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【読書】人間の思考&行動に影響を与える要因

普段のお買い物からキャリア、投資に至るまで、人間はあらゆる要因&データを考慮し尽くした上最適の解を選択する。そんな合理性人間の思考&行動に想定する学問の代表例が経済学。無論現実は違うのは誰もが分かることだが、それを脳神経生物学の観点から説明したのが本書。

要約

  • 脳神経生物学や心理学的知見から人の思考&行動に影響を与える要因7つを指摘。

  • 永い年月をかけて進化してきた人の脳は、必ずしも合理的に思考するわけではなく、感情や状況によって大きく左右される。

  • それは事実やデータで示されても自分の考えを改めるどころか事実を受け入れず、新たな自分に都合の良い情報を探そうとすることからもわかる。




1.本の紹介

本のタイトルは「The Influential Mind - what the brain reveals about our power to change others」(2017年刊行)で、邦訳は現時点ではなし。

著者はアメリカ人神経科学者/neuroscientistのターリ・シャーロットさん/Tali Sharot。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとマサチューセッツ工科大学にて神経科学の教授を勤める。ニューヨーク大学で心理学と神経科学の博士号を取得。

ターリ・シャーロットさん
ターリ・シャーロットさん

Ted Talksで超分かりやすく、脳がどのように情報を処理して行動に写すかを説明している。英語も聞きやすくて内容も面白い。

2.本の概要

人の思考&行動に影響を与える要因7つを挙げている。方法論としては、脳神経生物学や心理学的知見に基づく研究結果や自身の実験結果(例: 脳の活動を観測するfMRIや、心理学的実験、統計調査など等)に基づく。

  • 前例や既存の考え/priors

  • 感情/emotion

  • インセンティブ/incentives

  • 状況のコントロール/Agency

  • Curiosity

  • メンタル/State of mind

  • 他人からの影響/Other people

2.1 前例や既存の信念/priors

人の思考や行動は、実はそれほど事実や数字やデータに左右されず、むしろ自身の動機、恐怖、希望や欲望に影響される。それはその人がバカや頑固なのではなく、そもそもホモサピエンスの脳は何百万年に渡る進化のなかでそうするように発達してきた。情報やデータに基づく事実へのアクセスが飛躍的に向上したのはここ数十年に過ぎない。

従って、自分の考えとは異なる事実を押し付けられたとしても、その事実を受け入れず自分の考えを正さないといったケースが散見される。例えばオバマ前大統領の出自、確たる証拠があっても、いまだに20%のアメリカ人が、オバマは非アメリカ人と考えている。

一方、自分の考えを裏付ける情報については素直に受け入れる傾向があるし、事実を折り曲げて自分の考えの裏付けをするパターンが多々見受けられる。これをconfirmation biasと呼ぶ。これは脳神経生物学的研究結果からも裏付けられている。

2.2 感情/emotion

自分の喜怒哀楽の感情は、他人に伝染する。感情とはそもそも、自分の外部で発生した出来事に対する自分の体の反応であるといえる。外部の出来事に対して人間の脳の反応は、驚くほど類似しているとのこと。

その背景には、現代社会では人一人一人が異なると考えるのが通常ではあるが、実は脳の作りや働きというのは恐ろしく類似していることが挙げられる。脳の実験ではないが、何人かが映画を鑑賞するとき、それら鑑賞者達の目の動きやパターンが65%以上同一の動きをしていることが研究結果からも分かっている。

従って、怒りや喜びといった感情を他人とシェアすることが、他人に影響を及ぼすためのカギとなる。

2.3 インセンティブ/incentives

人の脳は、他の動物と同様、ご褒美が貰えたりその他ポジティブな情報にふれると前向きな思考や行動を取るように組み込まれているが、これを脳のGo responseと呼ぶ。社員にしっかりと働いて貰いたいときや、何かをして貰いたいときは、この手のポジティブな情報シェアや褒美/インセンティブを与えるのがベスト。

一方、ネガティブな情報に接すると、行動を起こすことを躊躇うようになる。これを脳のNo go responseという。典型例は、交通事故になりそうな状況で、さっとよければ良いにに立ちすくんでしまうfreezing reaction。子供が悪さをすることを控えるようにしたり、社員が機密情報を漏らさないようにするためには、このno go responseを活用する(罰則をかすなど)のがベスト。

2.4 Agency

人は自動車事故より飛行機事故を怖がる。前者の方が志望者は圧倒的に多いにも関わらずだ。それは、飛行機事故の場合、自分ではどうしようもないこと(状況を自分でコントロールできないこと)に起因する。

人は、仮にそれが最善の結果に繋がらないとしても、自分で物事を選択することを好む。選択肢を持っていること、自分で物事を選択できることが、満足度や幸福度に繋がるという研究結果がある(例: IKEAは、家具作りを購入者が行う)。だから上司による細かい指示やちぇっく(マイクロマネジメント)は、部下の満足度を下げる。

2.5 好奇心/Curiosity

人の脳は、新たな情報や知識に大きく反応する。特にポジティブな情報に対して敏感なのに対し、ネガティブな情報(例: 病気、投資ロス)に対しては、反応が鈍くなる。

2.6 メンタル/State of mind

Mass hysteriaが好例だが、人はストレス下に置かれると、悪いニュースに対して敏感になりがち。金融市場のネガティブな動きに対して人が過敏に反応し、時にはパニックになることが一例。

またストレス下にあって人は、よりコンサバな選択肢を選びがち。ホラー映画を視聴した後投資判断を迫られた時、プレッシャーを抱えたテニス選手がサーブを打つときに、リスクを取らない安全策を選びがちという研究結果あり。

2.7 Other people

人は他人の思考や行動に影響される。赤ん坊が目の前に置かれた数多くのおもちゃやおやつから、親がよく使っているスマホを選ぶという研究結果がある。ある種のテストに関する回答も、他人の答えを知らされた場合、その答えを選ぶ確率が高い。人は社会的動物たるゆえんである

その背景には感情を司る脳のamygdalaによる反応にがある。合理的思考を可能とする前頭葉も反応するが、amygdalaの反応の方が強い傾向。

3.コメント

最近、やれビッグ・データやらAIやらと騒ぎ立てている現代社会において、合理的に思考できない人はバカと思われがち。しかし、この本は、あの人は賢い、この人はバカという言い方や考え方そのものがナンセンスということを教えてくれる。

人間の脳は、合理的思考を司る前頭葉だけで出来ているわけではなく、Amygdalaなど感情を司る部分もありそれらが有機的に組合わさったのが人間の脳。大なり小なり違いはあれど、例えばホラー映画をみた後はリスク行動を回避する傾向など、人間は似通った思考や行動をするもの、という著者の言葉に少し救われた気がした。

著者のメッセージは、脳の本能的な部分をチンパンジーに、脳の合理的思考をする部分を人間に例えた「チンプ・パラドックス」の教えにも通じるところがある。

いずれにせよ、人の思考や行動を理解するために非常に役立つ本。

最後に一言

さくっと読めるのでおすすめ。色々と自分や周りの人の思考や行動をよりよく理解する知的ツールを提供してくれる本。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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