〜一貫性を失わないために〜 22/4/16 《プレミアリーグ21-22 第33節》 トッテナム vs ブライトン レビュー
こんにちは。えつしです。
今回は、プレミアリーグ21-22第33節、トッテナム対ブライトンの試合をレビュー。
前節アウェイでアーセナルを下したブライトンをスパーズがホームで迎え撃つ一戦。先週はCL圏争いをしているライバルが軒並み勝ち点を落としてくれたおかげで一人勝ちとなったスパーズだが、アーセナルを倒したブライトン相手に勝利し、今週も3ポイントを手にすることはできたのか?!
1. スタメン
・スパーズ
ロリス
ロメロ-ダイアー-デイビス
エメルソン-ベンタンクール-ホイビィア-レギロン
クルゼフスキ-ソン
ケイン
64’ クルゼフスキ⇄モウラ
72’ ベンタンクール⇄ウィンクス
88’ ソン⇄ベルフワイン
直近のアストンヴィラ戦からドハティーに代えてレギロンを起用した〔3-4-2-1〕。
スキップとタンガンガの欠場に加えてドハティーが前節の負傷でシーズンアウト。
・ブライトン
R. サンチェス
フェルトマン-ダンク-ククレジャ
ランプティ-グロス-ビスマ-カイセド-トロサール
ムウェプ-マック・アリスター
46’ ムウェプ⇄ウェルベック
78’ カイセド⇄ララーナ
82’ ランプティ⇄マーチ
直近のアーセナル戦からウェルベックに代えてランプティを起用した〔3-5-2〕。
2. 1st half
・人基準のブライトンの守備とスパーズのシャドーとWBの関係
この試合、肝となったのはなんと言ってもブライトンの守備だろう。
右CFのムウェプがやや開いた位置でデイビスにパスが出ればすぐ寄せにいけるようにし、グロスはホイビィア、カイセドはベンタンクールをマーク。ロメロにパスが出るとカイセドがベンタンクールのマークを捨ててロメロに寄せる。ここでマック・アリスターがプレスバックでロメロからベンタンクールへのパスコースを消す役割を担っていたので、マック・アリスターがダイアーにプレスをかけてプレスのスイッチを入れることはあまりなかった。
ブライトンのミドルプレスのスイッチとなっていたのはホイビィアからダイアーへのバックパス。グロスのホイビィア、ダイアーへの二度追いや、バックパスのタイミングでのマック・アリスターのダイアーへのプレッシングでスパーズの左右のCBへボールを誘導し、ムウェプやカイセドが出ていく。
マック・アリスターがダイアーまで出て先述したベンタンクールへのプレスバックができないときは、ビスマがベンタンクールまでプッシュアップすることでカイセドがマークを捨ててロメロに出ることができていた。
スパーズはブライトンのこの守備に大苦戦。突破の糸口としては、フリーで持てるダイアーやカイセドがベンタンクールのマークを捨ててロメロに出てくる部分だっただろう。
マック・アリスターのプレスバックがこの試合の守り方として組み込まれていることや試合中の寄せ方を見てもわかるが、ブライトンはあくまでもプレスよりもブロックを組むことを優先。
右に揺さぶってマック・アリスターをベンタンクールのプレスバックに駆り出すことでどかしてからダイアーに戻し、ダイアーが自ら運んで前線へのパスコースを探すプレーはもっとできたはずだ。
ブライトン側にマークの受け渡しが発生するロメロのところももっと活かしたかった。マック・アリスターのベンタンクールへのプレスバックが間に合っていなければカイセドがロメロに出た時点でベンタンクールを使えばいいし、プレスバックが間に合っていたとしても、カイセドが内側からロメロに寄せることになることを利用し、カイセドの外側を通すパスでCBからシャドーに一気にボールを届けることができればよかった。
CBからシャドーに一気に通すパスが少なかったのは右だけでなく左も。
そもそもブライトンの守り方からスパーズの前線3人とWBに対してわかりやすくマークは決まっている。
なのでシャドーやWBがボールを受けにくいのはわかるが、あまりにもそこの連動がなっていなかった。
スパーズのWBは前半を通してポジショニングが低く、それに対してブライトンのWBは縦スライドで対応していた。
それならばブライトンのWBの裏のスペースが空いてくるはずなのだが、スパーズのシャドーは左右共にそのスペースを狙うランニングを効果的にできず。
上図でいうと、トロサールのエメルソンへのアプローチが遅ければエメルソンから出てくるトロサールの外を通して流し込むようなボールか、トロサールが早めにエメルソンを捕まえようとするのであればロメロからのフィードでWB裏のスペースをクルゼフスキが狙っていきたい。
もしくは、エメルソンやレギロンが高い位置に張ることでブライトンのWBをピン留めしてスペースを作り、クルゼフスキやソンがアンカーのビスマ脇を狙う前進方法もありだろう。そのためにはCBがもっと開いて左右のCBから張ったWBへのパスコースがちゃんとできるようにしなければいけないが。
