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マレーシアの人間関係は加点式

 マレーシアという国では人間関係が加点式である気がしてきました。どういうことでしょうか。

 マレーシアは多民族社会で成り立っている国で、さまざまな言語、宗教、民族が混じり合っている社会です。つまり、人は互いに「自分とは異なる」という前提で成り立っている国でもあります。

 マレー人の間でもマレー半島の東西、ボルネオ島では文化や言葉も異なります。華人の間でさえ、広東系、福建系、潮州系、客家系などがいて、それぞれ言葉も異なる。インド人も先祖の出身であるインド本国の南北で文化が相当異なりますし、また宗教も違ったりする。なので、「異なる」ことが当たり前の社会なのです。

 こういう相違が前提である社会は、人間関係にも大きく影響します。そもそもすべて自分とは異なるという前提で接するので、まずは意思疎通ができる言語を模索して、話をしていきます。マレーシアの人たちはそこで一方的に「この人は英語ができない」「マレー語ができない」と言って批判するのではなく、意思疎通を遮断することはせずにどこかで妥協して事を進めます。

 言語で意思疎通ができれば、そこから友人どうしであれば、いろんな長所を見つけて話し、そこを褒めたりするのがマレーシアの人たち。これを「加点式」と勝手に僕は呼んでいますが、こういう人間関係だと何か楽しい。ありのままの姿を評価していくのです。

 確かに自分とはすべてが異なるため、そのギャップでイライラすることもあります。例えば、時間の感覚。マレー人は時間の感覚がかなりおおらか。悪くいえばルーズですが、こんなことはもう誰もわかっているので、人々はこれを前提に物事を進めます。「時間を守らない」ということが、ある意味で「常識」にもなっているので、ここで怒っても仕方がない。時間をしっかりと守れたら「すごいね」と逆に褒めたりするのがマレーシアなのかも。

 一方で、日本人ですが。。。あまりこれを言いたくはないのですが、日本人の人間関係は「減点式」だと思うのです。日本人はみな何だか完璧を求めすぎている。これは日本人の深い意識の中に「みな同じなはず」という大前提があるからでしょう。これは「日本は均一な社会だから」という意識があるため、日本人と会えば「常識はいっしょ」と思い込んで、性善説で動きます。自分がこうだから相手もこんなはずだになるのです。幸か不幸か、日本人どうしだとすぐに信用してしまうのも特徴。最近では海外でもまったく信用できない日本人も増え、それで犯罪に巻き込まれるケースもありますが、それでも日本人どうしはすぐに信用する傾向が強い。

 これが悪いと言っているわけではないですが、海外に来て、まったく文化背景が異なる現地の人にもこれを当てはめようとしている日本人が多いのには困ります。そもそもマレーシアの人と日本人では教育も異なり、考え方もまったく異なる。それは頭ではわかっているのでしょうが、実際に人間として接するときにそれが抜けきれずに話をする。自分の感覚と異なる違和感は必ずあるはずですが、そこを受け入れずに「(日本の常識を振りかざして)こうであるはずだ」が先行してしまう。それを無理やり押し付ける人もいて、それではマレーシアの人たちからは嫌われます。

 こんな例がありました。

 以前、僕の上司がフライトのチェックインができずに困っていまして、航空会社に連絡しても梨のつぶて。AI化されていて、通り一辺倒の返信しか来ずにイライラ。フライトが間近ともあって心配になって空港の航空会社のカウンターに直接言って話をするしかないと僕は考えていました。そのため、車を用意してもらおうと日本人コーディネーターに事情を話したのですが「常識で考えてチェックインはできるはずです」とおっしゃり、わざわざ行く意味があるのかと文句を言います。

 マレーシアでは困ったときに対面で話すとほぼすべてがスムーズに片付くのを僕は経験的に知っているので、そうしようと思ったのですが、この女性は「おかしい」の一点張り。そもそも「あんたのその常識はどこの常識?」と心の中で僕は思いましたが、黙っていました。

 日本の「常識」を振りかざして強引に押し付けようとした一例(こういう例で僕はもうマレーシア人なのでしょう)だと思いますが、マレーシアでは自分の「常識」を押し付けようとするとマレーシア人の間では不評を買います。マレーシアは「殺人をしてはいけない」、「人のモノを盗んではいけない」といった宗教上の倫理的な常識はありますが、極論、それ以外の常識はほとんどありません。

 マレーシアの人たちと日本人の間で人間関係を構築していくのであれば、「異なる」ということを前提に物事を進めなければなりません。加点式人間関係のほうが、人のあら捜しする必要もないので、関係は構築しやすいと思うのです。



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伊藤充臣
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