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新型コロナの蔓延で考えたこと    ~変わりゆく旅行の形~

 観光業が大きな収入源となっているマレーシア。新型コロナウイルスの蔓延で、マレーシアは苦境が続きます。マレーシアは2019年に年間の観光客目標数3000万人を目指していましたが、この年は2391万人にとどまり、この目標数は2020年に持ち越されました。

 しかし、2020年初頭からマレーシアは新型コロナウイルスの感染拡大で、国境を3月18日に封鎖。この封鎖措置は現在(2021年5月)まで続き、2020年の観光客数は430万人ほどで前年比約83%減。ほとんどが2020年1~3月に訪問した数字でした。

 ウイルスはマレーシア国内だけでなく、世界中で現在も席巻しています。マレーシアの国境がいつ完全に開くかはわかりません。ただ、この状況は少なくとも2021年いっぱいは続くでしょう。国内では現在までのところ、州や地区の移動さえも自由にはできない状態も1月から続いており、移動禁止解除も年末になる可能性もあります。

 さまざまな専門家が言うように、私たちの生活は新型コロナ前の状況にはもはや戻れないでしょう。となると、今後は今のこの状況は「通常」の状態になる可能性も否定できず、観光業も形を変えざるを得ない状況になるのではないでしょうか。

■今後の旅行モデル?
 現在、マレーシアは海外からの観光客は受け入れてませんが、ビジネスの短期長期出張者は厳しい条件のもとで許可を得て来ることができます。マレーシア投資開発庁(MIDA)が「トラベル・セーフ」という形で先に詳細を発表しました。ウイルスのパンデミックの中で観光客を受け入れていく場合、ここで発表した14日以内の短期出張の方法がもしかすると今後の観光モデルになっていく可能性があります。少し詳しく見てみましょう。

 MITIが発表したガイドラインでは、到着前と到着時、マレーシアからの出国時に従う内容が記載されています。

 事前に詳細の旅程表を作成し、フライトや宿泊先、移動手段などを確定させ、招聘先からのレターを用意します。それをすべて揃えた上で、MIDAに出発14日前までの申請。入国許可証を得て、出発3日前までにPCR検査を受け、陰性証明書をもって入国します。

 ここから先が驚きです。

 出張者は「ファースト・トラック・サービス」専用のレーンに従って空港内の「ビジネス・トラベル・センター」に向かいます。飛行機を降りると係官がびったりとこのセンターまで案内するのです。

 このセンターで再びPCR検査。ここで陽性となった場合は出張は禁止され、そのまま病院で隔離治療となります。完治後は国外退去のようです。

 陰性となった場合は再び係官と一緒に今度は専用の入国審査特別レーンに移動し、入国後に荷物を受け取って、迎えに来た車に乗り込みます。交通機関は一切使えないので、招聘先が一切の車を用意しないといけません。クアラルンプールから例えばペナンに行きたい場合は飛行機の利用も出張者は禁止なので、車で5時間ほどかけての移動になります(サバ・サラワク州は飛行機でしか行けないので除外)。ちなみに、現在は飛行機でマレーシアに来る場合はクアラルンプールでしか入国ができません。

 無事に入国できても出張者は自由には動けません。というのも、「リエゾン・オフィサー」という係官が24時間、マレーシアに来た出張者にすべて同行し、旅程表通りに動いているかを確認するためです。提出して承認を受けた旅程表には宿泊先だけでなく、ランチやディナーのレストラン名、参加者名を記載し、きっちりと確認されます。衝動的にモールなどに行きたくてもそうはできないのです。そして、帰国する直前もPCR検査を受け、陰性になると無事帰国できます。

 要は感染防止のため、入国から出国まできっちりと同行して、うつさせない対策なのです。出張中に違反すると日程を切り上げないといけないことになり、非常に厳しい条件の中での出張になります。

 この内容を知ったとき、昔東欧の共産圏を旅行したときのことを思い出しました。さすがにびったりくっついた同行者はいませんでしたが、宿泊先はかなり限定され、警察に届け出をしたりと自由にあまり動けない重苦しい思いをした記憶があります。 

 今回のこの感染防止措置は共産圏で異端思想が拡散されるのを防止するのと似ているのかもしれません。となると、昔、共産圏でやっていた旅行者の行動制限措置も参考になるのかもしれません。

■個人旅行ができなくなる?
 今後もウイルスが生き残って拡散を続けるとなると、上記のモデルのような旅行が主流になる可能性もあります。先日までやっていた国内旅行は感染者数が少ない「回復のための活動制限令(RMCO)」の地域間は公認の旅行会社を通じての旅行は認められており、こちらもほぼ団体旅行となっていたといっていいでしょう(現在はRMCO地域がなくなったのでこれれすらもなくなりました)。つまり、日程を全部決め、行動も制限する。団体旅行では自由時間が適宜ありますが、それすらも制限していかないといけないのかもしれません。

 感染防止を主軸にすると、個人の自由旅行、つまりバックパックだけを背負って各地を周って旅をする形態はもう難しくなってくるでしょう。バックパック旅行は行き先も決めずにブラブラ思うままに歩いて非日常を体験する旅ですが、昔の共産国家(現在では北朝鮮)ではできません。1970年代以前に旅行形態に戻っていくのかもしれません。
 
 人間の歴史の中で旅行はもともと誰もができるものではありませんでした。富裕層が主にレジャーとして楽しむものである一方、一生旅をしている旅人もいたりと、ある意味で特別なものだったのです。

 しかし、格安航空会社が出現したことで旅行は一変しました。誰でもどこへでも安価で飛行機に乗って行くことができるようになり、旅行はもはや昔の富裕層のレジャーまたは修行僧などの行脚的な要素はなくなってしまったと言っていいでしょう。一旦、難しいウイルスが拡散するとまたたく間に世界に広がってしまったのもこの飛行機のためだったとも言ってよく、人間はそのツケを払わされているような気がします。

 ちなみに、マレー世界のなかでは「Merantau」という伝統的な一定期間、各地を周っていく出稼ぎ旅行(?)または行脚的なコンセプトが含まれる慣習があります。ただ、現在ではこれすらもすでにできなくなっている状況で、マレー文化社会にも心理的な影響が出ている可能性もあります。

 いずれにしても、近年普通にどこへでも行けるようになった旅行について考えるときが来たのだと思います。昔は「非日常の体験」からいろんな考えを吸収して人生の糧にしていったと思いますが、旅が「日常の体験」になってしまった現在、私たちは旅から何を得ていたのか。また、何を得ようとしていたのか。みながソーシャルメディアできれいな写真を掲載するから行ってみようと安易な理由だけで旅行に行っただけでは得るものはほとんど何もありません。今回のウイルスのパンデミックはそういったことも問うているのかもしれません。

写真:大好きなカンボジアの寺院タッ・ロームの樹木

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