ライプニッツ則からの部分積分
1. ライプニッツ則
ここでいうライプニッツ則とは積の微分公式のことです。つまり微分可能な関数 $${f(x)}$$, $${g(x)}$$ が与えられたときにそれらの積として定義される関数 $${f(x)g(x)}$$ の導関数 $${\bigl(f(x)g(x)\bigr)'}$$ を計算するための式。これは次の形をしています。
この式から予想できることですが、$${\bigl(f(x)g(x)\bigr)'}$$ と $${f'(x)g'(x)}$$ は一般的には同じでないことに注意が必要です。
例1: $${f(x)=x^2}$$, $${g(x)=\sin x}$$ に対してライプニッツ則を適用すると
$$
\begin{array}{}
(x^2\sin x)'&=&(x^2)'\sin x+x^2(\sin x)'\\
&=&2x\sin x+x^2\cos x
\end{array}
$$
がわかります。一方で、
$$
(x^2)'(\sin x)'=2x\cos x
$$
です。$${x=\pi}$$ を代入すると違いが明白ですね。
ちなみに「ライプニッツ則」という名前はモナド論を提唱した哲学者かつ数学者であるゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)に由来しています。
2. 部分積分
2.1. ライプニッツ則から積分について言えること
ご覧の通りライプニッツ則は微分の性質を記述するものですが、積分に関しても大変重要な事実を導きます(以下 $${f'(x)}$$ と $${g'(x)}$$ はともに連続であることを仮定しますが初めて学習する方は気にしなくてよいと思います)。ライプニッツ則の式の両辺を $${f(x)}$$, $${g(x)}$$ の定義域に含まれる閉区間 $${a\leq x\leq b}$$ で積分してみましょう。すると
$$
\int^b_a\bigl(f(x)g(x)\bigr)'dx=\int^b_a\bigl(f'(x)g(x)+f(x)g'(x)\bigr)dx
$$
が出ます。微積分学の基本定理より微分と積分は逆の操作ですから、この式の左辺は $${f(b)g(b)-f(a)g(a)}$$ です。よって(右辺と左辺を入れ替えて)次のことがわかります。
2.2. 部分積分公式
ここから本題である部分積分の話に入っていきますが、基本的には2.1で述べたことを言い換えるだけです。部分積分公式は「ライプニッツ則+微積分学の基本定理」の左辺第一項を右辺に移項したものとして与えられます。
部分積分公式は $${\int^b_af(x)g'(x)dx}$$ を計算する際に用いられますが、$${f(x)}$$, $${g(x)}$$ に関連した積分を求めたい立場からするとそれらの関数の具体的な値、例えば $${f(a)}$$, $${g(b)}$$ などは「わかるもの」とみなされます。 よってこの公式は感覚的には
だと思ってよいでしょう。つまり部分積分は
であるとも考えられるのです。以下、簡略化として前半の積分 $${\int^b_af(x)g'(x)dx}$$ を 〈f, g'〉 と書き、後半の積分 $${\int^b_af'(x)g(x)dx}$$ を 〈f', g〉と書くことがあります。
3. 使いかた
3.1. 大前提
部分積分は関数の積の積分 $${\int^b_af(x)h(x)dx}$$ を計算する際に大変有効です。しかし大前提としてここでの $${h(x)}$$ は $${g'(x)}$$ の形をしていることが必要で、さらに応用する側はそれを見抜かなければなりません。そのような $${h(x)}$$ の例としては $${e^x}$$, $${\cos x}$$ などがあり、気付きにくいですが定数関数 $${h(x)=1}$$ もそうです。
例2:
(1) $${\int^b_af(x)e^xdx=\int^b_af(x)(e^x)'dx}$$
(2) $${\int^b_af(x)\cos xdx=\int^b_af(x)(\sin x)'dx}$$
(3) $${\int^b_af(x)dx=\int^b_af(x)(x)'dx}$$
3.2. 〈f', g〉 が 〈f, g'〉 よりわかりやすくなるとき
