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創造性を架橋する。多国籍チームを導くマルチプレイヤーの挑戦 プロダクトマネージャーRed | Eukarya観察日記

創造性を架橋する。多国籍チームを導くマルチプレイヤーの挑戦

次世代データベースの研究開発を行うスタートアップ『Eukarya』(ユーカリヤ)の連続インタビューシリーズ。
 
5本目となる本稿では、プロダクトマネージャーとして『Re:Earth』のエンジニアリングとデザインを統括する、Redさんにお話を聞きました。

RedさんがEukaryaでデザイナーとエンジニアの両方の役割を担うようになった経緯や、複数の分野や言語を扱うそのお仕事の内容について、語っていただきました。

デザイナーとエンジニアの二足の草鞋

——RedさんはEukaryaのCOO(最高執行責任者)かつ『Re:Earth』を手掛けるプロダクトマネージャーということで、インタビューするこちらの方が緊張してしまいます。今日はよろしくお願いします。

いやいやそんな、こちらこそよろしくお願いします。(笑)
Eukaryaには優秀なエンジニアやデザイナーがたくさん居るので、私はいつも助けてもらっている側です。

——それではまず、Redさんのご経歴からお伺いします。中国のご出身と伺いましたが。

はい、中国の江蘇省常州市の出身です。上海から車で1時間ほどの距離ですね。2018年に大学院への留学で日本に来るまでは、上海を中心に活動していました。

——では、中国の大学を出られたということですね。

そうです。学部時代は工業デザインを勉強していました。
私はもっとアートに近い分野を専攻したかったのですが、両親に猛反対されてしまって。なのでエンジニアリングに近い工業デザインを選びました。でも結局、大学4年の時に思い切ってメディアアートにシフトしました。(笑)
そのままアートで修士号も取ろうと、中国の大学院に出願もしていたんですが、その時は機会が得られず……。
そこでとりあえず就職して、デザイナーとして経験を積もうと思ったわけです。

社会人一年目は、中国の企業にデザイナーとして勤務していました。
博物館や美術館に納めるインタラクティブなインスタレーション作品などを手掛けていたのですが、会社勤めだと制作物の方向性にさまざまな注文が入り、自由にデザインできないことに物足りなさを感じました。
そこで二年目からは会社を辞めて、フリーランスに転向したんです。

フリーランスとして、引き続き博物館や美術館向けの仕事を請け負いつつ、NIKEやPUMAなど大手ブランドとの仕事も経験しました。
その中で、ビジネスや経営についていろいろと勉強できたのも、今の仕事に役立っていると感じます。

そうしているうちに、ドイツ発のビジュアルプログラミングツールである「vvvv」(ヴィヴィヴィヴィ)に出会い、そのコミュニティでも活動することになったんです。
欧州で開催されたクリエイティブコーディングのワークショップで、vvvvの使い方について発表したりもして。

vvvvも『Re:Earth』と同じようにOSS(オープンソースソフトウェア)化されているツールだったため、この時にOSSコミュニティのあり方やカルチャーを学び、感銘を受けました。

現在手掛けている『Re:Earth』や関連サービスのUIやUXデザインに関しても、この体験の影響は大きいと思います。

——耳慣れない言葉ですが、「クリエイティブコーディング」とは何でしょうか?

「プログラミング」が、通常は機能的なソフトウェアの開発を目指すのに対し、「クリエイティブコーディング」は、より作品性の高いものや視聴覚的な体験の創造を目的とすることが多いです。
現在コーディングと言えば、プログラマーやITエンジニアの領域を想像すると思うのですが、よりアーティストやデザイナーの活動領域に近いデジタルな創作活動の形を想像してもらえると、捉えやすいかと思います。
私の今の仕事の基礎といっても良いかもしれませんね。

——なるほど。EukaryaでRedさんはデザイナーとエンジニアの「二足の草鞋」を履いていると伺ったのですが、元々はどちらかというとデザイナーの方が出発点だったわけですね。
アートに興味を持たれた背景には、ご家族の影響などがあったのでしょうか?

考えてみるとそうかもしれません。
父や祖父が中国の古典美術に精通しており、アーティストや作品と距離が近い家庭で育ちました。さらに、高校時代にプログラミングやロボティクスに触れる機会が増え、そこからアートとテクノロジーが融合した分野に興味を持つようになりました。

日本への大学院留学を決めたのも、アートが理由です。
池田亮司など、日本のメディアアーティストの作品は中国でも注目されています。そうした影響もあって「一度海外に出て、日本でアートを勉強したいな」と思いました。
そこで、東京藝術大学の美術学部先端芸術表現科の修士課程に出願したところ、合格し、2018年4月に日本に引っ越してきた、という経緯です。

大学院では、特に日本語に苦労しました。
教授がスライドを用意してくれる授業であれば、翻訳ツールなども使って内容を理解できたのですが、教授の喋りと身振り手振りのみでひたすら進行するような授業もあって……。(苦笑)
なんとか2020年3月に大学院を修了しましたが、当時は本当に大変だったのを覚えています。

そして修士課程修了後のその4月にEukaryaに入社したわけですが、これは私の大学院での友達がEukaryaの岡田(未知)さんとも知り合いで、偶然私の卒業制作を見かけた岡田さんに誘ってもらったのがきっかけです。

——卒業制作では、どういった作品を展示していたのですか?

