スタンレーパークでローラーブレード
カネダに誘われ、人生で初めてローラーブレードなるものを体験した。興味を持った同級生のシノブとナミもついて来た。レンタル屋でローラーブレードを調達し、その場で装着。立ってみる。立てる。滑ってみる。滑れる。なるほど、こういうものか。よし分かった。ん?待てよ?止まれない。店の前はなだらかな斜面。斜面から交わる道路はウェスト・ジョージアストリート。片側三車線の幹線道路である。北米サイズの大型トラックに踏まれる寸前だったが、どうにか信号機のポールに体を激突させて止まる事が出来た。早々死ぬかと思った。
「ケイ、大丈夫か!?」と、信じられない程軽快にローラーブレードを進行方向と直角にしてブレーキを掛けながら駆けつけるカネダ。心配してくれながら笑っている。そう、こいつは街にもローラーブレードにも慣れている。一方、レンタル屋から5メートルも行かない所で地面にへたり込んでいるナミの姿が有った。中学高校と陸上部で運動神経抜群のシノブに比べ、誰がどう見ても運動が出来そうにないナミ。圧倒的美形ではあるものの、ローラーブレードはおろか自転車でもスタンレーパークを一周するなど難しいのでは?と思わせる風貌である。一応運動神経には自信の有る私である。どうにかこうにかローラーブレードで思い通りに前に進むことは出来て来た。その様子を見ていたカネダ。「じゃ、先行くわ」とシノブと二人で信じられないスピードで消え去っていった。
どうにか自分は慣れて来たものの、問題は美少女ナミである。まず、立てない。当時まだ19歳の二人である。ちょっと照れながら手を差し出す。ナミも、危険を避ける目的で、私の手を思い切り握り返す。それから、スタンレーパークのサイクリングコースを、まだ知り合って数日のナミの手を引き、1時間ちょっとかけて滑った。頭上にはダウンタウンとノース・バンクーバーを繋ぐゴールデン・ゲートブリッジ。海と山々が目の前に広がり、まだ「ああ、異国の地に来たのだ」と感慨に浸りながら、ナミの手を引いた。
尚、残念ながら私とナミはその後どうなった訳でもない。カネダとシノブは付き合い出した。私は、やはりカネダは大人びてるな、と思うのだった。