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【読書】ドイツナチ党の興亡

ナチスはどのようにして政権を奪取し、民主主義国家を独裁国家に作り替えたのか?極右政党や反民主主義的な政治家が勢いを増すこのご時世だからこそ、心に響く学びが沢山ある。そんな一冊。

記事要約

  • ヒトラーとナチスドイツの興亡の歴史を事細かに描き出した、臨場感溢れる長編歴史書。

  • あれよあれよ言う間に、恐ろしいくらいスムーズにナチ党が政権掌握、その後なし崩しに民主主義が独裁政権に変えられてしまう(ヒトラー本人からすれば険しい道だった?)。

  • ナチスへ反対する諸々の政党や社会グループ、しいては国民らが一致団結して止めなければ、奴らは止まらない。




1.本の紹介

本のタイトルはThe Rise and Fall of the Third Reich(1960年刊行)で邦訳は「第三帝国の興亡」。

著者は米国ジャーナリストで現代史家ウィリアム・L・シャイラー(William L.Shirer)。1939-40年にナチス下のドイツに滞在、情報発信したとのこと。

ウィリアム・L・シャイラー

本書とは関係ないが、ナチスの動きを理解するのに役立つリンクが下記。

2.本の概要

ストーリーはオーストリアで生を受けるアドルフ・ヒトラーの生い立ちから始まる。彼の生い立ちや育った環境から見れば、ビスマルクやその他の過去の偉人たちの栄光を追い抜くほどヒトラーが有名になるとは誰が想像し得ただろうか。

その著者の言葉通り、彼の生い立ちや勉学も平凡どころか、失敗に満ちたものだった(建築士、芸術家になる夢等もかなわず)。ただ、すでに16歳の時には強烈で暴力的な反ユダヤ人主義ドイツ民族純血主義的思想を持つ国粋主義者だった(当時はそれほど珍しくない)。

転機が訪れたのが第一次世界大戦、従軍し北フランス&ベルギーの国境付近で戦闘に参加、負傷を繰り返しながらも最終的にはその勇気を称えられ、2度勲章を授けられる。

なおドイツ自体は、本国での民衆革命で世界大戦が終結、皇帝を廃位し、ヴァイマル共和国が成立する。しかしヒトラー達軍人やナショナリスト達は、全ては社会党やユダヤ人の裏切りのせいで負けたとする「背後の一突き」説を頑なに信じた。

戦後ミュンヘンにてアントン・ドレクスラーのドイツ労働党に入党(1919年)、持ち前の人を魅了する演説スキルで頭角を表しプロパガンダを担当、1920年4月に25の党プログラムと共に党名を国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)と改名。

1921年にはドレクスラーとの党内闘争に勝利、第一議長に就任、総統/フューラーと呼ばれるように。ナチ党のシンボルであるハーケンクロイツもこの時分に採用。突撃隊、親衛隊等を組織、1923年のミュンヘン一揆失敗(暴力で政権掌握を試みた)をチャンスに変え、党の勢力を拡大。

党首就任時のヒトラー
党首就任時のヒトラー

国政選挙参加は1928年、12議席獲得にとどまるが、1930年選挙では107議席獲得で第二党に。ヒトラーが首相ポストを要求したため連立&入閣ならず。1932年4月の大統領選出馬、36.8%の票を集める。さらに7月の議会戦で230議席(584中)集めついに第一党に(この勢力拡大のうらには、空前のインフレや失業率、中産階級の崩壊と、既存政党がその危機に対して効果的な対策を打てなかったことなど)。

中央党の軍人で首相だったパーペンに入閣を打診されるがヒトラーは拒否、内閣不信任案を提出し可決されパーペン内閣が倒れ、同11月に再び選挙。票を失いつつもナチ党が再び第一党。すったもんだの末、結局ヒトラーを嫌うヒンデンブルグ大統領がしぶしぶヒトラーの組閣を認めたのが1933年1月。

ヒトラーの首相就任
ヒトラーの首相就任

その時点ではみんなヒトラーとナチ党を制御できると考えていたが、国会議事堂放火事件等を実行し、共産党員を粛清。

3月に再選挙を実施、議席を増やすが二分の三には達せず、他党とくんで全権委任法を制定させる。政党禁止、基本的人権の停止等あれよあれよという間に独裁体制しかれてしまう。

全権委任法制定時のヒトラー演説
全権委任法制定時のヒトラー演説

といったストーリーが1100ページ以上にわたって細かく描かれている。

3.感想/オピニオン

この本読んでおけば、ヒトラーとナチ党の歴史が取りあえず全てわかる、そんな一冊。そして著者がジャーナリストだけあって臨場感がある。超大作で読みごたえあるが、途中心が折れそうになることも。興味ないところは読み飛ばすのもアリ。

この本読んでて感じたのは、あれよあれよ言う間に、恐ろしいくらいスムーズにナチ党が政権についてしまうこと(無論、ヒトラー的には山あり谷ありではあるが)。その背景には不安定かつカオスなドイツを取りまく国内&国外情勢とそれに対応できない既存政党への大衆の不満がある。そんな中、彗星のごとく現れたのがヒトラー。彼の演説スキルとタクティクス、忠誠心高い兵隊たちも相まって大衆/群衆受けしたのだろう。

だが、大衆がそんなヒトラーの隠れた野望を見抜けただろうか?簡単ではない気がする。我々だって、世界各地で台頭するポピュリスト政党の内誰が、次のヒトラーになりうるか判断つかない。ただ、だからといって民衆に責任がないわけではない。著書も下記のようにいっている。

No class or group or party in Germany could escape its share of responsibility for the abandonment of the democratic republic and advent of Adolf Hitler.

P. 185

ではどうすれば良いのか。既存政党が一致団結してなんとかせいというのが以前も紹介した「民主主義のしに方」のハーバード大学教授達。

この本の著者は、もう一歩先をいき(それだけ難しくはなるが)、政党もそうだけど社会にあらゆる人々が一致団結してナチ党を排除すべきだったと言っている。1932年の選挙でナチ党第一党になったとはいえ、60%以上は反ナチ党だったのだからと。

The cardinal error of the Germans who opposed Nazism was their failure to unite against it… the 63 per cent of the German people who expressed their opposition to Hitler were much too decided and shortsighted to combine against a common danger….

P. 185

他にもナチスによる人体実験のストーリーが事細かに描かれている。現代の我々から見れば典型的な悪行で狂っているとしか思えないが、それに関与していたのは、お医者様たちでなんの疑問も感じていない。まさにハンナ・アーレントの言うbanality of evil/悪の凡庸さだ。組織的悪って恐ろしい。

最後に一言

トランプさんとか色々あるこのご時世、ちょっと読んでみるのもあり。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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