メディアアートとパフォーマンスが融合したような作品と言えばいいでしょうか。
カメラと画像認識技術を用いて、メディアによる監視とドローイングという行為が相互に作用するような作品を制作・展示していました。
床に敷かれたキャンバスに、パフォーマーが特殊なペンを用いてドローイングをします。しかし、この行為はカメラによって監視されており、パフォーマーが特定の領域に入ると、カメラと接続されたペンは引っ込んでしまい、描画ができなくなります。
しかし、パフォーマーは描画を続けます。
それにより描かれる線が増えるにつれて、見えなかった部分の輪郭が次第に鮮明に現れてくるのです。

「私たちが絶え間なく問い続け、描き続けることで、隠された情報は必ず別の形で姿を現す」といったことをコンセプトとして制作しました。

——まさにアートとテクノロジーが融合したその作品をきっかけに、Eukaryaへスカウトされたのですね。

はい、アートとテクノロジーを融合した仕事ができると聞き、最初はフロントエンド・エンジニアとして入社しました。

——2020年4月というと、コロナの緊急事態宣言が出てすぐでしたが、入社後のキャッチアップ等に影響はなかったんでしょうか?

幸い、ほとんどなかったですね。Eukaryaは元々リモートワーク主体だったのが大きかったと思います。
ただ、当時のEukaryaにはUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)専門のデザイナーが居ませんでした。そのため、デザイナーのバックグラウンドがあった私にUI/UXデザインの仕事も回ってきました。たしか入社3ヶ月くらいのことだったと思います。
本格的にデザイナーとエンジニアの二足の草鞋状態がスタートしたのは、この頃ですね。

複数の分野・言語を跨ぐプロダクト開発

——分野を跨いだ仕事を兼任されるのは大変だと思いますが、メリットもあるんでしょうか?

どこの組織でもそうだと思いますが、『Re:Earth』のようなプロダクトやサービスをつくる場合、デザイナーとエンジニアは揉めることが多いです。(笑)
デザイナーが「こういうデザインにしたい!」という強い希望を持つ一方で、エンジニアは技術的なフィージビリティ(実現可能性)や工数を気にかけるからです。
時として、議論が平行線になってしまうこともあります。
こういった際に、デザイナーとエンジニア両方のバックグラウンドがある人間が間に入ることで、効率的に意見をすり合わせることができます。
さらに私は中国語・英語・日本語が扱えるので、そういった面でもこの役割に向いているのかもしれません。

——Redさんが統括するプロダクトグループは、Eukarya社内の他グループとどのように役割分担・連携しているのでしょうか?

ちょっと複雑な話になるのですが、Eukaryaには、『Re:Earth』やRe:Earthエコシステム全般の企画・開発を手がける「プロダクトグループ」の他に、『Re:Earth』を用いるクライアントワークを主導する「プロジェクトグループ」、また『Re:Earth』を使わない案件や、中長期的なGIS技術に関する研究開発などを担当する「R&Dグループ」などが存在しています。

『Re:Earth』関連案件でのクライアントとのやりとりは、プロジェクトマネージャーたちが在籍しているプロジェクトグループの担当です。
このプロジェクトグループから要望やアイディアが上がってくるので、それを基にプロダクトグループで技術的要件の精査や、実際の開発物の設計・運用・デザインを担当します。

R&Dグループも技術的タスクが多いので、エンジニアはプロダクトグループとR&Dグループに分かれて在籍しています。

デザイナーは、すべてのグループと連携する形で動いていますね。

昨年までは、VPoE(Vice President of Engineer)だった馬場(英道)さんがプロダクトグループを率いていたのですが、彼がオランダの大学院へ留学することになり、そのタイミングで私がプロダクトマネージャーになりました。

——Eukaryaの開発やデザインチームには、日本語話者ではないメンバーも多く所属していると伺いました。業務では何語でコミュニケーションをとることが多いですか?

私は英語、日本語、中国語の順で使う頻度が多いですね。
開発チームには、インドやアフリカ、シリアを拠点としているメンバーもいるので、英語でのやり取りが多いです。CEOの田村(賢哉)さんや日本語話者メンバーと話す時は日本語を使います。
中国語を使うのは、数名いる中国語話者のメンバーと話すときのみです。

——3つの言語を使い分けているんですね。

はい。ただ正直、すごく大変です。(苦笑)
特に、日本語と英語は第二・第三言語なため、自分が言いたい内容を適切に表現できないことも多く、とてもフラストレーションがたまります……。
開発メンバーとのやり取りは、コードや制作物ベースでコミュニケーションが取れるため、英会話のスキルはそれほど求められないのですが。
日本語を多く使う場面としては、日本語ネイティブのメンバーに対して提案や議論をするシチュエーションが大半で、そういった時にはやはり難しさを感じます。

——例えば、どういったことを日本語で議論されているのでしょうか?

