22/4/9 《プレミアリーグ21-22 第32節》 アストンヴィラ vs トッテナム レビュー
こんにちは。えつしです。
今回は、プレミアリーグ21-22第32節、アストンヴィラ対トッテナムの試合をレビュー。
3連敗中のヴィラと3連勝中のスパーズ、対照的な成績の2チームが相見えたこの対戦。
果たしてスパーズはアウェイのヴィラパークから勝ち点3を持ち帰ることができたのか?!
1. スタメン
・アストンヴィラ
マルティネス
キャッシュ-コンサ-ミングス-ディニュ
マッギン-ルイス-ジェイコブ・ラムジー
コウチーニョ
イングス-ワトキンス
70’ イングス⇄ベイリー、コウチーニョ
80’ ディニュ⇄ヤング
直近のウォルヴァーハンプトン戦からサンソン、ベイリーに代えてルイス、イングスを起用した〔4-3-1-2〕。
・スパーズ
ロリス
ロメロ-ダイアー-デイビス
エメルソン-ベンタンクール-ホイビィア-ドハティー
クルゼフスキ-ソン
ケイン
21’ ドハティー⇄レギロン
78’ ソン⇄モウラ
84’ クルゼフスキ⇄ベルフワイン
直近のニューカッスル戦からスタメン変更なしの〔3-4-2-1〕。
スキップとタンガンガが怪我で欠場。
セセニョンとレギロンが怪我から復帰してベンチ入り。
セセニョンとレギロンが戻ってきたが、復帰直後というのもあってかコンテは左WBにドハティーを置くことを選択。
2. 1st half
2-1. ヌーノスパーズとは違う、ヴィラの3センターのスライドプレス
ヴィラは監督がジェラードに代わり、3センターが相手のSBやWBにスライドしてピッチの横幅68mを動き回るヌーノスパーズのような守備をしていると聞いていた僕は、ヴィラは絶賛連敗中でもあるし、あの頃のスパーズのような守備をしているチームであればそこまで苦戦する相手ではないだろうと高を括っていた。
しかし、ヴィラの守備はその強度、運動量、ディテールという点において今期前半のスパーズの守備とは全く異なっており、前半スパーズはそれに苦しめられることになった。
試合開始直後、スパーズは〔5-4-1〕のブロックからヴィラのキャッシュ→コンサへのバックパスをスイッチにプレッシングに出る。クルゼフスキがポジションを上げてミングスを抑え、コンサからマルティネスへのバックパスへもケインが追う。
ここでアンカーのルイスに対するホイビィアのプッシュアップが遅く、マルティネスからルイス、コンサ、キャッシュと繋がれプレス回避されてしまう。
ホイビィアの押し上げの遅さとルイスを使われた時点で勇気を持ってキャッシュに出ることができなかったドハティー。
ここ数試合良いミドルプレスから自分たちがボールを握る時間を増やすことができていたスパーズだったが、試合開始から1分経たない時点で一度そのプレスを剥がされてしまった。
この試合の入りのプレッシングで相手にプレッシャーを与えることができず、ここから強度、速さ共に対照的なヴィラの守備を見せつけられることとなる。
2分45秒にダイアーのフィードに対するコンサのクリアが短くなり、ケインのダイレクトシュートの跳ね返りを再びダイレクトで合わせたソンのシュートでスパーズは早い時間に先制するも、ヴィラの守備を前にビルドアップに苦戦。
ヴィラの守備時の布陣は〔4-3-1-2〕で、2トップとトップ下はあまり段差をつけず、前3枚でスパーズの2ボランチを監視し、ダイアーから左右のCBにボールが出るとボールサイドのCFが内から寄せ、スパーズのWBには3センターがスライドでIHがプレスをかけ、WBに平行サポートをするスパーズのボランチにはトップ下のコウチーニョが全力でついていって使わせない。もしくはコウチーニョがダイアーまで出て、空いてくるボランチにはIHやアンカーが縦ずれして捕まえにいくというプレス。
コウチーニョがボールサイドのボランチをみてもう1人のボランチはパスが出ればアプローチにいける距離でIHが監視したり、前線の3枚はダイアーからボランチにパスが出たとしても、ボランチが前を向く程の余裕は生まれないような絶妙な距離感を保ち、中を使った前進を封じる。
