良甲メイン

ペットのカメが大切な家族になっていく24年間の物語

▼皆さん、カメのことをどう思っていますか?▼

私は生き物のなかでカメが一番大好き。甲羅を背負ってノコノコ歩くマイペースな姿にとっても癒されます。そんな私も子どもの頃は女の子らしくハムスターやワンちゃん、ネコちゃんの方が好きでした。では何故こんなにもカメを愛してやまない女になったのでしょう。

我が家にカメがやってきたのは今から24年前。生き物を飼うことを禁止する母相手に粘りに粘って交渉した結果、まぁカメならいいだろうという妥協点の存在としてやってきました。

種類は平凡なクサガメ。近所のペットショップで1匹700円、2匹購入しました。小柄で暴れん坊のカメを「将軍」、どっしりしているカメを立派な甲羅になれよという意味を込めて「良甲(りょうこう)」と名付けました。

500円玉大の小さなカメはとってもかわいく、初めて飼う生き物に私のテンションは上がりっぱなし。夢中で世話をしていると次第に慣れてきて指から直接エサを食べるようになりました。

小さな口をパクパクさせて指にしがみつく姿はいじらしく、父も母も兄も釘付け!カメってこんなに人に慣れるんだねぇ!と、あっという間に我が家のアイドルになりました。

▼カメのあっけない死▼

飼い始めて数か月した頃、小柄なカメの将軍の元気が無くなっていることに気付き、病院に連れて行こうと思い始めた翌朝、死んでいました。瞼を閉じて静かに眠っているようでした。昨日まで動いていたのに固くなって全く動かない姿に私は大号泣。母も「だから生き物を飼うのは嫌なのよ」と涙ぐみ、一緒に庭に埋めました。

友達(?)に先立たれた良甲は、相変わらずどっしりと構え、我関せず。私は命の儚さを思い知り、良甲は絶対に死なせない!と決意したのですが、そんなこと知らないよ~とマイペースにたたずんでいたのでした。

さてさて、そんな私の強い決意とは無関係に、良甲は勝手にすくすくと逞しく成長していきました。水槽の中にいるより自由に家を歩き回っている方が大好きで、人を見ると出して~出して~と二本足で立ち、水槽からはみ出すほどに首を伸ばして猛アピール。すっかりカメに甘くなった我が家のメンバーはあっさり外に出し、気づいたら日中から夜のおやすみまで家をウロウロするお座敷ガメになりました。

▼爬虫類のクセに色々すごい▼

今更ですが、カメは爬虫類です。人に慣れることも意外でしたが、感情豊かで賢いことにはいたく驚きました。「爬虫類のクセに…」と思うことだらけ。家の間取りを完璧に理解し、自分なりの嗜好がしっかりあるのです。

午前中は日の当たる窓辺で甲羅干し。

「あれ?良甲どこ行った?」「この時間なら応接室の窓辺じゃない?」確実にいます。

応接室へつながるドアが閉まっている時はガリガリとドアを爪でひっかき開けてくれアピール。「あ、ごめんごめん」とドアを開けると、よしっ!と、のしのし進入して行くのです。応接室ですからお客様が来ているときは当然締め出します。その時のショックな顔といったら!!

ドアにぴったりくっついて今か今かとドアが開くのを待機。中から出てきたお客様が、開けたドアにゴンッとぶつかる良甲にびっくり!「カメに待ち伏せされてたよ!!」と大笑いするシーンを何度も見ました。

午後になると和室へ移動。

障子の隙間から外の風景を眺めるのが大好き。これまた障子が閉まっていると、開けてくんない?と目の前で待機してアピールします。網戸から入る風を感じているのか定かではありませんが、表情は確かにリラックスしているのです。

縁側のジジイっぽい良甲

夏場はひんやり涼しい玄関ホールが大好き。

スリッパ立ての隙間で昼寝したり、フローリングのど真ん中で手足をだら~っとのばしてぐうたらしたり。

人が好きなので新聞集金や宅急便のお兄さん、ヤクルトのおばさん、観覧版を回しにきたご近所さんが来るとカタカタとフローリングに甲羅の音をたてながら歩き、にょきっと首を伸ばしてご挨拶。

「うわっ!カメだ!」「あら、今日もカメちゃん元気ねぇ」「どーも、ありがとうござっしたぁ(慣れ過ぎてノーリアクション)」私たち家族だけでなく訪れる人たちにも愉快なカメとして認識されていきました。

