〜アーセナルのプレスを超えた7番〜 22/5/12 《プレミアリーグ21-22 第22節》 トッテナム vs アーセナル レビュー
こんにちは。えつしです。
今回は、プレミアリーグ21-22第22節、トッテナム対アーセナルの試合をレビュー。
いよいよやってきた決戦の日。懸けるはCLへの切符。
果たしてノースロンドンは紅白どちらの色に染まることとなったのか?!
1. スタメン
・スパーズ
ロリス
サンチェス-ダイアー-デイビス
エメルソン-ベンタンクール-ホイビィア-セセニョン
クルゼフスキ-ソン
ケイン
72’ クルゼフスキ⇄モウラ、ソン⇄ベルフワイン
82’ デイビス⇄ロドン
直近のリヴァプール戦からロメロに代えてサンチェスを投入した〔3-4-2-1〕。
タンガンガ、スキップ、ドハティー、レギロンが怪我でシーズンアウト。
さらにリヴァプール戦で臀部を痛めた影響でロメロが欠場。
・アーセナル
ラムズデール
セドリック-ホールディング-ガブリエウ-冨安
ウーデゴール-エルネニー-ジャカ
サカ-エンケティア-マルティネッリ
63’ マルティネッリ⇄スミス=ロウ
72’ エンケティア⇄ラカゼット
76’ ガブリエウ⇄タヴァレス
直近のリーズ戦からスタメンの変更はなしの〔4-3-3〕。
パーティ、ティアニーが怪我で欠場。ホワイト、サカは出場が危ぶまれていたもののホワイトがベンチ入り、サカがスタメン入りとなった。
2. 1st half
2-1. お互いが見せたプレス
両者の勝ち点差は4。スパーズはこの試合に勝つとアーセナルとの勝ち点差を1に縮めることとなり、アーセナル側はこの試合に勝てばCL出場が決定するというゲーム。スパーズとしては、引き分けでもCL出場は厳しい状況で何としても勝たなければいけない。
そういった状況の中、スパーズは最近の試合ではなかなか見られなかった勢いを持ったミドルプレスでボールを繋ごうとするアーセナルのバックラインにプレッシャーをかけていく。
1分12秒のシーンでは、低い位置で受けたセドリックに対してソンが出ていき、セドリック→ホールディングのパスに二度追い。エルネニーをホイビィア、ジャカをベンタンクールで抑え、ガブリエウにクルゼフスキが出ていき、冨安にエメルソンが縦スライドして長いボールを蹴らせることに成功した。この場面では冨安に対するエメルソンのアプローチが若干遅く、マルティネッリは大外に張っていてガブリエウからクルゼフスキとベンタンクールの間を通すパスでライン間で受けることはできないので、ガブリエウに寄せるときにもっと明確にクルゼフスキが外切りしてもよかったかなとは思った。
2分28秒には冨安→ガブリエウのパスでケインがエルネニーを消しながらプレス。それに合わせてソンもホールディングに出ていき、ガブリエウからのバックパスを受けたラムズデールまでケインが追うことでロングボールを蹴らせた。
やはりプレスに若干の粗は見られるものの、ホームの熱気を味方につけ、アーセナルの狙いである後ろからの繋ぎを制限することができたスパーズ。
一方のアーセナルも用意してきたハイプレスで高い位置からのショートカウンターを狙っていく。
彼らのプレスのやり方としては、サカがデイビス、ウーデゴールがホイビィア、ジャカがベンタンクールを抑え、エンケティアがダイアーに出ることでサンチェスへボールを誘導させるというもの。そしてサンチェスに対してジャカがベンタンクールをカバーシャドウで消しながら出ていき、エメルソンにボールが出ればマルティネッリが寄せることでスパーズの右サイドでプレスを嵌めることを狙っていた。
アーセナルがこの試合に対してしっかりと準備してきたんだなと感じたのがマルティネッリをスパーズの右CBまで出さないことで、右CBから一気にシャドーのクルゼフスキにつける縦パスが入れられなくなったこと。
本来であれば右CBの位置にはロメロがいるはずで、先日のリヴァプール戦でもロメロからクルゼフスキにつけて相手アンカーの脇を突く縦パスはスパーズのビルドアップの肝となっていた。
スタメンがサンチェスに変わったことでスパーズとしてはより右サイドでのビルドアップが苦しくなった。ジャカのベンタンクールを消しながら出ていくというタスクは、消す相手がピッチの真ん中にいることで360°動くことができるのでなかなか難しいものである。なのでジャカがベンタンクールをある程度消しながら寄せて時間を稼いでる間に、ウーデゴールがホイビィアのマークを捨て、スライドしてベンタンクールを捕まえにいくという構造になっていた。
そうなると空くのはホイビィア。仮にエンケティアがプレスバックしてホイビィアへのパスコースを消しにきたのならば今度はダイアーやロリスへのバックパスという選択肢が取りやすくなる。
