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教養のための読書 その34「デーミアン」

「デーミアン」ヘルマン・ヘッセ

国語科の教員をやってきたので、ヘルマン・ヘッセと言うと、真っ先に「少年の日の思い出」を思い出す。
本当に良い話で、僕は大好きでした。
簡単に、主題を「一度起きた事は取り返しがつかないのだ」にしてしまう人もたくさんいましたが、それは違います。
その後に、暗闇の中で蝶をつぶすのです。
蝶は少年期の光り輝くものの象徴です。
その象徴を粉々につぶしてしまうのです。

象徴を学ぶのにもってこいの作品でした。

人はいつまでも子供ではいられません。
忌み嫌っていた大人にならなければならないのです。
これは大人になるための辛い経験なのです。
覆水盆に帰らず、なんて道徳的過ぎて、たいした小説ではありません。

冒頭から、ラストまで、よく練られた構成で、翻訳も素晴らしかったので、授業をやるのはとても楽しかったです。

これは1年生のメイン教材ですが、2年生は「走れメロス」です。
これは日本の小説の名手太宰治の作品です。
小説の構成を学ばせるには、最高の作品でした。
「メロスは激怒した。」で始まり、「勇者はひどく赤面した。」で終わります。
主役は誰か、そしてどう変わったか、端的に表しています。
授業の最後にこれを指摘すると、生徒たちは一様にびっくりします。

他に、クライマックスの1文を探すのも、難しいですが、とても楽しいです。
それを見つけられないと、主題も曖昧になってしまいます。
クライマックスを意識させるのにとても良い作品です。

でも、それよりも何よりも、単純で、感動的な話ではあります。
それを味わうだけでも良いと思います。

3年生は魯迅の「故郷」です。
これも本当に良い作品です。
現実の世界の厳しさや切なさを感じさせます。
構成も素晴らしいです。

しかし、内容も構成もやや複雑なので、3年生には難しいけれど、後5、6年もすると、折に触れきっと思い出します。
夢に溢れた学生時代から、厳しい現実を知り、そんな中から解決方法を見出していくはずです。
その先駆けとして、心に何かを残す作品だと思います。

卒業間近の生徒がこの作品に触れるのは本当に大切で、素晴らしいことだと思います。
日本人作家の作品でないことが、ちょっと残念ですが、国なんか関係なく、人間は同じことに悩み、苦しみ、乗り越えようと努力するんですね。
素晴らしいことです。

で、「デーミアン」です。
第一次世界大戦前夜のヨーロッパの混沌を描いています。
とても面白かったです。

冒頭部分で、シンクレアが見栄を張って窮地に立たされますが、それが身につまされ、「少年の日の思い出」と同じなんだろうなぁ、と思って読み始めましたが、全然違いました。

人間の心には善と悪が潜んでいて、子供の頃は一貫性がなかったり、ちぐはぐだったりしますが、それが若さであり、青春なのです。
苦悩し、考え、人に出会い、さらに本を読み、考え、そして行動するのです。

青春の葛藤がテーマでした。

それにしても、素晴らしいもの、複雑なもの、深いものを描く人はやはりその生涯も複雑です。

本作の主役はエーミール・シンクレアですが、これが作者の名前だと最初は思われていたようです。
でも、それが実はヘルマン・ヘッセだったのです。
なんだかドラマのようです。
シンクレアに新人賞が贈られたそうですが、大御所ヘルマン・ヘッセは辞退したそうです。
ドラマのようです。

精神的に苦しかった時に、ユングの治療を受けたそうです。
そういう時代の人なんですね。
フロイトにも影響を受け、精神分析もやっていたようです。

産業革命で人間性が無視され、苦悩した人たちを救おうとして天才たちが、自らも苦労し、新しいものを見出していたんですね。
感動です。

マルクスだって、搾取される労働者を救おうとしたんです。
それをソビエトと中共は曲解し、独裁になっていますが。

そして現代の人々も、情報社会となり、グローバル社会となり、自己喪失しそうになっています。

今こそ古典の名作を読み、人間らしさ、人間の心を取り戻さなければならないのではないのかと思います。

だからこそ、古典を、良い本をたくさん読みたいと思います。


これが主題です。
なぜ日本人が出てきたのでしょうか。

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