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土蔵は下へと旅を紡ぐ

 ふらふらしていた俺が故郷に戻ったのが二年前。

 実家の祖父と土蔵掃除を始めたのが三時間前。

 いま俺はダンジョンに潜っている。横にはファンタジー世界から来たエルフ。俺が腰に差しているのはファンタジーから流出した魔剣グラム。

 土蔵の真下にダンジョンが生じたというのは笑い話だが、現実に家族を害したとあれば話は別だ。グラムは祖父の魂を食い本人は昏睡状態で寝ている。

 経緯はこうだ。掃除を始めたところ、箱からグラムがこぼれ落ちた。魔剣は俺の心臓めがけて射出され、横の祖父が身代わりになった。土蔵に出現したエルフは俺を見て、傷を癒やしたいなら迷宮に入れと脅迫した。最深部には魔剣の片割れがあり、傷を癒せる。俺は腹を決めた。

 周囲には蝿をデカくした化け物らが倒れている。

「ツェツェ如きに何を苦戦している」とエルフ――ヴィシュミシアがいう。金髪碧眼で、最新鋭の魔装アーマーはへそ出しルック。くそファンタジーめ。

「疑問だが、なんで魔剣は俺を襲わないんだ」

「仮だが、お前を宿主と決めたからだ。さっきの肉親のお蔭だろう。……徘徊型だ。向こうから来たな」

 意味を理解できないでいると、壁の中から三メートル以上の巨大蝿が出現する。俺は脚を魔剣で受け止めるが足元が割れる。

そう、合図したら走れ)と魔剣から祖父の声がする。俺は手を離し蝿の真下を走り抜ける。踏みつけようとする巨大蝿をヴィシュが牽制。魔剣は手に飛んできた。

 瞬間、祖父の戦闘体験が記憶に流れ込んだ。刺突、隠匿、拳銃、柔道、小銃。かつて祖父が経験したあらゆる戦闘がごちゃまぜに脳内で活性化し、俺は雄叫びを上げて蝿の大腿部を斬り裂く。

「よくやった囮」
 蝿の頭上にヴィシュ。やじりを三本ドタマに放つと爆発し、蝿が死ぬ。

 俺はエルフに聞こえないように口を開く。

(じいちゃん。昔、東南アジアに行ったんでしょ。どうしてヨーロッパの景色が見えたんだ?)

【続く】

 


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