〜できたプレスと問題点、そしてアンフィールドへ〜 22/4/30 《プレミアリーグ21-22 第35節》 トッテナム vs レスター レビュー
こんにちは。えつしです。
今回は、プレミアリーグ21-22第35節、トッテナム対レスターの試合をレビュー。
CL圏争いの真っ只中、ブライトン戦、ブレントフォード戦と2戦続けて勝ち点を落としてしまったスパーズ。勝ち点勘定、次節からのリヴァプール、アーセナルとの連戦に向けてのメンタル面、どちらの側面からみてもなんとしてでも勝ち点3が欲しい一戦である。
一方、スパーズとは違い、リーグの順位的には特に特定のコンペティションへの出場権をかけて戦っているわけではないレスター。スパーズサポーターには耳が痛いECL優勝を今シーズン残りの第一目標に掲げ、ローマとの準決勝の1stレグと2ndレグの間に位置するこの試合をどのように戦ったのか。
1. スタメン
・スパーズ
ロリス
ロメロ-ダイアー-デイビス
エメルソン-ベンタンクール-ホイビィア-セセニョン
モウラ-ソン
ケイン
55’ モウラ⇄クルゼフスキ
82’ ベンタンクール⇄ウィンクス、ソン⇄ベルフワイン
直近のブレントフォード戦からクルゼフスキに代えてモウラを起用した〔3-4-2-1〕。
タンガンガ、ドハティーに続いてスキップが手術を決行してシーズンアウト確定。さらにレギロンも怪我で欠場。
コンテはリヴァプール、アーセナルとの試合を見越してなのか、ここに来てクルゼフスキではなくモウラをスタメンに据える決断。
・レスター
シュマイケル
カスターニュアマーティソユンジュ
オルブライトン-スマレ-メンディ-アヨセ・ペレス-トーマス
イヘアナチョ-ダカ
67’ ダカ⇄ヴァーディ、スマレ⇄ブラント
76’ アヨセ・ペレス⇄ティーレマンス
直近のミッドウィーク、ECLローマ戦からリカルド・ペレイラ、フォファナ、エヴァンズ、マディソン、ティーレマンス、デューズバリー=ホール、ヴァーディ、ルックマンに代えてアマーティ、ソユンジュ、スマレ、メンディ、アヨセ・ペレス、トーマス、イヘアナチョ、ダカを起用した〔3-5-2〕。
マディソンとデューズバリー=ホールが怪我らしく、ローマとの2ndレグでの起用も考えて欠場。
ローマとの1stレグの試合から実に8人ものスタメン交代を敢行し、大幅なターンオーバー。
2. 1st half
2-1. スマレを出すレスターの〔5-3-2〕
まずはスパーズのボール保持時の話から。
〔3-4-2-1〕でビルドアップするスパーズに対するレスターの守備は、前節のブレントフォードのやり方に似通っていた。
〔5-3-2〕でセットした状態から、デイビスにボールが渡ると右IHのスマレが出ていってデイビスに出る。
IHがスパーズのCBに出るというのはブレントフォードと同じなレスターの守備。
ブレントフォードと違ったのは、右のスマレはデイビスまで出るものの左のアヨセ・ペレスはロメロまで出ないことや、スパーズの前進を防ぐという意味合いだけでなく、イヘアナチョやダカがCBまで出てスマレがそれに続くことでボールを奪いにいく意志を持っていたこと。
スマレがデイビスに出てくることがわかっているのならデイビスが足元でボールを受けることでスマレを釣り出し、ホイビィア、ソン、セセニョンと3つのパスコースを持ってプレーできれば攻略できるはず。
しかし、どうしても周りも彼自身も相手が2トップであるという認識からか、デイビスが運んでレスターの1stDFラインを突破することを考えてしまい、パスが足元ではなく少し前目になったり、デイビスも深いポジショニングでスマレを釣り出すというよりも、自ら高い位置を取ってスマレに近づくことになってしまっていたり。
そうなるとどうしてもホイビィアへのパスコースがなくなってしまい、選択肢はカスターニュにマークされているソン、オルブライトンにマークされているセセニョンに限られてくる。
