと思ったならば、この巫に祈りなさい」
蘇芳「気が向いたらな。…また、礼を言いに来よう」
巫「また、」

SE:銃声

蘇芳「!行こう」
名無「はいっ」

蘇芳、名無、一礼してハケ。

巫「また、また、また、…いつ、あなたたちは、私に、(ふらふらと着いていく)」


シーン10 争乱

憑代「さよならだ」
埜「これで最後すかぁ」
憑代「無駄口叩かず準備なさい。建國祭までに間に合わぬなら、潰せるだけの大きな話で市中引き回し掻き混ぜる。新聞風情でできることなどここらが果てよ、精々ね」
埜「この記事をなんです、貴族の邸宅に?あいつら話を聞かねえのになぁ」
憑代「聞かせるまでよ。このデマで、ひと時騒げばいいだけのこと。それにどうだいデマとは言えど、くるりと一周回ってみれば、いつしか真白な真実となる」
埜「吾愁殿下の皇位継承権剥奪、…どうですかねぇ、いきなりですから、デンと構えていいもんかって」
祐宮「構えられぬなら笑い種だな」
憑代「おや、城門を抜けられるとは」
祐宮「見張りがちょうど暇だそうでな、顔を出してやったのだ」
埜「げぇっ、ホンモノだ!?すいやせんでした!」
祐宮「謝るくらいなら口にするでない、いやなにそなたの腕は利いている、さぞやうまく騙るのだろう?この國の皇の言の葉なのだに速報早馬で届けたところでそうそう悪くもないだろう。…そうして知らしめておいたなら、輩も身の程知るというもの」
憑代「構えられるからと雇っているんだ。期待を裏切ってくれるなよ?」
埜「駄賃も弾んでくださいよ?…ま、面白けりゃいいんですがね!」

祐宮と憑代ハケ。

吾愁「咲埜!」
咲埜「お帰りなさいませえぇ!!聞きましたか!?吾愁さまの王位継承権が」
吾愁「今すぐ外出の準備をなさい」
咲埜「え、なんでです、もしやクビ!?今の失言はなかったことに!」
吾愁「頼みたいことがある。お前にしか、頼めないんだ聞いてくれ」
咲埜「頼、み?」
吾愁「スラムの近くの高台で、民衆に弁を打ち付けて、さあささゆかれよ建國祭へと、新聞売りにその身をやつし、声を高らかに唄ってくれないか。…私の噂は聞こえているさ。そいつの真偽はどうでもいい、どうか行ってはくれないか」
咲埜「…ええと、」
吾愁「お前の語りはピカイチだ。そうして持つものそれらを用いて、どうか助けてくれないか」
咲埜「…」
吾愁「何故だどうしてという暇もない、ただしお前が恐れるのなら、嫌だと言ってくれていい、それはお前の自由なのだから」
咲埜「違うんです。…吾愁様。はじめて、頼ってくださいましたね」
吾愁「え」
咲埜「長くお仕えしましたが、ずっと誰をも頼らぬあなたが、初めて私を頼ってくださる。それがいっとう、嬉しいのです。……きっと悪意に晒されるでしょう。きっと好奇の目も向くでしょう。しかれどこうなりゃ頑張りますよ!大事な大事なあなたのために」

蘇芳「何の音だ水煉!」
名無「あ、」
右膳「名無!!」
左膳「…名無を渡してください。早く!」
名無「アッチ!コッチ!」
四方川「お前たち、何故ここに」
右膳「討伐令が出たもんでして、んー、そっすね、抜け駆けとでも言いましょか」
左膳「名無は対象外なので、早く渡してくださいよ。…見逃してもいい、後生ですから」
名無「ごめんね、ちょっと、難しくって」
右膳「名無!」
名無「絶対戻ってくるからさ、少し待ってて、欲しいんだ」
左膳「私たちより、大事なの」
名無「…」
四方川「振られちゃってぇ」
左膳「対象変更。上官殿、おふたりは討伐対象です。…言っていること、わかりますよね」
右膳「オイラ嫌(や)だけどな!仕方ないんだ、…名無がいっとう、大事だからさ」
蘇芳「お前たち」
四方川「…は。仕方ない、仕方がないなぁ!条、先いけ」
蘇芳「!?」
四方川「お前は、お前たちは、ここで止まってはならんだろう」
蘇芳「だが」
四方川「俺の腕を忘れたか?士官学校の次席クン」
蘇芳「…腕はなまってないだろうな」
四方川「冗談」