先ほどのデザイナー・エンジニア間の調整とも似ているのですが、Eukaryaのメンバーは「『Re:Earth』で〇〇をやりたい!こういうサービスを提供したい!」という熱意や理想を持っている人がほとんどです。

またありがたいことにクライアントからも、日々さまざまなニーズや要望をいただきます。
ただ、技術的・ビジネス的観点から考えると、それら全てに今すぐ着手することは不可能です。

「プロダクトの未来にとって良いアイディアを採用すること」と、「会社として継続的に利益を出してビジネスを続けていくこと」。この二つに注ぎこむ開発リソースや時間のバランスが大切になってきます。
特にEukaryaは、国土交通省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)からも交付金をいただいているため、そういう観点からも現実的な判断が求められるわけです。

また、アイディアを実現するには、それなりの準備やプロセスが必要です。
私はエンジニア・デザイナーとしてだけでなく、フリーランス時代に培った起業家としての知見もあるので、ビジネス的に難しそうなものを肌感覚で察し取れることがあります。
ただ、そう考えるに至った理由や論拠といった入り組んだ内容を、日本語でうまく説明するのが本当に難しくて。

しかし、もし私が言葉の壁を理由にその違和感を無視し、フィージビリティが低いアイディアを基にチームが見切り発車してしまうと、会社に大きな損害を与えかねません。
だから私は、気づいたことや考えたこと、そして自分の抱いている懸念点等については、たとえそれを日本語で100%説明できないとわかっていても、可能な限りミーティングの場で言及するようにしているんです。

……たまに、議論が白熱して語気の強さを諌められてしまうこともありますけど。(苦笑)

——RedさんはEukaryaに対して、責任感を持って発言なさっているんですね。ちなみに、会社の外部に向けたお仕事をされることもあるんですか?

はい、外部向けのものですと、日本での公開イベントやワークショップに、スピーカーや講師として参加することもあります。
例えば昨年は、国交省の『Project PLATEAU』(プロジェクトプラトー)のユースケース開発の一環として、高輪ゲートウェイ駅周辺のエリアマネジメントを目的とした一般向けのRe:Earthワークショップを行いました。
そこでは私もテクニカルサポーターとして、参加者が作りたいプロジェクトを実現するためのアドバイスやサポートを、日本語で行いました。

不撓不屈で描く未来図

——言葉の壁で苦労されてもなお、情熱的にお仕事へ取り組まれているのにはどういった理由があるのでしょうか?

理由はいくつかありますが、大きな理由の一つにビザの問題があります。中国籍の私が日本に居続けるためには、仕事をし続ける必要があります。
実は最近結婚をしたんです。パートナーも中国人なので、Eukaryaを会社として成長させていきながら、二人で安定して日本に住み続けていけたら、と。

また、他の非日本語話者メンバーのことも考えると、日本語が多少でも話せる私が、臆さずに発言を続けることに意義があるのではないかと考えているんです。
Eukaryaで働くメンバーには優秀な人が多く、他の企業で働けば、より高いポジションに就ける人も少なくありません。それでも皆、Eukaryaのビジョンややりたいことに共鳴して、Eukaryaへの入社を決めています。

開発メンバーには特に「『Re:Earth』をOSSして、多くの人々に役立ててもらいたい」というビジョンの下に集まった人が多いです。
私も、vvvvに関して活動していた頃に経験しましたが、誰もが開発や活用に参加できるOSSコミュニティのカルチャーには、強い魅力があります。

社内外からのアイディアや要望を現実的な視点から判断しつつも、OSSカルチャーやEukarya独自のやりたいことを守るため、極端にビジネス優先にならないように揺り戻す必要もある...。
ここのバランスは本当に難しいところですが、だからこそ、経営とOSS、デザインとエンジニアリング、中国語と英語と日本語……といった自分の強みを、複合的に活かすこともできているとも思うんです。

——Redさんは、本当に組織とプロダクトの未来を真摯に考えてお仕事に打ち込まれてらっしゃるんですね。無理をなさっていないか、すこし心配になるほどです。

いえいえ。最初にも述べましたが、Eukaryaには優秀な人が多く逆に私の方が助けられることも多いので、それほどストレスとかは感じてないです。
「優秀なメンバーたちには余計な気苦労なしに、それぞれの専門分野のエキスパートとして活躍してもらいたい」というのが、私の正直な気持ちです。

——最後に、今後のお仕事における目標を教えてください。

今年(2024年)の年末を目処に、『Re:Earth』の次のバージョンリリースを計画しており、プロダクトチームでは目下その準備に追われています。
リリースを無事に成功させることが、とりあえずの目標です。

今回のリリースは、今後もクライアントに満足してもらえるサービスを提供し続けたり、『Re:Earth』ユーザーを増やしていくための、重要な節目になります。
ぜひ、Eukarya全体として、成功に導いていきたいと考えています。


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