図夢歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」
市川猿之助 早野勘平
中村壱太郎 女房おかる
上村吉弥 母 おかや
一文字屋お才の声
松本高麗蔵 百姓与一兵衛
市川猿弥 口上人形の声
松本幸四郎 斧定九郎
不破数右衛門の声
猪
久しぶりに猿之助さんの歌舞伎を観た。濃厚な芝居だ。生配信と事前収録をミックスした半生歌舞伎。猿之助さんの早野勘平には個人的に思い入れがある。2012年5月亀治郎最後の舞台がこの早野勘平。翌月の襲名公演の駆けつける為に遠征を断念したので亀治郎最後の舞台を観に行く事は叶わなかった。そしてこの早野勘平は猿之助さんが上方の勘平が自分の気持ちにしっくり合うと、山城屋さん(坂田藤十郎)に習った型だ。今日聞いていると口調が完全に山城屋。チャキチャキの江戸っ子なのに上方言葉と言うか、山城屋言葉を完璧に自身の体に入れている。その上で猿之助独特の濃い感情を乗せてくる。勘平の感情が画面が溢れ出てだけでぐいぐいと引きこまれるので映像効果は不要と思ってると、映像歌舞伎の良さをたっぷり入れてくる。1時間近い長さも歌舞伎を観た満足感が広がる。
図夢歌舞伎ならではの表情や指先のアップが切腹する勘平の生々しさをより引き立たせる。母親役が上方歌舞伎の吉弥さん。お才の声も吉弥さん。母おかやがひょっとして勘平が夫を殺したのではと怪しみ不破数右衛門に夫の仇を討ってくれと頼む。舞台より簡略化されているが上方の女形吉弥さんがおかやを演じる事で勘平の上方味がより引き立つ。猿之助勘平は耳なれた上方言葉に乗せて勘平の悲劇性を引き出す。数右衛門に穢れた金と責められ義母には義父を殺めたとう疑いをかけられ切腹する勘平はの細かな表情をじっくりと見つめてしまい目が離せない。アップで死にゆく勘平が観られるのは映像のおかげ。最期にゆっくりと瞼を閉じて魂が消えてゆく美しさよ。何度でも繰り返して見てしまう。
五段目の斧定九郎は稲村の表と裏を見せるのは猿之助演出のおかげか。普段は稲村の後ろの定九郎は客席からは絶対みられない場面。悪の色香が漂う幸四郎定九郎は氷の美しさ。鉄砲で撃たれて唇から流れる血。悪魔が滅びる瞬間も美しい。
内容を全部書いてしまいそうになるがまだまだ見られるので感想はこの辺で
15日から17日の3日間スペシャル編集版が見られるとのこと。おかる勘平の不幸と斧定九郎の名場面をぜひ見て頂きたい。ソーシャルディスタンスを守り収録と生配信を違和感無くミックスした半生歌舞伎。仮名手本忠臣蔵の通しと言うには省略しすぎだが、歌舞伎俳優猿之助の真骨頂を見るにはうってつけの配信であることは間違いない。