マレー人と華人の融和が今後の要
11月19日にマレーシアの下院議会総選挙の投開票がありました。結果はどの政党も過半数を取れず、「ハング・パーリアメント」という状況に陥りました。少なくとも下院議員の満了となる2027年までマレーシアは不安な政治が続く可能性があります。
下院総選挙の結果は下記の通りです。
・希望同盟(PH) 82議席
・国民連盟(PN) 73議席
・国民戦線(BN) 30議席
・サラワク連盟党(GPS) 23議席
・サバ州民連盟(GRS) 6議席
・遺産党 3議席
・その他 3議席
全部で220人で、あと2議席の投開票は延期。候補者2人が死去したため選挙がやり直しになりました。ただ、全体の大勢に影響はありません。
11月24日に国王は希望同盟(PH)のアンワル・イブラヒム氏(人民正義党総裁)に首相を任命しました。選挙後から各党はせわしなく協議を続け、互いに非難合戦にまで発展。一時はどうなるか思われましたが、同氏を第10代首相にさせることでとりあえずは袋小路を脱した感があります。
しかし、アンワル氏にとって今後はかなり難しい舵取りが迫られることになるでしょう。
■各連立政党の内訳をみると。。。
前に紹介したとおり、この国の政党は連立政党を中心に展開されています。この連立政党内の個別の政党の獲得議席をみてみるとそれがわかります。
希望同盟(PH)
民主行動党(DAP) 40議席
人民正義党(PKR) 31議席
国民戦線(BN)
統一マレー人国民組織(UMNO) 26議席
マレーシア華人協会(MCA) 2議席
国民連盟(PN)
全マレーシア・イスラム党(PAS) 49議席
統一党 24議席
各連立政党の内訳は非常に重要で、つまり、各民族がどこに投票したかの結果なのです。
希望同盟内の華人系政党DAPが個別政党で下院第2党になった一方で、国民連盟内のマレー人右派PASが下院第1党となってしまいました。本当はPHとPNが連携して政権を担えば、問題はなかったのですが、PN側が拒否。特にPASはDAPを政敵としています。10年ほど前は野党勢力として互い協力関係がありましたが、近年では非常に仲が悪い。このため、PHとPNは組めないという状況になってしまったのです。DAPとPASの関係は、日本で言えば、自民党と共産党と言った感じでしょうか。
マレーシア政治では何でも必ず民族のバランスを取るようにしています。このため、PNがPHよりも多く票を取ったとしても、政権を担うのは難しかったのではないか。特にPNは華人からの支持がありません。PNは華人系政党も構成政党として含まれているのですが、その政党はまったく票が取れなかったのです。仮にPNが華人系のMCAを含むBNと組んで政権を握ったとしてもMCAはたった2議席しか取っておらず、マレーシア人口の約3割の華人代表政党とはいえないでしょう。ちなみに、MCAは華人からは華人政党とはみなされてはおらず、UMNOの付属物程度にしかみられていないため、選挙毎に衰退している有様です。
一方で、アンワル首相は、下院第1党となったマレー人政党PASの存在を無視することができないでしょう。人口の約6割を占めるマレー人の意見を反映させた結果でもあるので。PASはその党是の一部としてイスラーム国家の樹立を目指しています。これはDAPが毛嫌いするところでもあるのですが、仮にPNが政権を取っていた場合、PN内で最も大きい勢力ですから、国全体がかなり右寄りのイスラーム化していった可能性があります。PASは現在、クランタン州、トレンガヌ州、クダ州で州政権を担っていますが、どこもイスラーム色が強くなり、経済は遅々として発展していません。ペルリス州は今回初めてPAS政権になりました。
おそらく多くの国民はこれに感づいたことでしょう。政治家たちもPASが連邦政府の政権を担うのは「まずい」と感じたのではないか。最終的に国王の判断で、PHのアンワル氏が首相に任命されました。国王は任命の前に「特別統治者会議」を開いており、各州のスルタンに意見を求めていました。首相任命はその結果だったのですが、経済が回復する中、PNの経済政策では心細い。国王の判断はそういった判断もあったのではないでしょうか。この国は華人が多く、経済活動も活発であり、中国との結びつきも強いことから経済が潤っているわけで、向こう5年の経済も考えるとPHに任せたほうがいいと考えるのは自然でしょう。
■民族の融和が重要
さて、今回の選挙結果から何が言えるのでしょうか。
多民族国家であることから、必然的に他の民族との理解、協力が必要です。特にマレー人と華人は1969年に暴動が発生して数百人が死亡しています。シンガポールでもその翌年に小さな暴動がありました。マレー人と華人の両方が理解し合って協力すれば、マレーシアは安定化するのですが、どうもどこかで歯車がズレてしまった。これは今後も与党野党に関わらず互いに切磋琢磨していく必要があると思います。民族や宗教に根ざした対立はマレーシアだけでなく、世界で見られます。多民族国家であるマレーシアがこの問題を解決できれば、世界のいがみ合う政治対立をなくす一つの解決策を提示することができ、世界平和に寄与することにもなります。
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