マークされている選手を使うにしても、レイオフで3人目のフリーの選手を使っての前進ができればいいのだが、ソンに当てた後のホイビィアのサポートは遅く、そういった狙いは見られなかった。
ボランチの動きに関しては、カウンターの際にボールホルダーに並走か斜め後ろについていってサイドを変える選択肢を提供することもできておらず、2ボランチが2人ともバックパスの受け手に終始しているシーンがあったのは気になった。
一方で、デイビスからソンに入ったときのソンのプレーの精度、判断はいつもより良かった。
ワンタッチで後ろのケインへ流すようなダイレクトプレーが目立っており、次のプレーを迷った挙句奪われたり、余りにも簡単なバックパスに終始したりすることはなかった。自分がはっきりとマークにつかれているからこそ自分で前を向く選択肢がなく、シンプルにプレーできたのがプラスに働いたのかもしれない。
しかし、スパーズはレスターを押し込み、いつも僕が書いているボランチを経由しての速いサイドチェンジで逆サイドのWBに対して数的優位で崩せそうな場面でも、エメルソンがボランチの横で無駄なサポートをしてしまい、トーマスを2対1で攻略することができず、サイドチェンジからの崩しも突破口が見えない。
再現性高くゴールに迫ることはできない時間が続いた。
2-2. うまくいったミドルプレスと問題点
次はレスターにボールを保持されたときにスパーズがどのように振る舞ったのかを見ていこう。
結論から言うと、ここ2試合とは違って〔5-4-1〕でセットしたところからのミドルプレスがうまくいく回数は多かった。
〔3-5-2〕でビルドアップするレスターに対してCBからCBへのパスをスイッチにボールホルダーに対してケインやシャドーが出ていき、WBに対してWBが縦スライド、アンカーのメンディはボランチが抑え、IHにはボールサイドのCBが縦ずれして捕まえにいくことで封殺。
スマレは頻繁に右サイドに流れていたが、オルブライトンよりも高い位置にスマレがいる場合には彼が空けたスペースに降りるイヘアナチョをダイアーが潰したり、オルブライトンが高い位置でセセニョンをピン留めしてカスターニュとオルブライトンの間にスマレが降りた場合には余ったボランチが捕まえにいったり。
上図の通り、スマレの流れる動きにも対応して嵌めることに何度も成功する。
スマレの流れる動きに対してホイビィアよりも機動力のあるベンタンクールが対応するために27分辺りからボランチの左右を入れ替えたかもしれない。後半も入れ替わっていた。
ただどうしても前線のプレッシングの速さや強度はそこまで高くなく、前向きに奪ってすぐショートカウンターに移行するというシーンはなかなか作れなかった。
そして右サイドのモウラとエメルソン、このブラジル人コンビがプレス、撤退守備ともに穴となってしまっていた。
まずモウラは〔5-4-1〕での撤退守備で我慢するフェーズでも1人だけ対面のソユンジュを気にした位置取りで、ソユンジュ→トーマスのパスが出たときにトーマスに対するアプローチが遅く、彼に時間を与えてしまっていた。左から右にスライドするときも斜めに下がらず中盤4枚のブロックより前に出た状態でスライドするので、どうしてもトーマスに寄せるのが遅くなってしまう。
そのスライドの仕方によってトーマスに時間を与え、エメルソンの裏に走ったアヨセ・ペレスにシュートまでいかれたのが7分過ぎのシーン。
ここにはモウラだけでなくエメルソンの対応の拙さも表れており、エメルソンはトーマスに出ていかないことを選択したにも関わらず、アヨセ・ペレスの裏へのランニングにも対応できていない。
さらに16分29秒のシーンでもモウラのソユンジュへのプレスとチームの動きが噛み合っておらず、エメルソンもスプリント開始が遅く、遅れてトーマスに出ていってその裏をアヨセ・ペレスに使われべンタンクールのファールとなっている。