そして、中締めを徹底してはいるもののマンマークとまではいかない立ち位置を保っているために、ダイアーから左右のCBにボールが出たときにCFの内からの寄せが間に合い、ロメロやデイビスに簡単にドリブルで運ばせない。
前線3枚が中締めを徹底することによって3センターがスパーズのWBにボールが出たときにスライドすることに集中できる。
数ヶ月前のスパーズの守備と大枠は似ているものの、WBからボランチへの平行パスをコウチーニョやルイスが抑えているところなど、選手の運動量に丸投げしているわけではない細部へのこだわりが見えたプレスだった。
スパーズとしては、左右のCBやWBはある程度余裕が持てるはずである。
ヴィラのIHがスパーズのWBにスライドしてIH-アンカー間が開けばそこを通してシャドーにつけたり、コウチーニョがダイアーまで出たときにはWBに対して平行サポートを作るボランチに対してルイスが出てくるとはいえ、かなり運動量の必要とされる動きではあり、アンカーのルイスが出ていけばヴィラのDFラインの前には大きなスペースが空くはずなので、WB→空いたボランチや浮き球でDFラインの前に落とすパスだったりでヴィラの守備を攻略していきたかったところ。
しかし、実際は序盤右サイドで上記のようなビルドアップが見られたものの、ヴィラの球際の激しさもあってボールを持つことを恐れたのか、簡単にロングボールを蹴ってしまう場面が散見された。25分10秒のレギロンなんかはその典型である。
2-2. コウチーニョ無双、ヴィラのボール保持
ヴィラの激しいタックルは何度も続き、主審のグラハム・スコットがヴィラの選手を諌めるために時間を取ったり、イエローカードを出したりするタイミングを見誤ったりしたこともあり、ヴィラの勢いに飲まれる形でスパーズは先述した通り必要のないロングボールでボールを渡してしまうことが増え、試合はどんどんヴィラのペースに。
ボール保持時、ヴィラはIHのマッギンやジェイコブ・ラムジーが積極的にCBやルイスの脇に降りることによってポゼッションを確立。
試合開始直後のプレスの失敗やヴィラのタックルに萎縮してしまったところもあってか、スパーズは終始〔5-4-1〕のローブロックを敷き、ヴィラのCBや降りるIHにはプレッシャーがかからない状態。
そんな中、一際輝きを放っていたのがフィリペ・コウチーニョ。
マッギンからのパスをクルゼフスキとベンタンクールの間で受け、足裏か踵でルイスにレイオフ。ルイスがワンタッチでコウチーニョに引き付けられたクルゼフスキの外側を走るジェイコブ・ラムジーを使ってスパーズの中盤ラインを突破してシュートまでいった16分辺りのシーン。
さらにベンタンクールがライン間のコウチーニョへのパスを消しながらミングスに出ていったところをベンタンクール-ホイビィア間にワトキンスが降りて前を向いた25分58秒のシーン。
まず、コウチーニョがスパーズのブロックの外で受けてもキープされるとわかっているからベンタンクールやホイビィアが簡単にプレスにいけないという抑止力がある。それによってスパーズはミドルプレスのスイッチが入れづらい状況に。
さらにライン間で無理な縦パスをつけられても見事なフリックやボールを浮かせないトラップ、惚れ惚れするターンで決してボールを失わないうまさ。
何より守備面でも平行サポートを作るスパーズのボランチに対してマンマークでついていってパスを出させないタスクを背負っているのに、攻撃面でもピッチの至る所に顔を出してボールを引き出し、それだけ走っていても狭いスペースでミスをしない技術に震えた。
降りるIHにプレッシャーがかからないために、ケインの周りのフロントスペースを自由に使われ、ライン間のコウチーニョに多少無理なボールになったとしても縦パスを刺してあとはコウチーニョが自分で前を向くなりフリックするなりなんとかするといったヴィラの攻撃にかなり苦しめられたスパーズ。
前半だけで7度のセーブを記録するというクラブレコードとなるロリスのセービングがなければ、前半だけでヴィラに複数点決められていてもおかしくはなかった。
2-3. 1st halfまとめ
キャッシュのタックルでドハティーが負傷し、21分にレギロンと交代するなど、実際に怪我人が出る程強度が高く、アフターでのタックルが多かったヴィラ。
