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 レイラックの解放

 蒼天の5月5日。絶景のスタジアム。3500人弱の観衆。賑わうゴール裏。5-0の勝利。レイラック滋賀のすべてのよきものが詰まった時間と空間に居合わせ、過ごすことができた。サッカーを観ていると、応援していると「こういう試合」に出くわすことがある。年に数回か、一回か、あるいは何年に一度か。

 昨年の最終盤のスタメンをほぼ残し、更に戦力を加えたチームはしかし、ここ数試合はもがいているようにみえた。と言っても勝敗は五分、優勝を狙っているとはいえ、順位も悲観するほど悪くない。だが、もがいているように見えた。窮屈な服を着て踊ろうとしているかのように、サイドブレーキをかけたままアクセルを踏んでいるかのように。自陣にずっしりと下ろした腰を難儀そうにあげようとし、攻められてまた下ろしてしまう。前節のティアモ枚方戦はそういう時間帯が多かった印象だ。
 
 メンバーをまあまあ変えたこの試合、決して軽快な入りとは言い難かったが、伊東選手の好セーブで序盤のピンチを切り抜けると、左サイドで先発した白石選手が窮屈な服から抜け出しにかかった、とみた。サイドの狭いコースを、タッチラインまで果敢に持ち上がれたことで、榎本選手が高い、中央の位置にとどまる。先制点はまさに榎本選手がそこにいられたから、だろう。
 呼応するように3バックも高いライン取りができたようにみえた。平尾選手が今シーズン初めてこの位置でプレー。昨季の好調時を思わせる広範囲の守備と配球を見せると、中盤の山下、小松選手も持ち味を出し、狭い局面で刈り取り、配球を見せ始めた。2点目こそ後半半ばだったが、時間の経過と共に服は伸び、破れ、どのポジションで選手たちがのびのびと手足を動かし、踊っていたようにみえた。特に、大垣選手の、北條選手のゴール後の表情が全てを現していたように思う。

 栃木戦、ソニー仙台戦でみせかけていたポテンシャルを、ようやく形にできつつある試合だった。子どもたちが大勢詰めかけた試合で、この姿を見せられたことはとてつもない価値がある。もちろん「こういう試合」が次もあるとは限らない。相手も変わればこちらのコンディションも変わる。だが、もがいていた中で「こういう試合」をできた事実は、決して小さくない。

 試合後のゴール裏。サポーターさんたちの呼び込みもあって、メーンスタンドから帰る人も結構足を止めてくれた。重苦しい枷を取り払い、充実した選手たちの表情を見てもらうことができた。選手、サポーターともに間違いなく「何か」をもたらした時間だった。レイラック滋賀が、ハトスタに、彦根に、滋賀によきものをもたらした時間だった。
 
 帰路に着くとハトスタの解放感を改めて噛み締めた。このスタジアムとレイラックには、解放感が似合っている。
 

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