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二月大歌舞伎 辰之助三十三回忌



平成31年がが始まったと思ってたら平成の歌舞伎座へ通うのもあと2ヶ月た。二月大歌舞伎の千穐楽に行ってきた。二月は辰之助三十三回忌の追善興行。
同じ頃舞台を共にした俳優は仁左衛門、吉右衛門、菊五郎、玉三郎、中村東蔵、全て人間国宝だ。そして左團次、梅玉、魁春、雀右衛門、これほど豪華な配役で追善興行がなされる程辰之助と言う俳優は愛されていたのだろう。
昼夜通しは見物する方も朝から晩まで歌舞伎座におこもりで体力も尽きそうになったが、それを吹き飛ばず名演の数々。



昼の部
義経千本桜 すし屋
いがみの権太は松緑さん初役。
直近は2016年6月三部制ですし屋に猿之助さんがお里ちゃんで出演したとき。あの時は猿之助お里ばかりを目が追いかけて筋立てがはっきりしてない。高麗屋の戻り猿之助お里ちゃんが動かないなぁと思ったとおり程度。
今月の松緑権太は初役だそうだが、こういう役はよく似合う。小悪党だが、親のお主のために妻や子も犠牲にして自身も命を落とすつもりの親孝行。
死ぬ間際の哀れはもっと出せそうだ。当たり役になって欲しいと願うお役の一つになった。きおいちょで見たい役が増えたのは嬉しい限り。口跡の悪さを度々指摘する人もいるが、私はきおいちょの喋り方は好きだ。戻り(悪い人間が良い人間に戻る事からそう言われるらしい)の長台詞も心に染みる。

暗闇の丑松
音羽屋菊五郎さん面目躍如の格好良さ。
一挙手一投足が粋だ。まっすぐな心で信じた相手を疑わないがちょっと短気な料理人。恋女房のお米のために人を殺して二人しては離ればなれ。丑松の恩人四郎兵衛にお米は女郎に売られる。売られ先で丑松と再会するが、お米の話を信じない丑松な絶望してお米は首をつって死んでしまう。丑松はようやくお米の話が本当だったと気づいて四郎兵衛夫婦に復讐。仄暗い湯屋で菊五郎丑松は褌姿の半裸。
減量されて裸も格好いい。湯屋番頭の橘太郎さんの褌姿は格別。軽快に行ったり来たり。湯屋の間をぴょんぴょんと跳ね回るのには客席も大喜びだ。
湯屋客の背中の彫り物は毎日毎日違う絵を描いている。皆さん凝ってるねぇ。

団子売り
おなじみの軽快な踊り。
私の目に焼き付けてる勘九郎、猿之助の「団子売り」を消さない為に今回はご無礼しました。
ごめんなさい。

夜の部は「熊谷陣屋」から

吉右衛門さんの当たり役熊谷次郎直実。相模は魁春、藤の方が雀右衛門。弥陀六歌六の配役。
2年前の10月当時の幸四郎さん熊谷の妻相模を猿之助さんが演じた。猿之助さんの女方は悲しみが深い。型にのってのお芝居なのにまるでストプレの様な深い悲しみを表現する。当時は胸を掻きむしられる様な相模の嘆きに涙ぐんだのだが、
それがそのまま当てはまるのが今月の吉右衛門さん。何度も何度も吉右衛門熊谷次郎直実は見物してるのだが、辰之助さん追善のせいだろうか、熊谷の悲しみの深さは底なしの闇だ。自らの息子を恩人の息子の身代わりにして殺してしまう。忠義を果たした後、これでもかこれでもかと自身を責める。武士としての振る舞い、忠義、親としての愛と後悔が客席の嗚咽を誘う。熊谷がこれほど感情を露わにする芝居を観たのは初めて。熊谷陣屋は苦手な狂言だったが、人としての熊谷次郎直実の苦悩を肌で感じられるこの「熊谷陣屋」はモウイチと観たかったと思う。今月の吉右衛門さんは毎日毎日こんな芝居をしてたのかと思うとその気力と体力の凄まじさに感じ入る。

