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スマホでメッセージを書かない人たち

 スマホの普及とともに通信アプリも広く使われるようになりました。ところが、マレーシアでは主に華人の間では通信アプリでのメッセージは音声を送ることが主流になっています。

 マレーシアでの通信アプリは主にWhatsAppが使われます。中国系のWeChatやロシア系のテレグラムも使われていますが、WhatsAppほどではありません。日本や韓国、ベトナム、タイで使われるLINEはマレーシアではほとんど使われません。

 どのアプリも音声でメッセージを送るいわば、ボイスメッセージの機能があります。日本人はあまりこの機能は使わずに、ひたすらメッセージを打っていきますが、マレーシアの主に華人はひたすら音声を吹き込んで送ります。この違いは何なのでしょうか。

 華人のほとんどの人は音声で送ってくる。特に華人どうしや本土の中国人とやり取りをする場合はほとんど音声です。

 これは思うに、中国語でテキストを打つのが面倒であるからだと思います。中国語にはピンインを使って文字を漢字に切り替える手間があります。また、部首から打ち込んでいく方法もありますが、いずれにしても漢字でメッセージを書いて送るには少し時間がかかり、特に急いでいるときはそれをやってられないから、音声になるのでしょう。

 あまり急いでいないときでも音声を吹き込めばそれで済みます。人間は怠惰にできているので、メッセージをせずに音声のほうが簡単という具合でメッセージは音声化されてしまったのでしょう。

 また、クアラルンプールでは広東語が華人の間で主流ですが、広東語のメッセージ打ち込みは難しい。グーグルの言語キーボードアプリで広東語はあります。ただ、広東語には正書法(つまり、北京語のピンインに相当するももの)が統一されていません。広東語は発音も重要ですが、9つある声調の使い分けがより大切で、それを横文字にすることはなかなか難しい。統一されていないため、グーグルではどういった表記になるのかをまず研究しないといけない。そんな時間があったら、やはり吹き込んで送ったほうが速い、ということになるのでしょう。華人はほかにも正書法がない福建語や客家語を使う人もいるので、やはり打ち込むよりも音声で送ったほうがより正確に伝わるとも言えそうです。

 また、英語ができる華人でもあまりライティングに自信がないのか、やはり音声で送ってくる人もいます。マレーシアの場合、英語が話せても書くとやばいレベルの人は結構多く、自分でもどう書いたらいいのかがわからないのかもしれません。

 一方で、マレー人はテキストを打つ人のほうが圧倒的に多い。なにか忙しくて急いでいるときは音声メッセージを送ってくるマレー人もいますが、それほど多くはありません。

 マレー人の間ではマレー語のアラビア表記ジャウィで書く人もたまにいます。ジャウィは一見難しそうですが、専用アプリを入れると簡単に使えるそうで、ローマ字表記よりもより正確な発音になります。まあ、ジャウィで送る人はどちらかというとイスラーム教にかなり信仰心の厚い人がやっているイメージ。ジャウィはマレー人以外には送りませんが、そういう人もメッセージで使う人もいるのです。

 日本人は日本語という正書法がしっかりした言語で日本語を小学校からしっかりと勉強してくるので、メッセージを日本語で書けないということは日本人の間ではほとんどないと思います。しかし、アジアに来ると、実はそちらのほうが珍しかったりする。マレーシアを例にとっても言語表記がなかなかできない言語もあったりするのです。

 昔から興味深く思うのですが、インドネシアの地方語を操る人々、特にジャワ人やスンダ人、バリ人などは自分たちの言葉をなかなか表記できない。そのため、テキストで打つ場合はインドネシア語という「外国語」を使うことになりますが、それだとなかなか感情を伝えきらないので、もしかすると彼らもこのときは音声吹き込みなのかもしれません。

 いずれにしても、スマホでテキスト一つ送るにも、なかなか奥深いのです。


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伊藤充臣
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