33分20秒のシーンもモウラはソユンジュにプレスをかけるのだが、スプリントを始めるのが遅く、ソユンジュは前を向いたときにかなり余裕がある状態。ボールの移動中に寄せることができていない。ボールホルダーにプレッシャーがかかっていないために、エメルソンのトーマスに対する縦スラ、ロメロのアヨセ・ペレスに対する縦ずれも当然間に合わず、トーマス→アヨセ・ペレスで前を向かれ、そこから逆サイドに展開されてオルブライトンのクロスまで繋がれてしまう。
このように、ミドルプレスが嵌まってボールを奪う回数も増えたものの、同時にスタメン変更による右サイドの脆弱性もかなり露呈しまうこととなった。
2-3. 1st halfまとめ
どちらもあまりうまくいっていないものの、13分10秒に流れたスマレがオルブライトンとのワンツーで右サイドを抜け出し、クロスからイヘアナチョがシュートを放つ決定機を作ったレスター。このシーンはセセニョンの裏をカバーしたデイビスのカバーリングのスピード、フィジカル、対人守備に限界を感じざるを得なかった。
どちらが主導権を握るわけでもない時間が流れる中、21分34秒にスパーズがソンのコーナーキックにケインが合わせる形で先制する。
ファーポストのオルブライトンとニアストーンのイヘアナチョ以外はマンマークで人を捕まえているレスターに対し、デイビス、ロメロ、ダイアーは動かずにベンタンクールとモウラがニアに走り込んだスペースにケインが飛び込む動き。動き出すタイミングで押しはしない程度の強さで手を使ってアマーティと距離を取ってフリーでヘディングしたケインの技術も含め、すばらしい得点だった。
そして、スパーズが1点リードのまま前半は終了する。
3. 2nd half
後半、レスターはスパーズの縦スラで出てくるWB、縦ずれして出てくる左右のCBの裏へのボール、ランニングを増やし、スマレのセセニョン裏へのランニングやダカのエメルソンやロメロの裏へのランニングを起点に得点を狙う。
スパーズはというと、ボランチのメンディへのプッシュアップが遅く、プレス回避されるシーンが目立つように。
ダカのスライドで対応されていたロメロが目一杯開くことで運んで1stDFラインを突破するなど前半になかった良いシーンも見られたものの、ミドルプレスにモウラとエメルソンに加えて更なる綻びが出始めた中、55分にモウラに代えてクルゼフスキが投入される。
そしてその数分後。エメルソンが囲まれてこぼれたボールをロメロがカットし、再びこぼれたボールを自らタックルにいってソユンジュとの球際勝負に勝利。流れたボールを拾ったクルゼフスキはケインに流れるよう指示を出し、それによってPA内にスペースを生み出し、カットインして溜めを作りソンの動き出しに合わせてスルーパス。ソンのオルブライトンの動きの逆をつく落ち着いた反転からのトラップとさらにシュマイケルの逆をつくシュートでゴール。
クルゼフスキのケインをも動かし得点を演出してしまうチームへの馴染み具合、落ち着きとソンのさすがのゴール前での動きで2点目を奪う。
レスターは67分にダカ、スマレに代えてヴァーディ、ブラント。76分にアヨセ・ペレスに代えてティーレマンス投入。
しかし、主力を送り出したレスターの心を折るソンのとんでもない逆足ゴラッソが78分8秒に決まる。左足での迷いのない振り。さすがとしか言いようがない3点目。
スパーズは82分にベンタンクール、ソンに代えてウィンクス、ベルフワインを入れる。
後半は終盤まで中途半端なプレスでレスターに中盤を使われ前進されることが多かったスパーズ。
アディショナルタイムにはケインが最終ラインに降りたスマレに剥がされたところから、不用意にホイビィアとの間を空け過ぎてしまったベルフワインのポジショニングを突かれ、ティーレマンス→ライン間のイヘアナチョというパスを許してしまい、ウィンクスのとんでもなく軽い守備からイヘアナチョに利き足の左足でニアをぶち抜くミドルシュートを打たれて失点。