そんな彼らの勢いに気圧され、ヴィラにボールを握られることが多くなりシュートを浴びまくったスパーズ。
IHがスパーズのブロックの外に降りるので前線の枚数は減るものの、コウチーニョに無理矢理つけてしまえばなんとかなってしまうヴィラの攻撃を前に防戦一方に。
ロリスの活躍もあり、なんとか1点リードを保ってハーフタイムを迎えることはできたという内容だった。
3. 2nd half
後半、開始からすぐにマッギンの激しいタックルがあり、おれたちは前半と同じようにやるぞというヴィラの雰囲気を感じたものの、ロリスのロングキックからケインのフリックにクルゼフスキが抜け出し、角度のないところからファーに決めて49分39秒に早くも2点目を取ってしまう。
自分と競りきたコンサとミングスの間のスペースをしっかりと確認し、正確にボールを落としたケインと縦に持ち出してミングスに足を出させて股を抜くクルゼフスキのうまさが光ったゴールだった。
2点目を取られたこともあってか、ヴィラのインテンシティは段々落ちていった。
スパーズの左右のCBに対するイングス、ワトキンスのプレスが遅くなり、ロメロやデイビスが運んでヴィラの1stDFラインを越えられることが増えるように。
そしてスパーズは前半と比べ、CBやWB、特に左サイドのデイビスやレギロンから右サイドへの大きなサイドチェンジのボールを多用するようになる。
片方のサイドに圧縮しようとするヴィラを嘲笑うかのように大きな展開を使ってプレスを無効化していく。
これで前半からフルスロットルで走ってタックルをかましていたヴィラのスタミナを削りに削る。
そうこうしている内に、2-1.で書いたヴィラのDFライン前のスペースを使った攻撃でスパーズが追加点をあげる。
アンカーのルイスがスペースを開けてベンタンクールまで出たところをロメロからケインへの低弾道のロブパス。これまた自分の後ろにできるスペースをしっかりと認知して正確なフリックを落としたケインから、抜け出したソンが冷静にシュートを沈めて65分40秒、3点目。
その後、ヴィラは70分にイングス、コウチーニョに代えてベイリー、ブエンディーアを投入して前線の運動量を回復しようとするも、後半コウチーニョがかなりスパーズのブロックの外に降りてきて、ライン間で無理なボールを収められる人がいなくなったことで強引なサイドからの突破が多くなり、ボールを保持する時間が少なくなっていたことから3センターのスタミナも限界。前線を交代したとて、前半のようなプレスの速さが取り戻せるわけではなかった。
4点目は、ディニュのクロスが引っかかってボールを失ったところですぐに切り替えてジェイコブ・ラムジーがボールを奪いにいくも、クルゼフスキに簡単にいなされてしまい、そこからのカウンターで最終的にはクルゼフスキの縦に運んで止まる動きでまたしても対面のミングスを欺き、マイナスのクロスにソンが合わせるという得点。
70分56秒にこの得点が決まり、その後はソンとクルゼフスキもそれぞれ78分、84分にベンチに下げ、疲労した中、連動もなく無闇にプレスをかけるヴィラをいなしてスパーズが勝利。前半の内容からは想像できなかった0-4というスコアでホームチームを圧倒して勝ち点3を手にした。
4. 感想、総括
前半はかなりヴィラ優勢のゲームとなったものの、後半早々に個人の質で2点目を取れたことが大きい。
2点目を取られたことももちろん、さらに後半明らかにスパーズが左サイドからの大きなサイドチェンジを増やすことで、片方のサイドに圧縮してボールを奪おうとするヴィラの守備を攻略し、ヴィラの前線の運動量は攻守共に落ちた。
そしてチームとしてのプレスや、コウチーニョが至る所に顔を出してブロックの外でボールを循環させたり、ライン間のとても狭いスペースでボールを引き出してシュートまで繋げてしまったりすることがなくなっていったことでスパーズ側に主導権が移ったゲームであった。
改めてピッチの横幅68mを中盤の3枚がスライドしてカバーする守備は難しいと感じたし、以前のスパーズのものとは違い、細部まで考えて用意されたヴィラの守備でも後半は持続しなくなったように運動量的にかなり厳しいものがあるなあと。