しかし、サンチェスのビルドアップ時の弱点としてファーストコントロールでボールを外側に置いてしまうという点がある。これによってサンチェスからボランチを使うパスが出せなくなり、選択肢がエメルソンへのパスに絞られて相手の思う壺、というわけだ。
このようにアーセナルはハイプレスによって高い位置でスパーズからボールを奪い、ショートカウンターを繰り出したり、スパーズに長いボールを蹴らせたりすることができていた。
2-2. スパーズが見出した攻撃の糸口
アーセナルのプレスに苦しむ中、スパーズが光明を見出したのはソンとホールディングのマッチアップのところ。
サカがデイビスまで出ていくので、セセニョンに対してはセドリックが出ることになっているアーセナル。そこでデイビスからサカとセドリックの間を通すソンへのパスが使えるようになってくる。いつもはこれを右サイドのロメロとクルゼフスキでやっており、左サイドではソンのライン間でのターンの技術、前を向けるか向けないかの判断、次のプレーまでのスピードなどの問題であまりうまくいっていなかった。
しかし、この試合ではソンがデイビスからボールを受けることでスパーズの攻撃を大いに助けることができていた。
左サイドに張ったところからデイビスとタイミングを合わせてスッと内に入ってくることでパスを受ける。そのスッと入ってくる動きでホールディングのマークを外すことができる。今までのソンにはこの受ける前にマーカーを外す動きが足りなかったように思う。
それがこの試合ではできており、さらにスピードアップした状態でボールを受けられるために、トラップした時点でホールディングを完全に置き去りにするシーンも何度か見られた。
セセニョンから縦関係になった状態でパスを受けても簡単にトラップでホールディングのことを剥がしてしまっていたので、そもそもアーセナル側としてはこのマッチアップに難があったと言っていいかもしれない。
内側にトラップしてから持ち前のスピードでアンカーのエルネニーまで剥がして1人でPA前まで持って行ってしまうソンの推進力を活かす左サイド。
さらに右サイドでもベンタンクールがアーセナルのプレスをかわす動きを見せる。
先述した通り、ジャカがサンチェスにプレスに出た後、ウーデゴールがスライドしてベンタンクールを捕まえにいくのだが、ウーデゴールはホイビィアをマークしたところからベンタンクールの方に移動するわけで、どうしてもベンタンクールが自分と逆方向に進んでいってしまうと捕まえ切れない。
それを活かしてセセニョンのクロスまでいくことができたのが18分のシーン。
クルゼフスキが右サイドの大外に張って冨安を引きつけることで空いてくるD Fラインと中盤の間のスペースにベンタンクールが侵入。そこにエメルソンがマルティネッリの外側から流し込むようなボールを入れることでアーセナルのプレスを剥がして逆サイドに展開し、クロスまで持っていくことができた。
ロメロの存在も加味して相手の右サイドを狙ったプレスを仕込んできたアーセナル。そして逆に相手の右サイドでのマッチアップの優位性を活かして個の力で打開しようとするスパーズ。
チームとしてはアーセナルの方が準備したことを表現できており機能しているかなと思っていた矢先、スパーズの1点目が決まる。
アーセナルはリトリートした際はマルティネッリがエメルソンについていき、ウーデゴールはエンケティアと同じ高さで守る〔5-3-2〕っぽい形。
そのアーセナルの守り方に対し、エメルソンとクルゼフスキが入れ替わり、大外にエメルソンがジャカの脇でボールを受ける。そこにジャカではなく冨安が縦に出ていき、ジャカはその後ろに空いたスペースをカバーするような動き。エメルソンは大外のクルゼフスキにボールを渡してそのまま縦に走る。その動きに冨安がついていき、ジャカも冨安のカバーに入る動きを行ったため、クルゼフスキがカットインするスペースが生まれ、カットインから左足でインカーブの正確なクロス。クロスに合わせようとしたソンをセドリックが後ろから押してしまい、スパーズにPKが与えられる。そして21分49秒、ケインが見事PKを決め、ホームチームが大きな先制点を手にすることに。
スパーズはケインがエルネニーを監視し、運ぶCBにはベンタンクールやホイビィアが出ていく〔5-4-1〕で守る時間帯が増えていたが、先制点後には再び勢いよくミドルプレスに出ていき、ショートカウンターからのチャンスを演出する。
そして33分、ダイアーのフィードに抜け出そうとしたソンに対するホールディングのファール。これでホールディングは2枚目のイエローを受けて退場。形勢は一気にホームチームに傾くことに。
ホールディングのファールで得たフリーキックの流れで再びスパーズがフリーキックを獲得し、ソンのフリーキックからコーナーキックまで繋がることに。
ホールディング退場の流れを切れないままに連続でセットプレーの守備を行うアーセナル。そんな彼らに追い討ちをかける1発がそのコーナーキックから決まってしまい、36分37秒にスパーズが2点目。ソンのキックをマークにつかれていなかったベンタンクールがフリック。ファーに流れたボールをケインが恐れることなくダイビングヘッドで押し込んだ。