「當年祝春駒」
春駒は所謂曽我物。
親の仇である祐経を討とうと曽我十郎と五郎の兄弟が春駒売りに姿を変えて入りこみ、賑やかに春駒の踊りを披露する兄弟は祐経との対面を果たすのだが…

華やかな舞踊で見せる縁起の良い舞踊。血気盛んな五郎は松緑さんの長男左近ちゃん、兄十郎が錦之助さんという配役。それが不思議でないのが歌舞伎の不思議。松緑さんは左近ちゃんを出演させないつもりだったそうだが梅玉さんが追善には出してあげなさいというお声がけがあって左近ちゃんの出演が来まったと言う。もう声変わりが始まってるのだが、初お目見えから初舞台と一門の御曹司の成長を舞台で楽しめるのは歌舞伎見物の醍醐味。しっかり踊る左近ちゃんを見つめる大人達の優しい眼差しは「歌舞伎界は家族」ほとんどのお家がなんかしら親戚に当たる。微笑ましい一幕であった。

夜の切りはお待ちかね「名月八幡祭」
配役は縮屋新助 松緑
芸者美代吉   玉三郎
魚惣      歌六
船頭長吉    松江
魚惣女房お竹  梅花
美代吉母およし 歌女之丞
藤岡慶十郎   梅玉
船頭三次    仁左衛門

辰之助新助当時の美代吉三次なのだ。
松緑新助は以前にも笑也美代吉猿之助三次、猿弥魚惣で観ているが、今月の新助は本当に哀れである。田舎者が辰巳芸者におかぼれし、金に詰まった美代吉の言葉を信じて田畑を売ってまで金の工面をしたのに時遅し。美代吉の太い贔屓が別れの金だとポンと大金を美代吉に贈る。間夫の三次は金の無心やら、嫉妬やら、心配したりと忙しいがその姿の全部がいい男な仁左衛門さん。失礼ながらあの年齢で可愛いこと。すでに封印された当たり役「女殺油地獄」の河内屋与兵衛を思わせる若さと愛らしさ。どこまでも軽いチンピラなのに、その仕草一つ一つが格好いいので美代吉でなくても絶対惚れる。歌舞伎界きっての二枚目は健在だ。玉三郎美代吉の芝居が良い。複雑な心理描写を細やかに表情を作って伏線を持たせている。新助に金の無心をしながらも表情を曇らせたり、視線を逸らしたり。
新助はしつこくくどいほど一緒に美代吉の家に住ませてくれる約束の念を押すが、美代吉は口先だけで相づちを打つ。
このあたりのやりとりが後々新助のどうにもやりきれない感情の爆発に繋がるのだが、金が出来て喜ぶにざたま三次美代吉がいちゃいちゃしてるところへ金を持ってやって来た新助。軽く美代吉にもうお金は要らないからごめんね~といなされる。三次も一緒にこれまた軽くごめんね。新助は人生の全部をかけて作った金を手に敗北感と絶望と孤独感、呆然とする新助を迎えに来た歌六魚惣の優しさが観てる私には深く染みるが、新助の心には伝わらない。松緑新助の心は闇。魚惣に抱かれて背中を丸めながら花道を行く新助にかける言葉も見付からない程松緑新助の絶望感は深い。
翌日の祭で美代吉を殺してしまい、罪人として祭の衆に持ちあげるられて花道を去って行くのだが、抑えた芝居から取り憑かれた様な物狂い、魂が抜けてしまう新助。人間国宝二人が仇役を演じてくれる名月八幡祭は見応えがある。騙されて翻弄される新助の心情が手に取る用に伝わって来る。仁左衛門玉三郎と言う追善ならではの配役で松緑新助の芝居も熱を帯び確実に進化し成長し続ける。観に来られて良かった。

#二月大歌舞伎 #辰之助三十三回忌追善 #きおいちょ


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