チャータースクールの閉校
今日は番外編として、我が家の長男が通う別のチャータースクールに起こったことについて書きます。チャータースクールと普通の公立の学校がどう違うのか?ということについては、以前からの友人であり、今ではサンディエゴのとある高校(チャータースクール)の数学教師になったErinaさんのこちらのブログ記事に詳しく書かれています。とてもよくまとめられていて、私も新たに学ぶところがありました。冒頭には、チャータースクールについてこう書かれています。
・チャータースクールにおいては、学校という教育の権威が州や郡ではなく(スクールを主宰する)任意の団体に譲られている
・州や郡などの政府から教育の資金を受けているため、ある程度のルールや水準を満たさなくてはならない
子どもたちの学校が始まってからしばらくして、「現在のチャータースクールをとりまく環境について」というタイトルのメールが回ってきました。そのメールによって、チャータースクールのステータスは一度獲得すればずっと有効なのではなく、数年に一度「更新」するものらしいことがわかりました。チャータースクールのステータスを更新する際には、子どもたちの教育が効果をもたらしているかどうかを測るテストのスコアが精査されるのです。このメールからは、チャータースクールに対する目が近年より厳しくなっていることが示唆されていました。(参考記事:New charter schools to open this fall despite efforts to curb growth)
”Most Likely to Succeed"の映画のプロデューサーであり、同名の本の著者でもあるテッド・ディンタースミス氏によると、チャータースクールは「教育のR&D」という機能をもっています。R&DとはResearch & Development,つまり研究開発。教育をとりまく環境を分析し、より効果的な教育をするために新しい試みをする実験校とも言えるわけです。High Techスクールも、開校した20年前にはプロジェクト型学習を中心にする先駆者的な立場だったと言えるでしょう。
次男と三男の通うHigh Techスクールは新設のキャンパスで、長男の学年はまだ提供されていなかったため、近くにある別のチャータースクールに申し込み、7月になってから「入学を許可する」旨のメールを受け取りました。この学校には2つのキャンパスがあり、もうひとつの方からも同時期に連絡がありましたが、単純にHigh Techスクールに近いという理由で現在通っている方を選択したのです。入学の手続きをした後に届いた選択科目のお知らせにミュージカルシアターがあったのは嬉しい驚きでした。そして、渡米して5日後、学校が始まりました。
一か月ほどたち、少しずつ学校の様子がわかってくると、学校の保護者や教職員がメンバーとなっているFacebookグループで、もうひとつのキャンパスに大変なことが起こっていると知りました。前年度が6月に終わる間際に、それまでのアドミニストレーションの数人や教員がなぜか突然解雇され、それが原因で、学年が始まる前に50人ほど、さらに学校が始まってから30人を超える生徒がよそに転校していったそうなのです。カリフォルニア州の公立の学校では、生徒の数と、政府から学校に渡される教育資金の額が直結しています。生徒数が減ることで、もうひとつのキャンパスの経済状況が非常に不安定になり、このままでは法的に定められているreserveつまり「学校が予備として持っておかなければならない金額」に満たなくなるとのこと。数週間おきに行われる理事会は、傍聴にかけつけた保護者によりFacebook Liveでブロードキャストされるなど、いろいろな動きが起こってきました。実は、この変化はどうやら理事会のある人物が最初からもうひとつのキャンパスを閉鎖させるために起こしたアクションだという説もあります。事態が複雑に絡み合っており、コミュニケーションも不鮮明な部分が多いため、ここですべてを書くことはできないのですが、10月31日にこのような記事が掲載されました。
San Diego Cooperative Charter School Is in Meltdown Mode
If student enrollment at Mountain View stays roughly the same, the campus would run a deficit of $600,000. The co-op’s other, bigger campus at Linda Vista is set to have a surplus that could cover some of Mountain View’s deficit. But if Mountain View stays open, the entire organization’s reserve money will be brought down to critically low levels.
