〜今自分たちに何ができるか〜 22/4/23 《プレミアリーグ21-22 第34節》 ブレントフォード vs トッテナム レビュー
こんにちは。えつしです。
今回は、プレミアリーグ21-22第34節、ブレントフォード対トッテナムの試合をレビュー。
マエストロ、エリクセン擁するブレントフォードのホームに乗り込み、勝ち点3獲得を狙うスパーズ。
アーセナルがチェルシー、マンチェスターユナイテッドとの連戦を2連勝で終え、代表ウィーク明け3連敗からの復調を見せる中、勝ち点3を積み上げて4位を保つことができたのか?!
1. スタメン
・ブレントフォード
ラジャ
ホースレウ-ヤンソン-セーレンセン
ゴドス-イェンセン-ヤネルト-エリクセン-ヘンリー
エンベウモ-トニー
78’ ゴドス⇄ウィッサ、イェンセン⇄ダシルヴァ
直近のワトフォード戦からアイェル、ピノック、ノアゴーア、ウィッサに代えてゴドス、ホースレウ、セーレンセン、イェンセンを起用した〔3-5-2〕。
・スパーズ
ロリス
ロメロ-ダイアー-デイビス
エメルソン-ベンタンクール-ホイビィア-セセニョン
クルゼフスキ-ソン
ケイン
74’ セセニョン⇄サンチェス
86’ エメルソン⇄モウラ
直近のブライトン戦からレギロンに代えてセセニョンを起用した〔3-4-2-1〕。
引き続きタンガンガ、ドハティー、スキップが怪我で欠場。
2. 1st half
2-1. ブレントフォードの守備とスパーズのビルドアップの問題点
まずはスパーズを苦しめたブレントフォードの守備から見ていこう。
ブレントフォードが選んだのは〔3-5-2〕のブロックを敷き、スパーズのWBに対してWBが縦スライドし、左右のCBに対してはIHを出す守備。
IHがスパーズの左右のCBまで出た後にダイアーにボールを戻され、逆サイドのCBに繋がれたときには、3センターのスライドが間に合わない。なので、2トップはかなり間が開いたポジショニングで逆サイドに展開されたときにしっかりとその逆サイドのCBにアプローチできるようにしていた。
ブレントフォードはボールを奪うためにIHを出しているわけではなく、あくまでもスパーズの左右のCBの運びからのパスを嫌ってのものであり、上図の通り真ん中のCBであるダイアーはフリーの場面が多かった。
そしてブレントフォードの2トップが大きく間を開けた立ち方をしているため、ダイアーの前にはスペースもあった。
今回スパーズのビルドアップの起点とすべきは恐らくここだった。ダイアーがボールを持ったときには、2トップの間に顔を出すベンタンクールやホイビィアをIHがマークするブレントフォードのやり方。これを利用し、スパーズのボランチがブレントフォードのIHのマークを引き付けることで、大きく開いたエンベウモ、トニーの間を少し運んだダイアーから前線3枚への縦パスを供給できればよかったのだが、実際はダイアーがフリーとなる状況をうまく活かすことができず。
24分59秒のようにダイアーが運んだことによってエンベウモがデイビスへのパスコースを切り気味に寄せてきたとき、2トップの間に顔を出すベンタンクールのレイオフで3人目のデイビスを使って前進する、といったアイデアがないのは辛いところ。
ワンタッチでリターンする遊びのパスでもいい。あまりにもチームとしてボランチを使う意識がなさすぎて、ブレントフォードのIHはダイアーからボランチにつけるパスへの警戒を薄め、前線3枚への縦パスを消すことに意識を向けられるし、2トップも安心してダイアーをフリーにさせて左右のCBへのスライドに専念できる。
試合運びという面で見ても、ボランチを経由して逆のCBに落としビルドアップをもう一度やり直すという選択肢が取れないことが、自分たちの保持の時間を増やしてうまくいかないなりに主導権を握る戦いをできていない現状に繋がっていると思う。
選手の配置にも問題はあり。
ビルドアップの際、スパーズの左右のCBはペナルティエリア幅くらいまで広がり、CBそれぞれの間の距離はまあまあ長い。そして左右のCBが幅を取っていることは彼らの運ぶドリブルで相手の1stDFラインを越えたいという意志の表れであり、実際デイビスなんかはトラップの時点でボールを前に持ち出し運ぼうとすることが多い。
そしてスパーズのWBはポジショニングが低い。左右のCBが中途半端に前に持ち運び、低い位置にいるWBにパスを出すとどうなるか。
