降りしきる雨の中の死闘/2022年J1参入プレーオフ決定戦 京都vs熊本@京都
前半38分。熊本の菅田真啓が出足鋭く京都ボールにアタックすると、首尾よく熊本の杉山直宏につながる。菅田はそのままスプリントして前線へ。悪い奪われ方をした京都は慌てて対応したが、杉山の強烈なミドルシュートを許してしまう。上福元直人がセーブしてことなきを得るが、これを平川怜が詰めてあわやという場面になった。
その時の大木武監督の表情が印象に残った。楽しそうな笑顔をみせていたのだ。
少々苦笑いのニュアンスが入っていたように見えており、選手たちが躍動する姿を心底楽しんでいるような、そんな笑顔だった。
試合はその直後、京都の先制点で動く。前半39分のこと。松田天馬の浮き球のパスを受けた豊川雄太が技アリのシュートをゴールに流し込んだ。
微笑ましい気分になっていたタイミングでの京都の先制点に、何もここで試合を動かさなくてもいいでないかとサッカーの神様を恨んだが、そんなことを思うほどには熊本を応援する心情になっていたのかもしれない。
ちなみに試合後の大木監督は、昨季、最終節でJ3優勝を決めて、サッカーの神様が居たと話したエピソードを踏まえた質問をされたが、この試合にはサッカーの神様が居なかったですね、と話していた。サッカーの神様は熊本を後押ししなかったという言い方が正しいのかもしれないがいずれにしても熊本にはサッカーの神様は微笑まなかった。
京都の1点リードは両チームの戦力を考えれば至極妥当。ただ、年俸総額では戦力差を推し量れないのがサッカーの難しさ。後半立ち上がりの京都の攻勢をしのいだ熊本が京都を圧迫し続けると、後半68分のCKの場面。イヨハ理ヘンリーが頭で流し込んで熊本が同点に追いつく。熊本の下剋上にはもう1点が必要だったが、もう、1点も与えられない京都が5バックの布陣を敷いたことでペースは熊本に傾く。
押し込む熊本、守る京都。京都は前線にピーター・ウタカを残し、カウンターでトドメの2点目を奪う姿勢を見せる。熊本は熊本でそんなチョウ・キジェ監督の采配にも臆すること無くチャレンジを続けた。
試合終盤の後半ATの90+2分。
熊本が得たCKは、GK佐藤優也が背後から倒されたように見えた瞬間、目の前の熊本サポーターがPKをアピール。そのこぼれ球を拾った平川怜のシュートは、ウタカが顔面ブロック。さらにそのこぼれ球を平川がシュートするが、これはポスト直撃弾となってゴールは決まらなかった。熊本にしてみれば3回の決定的なチャンスが続いたが、VARを経てもPKに値するプレーはなかったということで、スコアは動かなかった。
試合はその後、規定の4分を数秒超えたタイミングで終了。1−1のドロー決着ということで、京都がJ1残留を決めた。J2チームがJ1チームと対戦するプレーオフの難しさを改めて示したが、逆に言うとここで勝ちきれないと昇格したとしても年間を通して勝ち点を積み上げるのは難しいということでもある。
なお、豊川は試合後に「試合で初めて泣きました。試合で泣いてる人、なんでなんだろうと思ってたんですが、それだけプレッシャーだったのかな」と話していた。背負うものの大きさが伝わってきて印象に残る一言だった。
対する熊本はイヨハが、プレーオフ3試合とも引き分けたことに言及し実力不足と口にしていた。逆に言うと、まだ成長途上の選手たちを練習と試合とを通じて鍛え上げ、ここまでのチームに仕上げた大木監督の手腕の凄さを感じた。
会見場を後にする大木監督を、旧知の井芹さんが拍手で送り出した。井芹さんは拍手すべきか迷ったとも話していたが、拍手で正解だったように感じた。