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三月大歌舞伎

3月3日から27日までの公演が無事に千穐楽を迎えました。猿之助弁天小僧、幸四郎弁天小僧、雷船頭のWキャストはファンを惑わせる。
お目当ては猿之助弁天小僧だが、昼の部の「女鳴神」を見物しながら猿之助女鳴神や鳴神の雲絶間姫をして欲しいと妄想が入る。
昼の部は白鸚又平の女房おとく。今回は近江国高嶋館の場館外、竹藪の場と普段上演されない序幕が付き土佐将監閑居の場へのつながりが分かり易い。白鸚又平と猿之助おとくは吃音への差別を怒りに変えた初日に比べ千穐楽は怒りは滲むものの絶望が深い。特筆すべきは高麗蔵さんの修理之助。前髪のの修理之助。十代のお役。その立ち居振る舞いの若々しさに驚嘆を隠せない。歌舞伎俳優ならではの芸で魅せる若さ。親子ほど違う又平おとくの年齢差も全く気にならない。


夜の部は「盛綱陣屋」で幕開け。盛綱陣屋は悲しい。盛綱の弟高綱をおびき出す手立てに高綱の小四郎を生け捕りにする。高綱が捕まったと盛綱主人から首実検を仰せつかる盛綱。そして運ばれてきたのは高綱の偽首。
その偽首を見た小四郎はいきなり切腹する。驚く盛綱。
ここからが仁左衛門さんの真骨頂と言われる芝居。色んな劇評でべた褒め。型を守りながら型を越えた心の芝居。高綱の策略に気づきにやり、え~、なのに小四郎は切腹を?何故。そこではたと気づき小四郎は敵方の目を欺く為に偽首が来たら切腹して首が本物だと信じこませる為に切腹せよと父より言い含まれていた。そこに気が付いた盛綱はその健気さに涙しながら首は本物と主人に伝える。主人が帰っていた後、今際の際の小四郎を褒め称える。しかし疑い深い主人は間者を盛綱の陣屋に忍び込ませてた。
それを高綱家臣秀盛がやっつけ、主人を裏切った盛綱の自害を押しとどめる。
秀盛は左團次さん。赤っ面のお役だが良き気働きをするやりがいのあるお役だと番付のインタビューで話されていたが盛綱陣屋の悲しみを救う大切な役割だ。
猿弥さんの籐太もコミカルな役割。そこが歌舞伎。

その筋立ての間に盛綱陣屋に戦況を伝える注進として中村錦之助さんが登場するのだが、これが素敵なのだ。錦之助さん演じる信楽太郎は俗に暴れ注進と言われる派手な動きで戦況を伝え華やかに去って行く。悲しみと策略だけの盛綱陣屋の中で一服の清涼剤の様な華やかさ。花道引っ込みも見とれてしまう豪快さ。大きな身振り手振りで若さを強調する。
歌舞伎俳優の身体能力は計り知れない。高麗蔵さんの修理之助と言い錦之助さんと言い60歳前後のはず。鍛練修練が肉体の芸術を存分に魅せる。

千穐楽にして初めての「雷船頭」猿之助女船頭だ。空から落ちて来た雷相手に少々色っぽい踊りを展開したのは幸四郎船頭だったが、猿之助女船頭は途中から立ち回りが入ると言う派手な演出。踊りの猿之助ならではだ。奇数日は一度しか観られなかった。やっぱり猿之助さんの舞踊は想定を越えてくる楽しさだ。
千穐楽の「弁天娘女男白浪」では幸四郎弁天小僧で猿之助さんは濱松屋に出入りする鳶頭のお役。穢土へばりばりでこれがまた粋なのだ。この人はこんなに世話物の立役が良かったのかと思うほど素敵。おもだかのチーム内リーダーではこの様な役をすることはほとんどない。
他所の御一門と一緒の座組は普段と違う顔をみせてもらえる楽しみがある。出番は少なくても楽しみが増える。

前楽ヶ猿之助弁天ちゃんはwキャストのラスト。初日よりもくどい、長い、たっぷり。隣のお客が「音羽屋のスッキリした弁天小僧がいいわ。おもだかはくどくて嫌」と耳に聞こえてきたが正にその通りで笑いそうになってしまった。渡して猿之助ファンはそのくどさとしつこさが好き。正体がばれてからうつむき加減の首を徐々に上げて来て、人あらざる者の様な見得。口を歪め睨みNARUTOのマダラか?と思うほどの人外感でたっぷり。ぞくぞくする感覚で見つめてしまう。そこが長い、笑える程長い。息を詰めて観ていると、そこから軽やかな弁天ちゃんへ変化する。
いきなり可愛いが押し寄せる。ファンにはたまらない一瞬。
名台詞も猿之助弁天ちゃんは少々高めの声でたっぷりと。幸四郎弁天はさらりと。
おもだか屋ならではの型、同性愛的な表現がそこかしこに。濱松屋を脅したり、額を割った番頭を恫喝するときは悪党の顔を隠しもせずドスの効いた声色。一転、南郷に向いたとたん、呼び方こそ南郷だが力丸ちゃんハートみたいな甘い声。南郷の羽織を借りて帰ろうとするが南郷からその頭~どうすんだ‼️🐵と言われ手ぬぐいをほっ被りしたとたんに今度はルフィを思わせる愛らしい顔が出てくる。花道でお金を分けるとき、荷物を坊主持ちで帰ろうと言うとき、新内を歌いながら花道を歩く時の声が少し高めで色っぽい。全ての台詞が南郷ラブ。南郷も猿之助弁天ちゃんに合わせて駄々っ子をあやすような甘めの声だ応じる。猿之助弁天ちゃんはきっと当分観られない。観られて良かったと心底思う。幸四郎弁天と猿弥南郷はスッキリと悪役二人のやりとり。
さて来月は本公演での「黒塚」だ。怪我の後の「黒塚」は昨年9月に国立文楽劇場で藤間勘十郎さん阿闍梨裕慶でお披露目をしているがまだまだ普段通りの岩手では無かった。完治していないはずの腕を抱えながら平成最後の歌舞伎座にお家の大切な「黒塚」をかけるからには私の想像を超えてる何かが仕掛けられているのか。楽しみだ。

そしてバラエティ豊かな今月の座組で歌舞伎の奥深さ、幅の広さ、頂点を極めた大御所の進化、大ベテランが芸で見せる可愛らしさをまざまざと見せつけられた。これだから歌舞伎は止められない。
亀ちゃんとの出会いが歌舞伎に私を引き戻してくれた。猿之助さんの成長を生きてる限り観ていられる幸せを感じた三月大歌舞伎大歌舞伎だった。
#市川猿之助 #傾城反魂香 #別娘女男白浪

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