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【読書】人は晩年に何を思うのか?/「孤独な散歩者の夢想」から
18世紀に華々しい文学・哲学作品を数多く残したスイス/フランス人作家ジャン・ジャック・ルソー。輝かしい作家人生を歩んだかに思われがちだが以外にもそうではなく、晩年には周囲から孤立し孤独な生活を送ることに。それを機に徹底的な内省を行い、断片的な十の哲学/詩的夢想に書き起こした。
記事要約
10の散策録から構成される本書は、いかに自分が孤独に陥ってしまったかから始まる。
内省を書き綴った本作品の最終章が、彼が青年期にお世話になり、母であり恋人関係にもなったヴァランス夫人に対する思いで、終わっているのが感慨深い。
1.本の紹介
本のタイトルは「Les Rêveries du promeneur solitaire」(1778年発行)、邦訳は「孤独な散歩者の夢想」。いろんな出版社が邦訳を出しているが、私は新潮文庫の青柳瑞穂訳を完読。
著者は言わずもがな、スイス/フランスが誇る大哲学者にして文学者のジャン=ジャック・ルソー/Jean-Jacques Rousseau先生(1712ー1778)。当時上流階級の時計技師の家@ジュネーブに生まれたが、父が早くに失脚、知り合いの教会の寄宿舎?に預けれられたが不遇の幼少期を送る。
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人生が一転するのはヴァランス夫人に出会った青年期で、この二人の特殊な関係は世にも広く知られているところ。
人間不平等起源論や社会契約論で知られるルソー晩年の作品である孤独な散歩者の夢想は、1777年ー1778年に執筆、ルソーが65/66歳の時。
2.本の概要
10の散策録から構成される本書は、いかに自分が孤独に陥ってしまったかから始まる。「僕は地上でただ一人きりになってしまった」は、本書冒頭の抜粋。その孤独を安らかで静かな静謐と言う形で受け止め自己消化、この機を利用して徹底的な内省にはいることを決意するルソー。
そしてその内省を書き下ろした本書は、モンテーニュの随想録のような他人向けの本ではなく、自分のために書くものだと言う。死ぬ間際に読み返して、執筆した自分の甘味な思いを再び味わいたいし、その時の自分と言うものを忘れずにいたいとのこと。そして自分自身の深いところまで入り込む事で、幸福の真の泉が自分の中にあるということを悟る。
その内省の一部なのだろうが、晩年におけるルソーの人生観を表したフレーズがある。人生を競馬に例えるルソーは、若い自分に馬/人生を御する術を学ぶことに価値があるのは明白だが、この晩年で何を学ぶことがあるのかと自問自答する。そして彼の出した答えは、死を学ぶこと。でないと死に際に際してさらにいっそう生に執着することとなると彼は言う(ソクラテス的とも言える)。
彼の学者に対する辛辣な見解は的を得たものがある。学者というのは、自分のためにではなく、他人に評価されるために研究をし本を書くと言う(みんながそうではないが、私も全く同感で、その事もありアカデミアのキャリアを断念)。
他にも自分の子を孤児院に預けた経緯や植物学への没頭などにつき徒然なるままに書き下ろす本作品。しかしやはり、もっとも秀逸で心動かすのは、ルソーが執筆時から50年前に出会ったヴァランス夫人との思い出。「余は娑婆に70年間を過ごしたが7年間だけ生きた」という格言を引用しつつ、魂の邂逅や共鳴とも言うべき彼女との関係を彼の人生において唯一無二の経験として描写。
3.感想
詩的かつ哲学的作品。実はフランス語で購入して読んだのだが、どうも外国語で文学作品を読むのは苦手。外国語文学者達に対して改めて尊敬の念を抱きつつ私が原語での読破を早々に諦め、再度日本語にて挑戦。ルソーの一人称を「私」ではなく「僕」に訳している点に違和感を覚えつつも、ルソーの晩作を堪能できた。
人生終盤で色々あって周囲から孤立したルソー、本人としてはその孤独を楽しんでいるといっているが、それにしてはその旨をつらつら綴っており、やはり本人も思うところがあったに違いない。
いずれにせよ、周囲からの孤立は、本人が言うところの完全なる静謐を手にする切っ掛けとなり、それはルソーによる徹底的な内省の機会を与える。
そしてその内省を書き綴った本作品の最終章に、彼が青年期にお世話になり、母であり恋人関係にもなったヴァランス夫人に対する思いが綴られており、すごく感銘を受けた、というか色々と考えさせられた。結局彼女と過ごした数年が、彼の人生のなかでもっとも輝いていた時期とのこと(え、奥さんいるのに、と思ってしまうのは現代的な考え方なのだろうか)。
不平等起源やら社会契約論、エミールなどの大作を世に出したルソーが、晩年に強い思いを寄せたのはヴァランス夫人との一時だったのである。フランス革命前夜とも言える1778年、社会のあり方や将来を憂いたり、新たな作品に情熱を傾けていたのかなあとも思っていたが、実は若い自分に出会い、母として恋人として大事な人出会った夫人との甘味な思い出を想起しつつ人生を閉じたルソー。感慨深い。
以前紹介したハーバード大学の調査が、幸せの条件は人間関係である、といっていたのを思い出した。
最後に一言
なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。
あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。