マレーシア連邦下院議会解散 総選挙へ
マレーシアのイスマイル・サブリ首相は10月10日に連邦下院議会の解散を表明しました。そして、選挙管理委員会が10月20日に、11月5日を告示日、11月19日の投票・開票日を決定して発表しました。マレーシアは4年ぶりに選挙に突入しました。
さて、きょうはちょっとマレーシアの選挙について話します。日本とはだいぶ違った選挙ですので、ご参考までに。
マレーシアには基本的に2つの選挙しかありません。連邦下院議会議員と各州議会議員の選挙で、日本のような市議会や町議会、村議会の議員や首長の選挙はありません。
マレーシアには市議会や郡議会はありますが、1969年の民族暴動事件をきっかけに州より下の地方自治体の選挙がなくなりました。今も地方自治体の首長や議員は任命制です。2018年以降にこの地方自治体の選挙を復活させる話がちらほら出てきましたが、いまだに進んでいません。そのため、マレーシアでの選挙といえば、下院か州議会しかないのです。
■州議会について
先に州議会の話をします。
マレーシアに州は13州ありますが、各州にそれぞれ州議会があります。一番小さいのはペルリス州議会の定数15人、最も大きいのはサラワク州の82人です。州議会は条例を作ったりしますが、日本と違うのは、マレーシアは連邦制度を取っているため、各州に憲法があってこの州憲法の改正もします。また、各州議会はそれぞれ州首相を選出する機能もあります。日本の県知事にあたりますが、州首相を選ぶ選挙はありません。州議会で過半数を取った政党から選出され、さらに組閣されます。つまり、州政府にも何人かの大臣がいるのです。
そして、州議会の解散ですが、下院議会が解散されると州議会も解散される慣例があります。ただ、今回解散されたのは3州(ペルリス、パハン、ペラ)のみ。州議会ではそれぞれ掌握している政党が異なるため、今回はいろんな思惑を各党とも考慮したようです。
州議会議員ですが、実は下院議員を兼ねている人が結構います。例えば、モハメド・ムスタパ首相府相(経済担当)は大臣でありながら、下院議員でクランタン州議会議員でもあるのです。また、アズミン・アリ国際貿易・産業相もスランゴール州議会議員を兼務しています。日本でいうと、衆議会議員と県議会議員を兼ねているようなもので、相当激務だと思います。
■下院議会について
さて、今回解散された下院議会についてですが、まずは連邦政府のしくみを見ておきましょう。
マレーシア連邦は立憲君主制で、国王中心の国です。ただ、この国王は5年毎の輪番制であることはよく知られています。
その下に下院と上院があり、下院で過半数を取った政党から首相が選ばれ、連邦政府を形成します。
上院は日本でいうところの参議院ですが、国王が選んだ人物と各州から2人選ばれた人物からなります。任期は3年。現在の定数は70人。選挙はまったくありません。
下院議員ですが、現在の定数は222人。任期は5年。法律の策定など日本の衆議院とほぼ同じ役割を担っています。下院議会では連邦首相を選び、首相は閣僚を任命します。この閣僚は原則的に上下院の議員です。日本のように議員でない人が大臣になることはマレーシアではありません。ただ、民間人を大臣にしたい場合はいったん上院議員にしてから大臣にさせるという方法があります。現在のトゥンク・サイフル財務相はもともと銀行の頭取で、前政権で抜擢されました。
下院議会選挙は任期満了によるものと首相の権限による解散総選挙の2つがありますが、任期満了によるものはこれまでにほとんどありません。
選挙区は選挙管理委員会が取り仕切っていますが、定数222人に対して選挙区数はそのままの222区数になります。
すべての選挙区が小選挙区制なのです。比例はありません。そのため、かなりの死票が出てしまうのですが、それはほとんど考慮には入れられていないようです。
ただ、日本のようなどぶ板選挙にはここはならないようです。というのも、大政党の候補者であっても、結構落下傘的な候補者が多いのもマレーシアの特徴。例えば、現在野党の人民正義党(PKR)のアンワル・イブラヒム総裁はペナン州出身で、もともと同州の選挙区から出ていましたが、服役後にはヌグリ・スンビラン州のポート・ディクソン選挙区から出馬。今回の選挙ではペラ州タンブン選挙区から出ると表明しています。同総裁はこの選挙区から出る理由について、
簡単に勝利できる選挙区を選んだわけではなく、リーダーとして勇敢に戦える選挙区を選んだ
との趣旨を述べています。その政党の大物がそこで出馬することで、支持者層のテコ入れという意味合いもあるのでしょう。
有権者は候補者を選ぶというより、政党を選ぶ傾向が強い。どこかの国のように大物であっても何十年も同じ選挙区でのほほんと選挙に勝っていくのとは大違い。選挙区を変えることで人間的にも変わっていくでしょうし、そもそも政治家として同じ選挙区で何十年も立候補していれば惰性も生まれる。あのどこかの国の劣化した政治家をみていると、マレーシアの政治家はやはり頼もしいところがあります。
また、選挙カーからの名前の連呼はありません。辻立ちもありません。そもそも選挙カーはなく、ホールなどでの集会で人を集めてそこで主張します。先ほども伝えましたが、個人よりも政党を全面に押し出した選挙ですので、政党の公約や主張をこの集会で伝えていきます。もちろんいつも選挙に出ている人は政党の顔にもなるので、このときは伝えやすくなりますが、政党を最近はコロコロ変える人もおり、そういう人は逆に淘汰される傾向があります。ちなみに、議員任期中に当選した政党から別の政党に移る場合は議員を辞職して選挙に出ることが先月から法的に義務付けられました。
さて、投票用紙ですが、これも日本とは違って人物名や政党名の書き込みではなく、政党のロゴが記載されているだけ。ここに印をつけて投票します。
期日前投票もありますが、これはだいたい投票日の5日前からと短いのです。一方、海外の在外投票はできないようで、投票するためにはマレーシアに戻ってこないとなりません。また、有権者登録も事前にする必要があり、日本と違って自動的に投票できる仕組みではありません。多くの人が生まれたところで登録しているので、投票日前には帰省する現象も生まれます。今回の選挙では有権者年齢が21歳から18歳に引き下げられてから初めての大型選挙。有権者数は500万人が増えています。
ざっと選挙関連について話してみましたが、さて、11月19日の選挙結果はいかに。2018年にマレーシア初の政権交代が実現しましたが、下院議員5年の任期の間に3人も首相が変わるというマレーシアでは前代未聞の事態も発生し、国民はかなり飽き飽きしている様子。安定した政権を選ぶため、国民はどこに投票するのか注目が集まります。
写真:2018年の総選挙キャンペーン時の旗の数々
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