われ絵画講師なり その4

前回の終わりで、生徒の作品に対して手入れをする際の心構えを書きました。

今回はその続きです。

講師の手入れとは、生徒にとってみればその講座で最も重要視する部分にあたる場合も多いのです。今でこそそう言った認識ですが、最初は驚くべきことだと思っていました。

私の個人的な話をすると、予備校時代、描いたデッサンに講師の手がおもむろにに入ったことがありました。その講師は説明しながら書いたものを容赦なく消し、書き換えていく様子に、激しい怒りを覚え、その場を立ち去り家に帰った覚えがあります。手入れとはそう言うものだと言う認識が長らくあったのですが、講師をするようになってからは、かなり頻繁に手入れを求められるようになりました。ある生徒には「先生に教わるのもそうですが、手を入れてもらって初めて通う意味がある」とはっきり言われたこともあります。

今ではその昔、手入れに対して否定的だったから、と言う理由だけでもなく簡単に「そうですね、手入れをしましょう」と真っ直ぐには答えられないところがあります。

講師が手入れすると概ね作者の意図するかどうかとは別の着地の仕方をしてしまうことがあります。それはなぜか。答えは簡単です。あまりにも講師と生徒の技術力が違うからなのです。

例えば、水彩画の講座などの場合、表面的な指導内容で言えば、描き方や使う色、注意すべき点などを指導し実践して貰えば狙った形にすることはできます。でも、実は、筆に含ませる水の量や、塗り重ねるタイミングなど塩梅がある部分があります。初心者の場合、それが一番の難題で、解説しても実践できない部分となります。そう言った生徒に講師が加筆すると、生徒自身のレベルアップのための参考になる前に、どうやっても同じようにできない難解な代物になります。手入れしたことで上達が遠のいてしまう可能性がある、できるだけ避けたい事案となります。こう考えてしまうのであえて手入れをしない、となるのです。

では経験がそれなりにある場合はどうでしょう。私の講座では配布されたマニュアルをすべて完了した後、かなり理解が深まった状態ならば、度合いの調整も、ある程度できるようになることもあります。その点では手入れをしてもよさそうなものです。

ですが、それでも手入れをすることは躊躇します。講師からすると、度合いの調整のまた先に今度は、筆の力加減や、運筆のスピードなどがあると言うことを解説し、理解、実践できる方のみ、描き方を直接示したい、と言うのが理想です。

お気づきかもしれませんが、上記の内容はあくまでも理想です。実際にはもっと普通に手入れをすることは多々あります。それは、その生徒さんのパーソナリティで決めるようにしています。

講師にとっては手入れは繊細な判断が必要ですが、生徒にとってはそうではなく、人によっては通い続けるかの指標になることもあります。それが元で辞められても困るし(経験からすると手入れを頑なにしなかった時期には生徒は手入れをしない講座は価値がないと、やめる方が多かったように思います)背に腹は変えられないので手入れをすることがよくあります。

このように、講座内での駆け引きは大抵の場合一方的に講師が折れる形になるようにしています。折れた場合の方針の微調整などをしつつ、生徒にもちゃんとやり方を解説し、釘をさしつつの手入れとなっていきます。

理想的な状況は結局、手入れをしないで済むことなのですが、なかなかどうしてそう言うわけには行かないものなのです。

さて今回は短めですがこの辺で。次回は一筋縄で行かない生徒シリーズに戻ります。

今回もありがとうございました。

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