いずれにせよ、今回のスパーズはシャドーとWBとでうまく段差がつけられておらず、2ボランチをブライトンに抑えられているため中からの前進もできずにビルドアップが停滞していた。
・スパーズのミシャ式ビルドアップ
まだ芽がありそうだったのは、この試合で初めて見せたミシャ式ビルドアップだった。
ミシャ式というのは、現コンサドーレ札幌監督のミハイロ・ペトロヴィッチが好んで使うビルドアップとして知られており、3バックの真ん中のCBと左右どちらかのCBの間にボランチが落ちることによって3バックから4バックに変化してボールを繋ぐ方法である(多分)。
今までもボランチがバックラインに落ちてビルドアップをすることはあったが、今回のように明確に4バックを作るようにはなっていなかった。
スパーズが4バックになったとき、ブライトンは開くロメロやデイビスに対応するためにカイセドやムウェプが下がり〔5-4-1〕のような形に。
ワントップに対して数的有利な2CBの位置にいる選手が運ぶことでボールを前に持っていきたいスパーズだったが、ベンタンクールがバックラインに降りている最中にダイアーからボールを受け、そのせいでデイビスへのパスのスピードがすごく遅くなり、デイビスがムウェプに寄せられて困る場面があったり、ダイアーが少し運んだところからベンタンクールにパスし、ベンタンクールがシンプルにサイドに展開すればWBのトロサールに対して2対1を作って打開できそうな場面でエメルソンが裏を狙ってしまったり。
また、4バックを作った状態を保ったままブライトンのブロックを揺さぶるのではなく、ボランチが一度ボールを捌くと自分の持ち場に戻ってしまうこともあり、落ち着いたビルドアップにはなっていなかった。
このビルドアップの形はSBを低い位置に置く〔4-3-3〕のビルドアップと似ており、たしかスペイン代表がやってたので少しみてみたところ、IHの選手が積極的にボールに関わり、潤滑油となっていた。
スパーズならばIHのポジションに位置するクルゼフスキやソンがもっと下がって遊びのパスを受けて相手を引きつけたり、ワンタッチで捌いて逆サイドへの展開を促したりすることを行わないといけないのだろうと思う。
今までなかった新たな取り組みが見られることはポジティブだが、まだまだ改善が必要なようだ。
・1st halfまとめ
スパーズは、序盤こそ相手のバックパスからミドルプレスのスイッチを入れてボランチもアンカーのビスマまで出ることでブライトンにボールを蹴らせることができていたものの、グロスやカイセド、ムウェプなど前線のリソースをブロックの外まで落とされて相手に安定した保持をされるようになると、前節同様スイッチの入れどころが見つからずに〔5-4-1〕のローブロックを組み、押し込まれる時間が増えてしまった。
しかし、ブライトンもゴールキックを繋がずに蹴っており、思ったより後ろからボールを繋いでこようとは拘らずにいてくれたこともあって、彼らにボールを握り倒されるということにはなっていなかった。
そして前節同様ケインの周りでボールは持たれるものの、アストンヴィラのように中央に人が密集した配置でもなく、コウチーニョがいるわけでもないので、ケインの周りのスペースからとにかく縦パスを入れて質と量のゴリ押しでチャンスを作られることにはならず。
両チーム共にチャンスはあまり作れていないものの、スパーズがミドルプレスに出られなくなっている分ショートカウンターのリスクが少なく、順位表を考えても気持ちに余裕のあるブライトンが優勢の45分だったと言っていいだろう。
0-0で試合を折り返すこととなった。
3. 2nd half
ブライトンはハーフタイムにムウェプに代えてウェルベックを投入し、前半のマック・アリスターのタスクをウェルベックに、ムウェプのタスクをマック・アリスターがこなすように。
スパーズは勝利に向けて前半よりも積極的にプレスに出るように。
しかし、ケインやソンがプレスに出るもののアンカーのビスマに対してボランチがプッシュアップできておらず、シンプルにフリーのビスマを使われてプレス回避されるシーンが増えてくる。
ブライトンがGKのR. サンチェスを含めたビルドアップではククレジャが左に張ってトロサールを押し出した4バック+1の形でボールを繋いでくる中、ケインはダンクへのパスコースを切りながらR. サンチェスまで寄せていく。
まずそのケインの寄せの速さが全く足りておらず、51分7秒のシーンのようにあろうことか、自分が切っているブライトンの左サイドのククレジャへR. サンチェスからのロブパスで逃げられてしまっている。
61分42秒には下図のようにホイビィアの二度追いによってフェルトマンにロングボールを蹴らせることができたが、この動きが見られたのはこの一階のみであり、出ずっぱりのホイビィアにこの二度追いを役割として課すのは無理があると思う。
後半特にビスマを抑えられない状況が続いたのは、ブライトンのIHをスパーズのボランチがみようとしていたから。ビスマを抑えていたボランチが全速力で二度追いしてボールを受けに下がるブライトンのIHを捕まえるのは現実的ではない。左右のCBが出ていって対応するのが定石であるし、実際以前のスパーズは15節のノリッジ戦などでその対応ができていた。
