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新型コロナウィルス蔓延で考えたこと ~変わりつつあるハリラヤ~

 マレーシアでは5月13日、断食明け大祭(ハリラヤ)を迎えました。4月中旬から1か月にわたるイスラーム教徒の断食。例年、このハリラヤは帰省して家族や親戚、友人らと会って楽しみますが、昨年と同様、新型コロナの蔓延で今年も大々的にはできませんでした。マレー人にとってのハリラヤは日本人にとっての新年や夏のお盆と同じ感覚のもので、特に日本のように季節がないマレーシアではこのハリラヤは年間の行事の中で最も重要で、家族の絆を深める祝祭日でもあります。

 今年は4月に入ってマレーシア国内の1日あたりの感染者数が2000人を超え、さらに5月に入ると3000人を優に超えました。政府は5月10日、「活動制限令(MCO)」をハリラヤ前日の12日から6月7日までの期限で発令すると突然発表しました。人々の移動を禁じることが目的で、人混みができるこの祝祭日の期間の決まりごとも発表されました。

 主な決まりごとはこちら。

ー断食明け大祭(ハリラヤ)期間中の訪問や墓参は禁止。
ーハリラヤ時のモスクなどでの礼拝は認める。ただ、1000人以上が収容できるモスクやスラウは50人までとし、1000人以下の収容人数のモスクやスラウは20人までに制限する。

 これ以外にも不要不急以外の外出はしてはならないこと(州や地区の移動では正当な理由の証拠を提示して警察の許可を求める)、自動車は運転手を含む3人までの乗車のみ許可、レストラン店内での飲食の禁止、各店舗の営業時間の制限なども規定されています。

 10日までは挨拶のための訪問は人数制限をされて許可はされていましたが、感染者の増加でこれも急遽禁じられてしまったのです。モスクへの礼拝も制限され、日本でいえば、初詣や新年の親戚へのあいさつ回りの禁止といったところでしょうか。規定では触れられていませんが、ハリラヤのときは例年、広場で羊や牛を解体する光景もみられますが、こちらも人混みができるため禁止されました。

 ムヒディン首相はハリラヤ初日の前夜にテレビで演説。年間で最も重要な祝祭日であるハリラヤに何もできない措置を出したことに「苦渋の選択だった」と述べ、家族や友人をウィルスから守るためには必要と強調しました。仕方がない措置とはいえ、昨年も同様の措置が取られたことから2年連続の制限された祝祭となりました。

 イスラーム教徒も家族を大事にするため、この祝祭日をきっかけにみなで集まることになるのですが、今後も新型コロナと共存していかなければならないとすると、ハリラヤを祝う方法も考えていかないといけない時期なのかもしれません。

変わりゆく習慣
 大きなモスクでは昨年から礼拝をオンラインで始め、礼拝時にはライブでモスク内のもようを流したりしており、これは一般化されつつあるようです。ハリラヤ初日には礼拝のライブを流すモスクもありました。モスクへの入館の制限がかけられており、例えば、スランゴール州シャーアラムの通称ブルーモスクは2万4000人を収容できますが、6月7日までは50人までに制限。モスクで礼拝できるのは先着順なのかどうかはわかりません。ただ、このモスクは昨年から入館する際にオンラインで事前予約をしないと入れない仕組みになっており、ぶらっと入ることはできなくなりました。

 また、家族や親戚での集まりは今はオンラインで簡単に集まることは可能ですが、物理的に州や地区を移動できない禁止令が出ているこの状況ではオンライン化せざるを得ないでしょう。このオンラインでの集合も新型コロナがある限りは慣習化していくのではないでしょうか。

 ハリラヤ時には子供たちにお年玉をあげる風習もあります。これはおそらく華人が「紅包」を子供たちにあげる習慣があるので、マレーシアではイスラーム教徒もそれに習った形になったのかと思います。前回の春節でもそうでしたが、お年玉を現金ではなく、E-Wallet、つまり電子財布で渡すことも始められました。今回のハリラヤでもE-Walletのメイン・プラットフォームが「お年玉の送金サービス」を始めており、接触によって感染もすることからこちらも今後は主流になっていくかもしれません。

最も難しい習慣を変えられるか
 上記の習慣はそれほど抵抗がないため、おそらく根付いていくでしょう。しかし、最も困難でかつ文化的な習慣も変えなければいけないことがあります。
 
 これは全人類が考えないといけないのかもしれませんが、それは「パーソナル・スペース」です。これは他人が自分に近づくことを許せる限界の範囲のことで、心理的ないわば縄張りのスペースのことを言います。要は人が自分の縄張りに入ってきて不快に思うかどうかのスペースにもなります。アメリカの文化人類学者エドワード・ホールが1963年に作った言葉です。ホールは、相手との関係を踏まえて、4つの分類に分けました。

公衆距離:3.7m以上 
正式な会合やイベントで面会する場合の距離

社会距離:1.2メートル~3.7メートル
上司や知り合いと会うときの距離

個人距離:46センチ~1.2メートル
友人や家族と接触するときの距離

親密距離:46センチ以下
恋人とキスなどの接触ができる距離。家族もこの範囲内に入ってきても大丈夫だが、それ以外の人が入ってくると大変不快を感じる。

 ここでこれを挙げたのは、マレーシアの場合は特にマレー人やインド人はこの縄張り範囲が狭いと感じるからです。上記の距離はあくまで大体の基準またはアメリカ人の基準なのかもしれませんが、おそらく民族や年齢でも異なってくると思います。

 以前、香港に行ったとき、公園を散策して休んでいると、突如、物売りのインド人が近寄ってきました。1メートルを切る距離まで来たので、危険を察したのですが、彼にとってそれはどうも普通の距離であったらしいのです。また、マレーシアのレジで並んでいると後ろに他人が1メートル以下の距離で並ぶことは頻繁です。1メートル以下に入ってくると私はレジで注意しますが、そのときに初めて気づく人が多いです。上記の基準でいうと1メートル以下の距離は個人距離に入るのですが、マレーシアの場合はおそらく全体的に上記の基準距離が短いのかと思います。
 
 新型コロナの感染拡大防止でまず言われることは「マスクの着用」と「人との距離を1メートル以上あける」ことです。この2つを守らずに話をすると感染することはわかっているようですが、特に人との距離をあけることは重要だと思います。となると、この距離をあけていくということは、マレーシアでは誰しもフレンドリーな性格である文化的習慣を変えていかなければならないでしょう。

 警察は毎日各地で取り締まりをしていますが、摘発件数が最も多いのはマスクの未着用で、その次が人との間隔を1メートル以上あけていないことです。ということは、やはり他人同士の距離が他人であっても短い可能性があり、ここを今後どのような距離をあけていくかが焦点になってきます。

 ただ、それは文化的習慣でもあるので、なかなかそれは難しく、1~2メートルの棒をもって歩くか、何か「フィジカル・ディスタンシング」器具を開発して徹底した距離感覚をあけていくしかないのかもしれません。以前にGPSをもとに人が1メートル以内に入ってきたら警告音が鳴るアプリをダウンロードしてみましたが、相手も同じアプリを使っていない限りは使うことができず、使用を断念したことがあります。もしかすると、オンラインで人との間隔をあけられることを知らせる携帯電話が今後開発されるかもしれません。

 いずれにしても、この厄介な新型コロナは人間が生活していく上であらゆる課題を突きつけています。これを一つずつ「改善」すると、ウィルスは消えていくのかもしれません。



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