ゲーム会社の未来が"いい意味で"恐ろしい
先日、Unreal Engine5の動画が公開され、大きな話題となりました。以前の記事でも書いたのですが、ゲーム会社が他の業界に参加し始めたら恐いな、というのがより顕著になってきました。今回のnoteでは、なぜ恐いのか、これから何がどう変わるのかについて思考を巡らせてみようと思います。
なぜゲーム会社が恐いのか
なぜ僕が恐いという表現をしたのかと言うと、(i) 物理的制約にとらわれない新たな体験価値を作り得ること、(ii) 今まで当たり前だった身体性を伴う移動やコミュニケーション、体験がすべて仮想現実で表現できる可能性があること、の二点が思い浮かびます。(i)に関しては以前の記事で紹介しました。
(ii)に関しては、今までの生活様式や仕事内容までも置き換え可能な気がしていて、それがより具体的に見えてきたのは以下のTweetです。
事例. 撮影現場
僕の彼女は雑誌の制作会社でプロジェクトマネージャー的な仕事をしており、ブランドのイメージに合ったモデル探し、スタジオや衣装、当日のお弁当の手配、カメラマンや制作スタッフのスケジュール調整などが主な仕事内容です。最終的にはスタジオに全員集合したりして、三密状態になるので、昨今のコロナで大きな影響を受けている業界の一つと言えます。
今まで当たり前だった撮影現場ですが、例えば上記の動画のように、現実と見間違えようのないデジタルモデルやアクセサリ、天候や時間帯に左右されず時間単位の料金のかからないスタジオ環境、編集可能な空間(ライトの数や色、カメラのレンズなど)などが用意できれば、現実よりも自由に創造活動ができてしまいます。もうそういった土台がゲームエンジンには出来上がってきています。そういうのをまとめて"バーチャルプロダクション"といったりしますが、UEはそういった未来を見据えている企業の一つです。雑誌に限らず、映像制作に携わる方々は大きな変革を迫られそうです。日本国内だと、サイバーエージェントも力を入れているみたいです。
ただ、結局はコストとスキルの問題なのかもしれない。
そもそも私たちは普段雑誌やウェブに掲載されている写真(アナログ(実物)からデジタル(写真)の変換されたもの)を見ながら様々なものを購入しているので、それがデジタル(3DCG)->デジタル(レンダリング画像)になったとしても実物と大きな違いがなければ差し支えないはずです。要は、目的が達成できれば手段は何でもよい、というのがここの見解です。
なので、もし3DCGの方が現実よりもコストが低く、短時間に制作できる、となればゲームエンジンが導入されていくは間違いないはずです。ゲーム業界でない場合は新たなスキル獲得が伴うので、それが難しい場合は従来の方法も残っていくとは思います。
では、どうしたらコストが安くなるのか
あまり創造的な内容ではないですが、現実の技術を使えば、先ほどの3DCGによる撮影は現実的に実現可能だと思っています。
例えば、キャプチャした環境やデジタルアセットを組み合わせて作ったスタジオに仮想ライトを配置して、三次元顔復元された現実には存在しないモデル(肖像権がなく、モデル料がかからない)の表情を調整しながら仮想のカメラでレンダリング(撮影)。全身と衣装、ポーズが必要な場合は、全身を自動リギングしていくつかのポーズを与え、型紙から生成された衣服を着せた後に物理シミュレーションすれば、あとはレンダリング(動画撮影)。実際のモデルさんで行う場合は以前紹介したVolumetric Videoも考えられそうです。
実際にすべての(研究)技術を組み合わせて自動的に現実と見間違えしないデジタルアバターを作るのはまだ難しい状況ですが、少なくともデジタルアセットに関してはフォトグラメトリを使用して環境を作る流れは主流になりつつあります。デジタルアバター制作もVFXの業界ではフェイシャルスキャンから得られた顔の形状とテクスチャを利用するのも主流になってきています。
実際、仕事で関わった3D LIVE MAKERというアプリは、モデリング、テクスチャリング、リギング、アニメーションをスマホ一台ですべて自動化した数少ない事例の一つといえます。
今後、従来のモデラーの仕事内容は変わるかもしれないですし、エフェクトは実時間計算によって仕事が一気に効率化されていくかもしれません。UE5の新たな特徴として、フォトグラメトリで制作した頂点数の多いアセットを読み込んでもメモリが破綻しない機能があるようなので、そのワークフローは整いつつあります。
まとめる
UE5の進化をきっかけに、ゲーム会社の未来と従来の業界(雑誌や映像メディア関係)への影響について考えてみました。結局、ゲーム会社のバーチャルプロダクションやスキャン技術を組み合わせた作業の効率化の話に重きが行ってしまいましたが、まぁこれも一つの来る未来なのかなと思っています。
編集後記
この内容をなぜ書こうと思ったかというと、来週開催される "ホログラム・デジタルヒューマンMeetUp#1"というイベントで登壇予定なのですが、参加者の方々から"バーチャルプロダクション"や"XRのキラーアプリ"に関する質問が寄せられていたので開催前までに考えておこうと思ったのがきっかけです。今回自分は最近作っているVolumetric Videoについて話そうと思いますが、その後の懇親会ではより広くお話できればと思っています。