咲埜「それじゃあ行きます」
吾愁「咲埜、…すまない」
咲埜「何言ってんです!ちゃあんと戻ってきますから」

M:Firmament3 (※銃を撃つタイミングで再生開始)

四方川/咲埜「さぁ」
吾愁/名無「咲埜」「四方川さ」
四方川/咲埜「行け!振り向くな!」「帰ってきて、くださいね」

蘇芳と名無はハケ。咲埜は下の階→端のツラへ躍り出る

祐宮「公安部へ通達、あやしき輩は須らく、牢に閉じ込め外には出すな。期日は宴、建國の唄が空に轟くその日まで。…あの女、何も言わずとも手を回しおって、よくよく頭が回るものよな」
吾愁「治安部へ通達、公安の首を持って離すな、今や何をしでかすやもしれぬ権力の犬に泡をふかせて、尻尾をちぎってやりなさい!」
裏「だめです、尻尾がつかめません!」
吾愁「チッ、誰か、手立ては」
三上「あぁあぁ行儀の悪いこと」
吾愁「!」
三上「あの大臣のやることだ、尻尾をつかめとそこらの者に、命じたところで務まりませんよ」
吾愁「ならばお前にはできるというか!?陛下に愛想を振りまくお前が!」
三上「あぁいけませんよ。指導者たるもの、命じる時には冷静に使える者は使うのです。用途用法を間違えず、寸分違わぬ方法で」
吾愁「…」
三上「ほぅら、邪推はなりません。政とは祭でもある、唄い騒いで残った者は、あぶくに金に何となるかさえわからない、それが面白いものでしょう」
吾愁「宰相」
三上「えぇ」
吾愁「お前はきっと私じゃない、私のこともわからぬ然して私にできないこともできるだろう」
三上「はい」
吾愁「公安の犬を黙らせて」
三上「承知しました、わが主君」

四方川「どうだ、今なら間に合うぞ」
右膳「ハ、どの口が言うんすか」
左膳「情けは無用、撃ちますよ」
四方川「お前にソレ(拳銃)は似合わんよ」
左膳「持たせておいてよく言いますね」
四方川「は、」
右膳「さっさとそこをどいてください、オイラはさっさと帰るんだ、名無と一緒に」
左膳「上官殿、お覚悟を」

埜「号外!号外!読めや読めやの特報だ!なんだい汚ねぇ男だなって、そんなの気にしちゃられねぇよ!我らが國皇祐宮さまが実の妹に啖呵をきった!皇位継承の権利を燃やして大きな花火と相成るぞお!建國祭なんぞ捨てておけって、読み込んでおいて損はねぇこった!祭なんぞ霞だろうて、これが真の政(まつりごと)!さあさ建國の祭りなど置いて、宮に駆けて祝いましょうぜ!革命明けの新たな國に!さあささ号外、号外だあ!」
咲埜「号外!号外、号外だよぉ!巷じゃ噂の皇位継承、剥奪するなぞおかしな話、なんですここには届いてないって!あーやだ薄情な新聞だこと!だけれど私にお任せなすって、宮殿勤めの私の言葉は生の声にほかならぬ!祐宮陛下?あぁあの方が、デマを流しているのだそうよ!信じられない?ならば向かいませ、建國祭へ今すぐに!建國祭で剣をお持ちのその人こそが皇であります、それは我らも存じていましょう!いつの世であれどそうであるなら、それを疑うことも無い!されど臭うならその目をもって、確かめようというものでしょう!唄えや踊れ、手のなる方へ、祭囃子の鳴る方へ!」
埜「なにやってくれてんの、妹よ」
咲埜「吾愁さまが頼ってくれたなら、お返ししたいと願ったまでです!ごめんね兄さん、譲れませんの!」

