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『日常的隣人』吉田知子選集Ⅱ

吉田知子の小説は、初めからどこか不調和な雰囲気が漂っていて、読み進めるごとにその歪さが増していくところに魅力があります。狂っているのは自分なのか相手の方なのか、あるいはどちらもおかしいのか、その判断がつかなくなるような物語を好んで紡ぎ出し、幻惑します。

『日常的隣人』は醜悪で歪な様相を呈する家族関係や隣近所との関わりが、ふとしたきっかけで崩壊していく様子を描いた連作短篇集です。

登場人物たちは、お互いに嫌悪し合いながら暮らしており、それでいて関係を断つには至っていません。惰性のまま続けざるを得ない怨憎会苦という状態です。

どちらかといえばリアリズムとか純文学に近い小説なのかなと読み進めていると、突然不可思議な事態が発生するので、全く油断できません。

特に衝撃を受けたのが「日常的嫁舅」です。

主人公「鋭介」は引退した元実業家で、体調を崩したのを機に、息子夫婦を家に住まわせるようになりました。

人間嫌いの鋭介は、息子たちが自分の財産を狙っていると邪推します。自分の世話をしているのは本当に孝行心からなのか、そのことを試すため仮病を使って彼らの行動を確認しました。今わの際を装い、孫を呼びつけますが、その孫に対してもひどい悪態を吐きます。そしてこの騒動が終わった後……。「ケムハラノ、キミムカケメコ、イムニンキュ、ヘラへ」「キミコハラ、ロレプンギン、コーレモシールユシ、ネイコ、キ」息子の嫁が突如意味不明な言語で接するようになりました。息子や老女中は何事もなく振る舞っています。

突如意味不明な言葉を話し始める

こんなのはただの戯れであろうと高を括っていましたが、いつまで経ってもその言語で話し続けます。業を煮やした鋭介は、自殺する振りをして、その悪戯を止めさせようとするのですが……。物語の終盤、嫁の真意が明らかとなります。

本書には、下垂体性小人症の老女がゴミ溜めと化した家の片隅で朦朧とした生活を送る「人蕈」も収録しています。こちらも凄絶な一篇です。


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