アーセナルとしてはゾーンを守るガブリエウが少し前に出てボールにアプローチできなかったのが痛かったか。
アーセナルは布陣を〔5-3-1〕に。DFラインを下げてカウンターでの一発を狙うのではなく、エンケティアがダイアーまで出たりウーデゴールが列落ちしたホイビィアに出て行ったりするもさすがに後ろがついて来れない。
逆にスパーズはより一層プレスの色を強め、ハイプレスでアーセナルからボールを取り上げにいく。
そして前半は2-0とスパーズの2点リードで終了。
ホールディングがソンとのマッチアップに苦しみ、序盤から気持ちが前に出過ぎた対応を見せ、挙句の果てに33分という早い時間で退場してしまう展開で完全に主導権はスパーズのものに。
3. 2nd half
後半、開始から1分が経ったところでケインがガブリエウに背中を預けてPA内でサンチェスの楔を受ける。そして反転からガブリエウが触ってこぼれたボールをソンが流し込んで46分9秒にゴール。
ケインのガブリエウをPA内に押し込み、相手がファールを犯せばPKという状況を作り出したプレーによってガブリエウも対応が難しくなって自ら反転することまでできた。さすがのフィジカルと判断。
さすがにこの3点目で試合は決まったと言っていいだろう。その後は〔5-3-1〕で守るアーセナルと、とりあえずサカやマルティネッリといったアタッカー陣のカウンターにさえ警戒していればと安心してボールを持つスパーズという構図で試合が進んだ。
個人的に気になったのは後半のスパーズの試合の進め方。
プレスに出られないアーセナルに対してボールを持ち倒して試合をクローズするのならばケインが無闇に降りてクロスを入れ込むぷれは必要なかったように思う。
さらに後半何度も見られたクルゼフスキとエメルソンのポジションチェンジも、5バックに対してクルゼフスキのカットインからインカーブのクロスを入れるというのは選択肢としてありだと思うが、それならば前半のPK獲得のシーンのようにエメルソンはインナーラップするなりしてクルゼフスキが内側にボールを持ち出しやすい状況を作らなければならなかったのではないか。
見ていたスパーズサポーターの感想としても後半はやや物足りなかったという感想を持つ人は多いのではないだろうか。
何はともあれ、絶対に負けられない6ポイントゲームにスパーズが勝利し、3-0、余裕を持ってすばらしい雰囲気のホームで勝ち点3を手にすることができた。
4. 感想、総括
スパーズとしては思いがけない相手側のエラーから勝ち点3が転がり込んでくる格好となったこのゲーム。
前半ホールディングが退場するまではどちらに転んでもおかしくない内容だったように思う。
僕の勝手な予想だが、ロメロのビルドアップ能力を活かさせない狙いを持ったアーセナルのプレスの運用と冨安の左SB起用は悪いものではなかったと感じるし、マルティネッリとエメルソンのマッチアップはソンとホールディング程のミスマッチではなかったが、怖いものがあった。
ダービーならではの運動量、プレッシングの速さでアーセナル相手にミドルプレスが通用したことは良かった点。ただやはりWBの押し上げが若干遅かく、ラムズデールやアーセナルのバックラインのパス精度、トラップの向きがもう少しよければプレス回避されそうだったなというシーンは散見されたのでそこは改善していきたい。
逆にスパーズ側のボール保持時に関してはソンのボールの受け方などホールディング相手に個の質で優位に立てていた部分を除いても工夫が見られたのが良かった。ただアンカーにいるのがファビーニョだったら、あんなにも簡単に自ら前を向いてそこからドリブルでPA前まで持って行ったり、逆サイドへの展開を促したりできるのかと言われると難しいとは思う。技術的に何かこの1試合で向上したところが見られたわけではないと思うので、今の〔3-4-2-1〕のシャドーとしてはやはり適性ではないというのが僕の意見だ。
5. おわりに
リヴァプール戦に続き自分たちのできることを忠実に遂行し、2試合で勝ち点4、アーセナルとの勝ち点差は1。
この2戦、できることはやった。後は全力でバーンリーとノリッジと戦い、アーセナルとの試合を待つニューカッスルとエヴァートン、かつての仲間を擁する2チームの健闘を祈るしかありません。
神頼みはやることやってから。
まずは次節バーンリー戦。ここに来て中日は二日と難しい日程ですがやるしかありません。幸いと言っていいのか、バーンリーも怪我人は多い様子。この終盤戦、ロメロの離脱はあまりにも痛いですが怪我人たちの想いに応えるためにもなんとか勝利を届けてもらいたいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。