右膳「ってえ!」
左膳「参謀なんて机が戦場(いくさば)、そう思いたいものですね」
四方川「銃を教えたのは誰だったかね?まだ弾道が甘いもんだな」
右膳「嫌味なもんですねこんちくしょー!」
四方川「今からでもいい、やめにしないか」
左膳「…」
四方川「きっと条が何とかする。俺たちは争う必要もない、わかっているだろうそれくらい」
左膳「あなたも我らも、身内に対して甘いのですよ」
右膳「きっとじゃなくて、今が大事、だから名無を今取り戻したい、危ないのなら今すぐに、邪魔をするなら容赦しやせん(撃つ)」
四方川「ド阿呆が、外した数を数えたか?二人合わせて残りは二発。精々きちんと当てるこったな」
左膳「あなたこそ、やめにしようとは思いませんで」
右膳「オイラ、悪かないって思ってたんすよ?もらった苗字も、この生活も、…みんな家族になったみたいで」
四方川「託した男の背中を守る、案外気持ちがいいもんなんだ。たとえ墓標となろうと、それで守っていられるのなら、そんな業も悪かない」
左膳「ふふ」
右膳「交渉、決裂っすね!」

SE:銃声×四(Mの切れ目)
アッチとコッチ、倒れる

四方川「小難しいことを考えるから、こんなことになるんだよ、……ごふっ」

四方川、口から血を吐き出す

左膳「引き分け、ですよ、上官殿」
四方川「勝ってから言え、半人前が」
右膳「…あーあ、欲張っちゃだめなんすかね、全部なくなっちゃう」
左膳「馬鹿、私はいるでしょう」
四方川「いまさら怖がるやつがいるもんか」
右膳「コッチ」
左膳「うん」
右膳「上官殿」
四方川「ああ」
右膳「名無、」
左膳「…」
右膳「ずっと、待ってるのになぁ」
四方川「…俺も、待ってたんだけどな」
四方川「(空が)遠いな、ぁ」


シーン11 おわらない

名無「はぁ、はぁ、」
蘇芳「もうすぐだから、名無さん、」
名無「大丈夫です、はやく走って、」
三上「ややぁ、よくよく走っておいでで」
蘇芳「!、あんた」
三上「あぁあぁいけない、怖がらないで。私はあなたの味方です」
蘇芳「そう簡単に」
三上「皇女殿下に、頼まれまして。公安の犬は小屋に戻しまして、何も恐れず走れましょうよ。して、そこのお嬢さんは」
名無「あの、えっと」
三上「お名前はいずれ伺いましょう。さあ走って、上階にゆけばすべての役者が出揃い幕もおりるでしょう」
蘇芳「なにをそんなに楽しげなんだ」
三上「面白いでしょう、こんな一大事。…お聞きなさい。上に行ったら、(耳うち)」