スリッパにジャストフィットする良甲

エサをあげていたのが私だったからか、家族の中でも特別私に懐いていました。「良甲~」と呼ぶと、テケテケテ~と歩いて来るし、移動すると全速力で追いかけて来て、足にスリスリ首をこすりつけて甘えます。

座布団に座っている時は大喜びで膝の中に入ってきてポジションを陣取り、そこでスヤスヤ眠ってしまうのです。私が脱いだ服の上に座るのも大好き。

か、かわいい…。妥協点の存在として飼い始めたのに、まさかカメがこんなにも愛くるしいだなんて。爬虫類の脳みそなんてこ~んなに小さいのだからエサ食べて寝るくらいだと思っていたのに。

▼出迎え犬ならぬ出迎えガメ▼

この驚きの行動はとどまるところを知らず、日に日に増していきました。私が就職をして、遅い時間の帰宅が続くようになった頃。「ただいま~」と家に入るとなんと玄関に良甲がいるではありませんか。そして私が靴を脱いでリビングに向かうとドタドタと嬉しそうに後を追いかけてくるのです。

偶然かな?と思っていたのですがあまりにも毎日待機しているので

「お母さん、何で最近夜に良甲、玄関にいるの?夜はたいてい和室かTV台の下じゃん」と聞いたら「いや、いつもの場所にいるんだけど、あんたが帰って来そうな時間になると最近玄関に移動するのよ」「嘘でしょ!いくらなんでもそんなわけないじゃん!!お母さんが頃合いをはかって置いてるんじゃないの?」「わたしゃそんなに暇じゃない!だいたいあんたが帰ってくる時間も日によって違うじゃないの」「確かに…」

これにはもうびっくり仰天!ワンちゃんがお出迎えしてくれる話は聞くものの、カメがお出迎えしてくれる話なんて聞いたことないし、まさかされる日が来ようとは。

良甲、お前は一体なんなの?前世は犬だったの?カメの自覚ある?疑念の目で見つめたところで答えてくれるはずもなく、ただただマイペースにほげ~っとしているのでした。

それから、仕事で落ち込んだ日も成功を収めた日も良甲は変わらず出迎えてくれ、毎日癒しを届けてくれました。冬になると冬眠しちゃうのでちょっと寂しいのですが。

▼我が家の出来事の陰に良甲あり▼

思い返せば良甲は新田家の歴史を全て知っている爬虫類。

私が学校に行きたくないと駄々をこね、何日も学校を休んだ日。長男が突然会社を辞めてきた日。母が人生初のインフルエンザで長期間寝込み、家庭内の家事システムが崩壊した日。長男と父が最初で最後の取っ組み合いのケンカをした日。地震にびっくりしてロフトベッドから転落し次男が流血騒ぎを起こした日。父が定年退職をした日。アメリカで暮らしていた次男が離婚して帰国してきた日。

そして、私がお嫁に行った日。

良甲が初めて我が家にやってきた時からくらべて、み~んな歳を取りました。父と母はすっかりおじいちゃんとおばあちゃんだし、私も兄たちもそれぞれの人生を送っています。良甲だけは相も変わらず応接室で甲羅干しをして、和室の障子から外を眺め、人の膝に入りマイペースな日々。カメは呑気でうらやましいよ。

父の座布団を占領する良甲

▼父VS良甲▼

そうそう、一つだけ変わったことが。何故だか父の足の指だけを噛むようになり、父は食卓で椅子に座るとき、足をガードする段ボールが必須になりました。時々、段ボールに足を入れるのを忘れると、しめた!とばかりに一目散に指をガブリ!父の「いてーーーー!!」という悲鳴が響き渡ります。

最初こそみんなで同情していたのですが、足を追いかけまわす良甲の姿が面白いのか父がわざと挑発するようになり、勝負に負け、噛まれて絶叫する声がうるさくて仕方ない、と誰も同情しなくなりました。「私が水槽を洗ってやってるのに恩知らずめ」とブツブツ文句を言う父を横目に良甲は知らん顔。

「お父さんと良甲、どっちが長生きするかねぇ?」と私が言うと「どっちも長生きするでしょ、あの様子じゃ」と、母。

命あるもの必ず最後の日がやってくる。それは絶対に避けられない現実です。それでもチラッと考えただけでも心の奥がぎゅっと締め付けられます。あぁ、本当に長生きしてほしいなぁ。



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