プレッシングの際の前線のスプリントが遅く、ボールホルダーが余裕を持ってロングキックを蹴ることができる状態が多かったので、後ろの選手が裏へのボールが怖くて前に出ることができないのは確かだが、大外からライン間に斜めに刺してくるボールに対するロメロの反応など、コンディションの問題なのか、バックラインの機動力がいつも通りではない感じはした。
ブライトンのIHを捕まえきれなかったのは、疲労の問題もあるかもしれない。
うまくプレスが嵌まらない時間を過ごすスパーズは64分という早い時間にクルゼフスキに代えてモウラを投入。イエローカードをもらっていたので、クルゼフスキの交代は理解はできるものの、少し時間が早い気もするし、代わって入ったのがモウラなので、ライン間で顔を出すタイミング、トラップの質がクルゼフスキより劣ることは間違いなし。個人的にはクルゼフスキを代えるとしてもベルフワインの方が良いのでは?と疑問だったが、ここの選考に関しては、我々が知らない理由があるのかもしれないので何とも言えない。
モウラを投入し、ロングボールを増やしたスパーズだったが、彼を入れて作り出したカオスは自らのプラスになっているようには見えなかった。
裏に蹴って相手を背走させたところからのプレスを狙っているわけではなさそうだったし、ケインが空中戦の弱い相手と競る形を意図的に作っているわけでもない。
ことごとくセカンドボールをブライトンに拾われ、自ら試合を望まない方向に動かしてしまった感のあるスパーズ。
プレスをかけてもビスマを使われて逃げられるし、雑なロングボールで保持の時間もうまく作れない。
そして89分4秒、ブライトン陣からのダンクのFKをフリーで触ったウェルベックが頭でララーナに繋ぎ、トロサールがアウト回転をかけた裏へのボールと見事なキックフェイントでダイアーを欺く好プレーを見せ、アウトサイドでファーに流し込む綺麗なシュートでゴール。ブライトンが先制する。
この場面でダンクのロングキックに対してロメロがウェルベックと競ることができていないことがこの試合のスパーズの出来を表していた。
トロサールの値千金のゴールをアウェイチームが守り切り、スパーズがホームで勝ち点3を失う形で試合終了となった。
4. 感想、総括
以前できていたことができなかった。それが今回のスパーズの反省点だろう。
正直ビルドアップの際のシャドーとWBの連動に関しては前から問題点としてあったことだし、この試合でできなくても不思議はない。
しかし、プレスのスイッチが入ったときに左右のCBが積極的に相手の中盤を捕まえにいくことは、前はできていたはずで、やらなくてはいけないことのはずだ。
前半も、試合後にコンテや選手が語っていたように試合にゆっくりと入りすぎてしまったように思うし、IHが低い位置でボールを受けにいく相手に対しても全体を押し上げて人を捕まえ、ボールを奪う守備をできるようにならなければならない。
一つずつできることを増やしていき、進み続けなければ、またも記者会見でconsistency(一貫性)という言葉が多く聞かれることになってしまうだろう。
さらに、『勝てないとしても負けてはいけなかった』という試合後のコンテやロリスの発言の通り、せめて勝ち点1は取るべきであった。
というか、コンテはなぜ試合後にそんな発言をするのならばあのときクルゼフスキに代えてモウラを投入し、こぼれを拾う構造もなしに何度もロングボールを蹴らせたのか。彼の投入によって試合に不確定要素を増やす形になり、不用意にオープンな展開を増やしてしまったのではないか?
プレスが機能せず、セカンドボールも拾えない中、ロングボールを蹴るなら蹴るで割り切ってボール保持を放棄してロングカウンター狙いにした方が得点のチャンスは作れたのではないか?ブライトンも遅攻で決定機を作れていたわけではないのだから。
選手とコーチングスタッフの関係など、誰を試合に出すかはそんなに単純に決まることではないと思うが、あくまでピッチの上だけを見てる側からすると、攻守共に選手の動き方の細かいディテールにプラスしてベンチの采配によるゲーム運びにも少し疑問が残る試合だった。
5. おわりに
いかがだったでしょうか。
次節は格上相手には〔5-3-2〕で挑むことの多いブレントフォード。スパーズ相手にどれだけボール保持に拘ってくるかはわかりませんが、今回のブライトンと同じシステムで戦ってくるチームに対して同じ失敗は繰り返したくないところです。
アーセナルがミッドウィークにチェルシーに勝利したことで、いよいよここからの試合は一つも落とせないぞという雰囲気が漂ってきた終盤戦。選手、監督共に久々のエリクセンとの再会試合となりますが、新しく生まれ変わろうともがき、戦う姿をかつての戦友に見せつけ、なんとしても勝利を手にしてもらいたいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。