WB→ボランチの平行パスのパスコースがなくなる。CBが運ぶことで相手FWを引き連れ、引き連れたところからWBにパスを出しているため、相手のFWからすれば少し戻ればスパーズのWBからボランチへのパスコースは消せるというわけだ。
この平行パスがなくなると、ボランチ経由でのスムーズなサイドチェンジもできなくなり、相手の中盤がスパーズのボランチに食いついた際のWB→シャドーというような縦パスも刺せなくなってくるため、当然ビルドアップは難航する。
この問題は、そもそもWBがなかなかトラップで前を向けないことや、前を向けたとしても縦スライドしてくる相手のSBやWBの裏を斜めのランニングでシャドーが狙ってくれないこと(特にソン)、様々な理由が結びついて起きていることだ。
CBが幅を取ればWBが高い位置を取るというのは低い位置からボールを繋いでいく上で必要なことなのだが、運ぶドリブルのできるロメロやデイビスに幅を取らせたいものの、スパーズのWBはWG的な個人打開力のあるタイプではなく、高い位置で張って受けたところで1人で何かを生み出すことはできないというジレンマを抱えることとなっている。
2-2. うまくいった〔5-4-1〕とマエストロのキック
ブレントフォードにビルドアップを封じられ、全くチャンスを作れないスパーズ。
ボール非保持の局面ではどのような振る舞いを見せていたのか。
まずうまくいったのは〔5-4-1〕での撤退守備。
〔3-5-2〕でビルドアップするブレントフォードに対して、左右のCBの運びをベンタンクールやホイビィアが出ていくことで制限し、彼らがプレスに出た際はシャドーが絞って縦パスを刺されないようにするディアゴナーレの動き。ブロックを組んだときのソンのこの動きは以前よりも洗練されているように感じた。
安定した〔5-4-1〕ブロックでブレントフォードのショートパスでの前進を防ぐスパーズだったが、ここで彼らを困らせたのがかつての戦友、クリスティアン・エリクセン。
IHのエリクセンがスパーズのブロックの外まで降り、ボールを引き受ける。もちろんそこにはスパーズのボランチもプレスをかけようとするのだが、エリクセンのボールを受けてからサイドに振るキックの精度とスムーズさが異常だった。
ベンタンクールに寄せられていても全く焦らず、ボールを受けるとすぐにサイドに振るロングキックで逃げてしまうので、捕まえようにも捕まえられない。
そしてそんな一瞬の間に蹴ったボールであるにも関わらず精度が完璧。しっかりと大外のWBへ届けてくる。
マエストロの状況を一変させる一振りを軸にブレントフォードはコーナーキックを得る機会を増やしていく。
スパーズのコーナーキックの守備は、ニアポストにセセニョン、ゴールエリアにニア側からホイビィア、ケイン、ダイアー、ベンタンクールの4人がゾーンを守り、ロメロ、デイビス、エメルソンが相手のCBにマンマーク、クルゼフスキとソンがゴールエリアの外でショートコーナーやミドルシュート対策をするゾーンとマンマークの併用。
そしてブレントフォードはそんなスパーズの守り方を出し抜く形を用意してきた。
ゴールエリア前でフリーのトニーがエリクセンのキックと同時にスパーズのゾーン守備範囲外のファー側へ回り込み、これまた精度と質がすばらしいエリクセンのストレート性のボールに合わせる形。
恐らくアストンヴィラ戦からこの形となったスパーズの守り方をしっかりと研究した上で、スパーズにいた頃はニアストーンに弾かれている記憶の方が多いエリクセンのとんでもないキックを活かしたコーナーキックでスパーズゴールを何度も脅かした(21分のコーナーキックからニアポストを守っていたセセニョンもマンマーク隊に加わり、エメルソンがトニーに付くように)。
2-3. 1st halfまとめ
保持でうまくボールを前進させることができなかったスパーズ。
2-1.で書いたこと以外にも、押し込んだ際にセセニョンがオーバーラップするデイビスと2人で右WBのゴドスに対して2対1を作ることをせず、中に切り込んでしまったり、ベンタンクール経由でサイドチェンジすることでヘンリーに対してエメルソンとクルゼフスキで2対1を作れそうな場面でエメルソンが裏へのフィードを要求してしまったり、5バックを崩す上での定石であろう相手WBに対しての2対1を作ることができずに相手の土俵に引きずり込まれてしまった。
ブレントフォードはWBが高い位置を取ってスパーズのWBをピン留めし、IHがサイドに流れて受ける動きや、ヤンソンとセーレンセンでGKのラジャを挟む4バック+1のビルドアップを見せ、ボール保持にも工夫が見られた。