沈黙

蘇芳「…それを」
三上「きっと、最善と思えましょうよ」
蘇芳「名無さん、行こう。…ごめん」
名無「?」

蘇芳と名無、階段を駆け上がる

憑代「条」
蘇芳「よお」
憑代「…そっちは、…は、私生児か」
名無「…」
憑代「ここまで馬鹿だと思わなかったよ」
蘇芳「今からでも、戻ってこないか」
憑代「ふざけるな」
蘇芳「あれだけ懺悔をしておいて、今なら戻れる、その殻破らば」
憑代「ふざけるな!臆病者と笑いたいのか。卑怯者と欹てたいのか!?お前の無駄な責任感に、付き合うのはもううんざりなんだ!」
蘇芳「…」
憑代「もう、誰にも頼らない、誰の言葉も聞きやしない、私の言葉を聞けばいいんだ、聞けば聞いただけ振り回される、従っただけ振り回される、世間に、権力に」
祐宮「だから俺と共にある。変えることなど考えず、ドンと構えていればいい」
蘇芳「皇、」
吾愁「陛下!!」
祐宮「吾愁」
吾愁「あなたもおかしいとお思いでしょう!?変えることもなく、考えもせず、立ち尽くしているのっぺらぼうに、己の顔も映さぬままに、それが指導者と言えるものですか!?」
憑代「カゲ、哀れだな」
吾愁「あなたもこちらに来ればいいのです、私はこうして対話ができる、彼らのおかげで、侍女のおかげで、こうも変わることができました。あなただって」
祐宮「変わる前から、…お前のことが嫌いだったのに、どうしてそうも、どうして、…」
憑代「國皇陛下!迷うことはありません、彼らの首を落とすのです、皇女殿下は難しくとも、あそこの賊は可能であります、今すぐ堕としてしまいましょう!」
祐宮「大臣」
憑代「危険です!よくよくご覧になられましたか、建國の剣を携えて、唄姫と共にやってきた、このまま建國祭が始まれば、どうなることかはおわかりでしょう!?」
祐宮「お前(蘇芳)。」
蘇芳「…」
祐宮「…お前は、何も言わぬのか」
蘇芳「…そも計画は失敗し、あがいてきたは良いけれど、挙句このざま、行く先なしだ。駆ける最中で街を見たものだ、デマだ何だとおおあらわ、それでも責を負ったこの身で、何が最善か考えたが、…俺の、首を落としてはくれんか」
吾愁「ばっ、」
名無「条さん!?」
蘇芳「俺の首でも晒せばいい、國を荒らした男の首を、落としてやったと唄えばいい」
祐宮「はっ。呆気ない。野心にあふれた賊かと思えば、こうもホイホイと首を差し出すか」
吾愁「よせ条、考え直せ、それが最善と誰が決めたんだ!」
蘇芳「俺が決めたんだ、カゲよ。…しかれど条件がひとつある。彼女(名無)が俺の首を取る、代わりに無罪としてくれなんだか」
名無「条さん、何言って」
祐宮「大臣」
憑代「…彼女は私生児、我が家の子ならば、下手に殺しもできますまい」
吾愁「条、おい条!」(蘇芳から吾愁へ耳打ち)
祐宮「ならばよかろう。…革命など、終わればこうも呆気ない」
吾愁「くだ」
蘇芳「責任は、俺が取るさ」

名無「いや、私嫌です、そんな、条さん!」
蘇芳「ごめん名無さん、さよならだ」
名無「条さ」

名無を抱きしめながら耳打ちする蘇芳

蘇芳「百年後、また会おう」
憑代「…何か、言い残したことはないか」
蘇芳「自責としようが他責としようが、こうして首を差し出すのなら、俺の、いいや、俺たちの、この手で求めたものには一体何の価値があったか。神様とやらがいたのなら、百年経ったその日に俺を、また産み落としてもらいたいものだ。いっそこの責もなにもない、先へ行っても見たいもの。神頼みでもしてやろう、神などどうせいないが、最後にひとつ、頼んでやろう」
祐宮「さぁ首を取れ、名無しの唄姫」

時が止まる

巫「神に、頼んでしまうのですね」
蘇芳「え」
巫「どうして、どうしてあなたも、神がよいのですかそんなにも」
蘇芳「一体何を」
巫「ずっと見てきた、誰に祈るか、何に救いを求めるか、そうして私を求めてくれたら、ひとりでないと思えたものを」
蘇芳「巫、あんた」
巫「神に祈りをささげるのなら、私に祈らないのなら、無責任をあげましょう。私は巫?人でなし?そうして救いを求めるのなら、この世にあなたはいりません。これが、神の救い方」
蘇芳「おい待て、なにが」
巫「さあささ輪廻の外側へ、二度とこの世へ戻らぬように。どうか、」
名無/巫「安らかに」

名無、蘇芳の首をゆっくり切り落とそうとする
手拍子→「世界中の子どもたち」を皆さん大合唱
巫がひとり「異邦人」を唄っている

蘇芳「そんな、俺は、また会えるから、て」
巫「(首を横に振りながら歩み寄る)」
蘇芳「会え、ない?…なら、死にたくない、死ねない、そんな、死にたくない、死にたくない死にたくない!!!」

巫、蘇芳を抱き締める
照明CO
長い沈黙ののち、照明FI
死体はないが、蘇芳が死んでいる。巫はいない。

祐宮「ハハ、こりゃいい、傑作だ。どいつもこいつも、自分自分と、犬畜生が」

名無、祐宮を刺す

祐宮「…は?」

祐宮、床に倒れる

憑代「陛下、…陛下!!何をしている、あの女を!」
三上「うまく、ことが運びましたねぇ」
憑代「貴様、まさか」
名無「カゲさん、」

吾愁、名無から剣を受け取り、振り上げる

吾愁「革命の、はじまりだ」


ED:Omoi『突撃前夜のダンス』

終演

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