石投げ
少年が気づいたら賽の河原にいた。三途の川が見える。周りの子たちは泣きながら石を積んでいた。どこかから声が聞こえてきた。
「お前は親よりも先に死んだ。だから罰として永遠に石を積み続ける」そんな理不尽が、と少年は叫んだ。だが声は止み、圧力がかかっていた。仕方なく少年は石を積み始めた。
はじめの頃は周りの声が煩かった。彼ら彼女らは泣きながら石を積み、一人で崩してメソメソしている。少年も聞いていると気が暗くなってきたが、しかしそのうち石が積み上がると嬉しくなってきた。自分の座高と同じぐらいの高さになった辺りで牛鬼がやってきた。
棍棒を持った巨大な牛鬼がそれを振り回すと、少年の石が吹っ飛んだ。自分が殴られていないのは奇跡だと思った。そのまま鬼は周りの石も滅茶苦茶にして去っていった。周りの子らはやかましく泣きながら座っていたが、少年は次第に怒りが溜まってきた。どうしてあんな奴に好き勝手にさせるんだ。少年は隣の子に話しかけた。ねえ、次に鬼が来たら僕がやっつけてやる。だからそんなに泣くなよ。馬鹿言わないでよ。諦めきった声が答えた。あんなデカい奴に勝てるわけがないじゃない。他の子も同じだった。みんなおとなしくカチャカチャと小石や平べったい石を一から積み始める。少年も次第に、みんなが正しいのかもしれないと思い始めた。そしてまた石を積み始めた。
どうしてここに来たの? 少年はまた隣の子に尋ねた。車に轢かれた、と隣の子は少年を見ずに答えた。信号無視だって。ふうん、僕は病気。少年は言った。入院しててさ。周りの人に大丈夫すぐ治るって言い続けてたんだけど、結局ダメになっちゃった。みんな泣いてたよ。ここじゃみんな泣いてるよ、と隣の子が答えた。話しているとまた牛鬼がやってきた。牛鬼は我慢のできない大人のように叫び、子供たちの石を粉々にしていく。そうして隣の子の石もまた砕かれた。その子はうええんと泣き、誰かの名前を呼んだ。少年もそれを聞いて泣きだしたくなったが、落ちた石を握ると怒りがこみ上げてきた。
少年は石を牛鬼に投げた。それは抵抗だったのだろう。牛鬼の目に当たったらしく、ぎゃあと人間のように叫んだ。石の尖り具合は尋常ではなくこれをぶつければ何者もただではすまない予感があった。もう一つ投げると顔面に当たった。このガキい、と鬼が言った。鬼の声を聞いたせいだろうか。鬼の赤く膨らんだ顔をみたせいだろうか。子どもたちの顔つきが一瞬変わった。牛鬼が棍棒を振り回すと少年に当たりそうになる。体を伏せると鬼の後ろから石が飛んできた。隣の子が石を投げていた。やめろ! やめろ! あっちに行け! 鬼が怯むのを見るともう一人石を投げた。また一人投げ、そうするとみんなが石投げに加わった。いまや鬼は傷まみれになっていた。牛鬼はちくしょう、と叫ぶと棍棒も放り出して逃げ出した。子どもたちはやった、と叫んだ。みんな泣いていたのに、笑っていた。隣の子が少年を助け起こした。追い払った、と少年は泣きながら言った。また追い払ってやる、と隣の子は涙を拭い、笑った。少年も笑った。次第に笑い声が高まっていった。
《終わり》