生徒数の減少による経済的な危機が、長男の通うキャンパスにも影響してくるとのこと。劇的な変化が始まった6月から今までの間、この状況を打開するべく、もうひとつのキャンパスの保護者はSan Diego Unified School District(サンディエゴ最大の教育委員会)の支援を経て、来年の夏からは教育区の中のパイロットスクールとして再出発するプランを構築していました。チャータースクールというステータスはあきらめて、教育区の中のひとつの公立校になり、教育資金を受けながら、現在のプロジェクト型学習やSocial Emotional Learningなど、今までの特色をそのまま継続できるような環境が約束されるというプランです。ただ、これは来年の夏からの話。8月から始まったこの学年はまだ6月まで続きます。その間、もうひとつのキャンパスを継続してオープンにしておくのか、それとも12月で閉鎖するのかという意思決定をする理事会が昨夜行われ、両キャンパスから多くの保護者が参加しました。
ここで長男の所属するキャンパスの保護者や教員は、そのほとんどが「起こってしまったことは非常に遺憾だけれども、もうひとつのキャンパスを来年6月まで維持することは、結局は両キャンパスを存続の危機にさらすことになる」というスタンスをとりました。この学年が終わる時にはチャータースクールでなくなることが決まっているキャンパスの保護者はこれに対して、6月から今まで、なぜ何も助けてくれなかったのだ、そして今になって、自分たちの保身のために理事会に来て発言するなんて、と怒りをあらわにし、子どもの前ではふさわしくない言葉で怒鳴り散らす人もいました。
2時間ほどの間に両キャンパスからの保護者や教職員がそれぞれに発言したあと理事会の投票があり、最終的には今年の12月20日でもうひとつのキャンパスの閉鎖することが決定。経済的な状況からこの結果は仕方がないとしても、まだ180人ほどの生徒が残っているこのキャンパスの保護者は、年度の途中で学校がなくなってしまうという事態に対応しなければならず、その上に別のキャンパスの教職員からの「閉鎖は仕方がない」という発言を聞かなければならず、その場でも、またFacebookのグループでも批判的なコメントが飛び交っていました。実は、理事会に出かける前からこのような事態になることは予想されたので、行くことを躊躇した部分もありました。でも、事態をよりよく理解するためには行くべきだという気がしたし、学年の終わりには閉鎖になる学校をずっとあけておくことで、自分のキャンパスまで存続の危機にさらすのはロジカルではないという立場ももちろん理解できたので、長男の通うキャンパスの教職員をサポートする意味でも参加を決めた次第です。理事会が行われているオーディトリウムに足を踏み入れたとたん、非常に重苦しい空気を感じました。また交わされた言葉や人々の表情、その場から読み取れる感情から、コミュニティの分断はこのように起こるのかということを目の当たりにしたような気がしました。
アメリカのこととはいえ、学年の途中で学校が閉鎖されるという事態はやはり異常ではないかと感じています。最初に教職員を解雇した理事メンバーはすでに退任しているのですが、そもそもなぜ最初からこのキャンパスの閉鎖を決めたのか、人事面での一方的な決定はどのようになされたのかなど、多くの疑問点が残ります。先ほどのリンクの記事には「学力面で基準に達していなかった」とも書かれています。でも実際には事態はそう単純ではなく、閉鎖することになったキャンパスに通っている生徒たちの多くは家庭環境からのトラウマを抱えていたり、英語を母国語としない生徒の割合が多かったり、その中でも直近の1年間はテストのスコアは向上していたのにその前年度までの成績だけをみて判断されたのだ、という指摘をしている保護者もいました。
長男の通うキャンパスを選んだのは地理的な理由でした。もしこちらのほうが近かったら、年度の途中で学校がなくなるという事態に直面していたのは我が家だったかもしれません。仮にもしそうだったとしても、長男に関してはどこに行っても大丈夫と(親の立場からは)思えるタイプなので、そこまで影響はないだろうと感じます。でも、チャータースクールのような、ある意味で特殊な教育環境に慣れている生徒にとって、その場所がいきなりなくなってしまい、いわゆる普通の教育環境の学校に行かなければならないのは、単なる転校以上の苦痛をともなうものであることは十分に想像がつきます。日本では少し考えにくいような事態も起こり得るのだということ、そして学校を選ぶ際には、子どもの特性を考慮しつつ、あらゆる側面から慎重に検討しなければならないなと感じた一件でした。これから様々な選択をせまられる180人強の生徒のご家庭が、この難しい時期をできるだけスムーズに乗り切れることを願っています。