エリクセンの速く正確なサイドへのキックのせいか、スパーズはプレスに出るタイミングを失い、ブレントフォードが攻守に主導権を握る時間帯が多い前半となった。
3. 2nd half
後半、ブレントフォード側の運動量が低下。IHのCBに対するアプローチが明らかに遅くなる。
それに加えてスパーズのボランチのサポートの意識も高くなった様子で、ベンタンクールがブレントフォード2トップの間でボールを受けて前を向いたり、ホイビィアが2トップの脇、DFラインに降りての運びを見せたり。
そうすることでスパーズの保持の時間は増えた。
しかし、結局サイドで2対1を作る意識や相手の背後を狙うプレーはないので押し込んだ状態から再現性高く相手ゴールに迫ることはできない。
さらに後半はミドルプレスが嵌まらないことが何度もあった。ブレントフォードが何か特別なことをしていたわけではない。単純にスパーズが間伸びしまくっていた。
相手のバックパスに対してケインが追う。ブレントフォードはラジャも使って落ち着いてボールを回してくるため、ケインがCBへのパスコースを切りながらラジャに寄せていくことが多かったのだが、そうなるとラジャに対して横からプレッシングすることになる。
そうなったときに、ヤネルトをスパーズのボランチ、IHをボランチか左右のCBで抑えなければならないはずがスパーズの陣形は間伸び。押し上げられない。
ケインが追い、ラジャから中盤に逃げられプレス回避される。
そして74分、コンテはセセニョンに代えてサンチェスを投入。コーナーキックやフリーキックの対策としての投入だったそう。ブライトン戦後に負けないことの重要性を説いていたことを考えても、この時点でコンテの中では勝つことよりも負けないことの方が優先されていたかもしれない。それならば86分にエメルソンに代えてモウラを入れ、不確定要素を増やしたのはなぜなのかと疑問が残るが。
90分にもエリクセンのフリーキックからトニーにポスト直撃のヘディングをお見舞いされるが、最終スコアは0-0。ロンドンダービーは勝ち点1を分け合う結果となった。
4. 感想、総括
ダイアーにボールを持たせる。
これは前節ブライトンも行ってきたことだ。
守備ブロックを組んだときにあんなにも2トップの間が開くことは珍しいし、ブライトン戦を観てうまく対策されたなという試合だった。
今後、ダイアーをフリーにする代わりにロメロやデイビスの運びをCFが制限できるようにする形を他のチームもやってきそうではある。
そうなったときにダイアーが自ら運んでパスコースを探し、引っ掛けてしまう怖さに打ち勝って中央からの縦パスを入れることができるか。
できるはずだ。ダイアーなら。実際コンテ就任から何度も、2ボランチが相手の中盤にベタ付きされたときにはそれを逆手に取り、中央を割って一気にケインに通すパスを見た。
WBのポジショニング、CBの幅の問題は正直なかなか解決しそうにない。
大事なのは、できないことがある中でいかにできることを探していけるか。
ここからの試合、意地でも勝ち点3をもぎ取らないといけない状況の中、試合中にビルドアップがうまくいかない、シュートを打てない、となったとき、もちろんすぐにポジショニングや動きを改善してボールが繋がるようになるのがベストである。しかし、恐らくそうはならない。ジリ貧だ。
そうなったときに、シティ戦のように覚悟を持って〔5-4-1〕での撤退守備のスライドをサボらず、自分たちの1番の武器であるロングカウンターで全力を出せるか。もしくは、ミドルプレスからのショートカウンターやセカンドボールを拾ったところからのポジトラでどうにかする、と頭を切り替えて前線と後ろが共通認識を持ってプレッシングに出られるか。
なんにせよ、ビルドアップがうまくいかないときにボールを繋いでゴールを目指すことだけがサッカーじゃないと頭を切り替え、ブロック守備やミドルプレス、カウンターと、今自分たちに何ができるかを考えてそこに注力できるかが重要になってくるだろう。
5. おわりに
いかがだったでしょうか。
今シーズンも残り5試合。
チームの頑張りでシーズン終盤にも大きな目標への希望を失うことなく戦えていることは確か。一戦一戦、その望みを繋ぎ、CLへの切符を掴み取るためにもう負けることはできません。
レビューを読んでくださっている皆さんと、今スパーズの何が課題で、何ができるのか、そこら辺を意識しながら、彼らの戦いを見届けることができれば幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。