決して内容が良かったとは言えない試合だったが、スタメン、交代選手ともにさすがのクオリティを見せつけ、最後には交代選手が悪い意味でのクオリティの違いを見せてしまい1点を献上し試合終了。3-1でホームチームがどうしても欲しかった勝ち点3を手にすることとなった。
4. 感想、総括
前半は前節からの反省を活かしてミドルプレスでレスターに自由にボールを持たせないことができていたのは良かった。
しかし、明らかにスタメン変更による弊害が表れている部分もあり、スタメンがクルゼフスキ、WBもドハティーであれば、と感じてしまう部分は大いにあった。
WBが大外で個人の質で勝負できないことはどうしようもないが、エメルソンの前への出足の遅さ、さらに前に出るのが遅い上に裏への対応もできていなかったことに関しては正直不安しかない。
リヴァプール戦、〔3-4-2-1〕で臨むとしてシャドーが誰になるかはわからないが、対面のマネやルイス・ディアス、ロバートソンに対するエメルソンの守備がどうなるかかなりヒヤヒヤだし、コンテは今回クルゼフスキからモウラをスタメンにしたのは単なるローテーションだと言っていたが、この試合を経て次節エメルソンと組むシャドーに誰を起用するか、ドキドキしながらスタメン発表を待つことになる。
ビルドアップに関してはいつも通りシャドーとWBが同時に下がってきてしまうシーンは散見され、我々のシャドーの選手にも後半のスマレやダカのように相手のサイドの裏のスペースに斜めに抜け出す動きをできるようになってほしいと強く思った。
そういった裏抜けは今回も見られなかったものの、CBからボールを受けた際のソンのワンタッチプレーはうまくいっており、無理に自分で前を向こうとしたり、サポートの意識が低いホイビィアにレイオフしたりするよりも多少アバウトなボールでも同数になっている前線のケインへ繋ぐ方がビルドアップの停滞を防げるのかなと。
試合後のソンの自分の得点数よりもチームの勝利、CL出場権を取ることの方が大事であることを強調するコメントや、現地記者からのチーム内での新加入選手をサポートする人間性をみて、今の彼のチーム内でのポジションは決してピッチ内だけの働きで築かれたものではないなと思ったし、そういう意味ではいかに今のピッチ上でのタスクがソンに合っておらず、それがチームとしてのチャンスの数を減らすことに繋がっていたとしても彼を簡単に外すことができないのもわかるなと感じた。
リヴァプールとの試合では間違いなく彼の力が必要だ。カウンターでいかに相手ゴールに迫ることができるかが重要になるであろう試合、ぜひとも自分の得意な土俵で暴れ回ってほしい。
5. おわりに
いかがだったでしょうか。
今シーズンも気付けば残り4試合。そして次節からはリヴァプール、アーセナルとの熱い2連戦が始まります。
コンテがやってきてスパーズは劇的に変わりました。
もちろんまだまだ足りないところだらけですし、夏にかなりの額を投じなければ変えられないこともあるでしょう。
しかし、波の高低差はかなりあるものの、今のスパーズはうまくいけば爆発的な力を発揮することができるチームです。
画面の前から見ている僕たちに何ができるか問われれば、彼らがどのように努力し、何ができるようになって何が足りていないのかを見て、彼らの苦しみをできるだけ理解し、応援し、願うことくらいしかありませんが、少なくともここまでの彼らの道のりを僕が出来得る限りの解像度でお届けしてきたつもりです。
シーズンの命運が決することとなる残り4試合。まずは世界一の難所、アンフィールドでCLファイナリスト、リヴァプールに立ち向かう一戦、ここまでレビューで書いてきたことを少しでも頭に浮かべてもらって、頭の中だけでもチームと共に戦ってもらえれば幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。