$${\int^b_af'(x)g(x)dx}$$ が $${\int^b_af(x)g'(x)dx}$$ よりわかりやすくなるときは部分積分の出番です。積分を次々と簡単にしてゆき、最後には値を求められる可能性があります。この現象が起きるのは $${f'(x)}$$ が $${f(x)}$$ より単純となり $${g(x)}$$ が $${g'(x)}$$ と比べてあまり複雑にならない場合が多いです。
例3: 例2 (1)に注目して部分積分により $${\int^b_axe^xdx}$$ を計算しましょう。まず $${\int^b_axe^xdx=\int^b_ax(e^x)'dx}$$ です。$${f(x)=x}$$, $${g(x)=e^x}$$ に対して部分積分公式を適用すると、
$$
\begin{array}{}
\int^b_ax(e^x)'dx=(b e^b-a e^a)-\int^b_a(x)'e^xdx
\end{array}
$$
がわかります。右辺の第二項は $${\int^b_a(x)'e^xdx=\int^b_ae^xdx=e^b-e^a}$$ と計算できますので、これで
$$
\int^b_axe^xdx=(b-1)e^b-(a-1)e^a
$$
がわかりました。
今度は少し特殊なケースとなりますが、 例2 (3)に注目して対数関数logの積分を求めてみましょう。
例4: まず $${\int^b_a\log xdx=\int^b_a(\log x)(x)'dx}$$ であることに注意です。$${f(x)=\log x}$$, $${g(x)=x}$$ に対して部分積分公式を適用すると
$$
\begin{array}{}
\int^b_a(\log x)(x)'dx&=&\bigl((\log b)b-(\log a)a\bigr)-\int^b_a(\log x)'xdx\\
&=&b\log b-a\log a-\int^b_ax^{-1} xdx
\end{array}
$$
ですね。そして $${\int^b_ax^{-1} xdx=\int^b_a1dx=b-a}$$ ですから、
$$
\int^b_a\log xdx=(b\log b-b)-(a\log a-a)
$$
となり、欲しかった積分の値が得られました。
3.3. 〈f', g〉 が 〈f, g'〉 と似た形になるとき
$${\int^b_af(x)g'(x)}$$ を $${\int^b_af'(x)g(x)}$$ に翻訳して嬉しいのは必ずしも後者がすぐに計算できる場合に限りません。次の例を考えてみましょう。
例5: $${\int^b_a e^x\cos xdx=\int^b_a e^x(\sin x)'dx}$$ であることに注目し、この積分を計算します。まず部分積分公式(気持ち)より
$$
\int^b_ae^x\cos xdx=(わかるもの1)-\int^b_ae^x\sin xdx
$$
です。ここで新しく出てきた積分 $${\int^b_ae^x\sin xdx}$$ ですが、元の積分より簡単になっているかと言われると怪しく、むしろ計算の難しさは全く変わっていないように思われます。しかしこの「形が変わっていない」ことを逆手に取り、$${\int^b_ae^x\sin xdx}$$ (つまり $${\int^b_ae^x(-\cos x)'dx}$$)に対しても部分積分を適用してみましょう。すると
$$
\int^b_ae^x\sin xdx=(わかるもの2)+\int^b_ae^x\cos xdx
$$
が得られます。今度新しく出てきた積分は $${\int^b_ae^x\cos xdx}$$ ですが、これは最初に求めたかったものですね。つまり一番目の等式と二番目の等式を組み合わせると、 $${\int^b_ae^x\cos xdx}$$ と $${\int^b_ae^x\sin xdx}$$ についての連立方程式が得られます。これを $${\int^b_ae^x\cos xdx}$$ について解くと
$$
\int^b_ae^x\cos xdx=\frac{1}{2}\bigl((わかるもの1)-(わかるもの2)\bigr)
$$
が得られます。ここの「わかるもの」たちを真面目に計算すると
$$
(わかるもの1)=e^b\sin b-e^a\sin a
$$
$$
(わかるもの2)=e^b(-\cos b)-e^a(-\cos a)
$$
となりますから、結論として
$$
\int^b_ae^x\cos xdx=\frac{1}{2}e^b(\sin b+\cos b)-\frac{1}{2}e^a(\sin a+\cos a)
$$
を導くことができました。