あの守備を採用するなら、やはり徹底してボールを握りまくったり、はっきりとブロック守備に切り替える時間も持ちながらタイミングをみて行わなければうまくいかなそうだなと良い学びになった。
ヴィラの激しいタックルの応酬に関しては、個人的にはそこまでとやかく言うつもりはない。
チームの守備のやり方として片方のサイドに圧縮して逆サイド(今回であればスパーズの逆サイドのWB)は捨てているので、絶対に逆に展開されることは防がなくてはならない。
スパーズファンの皆さんならご存じのように、3センターのスライド守備というのはそこを疎かにしてしまってはあまりにも脆く簡単に崩れ去ってしまうものなのだ。
チームが3連敗している状況で、守備のオーガナイズとしてはインテンシティが失われると崩壊間違いなしの方法を採用している中、選手たちを奮い立たせ、運動量の必要とされる動きを要求するのは簡単なことではない。
「死ぬ気で走れ。片方のサイドに誘導したらそこで奪い切れ。"ただし相手を怪我させるようなタックルはするな。"」
"ただし"の後の文言を付け加えても選手の士気を最高まで高められるのならそれがベストだが、ベクトルが正反対の内容なので、『チーム、サポーターのために戦え』という指示を与えるに当たってどうしてもメッセージ性が弱くなってしまうことは避けられないだろう。
もちろん僕も敵に怪我をさせろという指示を出すべきと言っているわけではない。
ただ、厳しいチーム状況の中で球際でのあと一歩が踏み出せなくなっている選手たちの心や習慣、意識を変えるには、中途半端な伝え方では難しいことはわかっておくべきだと思う。
さらに、彼らサッカー選手たちの中には幼い頃には犯罪と隣り合わせの環境で育ってきた人もまあまあいて、楽しむためではなく金を稼ぐため、生きるためにサッカーをやっているという認識が僕たち日本人よりも強いだろう。
だからと言って何でもやっていい訳ではないが、日本の高校、大学年代の試合でも相手選手、審判への暴言なんか当たり前であるし、画面の前でのほほんと試合を観ている僕たちには想像できない程、試合が行われている現場には汚くて生々しい嫌な部分がある。
もちろん、試合中は多少理不尽な内容でもチームが勝つために、相手選手や審判にプレッシャーを与える激しい言葉をサポーターが発信することは間違っていないと思うし、試合後も許される範囲内であれば自チーム、相手チーム、審判について文句や愚痴をこぼすのはサポーターに与えられた権利であるとも思う。
ただ、試合が終わった後に冷静になってサッカーの現実、汚い部分があるということを客観的に捉えて、まあこんなもんかとある程度受け入れるやり方があってもいいのかなと。
なぜならスパーズの選手たちもトップレベルで戦っている以上、多かれ少なかれそういった汚いところがあるだろうし、だからこそ試合後にスパーズ側からヴィラに対して抗議する発言などもなかったし、高いお金を払って試合を観に行っているサポーターに毎試合変わらない戦い方で、球際の勝負でも不甲斐ないプレーを見せるチームの方が今回のヴィラよりも酷い存在だと思うから。
色々書いたが、とにかく僕は麻薬とか犯罪と隣り合わせの国で必死にサッカーで成り上がっていく厳しさから来る狡賢さも知らないし、日本のアマチュアレベルで存在する審判に見えないところでの削り合いや暴言の言い合いがプレミアリーグレベルだとどんな感じかも知らないし、そこら辺の"当たり前"の感覚が現場とズレてるのに試合後もわかった気になってヴィラを批判するのは嫌なので、彼らを肯定することもしないけど否定もしないでおく。
5. おわりに
いかがだったでしょうか。
ヴィラの姿勢は受け入れたとはいえ、好調だったドハティーの離脱がとても痛いことに変わりはありません。
アーセナルも怪我人が出たこともあって勝ち点を落としている中、このまま波に乗って連勝し続けたいところですが、どうなるでしょうか。
上のじゅにーにょさんの記事ではこの試合の審判のマネジメントについてフォーカスを当てた文章を書かれているのでこちらもぜひ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。