わたしが絵画講師になるまで その5
前回はハウトゥーマニュアル作りでしたが、今回は使用した結果どうなったか、と今の活動に繋がる、講師として、作家としてどのように熟成していったかのお話です。
狙いと違った使われ方
独自製法マニュアルの使用結果は狙った効果とは違うものだった。
マニュアルの全体像をまず説明しようと思う。
例えば、空気遠近法課題。
端的に言えば空気遠近法は遠くに行くほど徐々にを淡く描けば良い。そこに色彩遠近法を取り込むと、近景は暖色系から寒色系まで幅広く使用できるが、遠景では主に寒色系のみでの描き方となる。これら二つを織り交ぜた場合、遠くが青くて淡く、近くが色彩豊富で比較的濃いめの仕上げとなる。
これをまず基本の成果として設定。
独自製法マニュアルではその内容を実践するにあたっての指標、
より生徒の描きやすい(かもしれない)流れを用意する。
まず下書きは簡単なものだけ描いてもらい、詳細は描き込まない。
なぜなら空気遠近法のみを実践するためなら詳細描写は必要ないと考えたからである。その部分は生徒に委ねてみる。
下描き後、近景と遠景の境界線を設けることを指示。
そしてその分けた部分に初めから違う色を塗るよう指示する。
近景は暖色系を強めに、遠景は寒色系を淡めに。
近景はいつでも描いて良いが遠景は塗り重ねるので乾き待ちをしながら描くように指示を出す。
すると、初心者は格段に描き分けやすくなる。
本来ならば、遠景は徐々に濃度は薄くなり色数は減少するものなので境界線を作ってしまってはかえって難しい。しかし、初心者のようにやり方のイロハのイがわからない方には境界線をあえて作って最初から分けてしまえば、描きやすくなるはずだ。
サンプル絵が大事
もちろんマニュアルにはその描き方を示した途中段階の絵が所々に配置される。
そのサンプル絵は視覚的確認のために、絵と絵をつなげるための説明は簡素に表記してある。その両方を確認し、講座内での補足説明をうけ、初めてマニュアルが完成するのである。
しばらく、マニュアルを使用した講座をすると、狙い通りに使われてないことがはっきりと分かった。
流れを確認するためのサンプル絵にこそ意味があると分かったのだ。
人にもよるのだが、ほとんどの人はサンプル絵が重要だったようで、説明書きはほとんど読まれてないようだった。
しかし、当初の計画である大人数をまとめてに見る、という目的は果たせた。
最初の目的を果たすと、次に持続的に利用するための方法を考えなければならないことが見えてきた。
使用者の顔が見えている状態から、未来の使用者のためのマニュアルを想定して作るようになった。そして、最初に作られたものも少しずつ改訂をして使いまわせるようにしていこう、と。
マニュアル運用方針=講座の方針
大まかにわかるだけの情報をのせ、生徒の使い勝手の良いマニュアルにマイナーチェンジしつつ、それに合わせて足りないところを足していこう。
マニュアルは定期的に内容を見直し、改訂版を出していこう。
そして、生徒の要望である、サンプル絵の情報を充足させよう。
もっと説明がメタ的に、補足の解説のように。そうすることで、サンプル絵だけで実施しても課題をクリアでき、さらに、プラスアルファで解説を読んでもさらに課題の内容が深まるような作りにすればいい。そうすれば、生徒は何度もマニュアルをやり直してくれるかもしれない。やり直せばやり直すほど、違った観点での習得目的が見えてきそうだと考えたのだ。
そうして、少しずつ講座の方針が固まりつつあった。
しかし、ここで癖が出てしまうことになる。
ただマニュアルを使いやすく改定し続けていくのは、想像しやすい結果だと思った。当然そうやって続けた方がやりやすいし、続けて行きやすいだろうと。
しかし、当初の計画は成就したといえ、もう一つの目標。
誰もやってない教え方をしたいという目標は未だ成就していない。
ならば、どのような目標が妥当か考え続けた。
生徒がわかりやすく実践しやすいマニュアルを使って、簡潔に専門性を高め、本来なら何年もかかるような技術や知識の習得を促進するマニュアルを作ればいい。
それならば、マニュアルを導入する時点で目標とした点をカバーできる。
しかも、講師がマニュアルの内容を全て覚え、どんなときにも運用できるようにし、マニュアルでの想定以外の質問などが出た場合、別のマニュアルで解説することができる、もしくは、一つのマニュアルに幾つかの到達点を設け、質問されることを想定したマニュアル作りをして行けばいいのでは、と思うようになった。
この考え方はマニュアルを使わずにマニュアルのような流れを作り出せるので、どのような場面でも応用が効くようになったのだ。
こうして、実物のマニュアルと、脳内のマニュアルの両刀使いで講座に臨むようになっていった。
その結果、いろいろなパターンを想定することで私の作家性を向上することが確約され始めたのだった。
これは、講師を始めた頃の『何も知らないので教えられません』の私が
マニュアルを作り、それを運用させようとした結果、
『なんでも質問してください』の私になって行く最初のきっかけとなったのだった。
今回はここまでとします。
お読みいただきありがとうございます。